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27.安堵と歓迎

「……ふぅ」

「なんとかなったな……」


 力尽きた魔物を目の前にし、ディアとヴァラロスは息をつく。そして、その瞬間目の前に広がる光景に絶句することとなった。


「……なんだこれ」

「え、いや……え……?」


 目の前には無数の魔物の亡骸が横たわっていた。よく見たら今まで戦っていた魔物が投げた魔物もその一つのようだ。よく観察するとどの魔物にも裂傷があり、剣で切りつけたような傷跡が見える。ただの魔物の亡骸であれば、例の息子夫婦の活躍と納得できただろう。だが、目の前に広がる魔物の数は、到底二人で対応できるものとは思えない量であった。


「この量を、あの二人だけで……?」

「それしかないだろ……。あの二人、一人が傷を負ったとはいえここまで耐えたんだ。これだけの強さがあるなら大抵の魔物は問題ないだろ」

「つまり、あの町自体に魔物防衛の対策は…………」

「ないだろうな。十中八九力業だろう」

「そうかぁ…………」


 そういって身体を伸ばすディアの表情はあまり残念そうには見えない。むしろなにやら安堵しているようにも見えた。恐らくプロカルに住む人たちのことを思ってのこの表情だろう。これだけの魔物の襲撃に耐えうる力がここにはある。イレギュラーはあったものの通常ならば町が崩壊するような事態にはならないだろう。


 ディアが安堵していると後ろから足音が聞こえて来た。そこには、逃げていたはずの息子夫婦がいた。よく考えれば逃がそうとしてすぐにケリをつけたため、逃げるまでもなかったようだ。


「あの、助かりました……」

「あぁ奥さん。間に合ってよかったです。……旦那さんは大丈夫ですか?」


見たところ夫の方も肩を怪我したものの命に関わるような傷では無いようだ。今は妻に支えられながらもほぼ自力で歩けている。


「ありがとうございます。おかげで命拾いしました」

「あなたがプロカル町長の息子さん?」

「えぇ、そうです。ヨハンと申します。こっちは妻のユシア。夫婦で薬草を集めているところでした……ところで、依頼を受けたとありましたが、父の知り合いで?」

「いや、俺達はたまたまプロカルへ来た冒険者だ。俺はヴァラロス。こっちはディア。ノヴィシムからプロカルに向かう途中、この山に大量の魔物がいるのが見えて、迂回してその事を町に伝えたんだ。そうしたら、さっきも言った通り町長からあなた達の救助を依頼された」

「そうでしたか……重ねて、助けていただきありがとうございました」


 夫妻が頭を下げる。夫妻の無事を確認できヴァラロスとディアは笑顔で顔を見合わせる。この為に助けに来たんだ。そう実感できる光景だった。




「…………ちなみに、この魔物は二人が?」


 我慢できずにディアが確認する。それ以外あるわけがないが念のための確認である。


「はい。魔物に負けておきながら恥ずかしいのですが、町を魔物から守る為に日々鍛錬をしていたのでこれくらいの魔物であればどうにかなりました」

「私も加勢してどうにか魔物を討伐していたんだが……」

「……例の魔物が現れたと」

「はい。妻共々剣で交戦したのですが、剣が折れてしまい……この様です」

「…………」


 最近のヒト族は武力に長けているのだろうか。ドミニクといいこの夫婦といい想像を超えてくる。ドミニクならばあの魔物、プルートの予備体をひとりで討伐できるだろう。だが、いくら予備体とはいえ身体の性能は本物と同等であるはず。剣が折れた事からそれだけの攻撃を当てることができた事を意味する。並の冒険者なら攻撃を当てる事もできないであろう相手にしっかりと当てたのだ。それだけでも十分驚くべき事であった。

 二人の回答に遠い目をするディア。いつまでも現実から目を背けるわけにもいかない。ディアは諦めて夫婦に向き直り下山を促すのだった。




     ◇ ◇ ◇




 下山した四人は門番に出迎えられ、息子夫婦の無事を喜んだ。すぐに町長へ報告すべくそのまま町長宅へ向かい、家のドアを開けると町長が椅子に祈るように座っている。こちらに気づいた町長は急に立ち上がり、椅子を倒したことを全く気にせず駆け寄ってきた。その顔は心底安堵した表情にも見える。


「おぉ……! ヨハン! ユシアさん! 無事だったか……!」

「親父……こちらの冒険者の二人に助けてもらったんだ。この二人がいなかったら助からなかったと思う」

「恐ろしい魔物が現れて手が出なかったんです」

「そうか……そんなに恐ろしい状態に……。お二人とも、助けていただきありがとうございました。本当になんと感謝して良いのか……報酬は……」


 町長がそう言ったところで家の入り口が騒がしくなった。


「ヨハン! ユシア! 無事か!?」

「ヨハンさんが怪我してるって聞いて急いできたんだけど!?」

「何かできることはあるかい?みんな世話になってるから今くらいは世話させておくれ」


 どうやら二人が戻ってきた事を聞いて町のみんなが集まってきたようだ。


「みんな……ありがとう。怪我はしたけど無事だ。この冒険者さんが助けてくれたんだ」


 そう言ってヴァラロスとディアを紹介するヨハン。今度は町の人たちが変わりがわりヴァラロス達に挨拶をするのだった。


 ひと通り挨拶が終わる頃にはヨハンが町の人に手当てをされて、ユシアも暖かい飲み物を準備しているところだった。


「慕われてるんだな」


 やっと挨拶が終わったところでヴァラロスがヨハンに話しかける。


「ありがたい事に、こうしてみんなとまた会うことができたのもあなた達のおかげです」

「あんた達もこの町ではもう有名人さ。……本当にありがとうね」


 そう言いながら暖かい飲み物を手渡してくるユシア。ヴァラロスとディアはそれを受け取りそのまま口をつける。暖かい紅茶が身体に染み渡るのを感じた。

 すると、話しが途中になっていた町長が話を始める。


「町の皆、歓迎してますよ。……話が途中になってしまいましたが報酬の話をしましょう。……息子夫婦の救助とスタンピード撃退。少ないかもしれませんが金貨200枚で如何でしょうか?」

「金貨200枚……!」


 提示額に驚くヴァラロス。一町長からの個人的な依頼で出せる金額としてはかなりの額であった。しかし、ヴァラロスとディアはそれを聞いて悩んでしまう。少し悩んだそぶりを見せた後、ディアが口を開いた。


「それ、払った後大丈夫なの?」

「多少の贅沢は我慢ですが通常の生活は問題ありません」

「万が一またスタンピードが起きたとしたら? ギルドに依頼する事になると思うけど、何とかなる?」

「ディア?」


 ディアの質問に首を傾げるヴァラロス。スタンピードがそんなに頻繁に起きるなど聞いたことがない。その為、これっきりで済むものと考えていたのだ。

 町長も同じ考えであったようで少し考えるそぶりを見せ、静かに口を開いた。


「……正直、もう一度起きるとは思えませんが、その時は払えないでしょう。その時はギルドへ依頼する事になると思いますが、もっと高額かもしれません。そもそも依頼が間に合うかどうか……」



 町長は目を伏せ、その万が一の事を案じた。プロカルから依頼を出すとしたらプロカルから東に位置するカスースの冒険者ギルドだろう。カスースへ行くのにプロカルから歩いて半日くらいかかる。だが、依頼を出して、冒険者を集め、プロカルへ向かうと考えるとどうだろうか。今回の襲撃を考えるとそんな事をしている間に全滅だろう。

 重い空気が流れる。ヨハンとユシアもわかっている為、口を挟まない。次があったとしたら生き残れない。そんな思いがその場を覆っていた。

 すると、その空気を変えるようにディアが話し始めた。


「なら、町の防衛にそのお金を使って欲しい。少しでも多くの人が助かるように地下室を作るなり、東に町を広げるなりやりようはある。……ヴァル、勝手にごめん。でも、アタシがそうしたい。今回の報酬はアタシが払うから」


 ディアの言葉に驚く町長と息子夫婦。ヴァラロスも少し驚いていたが違った意味合いであった。


「……驚いた。まさかディアから切り出してくるなんて。俺も同じ事を考えていた。少しでも町の防衛に力を入れて欲しい。報酬は……みんなが無事ならそれでいい」

「ヴァル……!」


 ディアが嬉しそうな顔をしてヴァラロスを見る。思わず目が合ったヴァラロスは気恥ずかしさに顔を赤らめながら目を逸らすのだった。

 ……それもそのはず、それは今まで見せた笑顔の中で一番の笑顔であったからだ。


「なんて感謝すればよいのか……。ありがとうございます。せめて泊まる宿はこちらで用意させて下さい。お二方ならいつまででも居てくださって構いません」

「町のみんなも二人なら大歓迎だ」

「この町で一番評判のいい宿を案内するからさ」


 町長の言葉に息子夫婦も是非にと言う。ヴァラロスとディアはもともと泊まる宿を探さなければならない状況であった為、この提案は渡りに船であった。


「じゃあ、言葉に甘えて、宿はお願いする」

「美味しいご飯も付けときますね」

「ごはん!?」


 ご飯と聞くと忘れてたと言わんばかりの反応を示すディア。あまりに緊張する出来事の連続であった為、食事のことをすっかり忘れていたのだ。


「そういえば食べてないな」

「今から紹介するところは美味しい料理も評判だから、荷物置いたらすぐに食べるといいよ。今から連れて行っていいかい?」

「ごはん! ごはん食べたい!」


 ユシアが町長達に確認する。町長もヨハンも早く連れて行ってあげてくれと苦笑し頷く。

 ご飯と聞き、うきうきのディアとそれを横目で見守るヴァラロスの二人を連れてユシアが宿に連れて行くのだった。

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