23.一つ屋根の下、そして迷い
ノヴィシムの街を出てから馬車を走らせる二人。途中、休憩を挟みながらではあるが、ほとんど止まることなく順調に進むことが出来、昼過ぎには山のふもとへと到着した。
「ヴァルもお馬さんもお疲れ様」
「ヒヒーン!」
「おまえ本当に言葉わかるんだな。しかし、よくあのペースで走れたもんだ。今まで乗った馬の中で一番早くてタフだぞお前」
「ヒヒヒーン! ブルブル……」
仲良く喋るヴァラロスと馬。ヴァラロスも賢い馬という認識でいるので余計なことは伝えない様にする。
(魔物化の影響で身体も強化されてるのか……。これは初めて知ったな。ちゃんと把握しておかないと)
普段魔物の相手をしているディアだが、魔物になる前の動物に関わることは少ないのだ。今回の様に巻き込まれた動物に会うことはあるが、基本的にそのまま放置する為、どの様な変化があるかは分かっていなかった。
だが、魔物化のおかげで早く山のふもとまで着くことができた。そこに限っては良かったと言える。
「おーい」
「ん? 誰だ?」
馬から降りたヴァラロスに誰かが声をかけてきた。よく見るとノヴィシムにあった馬貸し屋と同じ様な小屋がある。
「その馬、ノヴィシムから乗ってきたろ?」
「あぁ、ここで返せるのか?」
「おぅ、まだ使うなら預かるだけにするが、どうする?」
どうやら馬貸し屋の職員の様だ。確かに借りっぱなしと言うわけにはいかない。空山のふもと同様に山を越える人用に馬を返す場所を作っている様だ。ただ、こちらは人の往来があるからか人を置いているらしい。
「いや、このままプロカルに向かう。馬は返すよ」
「分かった。じゃあこっちに……あ、おい」
ヴァラロスとディアに軽くお辞儀の様な仕草をしたあと、馬はひとりでにスタスタと馬小屋へと向かって行った。山のふもとの馬貸し屋は慌てているが問題ないだろう。
「あの子、言葉分かるみたいだから大丈夫」
「そんな馬鹿なこと……あ、自分で扉開けて入って行きやがった……」
「いや、賢すぎるだろ……」
流石に自分で扉を開けたのは想定外と、ディア含め3人ともその場で呆気にとられるのであった。
◇ ◇ ◇
「さて、ここから山登りだ。準備はいいか?」
無事馬を返したので出発することにする。ヴァラロスは念のためディアを気遣う素振りを見せるがディアは快調であった。
「大丈夫。この前も空山登ったし、問題ない。むしろ肩が軽くなって調子が良いくらい」
「それもそうか。じゃあ行こう」
ヴァラロスはディアに問題がないことを確認し、山を登ることにした。ヴァラロスに半歩遅れて歩くディアは、何やら辺りを見渡していた。
(念のために……ここらに落としておこうかな)
ディアがこっそり何かを落とすも、ヴァラロスは気付くことなく元気よく山を登り始めるのだった。
そのまま何事もなく山を登り、暗くなる頃には山頂に到着した。山頂には山を越える人の為のコテージがあり、今日はそこで一泊することになる。
「疲れたー!」
「お疲れさん。流石に午後はずっと登りっぱなしだったからな」
「まぁねー」
2人はほぼ休みなしで登りきった。本来なら山のふもとの馬小屋があるところで一泊し、早朝から出発する予定で考えていた。だが、馬が早く、かつ休み少なく走っていた為に想像以上に早く到着することができた。その為、当日中に山頂のコテージを目指すこととなったのだ。
ヴァラロスだけであればもう少し早く到着しただろうが、ディアの歩く速さに合わせていたら到着が多少遅くなってしまった。だが、それでも到着出来たのだから問題ないだろう。
2人は早速コテージの中に入る。そこは誰もいないようで今日は貸切のようだ。
ディアがライトの魔法で部屋の中を照らし、部屋の隅に荷物を置いて一息つく。そんなところでヴァラロスが明日の予定について話し始めた。
「明日の早朝には下山して次の山を目指す。その山を越えたらプロカルはすぐそこだ」
「まだ山あるの……?」
「山といっても今日登ってきた程じゃない。明日の夜にはプロカルじゃないかな」
ヴァラロスは頭の中で道を計算する。ヴァラロスの見立てではディアの歩く速度を考えても翌日夜間には到着できるだろう。
明日に備えて休もうと考えた時、重要なことに気付いた。
「明日も早いんだ。早く休もう」
「賛成。軽くシャワーも浴びたいし……って、ここ部屋とかないの?」
「…………ないな」
完全に失念していたがこのコテージは部屋の仕切りとかはなく、ただ部屋の隅にベッドが4つ置かれ、部屋の比較的中央部には大きめのテーブルとイスがいくつか置かれている程度である。床に雑魚寝すればもっと沢山の人が泊まれるだろうが、今はヴァラロスとディアの2人だけである。男女ひとつ屋根の下というのは問題があった。
「そう、じゃあ仕方ないか。シャワーを浴びる場所もなさそうだから……ちょっと魔法使って外で浴びてくるね。あ、ヴァルもシャワー欲しかったら言って。後でやってあげるから」
しかし、ディアはあまり気にしていない様子でシャワーを浴びに行こうとしている。ヴァラロスはひとりだけ気にしているのがバカらしくも思うが気になってしまうのだから仕方がない。
「いや、シャワー浴びに行くって……そんな、外で大丈夫か?」
ヴァラロスは、いくらディアが強いからといっても一人で暗い山の中で湯浴みをさせるのは危険だと思い心配する言葉をかける。それを聞いたディアは先日の出来事を思い出してしまい、つい遊び始めてしまう。
「ん? 中でやれって? ダメだよヴァルー。いくらアタシの身体を見たいからって……」
「ち、違うわ!? ただ、魔物とか出たら危ないと思ってだな!?」
ヴァラロスの心配の声を茶化すディア。身体を隠す仕草をしながらクネクネするディアを見て、ヴァラロスは顔を真っ赤にしてディアの言葉を否定した。そんな様子を見たディアはイタズラが成功した子供のようにくすくすと笑いながら答えた。
「ふふっ冗談だよ。心配ありがと。でも、アタシなら身一つでどうにでも出来るから。それに、流石にアタシもシャワー中はアースウォールで周りを囲ってからやるし。……だから覗けないよ?」
「覗かねぇよ!……はぁ、心配して損した。生命力も回復したって事でいいな?」
「囲い作ってシャワーするくらいなら何も問題ないよー。なんなら後でヴァルのシャワーも出来るし」
「そうか。…………なら、後でお願いしようかな」
「分かったー」
ヴァラロスも山を登ってきて汗をかいていた。そのため出来るならシャワーを浴びたかったのだ。
その後も終始ディアペースにのまれながらもひと通り準備を終えた二人。後は寝るだけになる。
「…………はぁ、じゃあ寝るぞ」
ヴァラロスは疲れ切っていた。ディアの悪ふざけにいちいちツッコミを入れていた為、疲れたのだ。
「はーい。おやすみなさい」
一方のディアは隣のベッドに入り遠足気分のままでいる。
そのまま就寝かと思われた矢先、ヴァラロスが口を開く。
「そういえば……さ」
「ん? なに?」
「…………やっぱなんでもない」
「なにそれ? ……えっちぃのはだめだよ?」
「もう寝ろ!」
ヴァラロスは何かを気にする素振りを見せたがなんでもないという。ディアは気になったがつい悪ふざけをしてしまいヴァラロスを怒らせてしまった。
ちょっと悪ふざけしすぎたかな。そう思ったディアは話し始める。
「ごめんごめん。……こうやって寝るまで楽しく話すの初めてだったからついね……ついてきてくれてありがとう。おやすみー」
「…………おやすみ」
ディアが簡単に感謝の意を表し、おやすみという。ヴァラロスも多くは語らないが、ディアの感謝の気持ちは届いている様であった。
だが、ヴァラロスの中にある迷いが生まれていたことにディアは気付いていない。
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