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21.二人だけの時間

 話を聞いたヴァラロスは売り上げ金額に驚いた。一つあたり金貨100枚で売れたことも驚きだが、それが全て売れたのだ。ヴァラロスは嬉しそうに語るディアを見て、自分も嬉しくなり、少しでも制作に関われたことを誇りに思う。

 そして、その稼いだお金を預けようとしたディアが、ギルドに拘束されたことに苦笑する。その時に貰ったロッカーをディアの提案でヴァラロスと共同で使うことにした。荷物をあまり持たないディアだけが使うと宝の持ち腐れなのだ。基本的にディアは預ける物がない為、ロッカーの鍵はヴァラロスが預かる事になった。

 楽しそうに話すディアをみて聞くタイミングを逃していたが、ヴァラロスは思い切って気になっていたことを確認する。


「もう、肩は大丈夫なのか?」


 ヴァラロスはディアの肩を見て心配する。連日ヒールをかけていた為、あまり良くはない状況だと分かっているのだが、本人があまり気にしない様子だったので聞いてみたのだ。


「あぁ、これ? 痛いけど慣れたかな」

「慣れちゃダメだろ……ほら、見せて。ヒールかけるから」


 冷静にツッコミを入れるヴァラロス。焼石に水かもしれないが何もしないよりマシだろう。そう思いディアに近づく。すると、何かを閃いたディアが声を上げる。


「あ! そうだ! ちょっとこっちにヒールかけてみてよ?」

「ん? なんだこの紙?」

「いいからいいから」


 本当はディア本体にヒールをかけたかったが、ディアが起きているのと、本人が思ったより大丈夫そうなので、ヴァラロスは言われるがままに紙の方にヒールをかけた。


「ヒール」


 ヴァラロスが紙にヒールをかけると、白かった紙が淡く緑色に光るではないか。


「これは……?」

「思った通り!」


 それは、ディアがライトの魔法で試した作品の応用である。粉にした魔法石を紙にまぶしたものである。粉をまぶす際には接着剤を薄く塗って魔法石の粉を紙に固定する事で、シート状にできる。そうすることで魔法のシートが完成するのだ。


 淡く緑に光る紙を満足気に見るディア。早速その紙を傷のある肩に当てた。すると、じわっと肩が暖かくなるのを感じる。しかし、その感触はすぐに消え、紙の淡い緑の光も消えてしまった。


「うーん、やっぱり無理があったか」

「これって魔法を使った術者によって効果が変わるのか?」


 すぐに効果がなくなってしまった紙を見てディアはなにやら悩んでいる。それを見ていたヴァラロスは自分の魔法が未熟だったから効果が薄かったのかと考え質問をした。


「いや、魔力はこのシートに蓄えられてる魔力を使うから関係ない。単純にシートにした時に蓄えられる魔力量が少なくなりすぎただけ。かさぶたになってる傷だったら今ので治ったかもしれないけど、実用化するにはまだちょっと課題ありって感じ。それこそ、アタシの肩を治そうと思ったら相当の魔力を込めないと治らないから」

「そうなのか。でも、それって……」


 ヴァラロスはとんでもない事に気が付いた。ディアもそれに気づきニヤリとする。それは魔法の常識が覆る瞬間だった。


「そう、うまくいけばヒールが使えない人でも、この紙を使えば魔力を込めるだけでヒールを使えるようになる。…….もっと使い勝手を良くすればこれも商品化出来るかな」

「ヒールどころか好きな魔法入れられるんだろ?……攻撃にも使えるだろうし、なんでもやりたい放題じゃないか?」

「一回魔法を付与したら、もう変更出来ないからそこは大丈夫。じゃなきゃ商品化しようなんて思わない」

「それなら……大丈夫か?」


 ヴァラロスが心配事を口にする。言われる通り、魔法石に魔法が付与されていない状態であればなんでも出来てしまう。ただ、一回魔法を付与したら変更は出来ない。ライトの魔道具を売り出す時に、その問題を明確にする必要があった為調べたのだ。オーディーンからも変更できない事は聞いている。一定の期間魔力を込めないとただの石になってしまうらしいが、10年とか長期に渡る場合なので普段使いしている分には継続して使えるようだ。ただし、粉々になっている分蓄えられる魔力量が少なく、用途は限定的になりそうである。


 試作したヒールの紙は効力を失ったのでディアがカバンにしまう。ヴァラロスがディアが思うよりもディアの肩を気にしている為、ヴァラロスに心配をかけないように早く治そうと思った。しかし、まだ、自身の肩を完治させるまでの生命力が回復していないようだ。ディアは、翌日には回復していそうに思えた為、明日肩を治すことを心に決め、次の話題に移る。何も障害が無くなった今、ディアとして最優先でするべき事である。


「そういえば、明日、明後日には、もうプロカルに行こうと思う。けっこう稼いだし早く目的を果たさないとだから」

「っ!? そ、そうか……」


 ディアがもうすぐ出発すると伝えるとヴァラロスが驚き戸惑うような反応を見せる。すぐに帰ってこようと考えていたディアは、ヴァラロスがなぜそのような反応をしたのか疑問に思った。何がヴァラロスを困惑させているのかを考えたディアは一つだけ、その原因として思い当たるところがあった。


「あぁ、もちろん、終わったらすぐ戻ってくるから。その後の竜種退治は一緒に受けるよ。だから、すぐに帰ってくるから待っててね」

「いや、それはいいんだが……」

「んん?」


 ディアが安心するように話すと、ヴァラロスがなにやら歯切れの悪い反応をする。この話ではないのかと思って彼を見ると、なにやら迷っているように見えた。ディアも首を傾げ、他の要因を考える。だが、いくら考えても、ここでディアの出発によりヴァラロスが困ることが思いつかなかった。

 すると、ヴァラロスは意を決したかのような表情を浮かべ、ディアの顔を見ながら話し始めた。


「俺も行っていいか?」

「えっ?」


 予想外の話に虚をつかれるディア。まさか、ヴァラロスが付いてくると申し出るなんて思わなかった。何故なら、ヴァラロスが付いてくる理由がないのだ。パーティを組むのも渋々だった。強いて言えば竜種討伐の約束をしたくらいであるが、竜種討伐の場所は空山近辺である。真逆の方向であるし、ディアは戻ってくると約束したので、これ以上この件で不安はないはずだが……。まさか、戻ってこないと思われたのか。ディアはそう考え、逆に不安になった。


「もしかして……、アタシ、信用ない……?」

「ち、違う! そうじゃないんだ!」


 ディアが不安そうに聞くと、ヴァラロスは慌ててそれを否定する。ディアはますます分からなくなり、ヴァラロスへ質問する。


「じゃあ、なに?」

「それは……、そう! まだ怪我したままだろ? ヒールで怪我を回復しても、また生命力少なくなって倒れたら大変だ。魔物が出ても俺が戦えば生命力も温存できるだろ?」

「まぁ、そうだね」

「だろ!?」


 ヴァラロスの様子を見て腑に落ちないといった表情のディア。だが、ヴァラロスが付いてきてくれるというなら願ったり叶ったりである。正直、道も分からない状態の為、道案内がいるだけでも助かる。さらには護衛までしてくれるというのだから断る理由はない。


(でも、なんか引っ掛かるな……。まるで、アタシと離れるのが嫌みたいな。……ん? 離れるのが嫌なのか?)


 ……そう考えた瞬間、ディアの中の小悪魔がアップを始める。ちょっとイタズラしちゃえ。そんな考えがディアの頭を埋め尽くした。


「そっかぁー。てっきり、アタシと離れるのが寂しくて付いて来てくれるのかと思ったのにー」

「なっ!? ち、ちちちがわい! その、あれだ……、そう! パーティ組んだんだから一緒にいる義務があるだろ!?」

「ふぅん……。アタシとは義務感で一緒にいるんだ……。残念だなぁ。アタシがヴァルと同じ立場なら、ヴァルと一緒にいたいからって言うのに」

「ま、待ってくれ! それは言葉のあやというか……、決して義務感だけでは…………へ? ディアは俺と一緒にいたいのか……?」


 ヴァラロスがキョトンとする。その反応を見てディアは面白おかしくなって少し笑ってしまった。


「ふふふ、例えばだよ。でもまぁ、離れて寂しくないと言われたら嘘になるかなー」

「そ、そうか……」


 しょんぼりするヴァラロス。ちょっとイタズラしすぎたかな。そう思うディア。ヴァラロスが必死に言葉を探してるその姿に、ディアはヴァラロスがまるで子犬のように見えてきて可愛く思えてきたのだ。連れて行って欲しい。素直に、そう言ってくれれば良かったものを、変にカッコつけようとするからボロが出る。ヴァラロスには悪いがディアは彼の反応を見て楽しんでいた。あまりにしょんぼりするものだから、思わずディアは吹き出してしまった。


「……ぷっ! あはは……、ごめんごめん、イジワルしちゃって。付いてきてくれるならアタシも嬉しいよ。よろしくね」

「お、おぅ。よろしく……」


 狐につままれたような顔で釈然としないヴァラロス。だが、これ以上はなにを話しても状況が悪化するだけと考えたヴァラロスは翌日また来るとだけ告げて部屋を出て行くのであった。

 そんなヴァラロスを目で追うディア。ヴァラロスが出て行った後、自然と鼻歌が出るのであった。

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