17.昇級試験
試験が始まった途端、ドミニクが剣を片手に突っ込んでくる。ディアはドミニクの動きを観察し、まずは簡単な一手を講じる。
「アースウォール」
ディアによって、地面から土の壁が生み出される。絶妙な位置に作り出された為、ドミニクは避けることが出来ない。
「こんなもの!」
するとドミニクはそのまま壁に突っ込んだ。
ドゴォッ!
「嘘でしょ!?」
「こんなもの壁のうち入らんわ!」
ドミニクはタックルで作られた土の壁を破壊する。ディアとしては村を守っていた壁と同格の壁を生み出したつもりであったが、それをいとも簡単に突破してきたのだ。
(イノシシの魔物の突進でも5回は防げたよ!? たった1発で突破するなんてどういうことよ!? あれ、本当に人間なの? くっ……それなら次は……)
「ファイアウォール」
次にドミニクの前に炎の壁が生み出された。その火力は凄まじく、突っ込むのは自殺行為のように見える。
今回は危険な為ドミニクが止まれるように少し距離をとって発動させた。しかし、ドミニクを見ると止まる気配がない。
「ははははは! 無駄無駄ぁ!」
そのまま一気に炎の中へ飛び込むドミニク。炎を突破したその身体にはひとつの火傷も見られなかった。
「なんでよ!? 普通突っ込まないでしょ!?」
「手加減してんじゃねぇぞ? そんならこのまま首とりに行くぞ!」
そう言ってドミニクは持っていた剣を振り上げる。その距離はもうディアに届く距離であった。
「くっ、ライト! アースウォール! ウォーターボール!」
ディアが早口に魔法を唱える。まずは閃光で辺りを見えなくする。次に、足元から地面がせり上がり、ディアを持ち上げた。その足元には人をひとり飲み込めるほどの水球が生まれている。
地面がせり上がったその勢いでディアは宙を舞いドミニクを飛び越え、飛び越えざまに次の魔法を唱えた。
「フリーズ!」
着地し距離を取るディア。目の前には水に突っ込んだドミニクが氷の膜で閉じ込められているのが見える。
「さあ、このままだと息がもたないよ! 大人しく負けを認めて」
「ごぼごぼごぼ……ごぼぼぼ!!」
何を言っているのかは分からないが諦めてはいないようだ。しかし、今のドミニクは狭くて自由に身動きが取れない状態である。そう簡単には抜け出せない。ディアはドミニクが危なくなる前に魔法を解除しようと考えていた。しかし、信じられないことが起きる。
ピシッ
「は、はぁああ!?」
ドミニクは腕の力で氷を外に押し割ろうと力を入れていた。その力で氷の膜にヒビが入る。そして、そのまま氷が砕けて水が地面にこぼれ落ちる。
(いやいやいやいや、これ逃げられるってなに!? 怖いんだけど!!)
ディアが軽く恐怖しているとドミニクが体勢を整えて再度対峙する。その姿は獰猛な獣のような威圧感があり、誰にも負けないという強い意志を感じた。
「どうした! こんなもんか?……動かないんならもう一度行くぞ!」
そう叫ぶとまた走り出すドミニク。これはまずいと本能で悟ったディアは後ろに下がりながら魔法を唱える。
「くっ、アースウォール! ファイアウォール! アイスウォール!」
ありとあらゆる壁を作り出すがドミニクには通用しない。何回やっても破壊され、突破される。
(ちょっと待った! これは想定外! こんな人間いるの!?……流石に手加減している場合じゃない!)
ディアは覚悟を決めた。いままでドミニクを傷つけないように気を付けていたが、もはやそんな余裕はない。少し危険だがディアも少し力を出すことにした。
「ウィンドカッター! アイスニードル! ファイアボール!」
「はっ! やっとやる気になったか! 手加減していい相手じゃないぜ!」
ディアの魔法がドミニクを襲う。しかし、ドミニクは手に持った剣で風の刃を、氷の針を、火球をことごとく受け流し勢いを殺さずに突き進む。
(ほんとなんなのあの化け物!!?)
このままではすぐに距離を詰められる。ディアは恐怖で涙ぐみながらも目的の場所まで下がったのを確認して足元のものを拾う。
「なっ!? おまえ! それ俺のだろ!?」
「こんなとこに置いとくのが悪いんでしょ!!」
ディアは床に落ちていた斧を軽々と持ち上げ、すぐ目の前に迫ったドミニクが振りかざした剣を弾いた。
キンッ!
「くっ……ぅ」
「いや、それ振れるのかよ!?」
ドミニクの剣を弾いた衝撃でディアの手に強烈な振動が伝わる。こんな衝撃2撃と耐えられないだろう。一方、ドミニクはディアが斧を振り剣を弾いたことに衝撃を受けていた。
(まずい、このままだと手がもたない! あいつの剣撃重すぎでしょ!?……どうする? 他に手は……)
ディアが考えているともう一つ落ちていたものが目に入った。
「ッ!?」
そちらに気を取られた瞬間に悪寒が走った。咄嗟に床を転がり、落ちていたものを拾いながら回避する。するとディアが先ほどまでいた場所には短剣が刺さっていた。
「くそっ! これも避けるか!?」
「なんでその体勢で短剣投げれんの!?」
ウェポンマスター。その名は伊達ではなく、ありとあらゆる武器を使いこなす。時には暗器を使うことだってあるのだ。
ディアは短剣を回避する為に斧を手放してしまう。その為、手に持っているものは回避途中で拾った弓だけであった。
「弓だけでどうするってんだ! お得意の魔法をもっと見せてみやがれってんだ!」
(くっ……、それなら……! これはどう!?)
「アイスアロー! ファイアアロー!」
咄嗟に手元の弓を引き魔法で矢を生成する。そして、魔法で作った矢を本物の矢と同じようにドミニクに放った。
「なんだと!!?」
近距離でのふいをついた射撃。これには流石のドミニクも肝を冷やした。しかし、そんなものが今更通用するわけもなく無惨にも剣ではたき落とされてしまった。
「……かぁ! 弓だけでそこまで戦えるとは恐れ入った。魔法使いとの戦いなんて中々ないからな! やるじゃねぇか!」
そう言いながら無慈悲に剣を振り下ろすドミニク。ディアは再度床を転がり回避する。そのまま距離をとりつつ逃げていると、いつの間にか逃げる一方となってしまった。
◇ ◇ ◇
「ははははは。いつまで逃げる気だ?」
「うるさい!」
一度防戦になってからはしばらく逃げの状態が続いていた。途中、ドミニクはディアが落とした斧を拾い、両手に剣と斧を持った状態で両手を振り回しながら襲ってきたのだ。弓で反撃をするも有効打にはならず回避で手一杯な状況となっていた。
(まずいまずいまずい! なんなのこの化け物!? まだドラゴンの方が可愛いわ!!……こうなりゃ仕方がない!)
ディアは逃げる足を止めてドミニクへと向かい直った。
「トルネード! アイスレイン!」
「うおっ!?」
ドミニクを中心に竜巻を発生させ、そこへ氷の雨を降らせた。無数の氷の粒は竜巻に巻き込まれてドミニクの身体を襲う。ふいをついたその間にディアはドミニクから距離をとった。
「これで、どう!?」
思わずディアの声に熱がこもる。ここまで戦ったのは久しぶりだ。流石にこれで終わってくれと切に願う。しかし、願いも虚しく竜巻が消えたその場には斧を床に落とし、剣を杖代わりにしたドミニクが立っていた。
「くぅ……、やるじゃねぇか。正直ここまでやれるとは思ってなかったぜ。だが、まだこちらも負けてられん!」
ドミニクがそういうと足元に落としていた斧を再び拾い、右手に斧、左手に剣を持って再度こちらに迫ってくる。
(ど、どうするこれ!? 壁は効果ないし竜巻も決定打にならない! このままだとこっちにくる!!? やだやだ!? あの目怖いんだって!……目? そうかっ!)
ディアは突如閃き、起死回生の魔法を唱えた。
「ダークネス!」
「へっ! 今度は何をしようって……って、何も見えん!?」
「アースウォール!」
ドミニクの視界を暗黒球で包むことで奪い取ると、ディアの足元にまた土の壁を生み出し、その持ち上げる力でディアの身体を宙へ投げる。そして真上から魔法を一斉射撃した。
「アイスニードル! ファイアランス! ウィンドカッター!」
ドミニクのいる暗黒球の中へありったけの魔法をぶち込む。外からも中が見えない為、中の様子はわからない。ただ、流石に周りが見えない状態で、しかも頭上から集中砲火を浴びればただでは済まないだろう。
「よしっ!」
ディアは着地するとすぐに距離を取る。まだ終わっていないかもしれない。そんな考えが浮かんだ。
だが、ディアの攻撃が止んでからしばらくしてもドミニクが出てくる気配がない。まるで生き物などいないように思えるほどであった。
「………………えっ? ヤっちゃった……? ち、ちょっと待った! 無事だよね!? あれくらい大丈夫でしょ!!?」
流石にやりすぎたか?やりすぎてヤっちゃったか?そう思い焦り出すディア。あわあわしていると再び悪寒が走った。
「っ!? アースウォール!」
ディアが魔法を唱えた瞬間暗闇から斧が飛んできた。それは人間業とは思えないほど早く、到底避けられるとは思えない。だが、ディアが咄嗟に唱えた魔法のおかげでその軌道をズラすことができた。
「っ!!!? ぅっ……!?」
ただし、無傷とはいかない。右肩に飛んできた斧の刃が当たり傷を負ってしまった。傷は深かったが、幸い肩を上げれないほどではない。まだ戦える。そう考え、回復よりもドミニクを確認することを優先した。
ディアがダメージを負ったことで集中が切れ暗闇が晴れた。そこにはボロボロになったドミニクが立っていた。
「はぁ……はぁ……コイツでもダメか。おまえ何もんだよ……」
「それはこっちのセリフ。こんなに強い人がいるなんて知らなかった」
「けっ……そっちは切り傷1つじゃないか。こっちはボロボロよ」
「その切り傷1つが結構深いんだけど? ……もう終わりにしない? アタシの勝ちでしょこれ」
ディアが終わりを提案する。流石にこれ以上続けるとお互い危険だと判断した。正直先ほどの斧の投擲は肝が冷えた。下手したら死んでいたかもしれない。それほどまでに危険な戦いであった。さらにはのっぴきならない事情もある。
(ちょっとやりすぎた……生命力がだいぶ減ってる……このまま続けられたらこっちも危ないって)
魔法を使う際には生命力を魔力に変換する必要がある。ここ連日魔道具の作成に魔力を惜しみなく使っていた為、まだ生命力が回復しきっていないのだ。
ディアの提案にドミニクは笑みを浮かべるがそれは合意の笑みではない。どちらかというと獰猛な獣のような笑みである。
「ははは……はっはっはっは! 笑止! こんなたぎる戦いは久しぶりだ! 最後まで楽しませてもらうぞ!」
「この戦闘狂が!!?」
ドミニクは、もはや勝ち負けなど関係なくなっていた。それ程までに強者と戦えることに喜びを感じてしまったのだ。こうなってしまっては何を言っても無駄だ。相手を戦闘不能に追い込むまで戦いは続くだろう。
(勘弁してよ……! 仕方がない。一気に終わらせる……!)
ディアが決意すると右手を天高く掲げ魔力を集める。すると、ディアを中心とし、空に灰色の雲が渦巻き始めた。
「な、なんだこれは……空が急に暗くなりやがった……」
あまりの事態に恐怖を感じ始めたドミニク。だが、それでも戦いを止めるつもりはなさそうだ。
「……念のために聞くけど、やめる気は?」
「…………ないね!」
最終勧告はした。もう他に手立てはないだろう。
「そう……悪いけど、まだやるんなら寝ててもらうからね!」
ディアはそう言うと天に掲げていた手を勢いよくドミニクへ向けた。
「ライトニング!」
バーーーーーーーーーン!!!!
辺りが真っ白になったかと思うと、次にとてつもない轟音が響き渡る。黒い雲から稲妻がドミニクに放たれたのだ。黒雲が晴れ、煙が収まると、そこには先程の体勢のままドミニクが白目を剥いているのが見える。どうやら立ったまま意識がなくなっているようだ。
「判定!」
「えっ?」
「判定は!? はやく!」
「あ、えぇ……勝者、ディアさん!」
横で戦いを見守っていた受付に勝利宣言をしてもらい、急いでドミニクのところへ駆け寄り床に寝かせる。それを見てヴァラロスも動いた。
「ったく……。生きてるかなこれ?……一応、生きてるね。ゴキブリ並みにしぶとい……」
「ディア!」
「あーヴァル? ヒール使える? ちょっとこれ危ないかもだから」
「使えなくはないが……そんな得意じゃない」
「だよね……。仕方ないかー」
ディアはやれやれといった具合で何か諦めた仕草をした。
「ヴァル、悪いけど、アタシの泊まってる宿、あと3泊くらい追加で支払っといて」
「は? えっ?」
「頼んだよ……! ヒール!!」
ディアを中心に辺りが緑色の光に包まれる。見ると瀕死のように見えたドミニクの身体の傷が癒えているのがわかる。やがて光が収まると、ドミニクの傷は無くなり、呼吸も落ち着いているように見えた。
「すごい……こんなすごいヒールは初めてみた。ディアは回復魔法も……ってディア!? おい!? おい!!」
魔法を使い終えたディアはそのまま意識を失い倒れそうになる。それをヴァラロスが受け止めた。
「っ!!?」
完全に意識を失ったディア。そして、彼女を支えるヴァラロス。なにやら一瞬違和感を覚えた。なにか、見えてはいけないものが見えたような……。しかし、気のせいだろうか。特に変なところは見られなかった。
気のせいと結論付け、すぐ側に横たわるドミニクにも目をやる。
「どうすりゃいいんだこれ……」
タイマンの両者が行動不能という状況にヴァラロスは途方に暮れるのであった。
面白いと思ったら評価・ブックマークをお願いします!




