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30.窮地、それでも共に

 最初は恐る恐る進んでいた二人であったが、多少速度を上げても問題なく避けてくれることが判明し、今では普通に歩いている。ただ、一歩間違えれば窮地に立つので、魔物とぶつからないように多少なりとも速度の緩急はつけて歩かねばならなかった。

 そのまましばらく進むと開けた場所に出る。そこには何やら模様の書かれた岩があり、その岩から魔物が出てきていることがわかった。岩の横に陣取り二人は各々考えを巡らす。



     ◇ ◇ ◇



(なんだあれ……岩から魔物が飛び出てきてる……? なんか、変な模様が書かれているみたいだけど……ディアならこれを知ってるんだろうか)


 ヴァラロスが、ふと横を見るとディアがなにやら考え込んでいる。その顔は真剣そのもので額には汗も滲み出ていた。


(どうすればいいか考えているのか……。確かにこんなの壊そうものなら出てきてる魔物に気付かれて袋叩きに遭うもんな……ん? 考えるのをやめた? え、手を前に出して何を……!?)



     ◇ ◇ ◇



(やっぱりあった転移紋……誰がこんな事を……これを知ってるのは魔族でも一部のはず……うちの幹部でやりそうなやつなんて……え、プルート? 予備体もいたし黒っぽいけど……プルートに限ってこんなことするはずが……まって、え? そうなるとこれアタシの管理不行届?)


 ディアは今回の問題の責任の所在を考え始めた。転移紋があるという事は魔族が関わっている可能性が高い。それも幹部レベルの魔族。それくらいしか転移紋の作成方法などを知らない筈である。そうなった時、その幹部レベルの魔族が犯人である可能性が濃厚になる。では、その犯人を統括しているのは誰か?……どんな世界にも組織があり、組織には長が存在する。そして、その長は部下の失態の責任を負う義務がある。


(〜〜なんて事してくれてんの! まだ確定じゃないけど! まだ確定じゃないけども!!……そうだ。アタシがこれをどうにかすれば、部下の失態をカバーした上司という形にできる……? いや、そもそもまだバレていない……!)


 ディアがそう思うのと手が前に伸びるとは同時であった。



     ◇ ◇ ◇



「サンダー」


 手を延ばし魔法を唱えた瞬間に小さな電撃が転移紋の刻まれた岩を穿つ。


バチチッ!


 電撃で岩が欠けると先ほどまで光っていた紋様は光を失い魔物の出現が止まった。


(よし! 魔物の発生は止められた! あとは出てきた魔物をどうにかすれば……最低限の言い訳は立つ!)


 ディアはもう犯人が身内にいると考え、最悪のケースを回避するべく身体が動いてしまったのだ。その結果、確かに魔物の発生は止められたのだが、ひとつ問題があった。


「…………おい、ディア」

「……喋っちゃダメだって言ったでしょ?」

「いや、これもうダメだから!? すでに囲まれてるから!!?」


 ディアが岩を攻撃したことによって、その存在が魔物達にバレてしまったのだ。辺りを埋め尽くすほどの魔物がディアとヴァラロスを囲む。到底逃げられない状況であった。


「どうすんだよこれ!?」

「ちょっと待って! 今考えてるっ!」

『グァアアアアア!』

「おいっ!」


 ヴァラロスが急いで剣を抜き、その剣を横に大きく振る。迫ろうとしていた魔物を追い払うと、それにより少しだけ魔物との間に隙間が生まれた。その瞬間ディアの頭にあるプランが思いつく。出来れば避けたいが考えている時間はないだろう。


「ファイアウォール!」

「うぉっ!? あっつ!!?」


 二人を包み込むように火柱が現れる。それを見た魔物の群れは怯み、後ろの魔物を押し除けながら後退する。


「アイスフォール!」


 その後ろに下がったところを見計らい、今度は氷の壁で周囲を覆う。それにより少しだけ空間に余裕が生まれた。


「氷の壁で囲ったって……これからどうするんだ……」

「……これを使う」


 そう言ってディアがカバンから取り出したのは模様が描かれている石だった。


「…………それは、あの岩に書いてあったやつか?」


 ディアが持っていた石に書かれていたそれは転移紋であった。今回の事件で使われている技術である。疑われる可能性は大いにある。でも、今この場を乗り切るにはこれしか方法はなかった。


「そう。これは転移紋。同じ模様が描かれた場所へ転移できる。さっきプロカルの町の路地に同じ模様が描かれた石を投げておいた。そこに跳ぶ」

「……信じていいんだよな」

「……お願い。信じて」


 ディアがそう言うとヴァラロスに向けて手を差し伸べる。

 ヴァラロスは一度信じると決めていたが、魔物にバレると分かりながらいきなり転移紋の岩を破壊した目の前の状況からついそんな言葉が漏れる。今回の事件の要となる転移紋。それをディアが使っているのだ。もはや無関係とは言えないだろう。それでも確認するような言葉が漏れ出たのは今までディアと過ごしたことでディアのことを少しは理解したつもりになっているからであろう。ヴァラロスとしては、ヴァラロスが知ったディアを信じたいのだ。

 そして、ディアもまた覚悟を決めていた。最初はバレないようにと思い魔物の出る転移紋を破壊したが、焦ったせいで窮地に陥った。自分のせいでヴァラロスまで巻き込んでしまったことを申し訳なく思い、また、隠し事はこれ以上無理だと考えたのだ。まずはこの場を乗り切る事が先決。そう考えたディアはヴァラロスからの質問に真っ直ぐに答えた。


パキパキッ!


 氷の壁がのしかかる魔物の重みに耐えられず悲鳴を上げる。


「ヴァルっ!!」


パリンッ!


 氷の壁が割れたと思った瞬間ヴァラロスはディアの手を取っていた。そして、辺りが光に包まれたかと思うとその場には二人の姿は無かった。









ドンっ!


「いてて……ここは、プロカルの町なのか?」


 ヴァラロスが目を開けると、どうやらそこは町の路地裏のようであった。……何故か地面に横たわった状態でいる。ただ、ディアの説明通り、無事に町へ転移できたようだ。


「……そうだ! ディアは!?」

「サンダー!」


バチっ!


 突然の魔法にヴァラロスが驚く。一瞬ビクッとしてしまったが魔法の対象はヴァラロスではない。よく見ると模様が描かれた石が砕かれている。ディアが魔法で破壊したようだ。それは魔物も町に転移されないようにと考えた上での行動であった。


「いったぁ……これ、改良が必要ね。なんで模様が横向いてるのよ……おかげで壁にぶつかったじゃない」


 ディアは頭をおさえながら文句を言っているが思ったより元気そうで安心する。ディアもヴァラロスの無事を確認でき安心する素振りを見せる。だが、事態は何も解決していない。


「さて」


 ビクッと身体を震わせるディア。来た。ディアはそう思う。転移紋について説明するとなると自分の出自を語る必要が出てくる。自分が魔族であることを伝えたらどう思うだろうか。今まで通りの関係でいられるだろうか。そんな思いがディアの頭を巡る。


「…………」


 不安そうな顔をして俯き黙ったままのディア。その目には涙が浮かんでいた。その様子を見たヴァラロスはため息をついてから言葉を続けた。


「はぁ……言いたい事は山ほどあるが……まずは降りてくる魔物の討伐かな」

「えっ…………」


 ヴァラロスの言葉にディアが驚く。この事件の黒幕と疑われても仕方ない状況でこの発言である。確かに魔物の討伐は重要だが、目の前に黒幕がいれば普通はそちらを優先するだろう。つまり、それはヴァラロスはディアのことを真の意味では疑っていないことを意味する。


「どうして……」


 思わずそんな言葉が漏れる。


「なにが?」

「だって、転移紋……あの模様の事とか、その……聞きたくないの?」


 正直に思った事を伝えるディア。不安ではあったが聞かずにはいられない。甘えるべきではないと考えたのだ。しかし、ヴァラロスの答えは単純だった。


「聞きたいに決まってる。だけど、今は他に優先する事があるだけだ。……それに、俺から聞かなくてもあとで話すつもりだったんだろ?」

「っ!」


 何故わかったのか。そんな思いがディアの頭に浮かぶ。出会ってたった二週間程度の付き合いだ。それなのにも関わらずディアの考えている事が分かったのは何故か?答えは簡単である。この二週間お互いにお互いをよく見てよく考えていたからだ。だからこそディアも気が緩んだ部分がある。

 いくら転移紋の保険があったとしても、信用できない人の前ではどんな理由があったとしても使わないだろう。最悪その人を切り捨てる方法を選ぶ。ディアとて魔王。それくらいの覚悟は持っている。しかし、そうはしなかった。いや、その選択は考えもしなかった。ディアの中で知らず知らずのうちにヴァラロスの存在が大きくなっていたのだ。だからこそ、()()逃げる為に転移紋を使い、後で自身の出自も教えるつもりだった。

 しかし、それを話すまでもなく自分のことを分かられていた事に驚き、また、嬉しかった。


 そうなれば今やるべき事はひとつである。覚悟を決めたディアの顔はどこかスッキリしているようにも見えた。そして吹っ切れたのか威勢よく話し始める。


「うん。聞いてもらいたい事が沢山ある。だから……まずは目の前のことなんとかしないと」

「だな」


 ディアとヴァラロスの二人はお互い意思を確認し合った後、再び町の門へと走り出すのだった。

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