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20.神様、のちに平穏

 たどり着いたそこは道具屋であった。卸した魔道具がどうなっているのかを確認しにきたのだ。ついでに口座も作ったので、もし、売上が高額になればそこに保管するのもありと考えている。


(いくらになるかなー♪ 結構珍しいからひとつあたり金貨30枚とかいくかなー♪ そうしたら金貨600枚!……あぁ手数料20%取られるんだっけ、それでも金貨480枚かー♪ まぁ全部売れたらの話だからね。あまり期待してもしかたない。………ふふふ♪)


 ディアは舞い上がっていた。こんなに心躍るのは久しぶりである。子供の頃に戻ったかのように嬉しそうに歩いて扉に近付き、道具屋のドアを開けた


「おぅ、遅かったな。体調は大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫! オーディーンも元気だった?」

「…………お前どうしたんだ? 頭変なとこぶつけたか?」

「やだなー、いつも通りじゃない」

「……なんか、気持ち悪いな」

「ぶん殴るぞてめぇ!」

「どんだけ情緒不安定なんだよ!……まぁ、あれの件だろ? ちょっと待ってろ」


 ひと通りのコントを終えた二人は本題に入る。オーディーンが店の奥に何かをとりに行く。その様子を後ろで見ていたディアは店を見回しある違和感に気づく。


「そういえば、アタシの作品はどこにあるの? 見当たらないんだけど」


 一つひとつ愛着を持って作製した卓上ランプが一つもなかった。確かに、持ち込んだ際にオーディーンが棚に置いていたはずなのだ。


「あ? あるわけないだろ」

「ん? なんで?」


 単純な疑問で首を傾げるディア。まだ納品してから4日目である。20個も作ったのだから、まだ在庫があると思ったのだ。しかし、あたりを見渡してもそれらしきものはない。そうなると答えは絞られてくる。


「まさか…………壊した!?」

「どんだけ信用ないんだよ!? 全部売れたに決まってるだろ!!」

「えっ全部?……いくらで売れた?」


 予想外の展開にディアが驚く。珍しいものであることは自覚していたが、まさか全て売れるとは。そうなると、いくらで売れたのかが気になるところ。価格設定はオーディーンに任せていた為ディアは知らない。あまりに安くされても困るが売れなくても困る。その線引きは一応、商売をしてるであろうプロに任せる事にしたのだ。そして、その選択は正解であったことがすぐにわかる。


「ひとつあたり金貨100枚だな」

「え? ひ、ひゃく!? え、待って。全部、売れた……?」


 予想の三倍を超えてきた価格設定にディアが驚愕し、それが全て売れた事実が遅れて脳内に入ってくる。突然の出来事に頭が追いつかないのだ。

 そんなことはお構いなしにオーディーンは自慢げに話を続ける。


「おうよ。まけてくれって絶対言われるからな。最初に金貨120枚で出してたんだ。まとめて5個買うならひとつあたり金貨100枚にまけてやるって言ったら最初のが初日に売れてな。あとは買ったやつから話を聞いたのか翌日にポンポンと売れて完売だ」

「す、すごい……」


 そこに神がいた。


「神様……」

「よせやい。照れるだろ」


 ディアから初めて神として扱われたオーディーン。気をよくしたのか少し照れ気味である。しかし、ディアの意味する神は少し違っていた。


「……商売の神様だったんですね」

「この世界の創造神だからな!? お前の敬語とか貴重だが、それ絶対に神として見てないだろ!? ……ったく。ほらよ。手数料抜いて金貨1600枚だ」

「おぉ……!」

 

 大きいカバンに金貨が詰め込まれている。かなり重いがディアは肩の痛みも忘れてカバンの重みを確かめ、はしゃいでいた。

 正直、最初は手数料20%は取りすぎじゃないかと思ったディアだったが、商品さえ持ち込めば価格設定や陳列スペース貸し出し、販売までトータルコーディネートしてもらえることを考えると破格の手数料と言わざるを得ない。


 ホクホク顔のディアに、思い出したようにオーディーンが話しかける。


「そういえば、ヴァラロスに礼を言っとけよ?」

「ヴァルに?」


 何のことだろうとディアは首を傾げる。宿の延泊代を払ってもらったことだろうか。恐らく、宿に運んだのはヴァラロスだろう。そのことだろうか。いくつか思い当たる。そもそも会った時にお礼はしようと思っていたが……。


「あいつ、お前が怪我したからって、慣れないヒール使って連日フラフラになってたからな」

「ヒール? ヴァルが?」

「お前がその重さの金貨を持ててるのが証拠だろ。結構な傷だったらしいからな。毎日通ってヒールをかけてたみたいだぞ? 全然治らないからって、お前と旧知の仲ってことで俺にまで相談に来た。頑張りすぎだから休めって言っても聞かなくてな。1日の終わりにお前んとこ行ってるみたいだから今日も来るんじゃないか?」


 確かに違和感はあった。直ってないにしても悪化もしてない。正しい処置をしないと悪化しそうだと覚悟はしていたがその兆候がないのだ。慣れないヒールなら効果は薄いかもしれない。ただ、それでも悪化を防ぐくらいは出来る。ヴァラロスは連日慣れないヒールでディアを治療していたようだ。

 そして、自分の生命力を削ってまで毎日看病に来てくれた事を聞き、ディアは手を胸に当てる。


(ヴァルが……ありがとう)


 今夜お礼を言おうと決めたディアは、とりあえず受け取ったお金を口座に入れるべく、またギルドへ戻る事にした。

 正直、オーディーンと話す事は山のようにあるが、数日前に聞いた話しからあまり変わりはないだろうと判断し、また後日話す事に決めた。



     ◇ ◇ ◇



 ギルドへ戻りお金を口座に入れたディア。ギルドを出ると辺りは暗くなっていた。


(なんで…………)


 遅くなってしまったのはギルド内に拘束されていた為である。ことの発端はディアが運び込んだ金貨である。手元に金貨100枚を残し、金貨1500枚を作った口座に入れようとした時に事件は起きた。

 どうやら事情を知らないギルド職員が怪しいお金と勘違いしてディアを別室に呼び出しお金の出所を調べ始めたのだ。

 焦ったディアはドミニクを呼んでくれと言ったがドミニクは出掛けていると言われ話を聞いてもらえない。道具屋の依頼を受けてその報酬だと言っても、まだ報告書20枚の処理が保留になっており信用されず、逆に、保留になっていることから報告書偽造が疑われ、より顕著に取り調べが行われたのだった。


 ディアは、小一時間ほど耐えたところで堪忍袋がキレ始めた。そんな時、騒ぎを聞きつけてドミニクが部屋に入ってきたことで事態は収集する。

 勘違いした職員を後でキツく叱っておくということなので、ロッカーの利用権を貰うことで勘弁してあげた。


(でも、まぁロッカー使えるようになったのは大きいかも。依頼に行く時にぱっと持っていきたい物入れられるし。…………あれ、アタシ荷物なくない? さっき持ってたカバンくらい……? 武器とか無いし)


 他の冒険者が使っているのを見て欲しくなったが、実は要らないことに気づく。うーん、と悩むディア。やはり入れる物が思いつかない。あっても困る物では無いので、考えるのをやめて、とりあえず貰うことにした。


     ◇ ◇ ◇



 そのまま外で夕食を食べて宿に帰ったディア。部屋に戻るとヴァラロスが待っていた。


「あ、ヴァル。待ってたの」

「よう。目が覚めたって聞いて飛んできたのになかなか部屋に戻ってこないから心配してた。……元気そうで良かった」

「それは……ごめん。ううん。ありがとう、かな。オー……道具屋の店主から聞いた。アタシが寝ている間に毎日ヒールかけにきてくれたんだって? アタシがドジっただけだからいいのに……でも、ありがとね」

「元はと言えば、俺が無茶なお願いしたからいけないんだ。悪かった」


 素直にお礼を言うディア。しかし、ヴァラロスはじぶんが原因だからと謝る。頭を下げるヴァラロスを見て頬を膨らませるディア。その顔のままヴァラロスの頭を指で突いた。


「いて、え、なんで怒ってるんだ……?」

「謝ってばかりなんだもん。そう言う時はありがとうって言えばいいんだよ。……アタシもCランクに上がったから一緒だね」

「あれ? Bじゃなかったのか?」


 ドミニクが啖呵切った時に居合わせた冒険者が噂を広めたようで、ディアが勝ったらBランクになれるという話がヴァラロスにも届いていたようだ。


「いや、いきなりBランクなれるわけないでしょ? 勝ってCランクに上げてもらったの」


 ちょっと嘘をついた。条件をつけてBからCに変更したなんて言えない。必死にランク昇級を目指している人間にとってそれは舐められているように感じるかもしれない。それに、Bランクの実力があるのにCランクに無駄に留まっているようにも見えて対外的にも感じが悪いだろう。

 ディアがBランク昇格を辞退した事はドミニクと一部のギルド職員しか知らない。ヴァラロスに言う必要などないのだ。

 ディアが軽いウソをいうとヴァラロスはすっかり騙されていた。


「まぁ、そりゃそうか。1週間くらいで追いつかれるとは。ちょっと自信無くすわー」


 ……危なかった。本当はBランクになれました!なんて絶対に言えない。ディアは、いまの関係を心地よく感じており、壊したくなかった。


「いえいえ、まだまだ半人前なのでご指導承りたく存じます」

「なんだそれ」


 ディアがちょこんとワンピースの裾を摘みお辞儀をする。それを見たヴァラロスは思わず笑ってしまった。


「そうだ! ヴァル聞いてよ! 今日魔道具が売れたからお金を預けに行ったんだけど…………」


 そこから他愛もない話が続いた。話しても仕方のない、意味なんてない。ただ聞いてもらいたいだけ。なのに、ヴァラロスが聞いてくれている。相槌を打ってくれる。それだけの事がただただ嬉しかった。


 しかし、路銀が集まったという事実。それの意味するところを、この時のヴァラロスは考えてもみなかった。

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