26.終わらない危機、そして救出
本日合計五話投稿。本日はここまでです。
プロカルの町の門扉に到着した二人。小窓から門番が顔を覗かせこちらをうかがう。二人がギルドカードを見せるとすんなり門を開けて通してくれた。ディアがノヴィシムに来た時と比べて待遇が雲泥の差である。少し微妙な顔をするディアだったが、今はそれどころではない。
ヴァラロスが事情を説明し、モンスターの群れが近づいてきていると伝えたところ、急ぎついてきて欲しいと言われる。二人は休むことなく門番に連れて行かれるのであった。
「町長! 大変だ!」
門番が町長の家の扉をバンと開けて中に入ると、町長と思われるお爺さんがエプロンをつけており、作った料理を配膳しているところだった。
「なんだ藪から棒に……息子達の帰りを待ってるところなんだが……」
「それどころじゃないって! モンスターの群れが山を下りてこっちに来てるんだ!」
パリンッ
町長が持っていた皿を落としたかと思うと、急に門番に掴みかかる。
「山……山と言ったか!? 魔物の群れが山から来てると言ったのか!?」
「ち、町長落ち着いて! 今はこの冒険者さんが魔法で町に近付けなくしてるから大丈夫だそうだ」
「そんなっ……!? 息子夫婦が山に行ってるんだ! 息子達まで町に入れなくなったんじゃ……!」
真っ青な顔をする町長。どうやら息子夫婦がまだ帰ってきていないらしい。魔物の群れに遭遇していたとしたらまず助からない。だが、霧の中に逃げ込めればどうにかなるだろう。
町長がこの世の終わりのような顔をする。それを見かねたディアは少しでも安心させるために訂正を入れた。
「大丈夫。その魔法は町を知ってる人には効かない。山を下りていれば安全」
「っ!? そ、そうなのか……? だが……」
ディアの言葉で一瞬顔色が明るくなるも、すぐにその表情は曇る。山を下りれば安全と分かったが、そこまで辿り着けているかわからない。そもそも山の中で魔物と遭遇してもう……そんな不安が町長を押しつぶそうとしていた。
「冒険者さん……頼みます……息子達を助けに行ってはくれませんか……? 出来る限りのお礼はするので、どうか……どうか……!」
弱々しい腰を深く折りヴァラロスとディアに息子夫婦の救出を懇願する町長。それを見たヴァラロスとディアは複雑な表情を浮かべる。
助けに行けるものならすぐにでも助けに行きたい。だが、ディアもヴァラロスも体力が限界に近いのだ。ディアに至っては万全でない状態で強めの認識阻害魔法を使った為、生命力がかなり減った状態となっており、魔物と遭遇しても魔法を使って戦うことは難しかった。
だが、それでも。ディアとヴァラロスはお互いの顔を見合わせて頷く。二人は決して諦めない。
「分かった。助けにいこう」
「!? ありがとうございます……ありがとうございます……!」
「お礼は後。何か武器はない?」
「武器って……お嬢さん」
「なんでもいい。剣でも槍でも斧でも」
ディアは魔法が使えない代わりにと武器を要求する。ドミニク程ではないものの、どの武器も普通に使うことが出来る。しかし、想定外の物を渡されることになる。
「そんなもの……鍬ならここに」
「くわ……?」
町長が差し出したのは畑仕事で使うような鍬であった。ディアは内心「そうじゃない」と頭を抱えたかったが、何もないよりマシだと考え鍬を借りることにする。
「……これ借りる」
「待ちな嬢ちゃん。これを持っていきな」
ディアが鍬を持って出ようとしたところ門番が呼び止める。そして、自分の持っていた剣を差し出した。その剣はお世辞にも綺麗とはいえない。むしろ切れ味が悪そうに見える。それでも門番の申し出は有り難かった。
「こんな剣でも鍬よりましだろう。……もともと飾りみたいなもんだが、よければ使ってくれ」
「ありがとう。これも借りてく」
「ディア、急ごう」
そう言って剣と鍬を持ったディアはヴァラロスの後に続き、再び山へ戻るのだった。
◇ ◇ ◇
プロカルの門を出て走る二人。つい先程まで歩いていた道を急いで戻っている。しかし、辺りはすっかり暗くなってしまっていたので、月明かりを頼りに周囲を窺う。すると、山の方に霧がかかっているのが見え、魔法がまだ効いていることがわかった。
「ディア! この魔法はどのくらい持つんだ?」
「魔力のパスが届く範囲なら、アタシが解くか魔力供給が切れない限り続くから安心して! でも、強めに魔法をかけたから霧が濃く出ちゃってる」
「わかった、弱いよりいいだろう!」
ヴァラロスは万が一魔法が解けてプロカルに魔物が雪崩れ込まないかを心配して質問したが、今のところその問題はなさそうだ。唯一心配なのはディアの魔力切れである。そこだけは注意が必要だった。
そのまま霧の中に入り走り続けること数分、山の入口が見えてきたところで足を緩める。今のところ魔物は見えないがここからは慎重に行動しないといけない。いつ魔物が襲ってきてもおかしくないのだ。……そして、町長の息子夫婦も見当たらない。この時点で最悪のケースが考えられる。
「……いこう」
「あぁ」
ディアが短く言うと二人はそのまま山に入っていく。ただ、息子夫婦の無事を願って歩くのだった。
しかし、山道に沿ってしばらく歩いているが魔物に出くわさない。それどころか小動物すら見当たらなかった。
「これはどういうことだ?」
「さっきは確かに魔物の気配を感じたのに……今は何も……」
それはまるで山の反対側にいた時のようである。
(魔物が消えた?……ううん。それはない。あの数の魔物が全部消えるなんて有り得ない。じゃあ、また気配を消して潜んでる?……いや、それはない。もう気配遮断の魔法は解析済みだから、近くにいれば気配を消しててもアタシなら分かる。だからそうじゃない。そうなると……)
答えは限られる。魔物が侵攻する向きを変えたと考えるのが妥当だろう。でも何故?その答えは分からない。だが、それならば希望が持てた。
「ヴァル、多分、魔物は引き返してる」
「なんだって? なんでまた?」
「分からない……でも、それなら息子さん達が無事な可能性がある」
「確かに……それなら急ごう」
「待って、ライト」
ディアが魔法を唱えると目の前に小さな光の玉が現れ辺りが少しだけ明るくなった。
「急ぐなら足元を照らさないと」
「大丈夫なのか?」
「生命力のこと? それなら大丈夫。弱くしか出せないけど、このくらいのライトなら問題ないから」
「そうか……なら頼らせてくれ」
それまで慎重に進んでいたヴァラロスとディアは辺りを照らしながら急いで山を登り始めた。
二人が走って山を登っていると何やら声が聞こえてきた。恐らく町長のところの息子夫婦だろう。
「どうやらこの先のようだ。急ぐぞ」
ヴァラロスの言葉にディアはただ頷く。そのまま二人はさらに急いで走り出した。そして、少し走ったところで声が鮮明に聞こえてきた。
「早く逃げろ! こいつは手に負えない!」
「だから一緒に逃げるんだよ! アンタをおいてなんて行けない!」
「バカやろう! このままだと二人とも助からない! お前だけでも逃げろって言ってるんだ!」
「絶対に嫌!」
言い争う声が近づいてきたと思ったその時、視界に二人の影が映った。
「なんだあれは!? 新手か?」
「いや、人がいる! ダメだ! アンタたちも逃げろ! 厄介な魔物がいるんだ!」
自分たちが窮地にいるにも関わらず他人の心配をする息子夫婦と思われる二人。ヴァラロスとディアはそんな二人を見て安心する。助ける対象が無事ならやることはひとつである。是が非でも助けたい。助けに来た二人が思うことは同じであった。
「町長からあなた方の救出依頼を受けた冒険者だ! 魔物は引き受ける!」
ヴァラロスが大きな声で叫ぶ。まるで自分に魔物の注意を向けようとしているようであった。
「ほんとか!? たすかっ……」
ザクっ
「えっ……」
「くそっ!」
男が安心したところで背後から鋭利な木の棒が飛んできた。それが町長の息子の肩を貫く。
「ぐぁぁ…………」
「アンタああぁぁ!」
その場でうずくまる息子とその息子を気遣う妻。そのすぐ後ろにはその鋭利な棒を投げたであろう魔物が見えた。
「ギィアアアアアア!」
その姿はディアのよく知る姿だった。
「プルート!?」
「っ!? ディアあいつを知ってるのか!?」
「えっ? い、いや。似た魔物を見たことがあるだけ……あれは違うみたい」
「……それでもいい。似てるなら共通点があるかもしれない。特徴を教えてくれ」
疲れのせいで頭が回らない。驚きのあまりつい声に出してしまった。そのせいでヴァラロスにあの魔物を知っているであろう事がバレてしまった。ヴァラロスはこう言ってるが恐らくディアの嘘に気付いている。
(なんでプルートの予備体がこんな所に……? なんでヒト族を襲ってるの!? ほんとなにやってんの……!!)
ディアは葛藤しながらも今切り抜ける事が先と判断しヴァラロスにアドバイスをした。
「多分、あいつの身体は魔力を帯びて硬化する。並の刃だと通らないから魔力で武器を纏って攻撃して!」
「なんだよそれ!? どうやりゃいいんだ?」
「これを使って!」
ディアはそう言うと走りながらヴァラロスに剣を手渡す。その剣はよく見ると淡く光ってるようにも見えた。
「これは……」
「アタシの魔力を込めてある。これなら通用するはず……!」
「分かった! ディアは下がってろ」
「冗談。これで十分!」
ディアも自分の獲物を構える。そこには同じく淡く光る鍬があった。そしてそのまま夫婦の横を通過する。
「出来るだけ離れて! 山のふもとの霧に入れば安全だから!」
「わ、分かった! アンタ! しっかりしな!」
息子夫婦に声を掛けそのまま魔物へと向き直る。すると魔物は次の木の枝を投げようとしている所だった。
「させるかよ!」
魔物が木の枝を投げると同時にヴァラロスが剣ではたき落とす。手に想像以上の衝撃が走る。手が痺れて構えが崩れたところを魔物が狙って近づいてきた。
その様子を見ていたディアはヴァラロスの隙を埋めるため前に出た。
「まずはこっち!」
鍬を思いっきり振り魔物に殴りかかる。それを見て魔物は攻撃を止めて回避に徹した。
「ギギィイイ!?」
「くっ、魔物のくせに勘がいい!? 攻撃が当たりさえすればすぐ終わるのに……!」
ディアがそう言うと、魔物は距離を取りディアとヴァラロスを観察する。すると、急に後ろに飛んだかと思うとその魔物の後ろにあるものに手をかけこちらに投げてきた。
「何度やったって同じ……ってあれは!?」
「イノシシの魔物!?」
暗がりのためよく見えなかったが、イノシシの魔物が飛んできた。そのサイズはゆうに大人の人を超えており、通常の魔物であれば投げ飛ばすことなんて不可能と考えられる大きさであった。
「くそっ! 避けたら二人に届いちまう! でもこんなの……」
「はああああああああああ!!」
「ディア!?」
ディアが雄叫びを上げながら鍬を振り上げて飛んでくるイノシシの魔物と対峙する。次の瞬間信じられない事が起きた。
「こざかしい!!」
ドオオオオオオオオオオオオン…………
ディアの叫びと共に振り下ろされた鍬は飛んできた魔物もろとも地面に叩き落としたのだ。あまりに異様な光景にヴァラロスは言葉を失っていた。
「ヴァル! 行くよ!」
「お、おう!」
一瞬呆けてしまったがそれは相手も同じであった。その隙をつくためにディアとヴァラロスは走り出し距離を詰める。
その様子をワンテンポ遅れて魔物が反応し、次の魔物に手をかけようとする。しかし、その僅かな遅れは形勢を逆転させるには十分な間であった。
「遅い!」
振り下ろされた鍬は魔物の頭上から魔物に迫る。攻撃が間に合わないと判断した魔物は手に持っていた魔物を手放し後ろに飛び跳ねた。
「ヴァル! お願い!」
それを見越していたのかディアの後ろから迫っていたヴァラロスは速度を殺さずディアの横を通り過ぎる。そして、持っていた剣で魔物の身体を横に一閃する。
「グッ……ガアアアアアアア!」
「くそっ! この手、なんて硬さだ……!」
しかし、ヴァラロスの攻撃は魔物の両手によって阻まれた。よく見ると腹部に剣先が届いており血が流れている。しかし傷は浅い。これではすぐに回復してしまうだろう。
「くっ!」
このままでは逃げられる。そう考えた時にはヴァラロスは魔法を唱えていた。
「アイス!」
「グァッ!?」
ヴァラロスが魔法を唱えると剣先を起点として氷の塊が発生し剣もろとも魔物を包み込む。魔物の腹部を包むように氷が発生し肝心の手も包み込む。結果、魔物は簡単には身動きがとれなくなった。
「すまん! 仕留められなかった!」
「いや、上出来でしょ!」
すぐ後ろにはすでに鍬を構えたディアが迫り魔物の頭部目掛けて振り下ろした。
ズドオオオオオオオン…………
思い切り振り下ろされた鍬は飛んできた魔物を叩き落とした時と同様に魔物を地面に叩きつける。身動きが取れなくなっていた魔物はディアの攻撃が直撃し絶命したのだった。
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