24.迫り来る脅威と、重なる疑念
翌日になり、干し肉と乾パンという簡単な朝食を済ませた後、2人はコテージを後にした。
「うぅ…………」
「ん? どうした?」
ディアが珍しく悲しそうな素振りを見せる。気になったヴァラロスはディアに話しかけるが……
「昨日の夜もそうだったけど、ご飯が味気ない……。もっと美味しいものが食べたい……。ベッドも硬かったし……」
ただの不満だった。食料があり野宿じゃないだけマシなのだが、今までノヴィシムの宿で快適に過ごしていたから余計にそう思う。
「あのなぁ……。食料なしで野宿なんて事もよくあるんだから不満言っても仕方ないぞ?……あ、でもどこかのお姫様だったっけ。それなら我慢してもらうしかないな……」
「違うから! ただの町娘だから!」
「そこらの町娘がベッドが硬いとか文句は言わねぇよ」
ディアの言い訳にヴァラロスが笑いながら揶揄う。揶揄われたディアは頬を膨らませて反撃に出た。
「町娘でもベッドが硬いって言いたくなるよ。それにしても……ヴァルは紳士だねー。アタシが隣で寝てるのに何もして来ないなんて」
「いや、手を出した瞬間に俺があの世に行きそうだし……」
「こんなにか弱い女の子に何をいうのかな?」
ヴァラロスの返答に、ディアはピキッと聞こえてきそうな表情を浮かべる。流石のディアでもそんなことはしない、と思う。最低限ヴァラロスには。多分。そう思いながら、何の冗談かなとディアが反論すると、ヴァラロスが正論で返す。
「か弱い女の子はサブマスの斧を軽々と持ち上げたりしないからな! ほんと、その身体どうなってるんだか……」
「ん? 興味ある?」
「ないわ!!」
ヴァラロスは途中善戦するも、結局は彼女のペースにのまれてしまうのであった。
◇ ◇ ◇
そのまま何事もなく下山すると、すぐ目の前にまた山が立ちはだかる。その山は、今下ってきた山よりも小さいが、登るにはある程度体力が必要と思われる程度の大きさであった。
「ここからまた登りだな。……大丈夫か?」
「うーん……今のところは? でも、正直いうと、ちょっと疲れてきたかも」
「まぁ、朝からずっと歩きっぱなしだったからな。ここらでちょっと休むか」
ヴァラロスはそういうと食料をカバンから出した。
「乾パンと干し肉…………」
「仕方ないだろう」
またも残念な表情をするディア。こればかりはどうしようもない。そう思ったがディアが何やら閃いた。
「そうだ! きのこ採って焼けばいいんじゃ?」
「まぁ、きのこがあればな。一応、何かないかと思って歩きながら見てたが、今のところ何もなかったぞ?」
ディアの提案に即答するヴァラロス。なんだかんだディアを気遣っていたヴァラロス。なにか食べれるものがないか探していた様だ。全て空振りに終わったようだが。
「くっ……!」
「どんだけ嫌なんだよ」
「別に嫌ってわけじゃないんだけど……。もちろん食料があるのは感謝してるよ? ただ、ちょっと味気ないというか……」
「それは嫌って言ってるのと同義だぞ」
ディアが限界そうなのを見て肩をすくめるヴァラロス。だが、それを見てある事に気がついた。それは、あまりにも異様で、本来直ぐに気付くべきものであった。
「……ちょっと待て」
「何!? なにか食べ物あった!?」
「違うわ! 一回食べ物から離れろ! ……いや、無関係じゃないんだが……山を下り始めてから今まで動物に出くわさなかったなと」
それを聞いてディアもハッとした。通常であればどこにでもある程度の動物がいて然るべきである。それこそネズミ1匹見当たらなかったのだ。
これが何を意味しているのか、ヴァラロスとディアはある兆候として知っている。
「「スタンピード」」
声が重なり2人は顔を見合わせる。もし予測が当たっているならこの先に魔物の大群がいる。そして、大概その魔物の群れを率いる強力な魔物がいるのだ。もし遭遇したら2人で大量の魔物と強力な魔物の双方に対処する必要があることを意味していた。
正直、万全な状態であればディアの敵ではない。だが、今は生命力を回復している最中である。そんな中、万が一、ドミニクレベルの魔物が現れたらどうなるか。ディアだけなら逃げ切る事もできるだろうが、ヴァラロスは逃げ切れないだろう。そうなった時にヴァラロスを庇って戦えるかと言われればそれも厳しい。ある程度は戦えるのは知っているが相手の力量次第ではヴァラロスでも危険なのだ。……これだけ広範囲で動物が逃げることを考えると相当厄介な魔物がいる事が予想される。それこそドミニクと同じくらいの強さであってもおかしくはない。
(こんな近くにそれほどの魔物が巣食ってるってこと……? 部下の調査はどうした? なぜ発見出来ていない……?)
ディアは星の守護者としての使命をまっとうするべく、魔王としての立場を利用し魔族領の部下を使って力をつけている魔物がいないか調べていた。もちろんプロカル方面への調査も例外なく行われていたのだが、調査した時には見つけられなかったようだ。
(……調査を実施したのは昨年。つまり、この一年の間に探索網を掻い潜って移動してきたってこと……? これは探索の仕方を改めないといけないか。でも、問題は今だ。この場合どうするのが最善か……)
「ディア?」
ディアが考え込んでいるとヴァラロスが声をかけてきた。どうやら思った以上に長く考え込んでいたらしい。
「ごめん。ちょっと考え事してた。どのみちプロカルに行かないといけない」
「だな、プロカルでスタンピードが発生したら村の人だけで対処出来ないもんな……」
(それだけじゃ済まないかも……どうにかして戦いを回避しないと……)
ディアが再度考え込む素振りを見せた途端、ヴァラロスが何かに気づいた。
「お、おい……あれ」
ヴァラロスが指を差したのは山の中腹。そこを見ると木々の合間から何やら蠢いているのが見えた。
「あれ……!? 全部魔物!?」
なぜ気付かなかった。いや、気付けなかった? ディアは不思議に思っていた。普通であればあれだけ大量の魔物がいれば魔力の気配でわかる。しかし、ディアは目視するまで気付くことができなかった。
(気配遮断系の魔法……? これだけの魔物を隠すことができる何かが裏にいる? いや、それよりも魔物をどうにかしなきゃ。……全体を把握しようにもアタシの認識阻害と真逆なことされると……ん? 認識阻害……? そうか!!)
そこまで考えたところで妙案を閃く。恐らくこれが最善。だがその策を講じるには魔物よりも先にプロカルに到着する必要がある。
「ヴァル! この山、迂回してプロカルに行けない!?」
「時間はかかるが……行けないことはない」
「なら決まり。山のふもとに沿って迂回しよう」
ディアとヴァラロスは方向転換し、急いでプロカルへ向かうのであった。
◇ ◇ ◇
走り出してどのくらい経っただろうか。すでに辺りは暗くなり、月が光っている。ディアは足元をライトの魔法で照らしながら依然進んでいた。その歩みは走り始めた時とは比べ物にならないほど遅い。途中で川を渡ったり、足場が悪いところを進んだりしていたため思ったよりも体力が削られたのだ。しかし、確実に一歩一歩歩みを進めていた。
「…………あった! あそこが本来山を越えた時に通る道だ!」
「魔物は!?」
ヴァラロスがプロカルへ続く道を見つけ、ディアが魔物の気配を探る。その瞬間空気が張り詰める。少し険しい表情をするもほんの少しディアの表情がやわらぐ。どうやら間に合ったようだ。
「……大丈夫。間に合った。でも、もうすぐ近くまで来てる……!」
「なら早くプロカルに行こう!」
ヴァラロスが急ぐように促すがディアはその場から動かなかった。
「ディア!?」
「まって、ここはアタシに任せて」
ディアはそう言うと山の方を向いて手を突き出す。何やら集中しているかと思うと突然魔法を唱えた。
「コンシール!」
ディアが叫ぶと急に辺りに濃い霧が現れた。
「これは……?」
「……魔物を寄せ付けない魔法。これで魔物はプロカルに辿り着けな……い……?」
そのまま辺りを霧が覆うかと思った時ディアがハッとしたように叫んだ。
「……ぁああ!? ヴァル! プロカルに行ったことあるよね!? 入り口の門とか覚えてる!?」
「……あるけど……門の形とか覚えてないぞ? なんでだ?」
「走って!」
「えっ?」
「いいから走って!!」
ディアはそう言うとプロカルへと続くであろう道へ向かい走り始める。ヴァラロスも訳がわからないという表情をしながら走る。しかし、濃い霧はあっという間に広がりディア達を包み込んだ。
「はぁ……はぁ……ああああぁぁぁ……! まずったぁ……」
足を止めてその場に立ちすくむディア。この状況に絶望しているようだ。後から追いついたヴァラロスは不思議そうにその様子を見て話しかける。
「なんだなんだ!? なんかまずいのか?」
「うぅ……ごめん。これ、認識阻害の魔法なの……そこに何があるのか知らない人は、そこを認識できない。一種の幻を見せる魔法なの。……その対象を正確に思い浮かべないと、その対象へ辿り着くことができない……。町も例外じゃない。その町へ続く道を歩いていても、気付けば自然と道を外れる。その町へたどり着くことができなくなる。そういう魔法。……そして、その魔法に巻き込まれた」
「認識……阻害……? ……ぁ!?」
ヴァラロスが小さな声をあげる。それは、気付いてはならないことに気づいてしまった時の反応であった。
「だから、ごめん。プロカルへ行くには魔法を解かないと入れない。でも、今魔法を解いたら……」
「…………」
その先は言わなくても分かる。魔物の群れが町になだれ込むだろう。そんな事はできない。そうなるとヴァラロスが道を思い出すしかないのだが、先ほどからヴァラロスは黙っている。なにかを考えているようだ。しかし、意を決したかのような表情をするとディアに話しかけた。
「……付いてきて」
「えっ……?」
「プロカルへの道は思い出してみる。どのみち他に方法はないんだ。何もしないより試した方がいいだろ?」
「……そう、だね。分かった。ヴァルを信じる!」
ディアはヴァラロスの提案を受け入れることにした。止まっていても仕方がない。それは、ヴァラロスらしい選択であった。
再び歩き出す二人。しかし、その時ディアは気付いていなかった。ヴァラロスとの歩幅がズレてきていることに。
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