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22.自我とお願い

 ヴァラロスが部屋を出て行った後、ディアはしばらく部屋で休んでいた。ベッドに転がり物思いにふける。


(しかし、まさかヴァルがプロカルまで付いて来てくれるなんてね。……意地になってるところ可愛かったなぁ)


 ヴァラロスで楽しんだディアは余韻に浸かっていた。久しぶりにイタズラして楽しんだのだ。まるで、子どもの頃に戻ったかのようであった。


(ふふっ、ヴァルと話すの楽しかったな。これならプロカルへ行く途中も退屈しなさそう。…………あれ……? 楽しかった……?)


 ディアは自分の感情に気づき困惑する。ディアはこの星で大切な役割を担っている。それは、魔王のことではない。神から直々に任命され、この星のバランスを保つ活動を代行する役割。星の護人と呼ばれる役目も担っていた。一度、星の護人に選ばれてしまうと、その人の身体的時が止まる。もともと魔族であるディアにとってはさほど変わりはないが、星の護人も寿命が無くなるのだ。ただし、星の護人に選ばれてしまえば、世界を回す歯車のように事務的に事にあたるようになってしまう節がある。それこそ感情が無くなるほどに。

 ディアは、昔に星の護人に選ばれてからは楽しいなんて感情は感じたことがなかったのだ。ただただ、機械的に星の生命力を管理していた。それなのに、この一週間過ごしてヴァラロスとの会話を楽しいと感じた。自分の感情を自覚できた。その事に驚きを感じていた。そして、ディアは、まだその感情の先にあるものを知らなかった。


(……考えても仕方がない。今はやらなきゃいけないことを考えなきゃ。あのエセ創造神に文句言われそうだし。…………あぁ、これもか)


 ディアはさらに気付いた。いつからオーディーンに対して、創造神に対して、こんな態度を取る様になったのだろうか。仮に従順でなかったにせよ、悪態をつく事はなかった筈である。

 一度些細な事に気付くと様々な事が芋づる式に思い返される。オシャレも興味が無かった筈だ。もっと言えば、そもそもこの様に単独でヒト族の街に来ようなんて考える事自体、今までを思い返すとあり得ないことだった。


(なにかがおかしい……。でも、悪い兆候ではない……はず?)


 自分が自分でいられている。そう考えれば悪いことではないだろう。ディアはそう自分に言い聞かせる事にした。……そうでもしなければ、自分が分からなくなりそうだったから。

 今考えても仕方がない。そう考えたディアは、今度オーディーンにあった際に問い詰めようと思い、今は考えることをやめた。それより、今は考えなければならない事がある。


(……この口座の鍵どうしよう)


 ディアが作った口座の鍵である。今のディアの口座には金貨1500枚が登録されている。それを、この鍵と合言葉があれば自由に引き出せるのだ。つまり、もし合言葉がバレて鍵を盗まれたら全てを失う。それはまずい。そう考え、まず鍵をどこかに隠そうと考えたのだ。


(どうしようかな……)


 考えがまとまらないディア。頭の中でひたすらどうしようと繰り返す。最後に作製した目の前のルームランプのフタ(眩しいので作った)を開け閉めしながらそんな事を考えていると、ふと閃くものがあった。


「そうだ!」


 思わず声が出るほどに画期的な閃きである。


(これ、ルームランプの台座の裏に仕込んだらいいんじゃない? 金属プレートだし重さがあるからルームランプが安定しない問題も軽減されて一石二鳥じゃないの! そうと決まれば早く改造しないと!)


 ものづくりに目覚めてしまったディアは、そのまま口座の鍵を隠す為の隠し扉をルームランプの台座に仕込むのだった。




(せっかくなら合言葉も台座に刻んでおこうかな……裏のフタ気付けないだろうし、忘れたら元も子も無いからね)


 ディアはそう考えて台座に言葉を刻んだ。……その言葉のせいでこのルームランプが謎に満ちた存在になってしまったのはまた別のお話。




     ◇ ◇ ◇




 翌朝、ベッドから身体を起こしたディアは眠そうにしながらも自身の生命力を確認する。


(…………うん、これなら)

「ヒール」


 そのまま肩にヒールをかけると肩の痛みが引く。包帯を取るとそこには傷のない綺麗な白い肩が現れた。


(これでよしっと。怪我したままでいるなんて、今までなかったもんね……)


 先ほどまで鈍痛があった肩をさすりながら、少し名残惜しそうな顔をするディア。魔王をやってる手前、ディアよりも強い相手などそうそういないのである。そう考えた時、手加減をしたとはいえ、ディアに傷を負わせたドミニクの実力は目を見張るものがあった。……そんなことを考えたディアは身震いをする。


(あんな化け物、金輪際相手したくないわ……)


 それ程までに規格外だった。



     ◇ ◇ ◇



 朝の準備を済ませたディアは荷物をまとめて宿を出ると、その足でギルドへと向かった。


「よぅ、おはよう……」

「おはようヴァル」


 心なしか素っ気ない挨拶のヴァラロスだったが、少しいじめてしまった影響と思い、ディアは特に気にしない方向でいくことにした。

 そのままロッカーにルームランプ等の荷物を預け、山越えに必要なものを揃えて馬車を借りに街の入り口へ向かった。



「おぅ! にいちゃん達! 元気だったか?」

「俺は元気だ。こっちはしばらく寝込んでたけどな」

「余計なこと言わないの」


 ヴァラロスの言葉に、背後にいたディアが抗議の声を上げる。馬貸しがその姿を見て驚いた。


「嬢ちゃんのその服……、今流行りの店の服じゃないか。服が違うだけでかなりべっぴんさんになったな……にいちゃん、逃しちゃいけないぜ」

「よ、よけいなお世話だ! それより早く馬を貸してくれ!」

「おっと、そいつはすまんかった。待ってろ、今連れてくる」


 馬貸しはそのまま馬が休んでいる小屋へと向かった。馬貸しにからかわれたヴァラロスは顔を見て赤らめながら平常心を保とうと頑張っているのが見てとれる。


(かわいいやつめ)


 ディアはその様子をみてニヤニヤするのであった。


 余談だが、ディアは黒のワンピースでドミニクと試合をしており、蝶の様に舞う姿を見ていた女性冒険者やギルドの女性職員がディアのファンになり、ディアの服がどこの店のものか気になり調べたのだとか。当の服屋も公式にディアの服を自分の店のものだと公表していた為、一部の間では眠り姫の服と呼ばれ、ここ数日で急激に流行ったようだ。


 ディアがヴァラロスの様子をニヤニヤして見ているとすぐに馬貸しが戻って来て馬を連れてきた。


「すまん。コイツしか残ってないんだった。ちょっと気難しくなってな……。馬車は引けるんだが、人を乗せてくれなくなって扱い辛くなっちまった。まぁ、何故か言葉がわかるかの様にひとりでに馬車を引いてくれるから荷物を運ぶくらいなら役に立てるぜ」

「それだと困るんだが……」


 ヴァラロスが抗議の声を上げる。馬を借りるのに扱い辛い馬を渡されても困るのだ。


(文字通りじゃじゃ馬なのね…………んん?)


 ディアは何かに気付くと馬に近寄りマジマジと観察する。そして、少し考える素振りを見せた後ヴァラロスに提案する。


「ヴァル、ちょっと乗ってみて」

「いや、話聞いてたか? コイツは人を乗せないって」

「お願い、大丈夫だから。アタシを信じて、ね?」

「〜〜〜〜っ! わーったよ!」


 上目遣いでお願いするディア。不覚にもヴァラロスはその仕草を可愛いと思ってしまった。ディアがチョロいと思ったのは秘密である。


「お、おい。にいちゃん大丈夫かい? 落ちて怪我しても責任取れないぞ?」

「その時は、その時だ……っと」


 ヴァラロスは勢いをつけて馬にまたがる。すると、馬は大人しくヴァラロスを乗せた。


「…………? 大丈夫そうだが……それ」


 ヴァラロスが手綱を引くと馬が言う事を聞く。何も問題がないようにみえる。


「驚いた。他の人は誰も乗せなかったのに、なんでにいちゃんは乗せてもらえるんだ?」


 不思議に思う馬貸しにディアは答えた。


「この子、この前の子だから。ヴァルがウルフから守ってくれた事を覚えてるみたい。だから乗せてくれた。この子は賢いね。言葉を理解してるみたい。よーしよしよし……」


 そう言うと馬の身体を撫でるディア。馬もまんざらではない様子でぶるぶるしている。


「はぁ……他の人も乗せてくれないと困るんだが」

「うーん……ちょっとお願いしてみたらどうだろう……。ねぇ、もうあんな危険はないから他の人乗せてくれる?」

「馬にお願いって……」


 ディアが馬にお願いしてみる。ヴァラロスが少し呆れた様な反応をするが気にしない。すると馬がディアを見て動かなくなる。どうしたのかとヴァラロスと馬貸しが思っていたところにディアが馬に近づき話しはじめる。


「ねぇ、ダメかな? このままだと、ここにいられなくなっちゃうかもしれないよ?」


 すると馬は首をぶるぶるして反応する。本当に話を聞いているのか分からないところである。少しムッとしたディアはさらにお願いを続ける。


「お願い聞いてくれないと困るな。…………馬肉にされて食べられちゃうかも」


 最後の言葉を馬の耳元でボソッと呟く。すると、ディアの言葉に馬が固まった。心なしか目が泳ぎ口がカクカクしている様に思えた。


「じゃあ、手始めに……ヴァル降りて、馬貸し屋さん乗ってみて」

「大丈夫かな……」

「あれ以降乗せてもらえてないんだが……」


 馬貸しの主人はディアの話を信じてヴァラロスと交代する。すると、馬貸し屋の主人も問題なく馬に乗ることができた。


「おぉ……。本当に言葉を理解してるんだな。嬢ちゃん助かったぜ」

「動物も生き物だから、ちゃんとお願いすれば聞いてくれる。…………ね?」


 最後にディアが馬に向けて言葉をかけると馬がすごい勢いで首をブンブンと縦に振る。若干汗が滲み出ている様にも見えた。


(まったく、変に知能ついちゃって……。まぁ、無害っぽいからいいか。まさか近くでウルフ倒しただけなのに()()()が進むなんてね)


 それがディアが感じた違和感の正体であった。もともと魔物とは、動物が何らかの影響で魔力を得てしまったものだ。今回はウルフを討伐した際に、ウルフから漏れ出た魔力がこの馬に吸収されてしまったようだ。まだ完全に魔物になったわけではないが、馬から魔力を感じた為、ディアは魔物化が進行していることがわかったのだ。


(この様子だと魔物化の初期の初期。このまま他の魔力に当てられなければ動物として天寿をまっとうできるでしょう)


 ディアは、この馬は放って置いて良いと判断した。一応、星の守護者をやっている手前、そういった判断をする立場にいる。もしも、バランスを崩しかねないと判断されれば介入する必要が出てくるのだ。

 幸い、今回の馬は少し悪知恵が働く程度で、根は素直な性格である。その為、無害と判断されたのであった。


 出発前に一悶着あったが、ようやく出発できる。ヴァラロスが馬に跨り、ディアが後ろの荷馬車に乗り込み、ノヴィシムの街を後にするのであった。

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