16.失言、そして甘味
ディアは宿に戻るや否や、朝食券を使わせてもらえるように必死に頼み込んだ。その結果、お昼ご飯を朝食券で食べさせてもらえることになったのだが、実は、必死にならなくても問題なかった。もともと、規定の時間内に食事券を受け取ってから調理を開始する方法であった為、店的には朝だろうが昼だろうが関係ない。便宜上分けているだけである。その為、受け付けられる時間であれば、言ってもらえればどの券でも普通に対応してもらえる。ちなみに、今日の昼食はシチューとパンであった。
◇ ◇ ◇
昼食を終えたディアは、今度こそギルドへと足を運ぶ。……オーディーンに書いてもらった依頼達成書20枚を持って。
今までギルドで依頼が完結していた為、ディアは説明を覚えていなかったが、依頼達成書と呼ばれるものがある。依頼者が依頼の達成を認めたことの証明だ。それをギルドに持っていくことで、正式に依頼達成を認めてもらえるのだ。
ギルドに到着したディアは、その足で受付へ向かった。すると、今日は受付にドミニクが立っていた。
「おぅ、おまえさんか。なかなかかわいい服着てるじゃねぇか。やっと田舎者から卒業だな。んで、今日は依頼を受けに来たのか? 実力はあるんだからさっさとCランクになって欲しいところ…………いや、なんだその紙束は?」
ディアは受付の机に紙束をドサっと置く。それを見て不思議がるドミニクにディアが補足する。
「依頼達成。これならCランクなれる?」
「あー……ちょっと見せてみろ」
ドミニクがディアから依頼達成書を受け取ると一枚目に目を通す。最初はしっかり読み感心したそぶりでディアを見る。しかし、2枚目から様子がおかしくなった。……内容が全く同じなのだ。次々と紙をめくり、そして途中から読むことをやめた。
「…………なぁ、これ何したんだ?」
「アタシが作った魔道具を20個ほど道具屋に置いてもらった」
「そうか……いや、正直魔道具を作ることもできるのかと感心してたところだったんだが、なんで依頼達成書が20枚あるんだ?」
「依頼を20回こなしたからに決まってる」
「…………」
「これで依頼達成数が20以上。文句なしでCランクに昇格……」
「するわけないだろ」
「!!?」
ドミニクがそう言うとディアは驚きの顔を浮かべる。心底信じられないといった表情であった。
「いや、そんな想定外みたいな顔されても。だって、これどう考えても一回の依頼だろう」
「違う。20回の依頼。魔道具を1つずつ20回納品した」
「そこがおかしいんだって」
ドミニクは頭を悩ませる。確かにこの依頼には制限が書かれていなかった。だからディアの言っていることも正しいのだ。だからこそ、このような抜け道が出来てしまう。これはギルドの意図したものではない為、到底受け入れられない。
(後で、道具屋の主人に釘を刺しておかないと……あと依頼書も書き直しが必要だな)
「依頼書の条件も直しておかないとな……。こんなのやったらガラクタを何個も置いて簡単に昇格出来ちまう」
「でも、それはギルドの不手際。今回は認められるべき」
「いや、前例を作るわけにはいかないんだよ」
「常に新しい事には前例などない」
「いや、もっともらしい事言っても、これ抜け道みたいなもんだから」
「抜け道があるなら利用するのが定石」
「いや、なんの定石だよ! 不正なの! それ正当な方法じゃないから!」
「何故だ。力は既に示した。他に何が必要というのだ」
「……依頼達成数かな」
「ならば今回ので……」
「まてまてまて、このままじゃ埒があかん。ダメなものはダメだ」
「さっき、さっさとCランクに上がって欲しいって言った。なら、上げて」
「言ったが、不正して上がれとは言っていない」
ドミニクが譲らず20件の依頼の達成を認めてくれない。それを感じ取ってディアは少々怒り気味で食い下がる。
「話にならん。ギルドマスターを出せ。直談判だ」
「あいにくうちのギルマスは王都に行ってて不在だ。一ヶ月は帰って来んぞ」
ドミニクでは話にならないとギルマスを呼ぶがこちらも空振り。ディアのストレスがピークに達し思わず悪態が出てしまう。
「くっ……こんな弱っちい小僧に足止めされるなど……」
「……あ? なんて言った?」
「あ」
しまった。そう思ったのも束の間今度はドミニクがキレた。
「誰が弱っちい小僧だって? ……いいだろう。そこまでいうんなら俺とタイマンして勝ってみろ!」
「……えっと、魔法使うけど?」
「上等だこの野郎! 勝てたらCでもBでもあげてやらぁ! その代わり、俺が勝ったら2度と口答えするんじゃねぇ!」
「……二言は?」
「あるわけねぇだろ! 明日だ! 明日の午後訓練場が空いてる。そこでやるぞ!」
突然決まった実質の昇格試験。ディアにとってはありがたかったがまさかの対戦になるとは思わなかった。そして、その騒動は周りにいた冒険者や職員を巻き込む。
「ちょ、ちょっと! サブマス! 何してるんですか!?」
「うるさい! 明日の午後にコイツと昇級試験だ。俺を小僧だの弱っちいだのバカにしやがって……」
「サブマス! ……あぁ、もうダメだ。言っても聞かないやつだこれ」
こうして突如ディアの昇格試験が決まったのだった。
◇ ◇ ◇
ディアが帰りに歩いているとドミニクのことを思い出しなんだがイライラしてきた。
(あんなの、ギルド側の不備でしょ。今回くらい認めてよね……。あぁ! ダメだ。イライラして頭が回らない。……何か甘いもの食べよ)
そんなことを思ったディアは辺りを見渡す。すると近くにクレープ屋を見つけた。
「あれは……。ヴァルが差し入れで持ってきてくれたクレープ屋」
例の事件の時に食べたクレープ。余計な記憶も呼び起こされてしまったが、頭をブンブンと振って余計な記憶をとばす。あの時食べたクレープはとても美味しく、また食べたいと思っていたのだ。
ちょうど、甘いものが食べたい気分であった為、クレープ屋に入ることにした。
「いらっしゃいませー!」
店に入ると、元気な店員が声をかけてくる。店の中を見ると、おやつ時なのか女性客が多い。カウンターのメニューを見ると生クリームとイチゴのようなメジャーなものからコーンマヨのような食事の代わりになるようなものまで書かれている。今のディアの気分は、とにかく甘いものが食べたいといった気分であった為、自分の本能に任せて注文することにした。
「ご注文は何にしますか?」
「イチゴカスタードと、イチゴ生クリーム、チョコと生クリームのと……あ、チョコバナナ。……それと、このプリンアラモードってやつも追加で」
怒涛の注文で店員の笑顔が引き攣る。華奢な女性が一人で来たものだから、こんなに頼まれるとは思わなかったのだ。
「えっと……、合計5点ですね。ここで食べていかれますか? それとも……お持ち帰りですか?」
「全部ここで食べる」
「」
まさかの回答に店員が驚き、声が出なくなってしまった。軽いフードファイト状態である。この店は、注文も調理もひとりで店を回している。その為、ディアの注文は店員にとってとても大変なものであった。同時に5つものクレープを、しかも全部バラバラの商品を作らなければならない。しかし、注文を受けた以上作らなければならない。店員は覚悟を決めてクレープを焼き始めるのであった。
◇ ◇ ◇
「お待たせしました……。お会計がプリンアラモードで銅貨8枚、その他がそれぞれ銅貨6枚なので、合計銀貨3枚と銅貨2枚です……」
「ありがとう」
店員にお礼を言うディア。店員を見るととても疲れていそうであった。それもその筈、面倒くさいことに、ディアの注文は全て甘いクレープであった為、それぞれの生地を冷やす必要がある。冷ますのに時間がかかったと思えば、次に、そこへそれぞれ違う具材を入れて巻くのだ。急いでいても気をつけなければ生地が破れてしまう。慎重に、かつ素早く手を動かしていたのは流石であろう。
ディアは代金を支払い、商品を受け取った。その足で店の外にある席を確保して腰掛けた。
(ちょっと頼みすぎたかな……)
突如冷静になり、少し後悔するディア。しかし頼んでしまったものは仕方がない。ひとまずイチゴ生クリームのクレープを頬張る。
(っ!? あ、甘い! いちごがすごく甘い! 生クリームは逆に控えめな甘さでイチゴを引き立ててる……! クレープの生地もモチモチしてて歯ごたえがある……! やっぱり、ここのクレープ美味しい!)
ディアは感動していた。普段、魔族領では甘味などたまにしかお目にかかれない。……普段の姿が威厳のある姿で皆に認識させているせいで、接待も魔族領内の美味しい料理がメインで、甘味など出されたことがない。だからこそ、ディアにとっては、今この瞬間が一番幸せに感じていた。
「……何やってんだ?」
近づいてきたヴァラロスのことに気づかないほど幸せを感じていた。もっといえば、羞恥していたことすらも忘れるほどに幸せであった。
「ヴァルじゃない。どうしたの?」
「どうしたの? じゃないわ。サブマスと決闘するって聞いたぞ?」
「昇級試験よ。昇級試験。試験でちょっと戦うだけだって」
「普通は試験でサブマスと戦ったりしないからな?」
呆れ顔のヴァラロスはディアの言葉にツッコミを入れる。だが、すぐに思い詰めたような顔になり謝り出した。
「……ごめん。俺のせいだよな。俺が無理にCランクになろうなんて言うから。今からなら俺も一緒に謝るから。少しずつ依頼をこなしていこう」
ヴァラロスは責任を感じ、ディアに無理に戦わなくていいと言う。しかし、ディアはそれを否定する。
「ヴァルは関係ないよ。上手くいけばCランクになれるかもだし、折角チャンスが出来たんだからやってみたい」
思っていたよりも前向きな反応にヴァラロスは気持ちが楽になった気がした。ドミニクとかなりの口喧嘩になったと聞いた為、てっきり怒っているものかと思ったのだ。
ディアがやる気なら止める理由はない。恐らく、ディアなら大丈夫だろう。そう思ったヴァラロスは少しでも助けになればと、助言をすることにした。
「サブマスのことなんだけど……」
◇ ◇ ◇
翌日、準備を終えたディアが訓練場に現れる。そこにはドミニクと受付の女の人が立っていた。ドミニクは剣、斧、弓を担いでいた。斧と弓を地面に置くと剣のみを持って待ち構える。
それは、ヴァラロスに聞いていた通りだった。ドミニクはウェポンマスターの異名を持つらしく、状況に応じて使う武器を変えるのだとか。普段は途中で武器を変えるなんてことはしないようだが、今回は本気なのだろう。これでは武器を捨てての投擲も考えられる。その可能性が高まることでとても戦いにくい相手である。
周りを見ると観客だろうか。興味を持って見に来た冒険者の姿がある。その中にヴァラロスもいた。
「逃げ出さずによく来たな。……ボコボコにしてやる!」
「違うでしょ! 昇格試験ですからね! お互い危険な行為はやめて下さい!」
「……アタシは問題ない。殺す気で来ないと負けるよ?」
「ほぅ……、舐められたものだな。お望み通りやってやるよ! 今から試験開始だ!」
ドミニクの宣言により決戦の火蓋が切られるのであった。
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