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14.ものづくり、ときどき羞恥

 ディアは三日ほど宿に籠ることを伝え、ヴァラロスから材料となる魔法石を受け取る。


「じゃあサクッと作るからね。この依頼が終わったら……約束覚えてる?」


 ディアが含みを持たせながらヴァラロスに問いかける。ヴァラロスはそんなディアを見て笑いながら答えた。


「ランクアップのご飯だろ? 好きなもの奢ってやる」

「やったぁ!」


 ヴァラロスの言葉にディアが飛び跳ねて喜ぶ。今から何を食べようかと考えている。気が早いにも程がある。


「まずは道具を作らなきゃだろ? 頑張って」

「うん、ありがとう!」


 ヴァラロスの応援を受けて、俄然やる気になるディア。ヴァラロスに手を振って別れると、部屋の机に向かった。


 作るものは卓上ランプである。少し魔力を込めれば1週間程光を持続できる大きさの魔法石を使用する。土台や装飾などはオーディーンの店から拝借したものが使える。実は、ディアは魔王になる前は、趣味でアクセサリーを作っていた。周りから褒められる程度には出来は良く、手先が器用なのだ。魔王になってから久しく物作りはしておらず、少し不安はあったが杞憂であった。体がその感覚を覚えていたようだ。


(やっぱり、何かを作るって楽しいな)


 イメージした通りに黙々と組み立てるディア。全体的なバランスや装飾一つひとつの配置にも拘って着々と組み上げていく。すると、お昼を過ぎた頃にはひとつ目が完成するのだった。


「できたぁ!」


 つい言葉が出る。一つひとつ丁寧に作られたそれは、ディアにとって十分満足できるものとなっていた。


「ふぅ……。軽く食事にしたあとに続きやろっと」


 ディアは宿の食事処で軽食を済ませると、再び部屋に戻り集中して作業に取り掛かるのであった。

 その後、黙々と作業に集中できたお陰で、一日に四つも完成させることが出来た。


(やっぱり、何も考えずに黙々と手を動かすのって楽しいなぁ。でも、まだ四つか。明日はもっとたくさん作らなきゃね。慣れてきたから多分大丈夫!)


 そう自分に言い聞かせて一日目を終えた。明日に備えて保存のきく食事を用意して備える。本音を言えば、出来立ての温かいご飯が食べたいところではあるが、集中力を途絶えさせない為にも部屋から出ない方がいい。そう判断をし、明日は一日缶詰で製作すると心に決めたのであった。




 次の日、部屋で軽食を済ませると寝巻きのまま作業に取り掛かる。どうせ外に出ないのだ。何も問題はない。


「よぅし! やるぞー!」


 意気揚々と作業に取り掛かる。


 その日は調子が良かった。前日に勘を取り戻していたディアは流れるように土台を組み立てる。各工程をまとめて複数個分ずつ組み上げることで時間の短縮が見込めた。


(この調子なら昨日の倍は作れそう!)


 しかし、とても順調に思えたところで事件は起きる。






コンッコンッ


(ここはもっと違う色がいいかな)


コンッコンッコンッ


(こっちはこれ以上装飾付けちゃうと、うるさくなるから……)


 何者かの訪問に気付かないディア。完全に物作りに集中してしまい、周りが見えなくなっていたのだ。そして、訪問者はしびれを切らして行動を起こす。


「いるのか? 入るぞー」


ガチャッ


「ふぇっ!?」

「お疲れ様、差し入れを持って……」


 互いに固まる二人。扉が開いた音で初めて訪問者に気付いたディア。その格好は寝巻きのままであり、髪も崩れている。もっと言えば寝巻きも崩れており、その白い肩が見えていた。


「〜〜〜〜ッ!」

「わ、悪い!」


バタンッ


 あまりの恥ずかしさに目に涙を浮かべながら顔を真っ赤にして身体を隠すディア。ヴァラロスもパニックになり反射的に部屋から飛び退き扉を閉める。


「バカバカ! ヴァルのバカ!」

「ご、ごめんて……」


 ノックもしたし、声もかけた。にも関わらず、この結末である。腑に落ちないながらも謝ることしかできないヴァラロスであった。





     ◇ ◇ ◇




「むぅっ」

「悪かったって。ごめん」


 黒いワンピースは洗濯して干している為、ディアは簡易的に町娘風の服に着替え、髪を整えた後にヴァラロスを部屋に招き入れる。だが、ディアはだらしない姿を見られたことでまだ怒っており、ヴァラロスに背を向けて顔を膨らませていた。


(どうしたもんかな……)


 困ったヴァラロスはどうにか機嫌を直してもらおうと思い、持ってきた差し入れを披露することにした。


「えっと、差し入れを持ってきたんだが、食べるか?」


 ヴァラロスの言葉に、彼が持ってきたという差し入れをチラッと見るディア。ヴァラロスがそれを取り出すと、ディアは先ほどまで怒っていたのが嘘のように、ぱあっと目を輝かせ始めた。


「ノヴィシムで有名なクレープ屋のクレープだ」

「……いいの?」


 つい確認してしまうディア。ディアは、今回の出来事が自分が作業に集中し過ぎてしまったことが原因であったと分かっていた。分かってはいたが、見られた事実は変わらない為に怒っていたのだ。もちろんヴァラロスを困らせていたことも分かっていた。その為、本当に貰ってもいいのかと確認したのだ。ヴァラロスは「もちろん」とだけ言いクレープをディアに渡した。


 クレープを受け取ったディアはそのままクレープにかぶりつく。その上品な甘さにディアはだらしない顔になる。それが気にならない程にそのクレープは絶品であった。


 ヴァラロスはいつも通りに戻ったディアを見て安心する。ふと、目を机に移すと完成した卓上ランプがそこにあった。綺麗に装飾されており、色のバランスもよく考えられていた。


「これ、ディアが作ったのか? すごい出来じゃないか!」

「んぐっ……でしょ! 我ながらよく出来てると思う」


 クレープを頬張りながら話すディア。ヴァラロスが褒めてくれたことに素直に嬉しく思った。


「これって、光を消すことって出来るのか?」

「出来ないんだよね。出来ないから、その場合は布を被せるようにお願いしようかなって思ってる」


 ディアがそう言うとそこらにあった布を卓上ランプに被せる。すると、その光は弱くなり、淡く光るようにみえた。


「なるほど。なぁ、これってランプの形の布も作って付けたらどうだ? 夜寝る時は布を被せて淡い光に出来ることをアピールすれば、光を消せなくても問題ないって言えるし、形が合う布なら光漏れも抑えられて便利だと思うんだ」


 ヴァラロスが提案するとディアは「なるほど」といった具合に考える。確かに、専用のものを用意出来れば、その商品だけで完結できるのだ。今のままでは光が消せないという弱点が残る。それは、商品としての価値を落とすことになるだろう。しかし、正式にその弱点を克服するものを付属すれば、商品の価値はより適正なものになる。


「そこまで考えつかなかった……。でも、ヴァルの言う通り、専用の布があると使う方も嬉しいよね。ありがとう。作ってみる!」

「少しでも参考になったならよかった」


 ヴァラロスはディアの手助けが出来て嬉しかった。自分の我儘でたくさんの依頼、つまり魔道具の作成を受けることになったのだから、少しでも手助けがしたかったのだ。


 そうそう、とヴァラロスが受け取った昨日午後の依頼分の報酬を取り出す。やはり、まぼろし茸の依頼がとても高価であり、ディアは取り分の金貨5枚と銀貨6枚を受け取った。

 ディアは「こんなにたくさん!」と言って喜ぶ。ヴァラロスとしても今回の依頼は報酬がよく、満足のいく結果であった。




 あまり邪魔するわけにはいかないと、部屋を出ていこうとするヴァラロス。ディアは、そんなヴァラロスを見送る為に部屋の扉の外までヴァラロスを送る。ディアは手を振り、ヴァラロスが見えなくなったところで扉を閉め、そのままベッドに倒れ込み、顔を枕にうずめながら叫んだ。


「ああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 だらしない姿を見られたダメージは深刻であったようだ。

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