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3.誘惑

 ディアはひと通りギルドについての説明を受けた。冒険者にはランクがあり、AからEランクまでで定義されるらしい。


Aランク:国に貢献する活躍ができるもの

Bランク:ギルドに認められたもの

Cランク:単騎で複数の魔物を討伐できるもの

Dランク:依頼件数20件を達成したもの

Eランク:登録したてで駆け出しのもの


……と、なっており、各ランク毎に受けられる依頼が異なるのだ。


 掲示板にたどり着くと冒険者がちらほら依頼を眺めているところだった。冒険者登録したてのディアはEランクからのスタートである。20件依頼をこなせればDランクに上がれるとの事だがそこまでは求めていない。一旦プロカルの町へ行ければそれでいいのだ。その為、プロカルへ向かうような依頼があればいいと考え探しにきた。

 もちろん、ノヴィシムの街の防衛手段について調べようとも思ったが、そもそも堅牢な壁が街を覆い街の入り口くらいしか付け入る隙がない。そして、街の入り口も人通りがあり、冒険者もそこらを闊歩している状況である。前提が魔族領のどの町とも違うのだ。だからこそ地図上で魔族領の町と同じ規模であろうと思われるプロカルの町を目指している。その防衛手段を学ぶために。




(とりあえず来てみたけれど……プロカル行きの依頼なんてそう都合よくあるわけないか)


 現実は非情である。Eランクの依頼の中にそんな都合よくプロカルへ向かえる依頼などなかった。薬草集めや山菜取りなどの採集の依頼がほとんどである。Eランクは駆け出しの為護衛の依頼がほとんどないのだ。

 現在の手持ち的にしばらくの間は食い繋いで行けるだろうがすぐに底を突いてしまう。やはり稼ぎながら街に滞在する方が良いに決まっている。


(金貨15枚持ってきてるから、余程のことがない限り大丈夫なはず。魔族領だと一泊銀貨1枚で行けるし、食事も節約すれば1日銀貨1枚で抑えられるはずだから……30日でざっと金貨6枚)


 そう思った途端に頭にあの服がよぎる


(そうなると金貨9枚余るから……あの服が買える……? いやいやいやいや……流石に金貨5枚を服に使うのはちょっと……)


 そんなことを考えながらふと門番のことを思い出す。


(そういえば……門番さんが身分証見せにこいって言ってたな。……お店の前も通るしちょっと挨拶して来ようかな)


 そう思ったディアはその足で門番のところへ向かうのだった。







 途中、服の値段をしっかり確認してから門番のところへ到着する。お金がないと言った手前服を買ってから行くわけにはいかない。少しの辛抱だとディアは我慢して身分証を見せに行った。


「お、嬢ちゃんじゃないか。ちゃんと身分証を見せに来たのか。偉いな」

「うん。約束した」


 どうしてもボロを出さないように気をつけていると片言になってしまう。その事を少し気にしながらもディアは自分の身分証を門番に見せた。


「おぉ、ディアっていうのか。職業は……魔法使い? 嬢ちゃん魔法が得意なのか?」

「そう」

「すごいじゃないか! それならどのパーティからも引っ張りだこだな!……はあー、人は見た目によらないって事だな。登録おめでとう。そして、改めてようこそノヴィシムの街へ。まずは依頼で稼いで自立するところからだ。ギルドに言えば駆け出しはサポートしてもらえるはずだから困ったらギルドに聞くといい」

「わかった。ありがとう」


 思ったより面倒見がいいのか、聞いてないことまでよく喋る門番。ディアは教えてくれたのと、褒めてくれたことが嬉しくて素直にお礼を言い門を後にするのだった。







「……………………」


 その道中。気になっていた服屋の前で飾られている服を凝視していた。


(やっぱり可愛いな……このワンピース……金貨5枚……もしかするとほかに安くて可愛い服があるかも……ちょっと中を覗いてみようかな)


 ディアはそう思うとお店に入ってしまった。


「いらっしゃいませー」


 元気な女性店員が出迎え、店の中へと招き入れる。店内には何人かお客がいてそれぞれに店員がついていた。


「何かお困りのことがありましたらなんでも言ってください!」

「あ、はい」


 あまりの勢いに怖気付くディア。それでも店員がすぐに離れてくれた為、店内を見て回ることにした。


(なんだろう……他の店員はお客に付きっきりなのに、あの店員はサッと離れて行った……気楽だから助かるけど……)


 ディアはそんな事を思っていたが、それは店員側の策略であった。店員は最初に挨拶した時のお客の反応を見てその後の対処を決める。ディアは無意識に驚く反応をしてしまった為、あまりグイグイ行ってはいけない客だと思われたのだ。

 事実、ディアも他の客同様に付き纏われたとしたら、居心地の悪さに諦めて帰っていたかもしれない。お客に合わせた接客をする。それも瞬時に判断して。この店の店員はとても手練れのようだ。

 そんな事は知らないディアはお構いなしに服を見てまわる。


(わぁああ! この服もふりふりでかわいい! 値段はー……!!? き、金貨15枚!!? え、こっちの大人っぽい服は……金貨8枚!!? これは……こんなに使ってる布少ないのに金貨5枚なの!!?)


 魔王がこの店の服の価格に驚いているとこれ見よがしに店員が近づいてくる。


「いかがですか? もしよろしければご試着も可能ですよ?」

「えっ……ここの服全部?」

「はい! 全てでございます!」

「……お金かかる?」

「ご試着自体は無料です!……無理に着ようとして服が破けた際はお買取いただきますが。ほら、あそこの列が試着の列です。皆さん試してますよ」

「そうなんだ……」

「どうです? 着るだけタダですよ?」

「……じゃあ、ちょっと試してみる」

「承りました! この番号札を持ってお並び下さい。何点ご試着されますか?」

「な、何点も着れるの?」

「はい。一回のご試着は他のお客様もいますので上下セットで3点までとさせていただいております」

「じ、じゃあ! これとこれと……あれを!」


 ディアは近くで見ていた金貨15枚のフリフリのついたドレス風の服と金貨8枚の大人びたトップスとスカートのセット商品を選び、最後にディスプレイされていた黒のワンピースを指差した。


「あの黒のワンピースですね?」

「それ!」


 ディアはおしゃれとは無縁の世界で生きてきた為全てが新鮮であった。せっかく可愛い服を着れるのだからこのチャンスを逃すわけにはいかない。

 ディアはワクワクしながら試着の列へ並ぶ。店員が服を集めてくれたのでそのまま店員が服を運んでくれる。ディアはサービスが良いと感じたが、それが店の策略であることを知らない。ディアが並んでる途中も店内に並んでいる服をキョロキョロ見てた為あっという間に順番が回ってきた。


「では、ごゆっくり! 後ほど感想をお聞かせ下さい!」


 店員はそう言うと持っていてくれていた服を試着室内にかけて去っていく。去り際に感想を求めつつ……。


(さて、まず何から着ようかな。ドレスっぽい服からいこうか!)


 ディアはいそいそと着替えて、ドレス風の服を着る。姿見に映る自身の姿に目を輝かせていた。


(わぁ! これいいなぁ!……でも流石に金貨15枚は手が出せない……というか全財産。……でもかわいいなぁ……。いけない、列待ってる人もいるし他の服も試してみなきゃ)


 ディアはそう思うといそいそと違う服に着替える。


(この大人っぽい服もいいなぁ。フリフリはないけどスラっとしててカッコいい!……最後は……と)


 最後はこの店に入るきっかけになった服を試着してみる。着てみたところ不思議としっくりくるのを感じた。自身の色白で華奢な体をふわっと包み込む黒いワンピース。その色のコントラストの為か素肌の白みが際立つ。自慢の長い黒髪と薄紫色の眼が服に合っていた。


(おぉ……。いい……なんかすごくいい! 控えめなフリフリが可愛い! ワンピースだから動くのも楽だし……いいなぁ。……金貨5枚か……流石にちょっと心許ないかな……今は試着だけで我慢しよう)


 ディアはそう考え、元の服に着替えて試着室を出る。すると待機していた店員に声をかけられた。


「いかがでしたか? とてもお似合いだったかと思います」

「うーん……確かに可愛かったけど……」


 ディアが歯切れの悪い反応を示す。すると店員はそれを待っていたかのように仕掛けてきた。


「具体的にはどの服がお気に召しましたか?私的には黒のワンピースがお似合いだろうと思います」

「あ、そう。これが良かった」

「そうでしょう、そうでしょう。いかがですか? 今なら特別に、このワンピースにお値段そのままでこの靴もお付けしましょう!」

「えっ!?」

「さらに、お客様はさぞお似合いでしょうからこの肩掛けの小さなカバンもお付けしましょうか?……全て返品しないという条件さえ守っていただければ、通常このカバンひとつで金貨3枚するところ、特別に服、靴、カバンのセットで金貨6枚に致します!……いかがです? お得ですよ!?」

「くっ!?」


 ディアは店員の術中にまんまとハマっていた。もともとこの高い価格設定はオマケを付ける前提の価格なのだ。それをあたかもその服の値段が表示されている価格と思わせている。その結果、元の価格にオマケで靴とカバンが特別に付いてくると思い、とてもお得だと感じてしまうのだ。そのままの値段で買う客ならそのままでよし。少し悩む客ならオマケで釣る。

 それは、店員内で売上を競争させる店の風土から生まれた戦略であった。成績のいい店員は基本の給料に売上に応じた分の追加報酬がある。その為、我こそはとこぞって客にアプローチをかけるのだ。その本気の駆け引きがこの店員達の中で繰り広げられている。そんな中入ってしまったディアはどうなるだろうか。言うまでもないだろう。





「ふっふふーん♪」


 結果、服を買った。抗えなかった。店員の策略に負けたこともあるが、つい魔が差してしまった部分もある。街につくなり町娘だの田舎からきただのと言われて軽くショックを受けていたのも事実だ。しかも、魔王になってからこんなに自由に歩き回れる事なんて無かった為タガが外れてしまったのだ。

 可愛い服を買ってご機嫌なディア。この後、衝動的に買い物をしたことを深く後悔することになる。









「えっと……もう一度言って?」


 そこはギルドに紹介された、この街で一番安く泊まれる宿であった。


「はい。当店は一泊銀貨3枚でございます。この街のどこよりも安く泊まれるのがうちの売りなんです!」

「い、一番安い……?」

「はい! あ、お食事は朝、昼、夜でそれぞれ別途銀貨1枚で付けられます! 食事が必要であれば言ってくださいね!」


 宿の受付にいた若い女性がにこやかに返事をする。とても自信満々にそう言い切っている。


(えっ……1泊銀貨3枚かかるって事は……30日で金貨9枚分!? えっ!? 食事を取ることも考えると、宿泊費と合わせて1日銀貨6枚はかかるから……30日で金貨18枚……。ち、朝食を抜けば……金貨15枚で済む!……あれ、今の手持ちいくらだったっけ……)


お財布を見るとそこには金貨9枚しか残ってなかった。


(うわああああああああ!!! アタシのばかばかばかあああああ!!! 我ながらなにやってんだよおおおお!!??)


 節約すれば手持ちでどうにかできたものを、欲に負けた結果大変なことになってしまったディアであった。

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