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31 殲滅、そして不穏な音

 先ほど町を出た二人が再度町の中から現れたことで門番が混乱していたが、そんな事は構わずに山の麓へと向かった。すると、道中から既におかしな状況になっていることに気がつく。


「なんか、さっきよりも霧が濃くないか?」

「これ……そうか、魔物が近くを通ってるんだ」

「え?」

「アタシ達はプロカルへ続く道の上を歩いてる。でも、魔物からすればプロカルへ続く道は認識できない」

「つまり?」

「道を外れれば魔物だらけってこと」


 ヴァラロスは先ほどの光景を思い浮かべてぞっとする。周りを魔物に囲まれる経験などニ度としたくはない。どうにか魔物と接触せずに魔物を減らせないかと考えていた時ふとヴァラロスが閃く。


「そうだ、攻撃している位置が分からなければバレることはないんじゃないか?」

「確かにそうだけど……どうする気?」

「前にお気に入りって言ってた魔法あるだろ? あれを魔物のど真ん中に打ち込むとか」

「えぇ……」

 

 ヴァラロスの提案に露骨に嫌そうな反応をするディア。いい案かと思ったヴァラロスは何が不満なのかと疑問に思う。


「あれ、だめか? いい案だと思ったんだが……」


 ヴァラロスがそう言うとディアは少し考えながら答える。


「あの魔法は空に放つからきれいなの! 地面に向かって撃つようなものじゃないの!」

「そ、そうか……って、そんなこと言ってる場合か?!」


 危うく勢いに流されそうになるヴァラロス。どう考えてもディアの主張はわがままであった。しかし、実行する当人が嫌と言うのであれば実行に移すのは難しい。

 一方でディアもヴァラロスからの提案が悪いとは思わなかった。事実魔物に気づかれずに討伐できるのは大きい。他の魔法でどうにか出来ないかと考えたディアは閃いた。


「ヴァル、ちょっと剣貸して」

「なんだよ、藪から棒に……」

「いいから」


 何が目的か分からないが言われるがままディアに剣を貸すヴァラロス。ディアは「ありがと」っと短くお礼を言うと目の前に手を伸ばし、大きく魔力を込めて魔法を唱えた。


「アイスボール!」


 すると目の前にはとても大きい氷で出来た球が現れる。


「……これは?」

「魔物が多すぎるならこれで轢いちゃおうと思って」

「そ、そうか……でも、これどうやって動かすんだ?それに、大部分はまだ山の中だろ?」

「そう、ほとんどはまだ山の中。だからまたこれを使う」


 ディアはそう言うと、ヴァラロスから借りた剣を使って地面に絵を描き始めた。初めはディアの様子を見ていたヴァラロスであったが、次第にディアの意図を理解する。そこにはディアが持っていた


「それ……転移紋ってやつか?」

「そう。山頂に置いてきた転移紋に繋がるやつ。流石にあの場にまだ居座ってる魔物はいないでしょ。……こっちから行く気は起きないけど」


 こちらから転移紋で飛んで山頂から攻撃する事も考えたが、万が一を考えるとリスクが高い。地面に描いただけの転移紋なので転移の際に地面の模様が変われば帰れなくなる。それならば、攻撃だけを転移させれば良い。そう考えたのだ。


「そして、ここで一工夫。この氷の塊をアタシの魔力で繋いで引っ張る。……引っ張る………ひーっぱーるーーー!!」


 ディアがなにやら奮闘していると巨大な氷の球がディアの方へ転がり始めた。氷の球が地面に描いた転移紋に触れようとした時ディアが転移紋に向けて魔力を注ぐ。すると、目の前にあった巨大な氷の球は光に包まれて目の前から消えた。


「おお! これが山頂に……お、あるな」


 肉眼でも氷の球が山頂付近にある事が確認できた。無事転移紋が発動したようだ。


「はぁー、これで魔物を轢くのか……ってどうした?」

「ぐぬぬ…………っ!」


 歯を食い縛り山頂の方を凝視するディア。どうやら氷の球を動かすのに苦労しているように見える。ヴァラロスがその様子を眺めていると山頂の方で氷の球がゆっくり山を下り始めた事を確認する。それを確認したディアがその場にへたり込む。


「ぷはぁーーー! きっっっつい! これきっつい!」

「お疲れ様」


 当たり障りのない労いの言葉をかけるヴァラロス。ディアはそれに対して恨めしそうな視線を送る。なんだかんだいってディアに任せっきりになっているので申し訳なく思うが、こればかりはどうしようもない事だった。

 せめて頭を使おうと思うヴァラロス。少し考えた時ふとアイデアが浮かぶ。


「なぁ」

「なに……?」

「いや、この氷の球って浮かした状態で出す事出来るのか? そして、転移って触れないとダメなわけ?」


 ヴァラロスの質問を首を傾げながら聞くディア。何をしたいのかさっぱりという様子である。ディアはわけもわからなかったが、とりあえず聞かれたからには答えることにした。


「……宙で氷の球を作ることはできるし、転移紋のすぐ上なら触れてなくても問題なく転移出来るけど?」


 それがどうしたの? そんな様子で答えるとディア。それを聞いたヴァラロスはディアから剣を返してもらい地面に絵を描く。


「いや、氷の球の下に斜めにした土台も出しておいて、すぐに転移させれば勝手に転がるんじゃないか?」

「…………」


 ヴァラロスの提案を聞き真顔になるディア。もはや無の表情である。考えてみれば簡単である。それを思いつかず無理やり動かそうと頑張った自分が恨めしい。


「おぉー、すごいすごい。黒く蠢いてた道を綺麗に転がって来てる。……えげつないなあれ!?」

「…………」


 ヴァラロスが魔法の効果を実況し、恐ろしいことをしていると実感している中、ディアは反応することが出来ず、しばらくショックを隠せなかった。





「…………」

「…………」


 暫く両者無言でいると、遠くから音が聞こえてきた。


…………ドドドドドド

パキパキッ!バキッ!


そして、その音はどんどん近づいてくる。


ドドドドドドドド!


「……なぁ、ディア?」

「…………ヴァル、頼んだ!」

「いや、無理だろ!!?」


 先程まで遠くで転がっていた氷の球がどんどん迫ってきているのだ。


「認識阻害ってあれに効くのか!?」

「効くわけないじゃん。生き物じゃないから意識ないし」

「だよなぁ!? ちょっと待て! このままだとプロカルに突っ込むぞ!?」


 そうこうしている間も氷の球は近づいてくる。その速度はどんどん上がり勢いは弱まることはない。


「あんなのきたら俺たちも危ないぞ!」

「どうにか剣で叩き切れない?」

「ディアじゃないんだから出来るわけないだろ!」

「アタシでも出来ないよ」

「なんで俺なら出来ると思った!?」


 焦るヴァラロス。ディアは何故かそこまで焦ってはいない。どこかヴァラロスの反応を楽しんでいるようにも見える。

 そんな事を言っていると氷の球はすぐ山の麓まで来ていた。


「おいおいおいおい!! どうするんだよこれ!!?」

「ヴァル、ちょっとこっち来て」

「はぁ!? そっちいったところで直線上だぞ!?」

「いいからいいから、アタシを信じて」


 ディアが自分を信じろと言う。ヴァラロスは何度もディアを信じ、今のところ後悔はしていない。だが、状況が状況なだけあって本当に信じていいのか若干迷いが生じていた。


「でも! これは!」

「お願い」

「っ!?……わかったよ! 死んだら化けて出てやるからな!!」


 ヴァラロスがそう言う時には既に目の前まで氷の球が迫っていた。


「その時はアタシも一緒だけど……ね!」

「わあああああああ!!………あ?」


 ディアがそう言うと目の前にあった氷の球が一瞬で消えた。


「…………へ?」


 目の前には光っている転移紋がある。


「このまま繰り返せば簡単に残った魔物を掃討できるかな」

「…………はぁ」


 その場にへたり込むヴァラロス。ひとり騒いでいたがちょっと考えればわかる事である。この方法であれば魔力を余計に消費する事なく攻撃を繰り返せるだろう。


「それにしても……ぷっ。わああああって……わああ……くすくす……」

「……うるさい」


 疲れ切ったヴァラロスはそれしか言えなかった。




ゴロゴロゴロゴロ…………


 氷球の攻撃をしばらく繰り返していた時事件が起きる。


バキッ、バチンッ! パキッ!


 山頂に現れた氷の球が着地点の石をはじく。そして、その石は別の石にぶつかり粉砕させたのだ。……そう、転移紋が描かれた石を。

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