13.魔法石とワンピース
ディアは午前に受けた依頼の報酬を分ける際に半分にしようと、ヴァラロスに話しかけたところ、何故か銀貨20枚を渡された。
きょとんとするディアは分け前が多いことを指摘する。すると、ヴァラロスはウルフと戦った時の報酬と、保冷した事による買い取り額が上乗せされた分だと言い張り、それはディアの功績だと言って聞かないのだ。それならばと、今回はありがたく銀貨20枚を貰い、次は等分するようにとディアが念を押す。ディアとしてもパーティで依頼を受けたのだから、ヴァラロスと等分するのが筋と考えたのだ。ヴァラロスはそれを苦笑しながらも了承し、次の受け取り分からは等分することで決着がついた。
そんなやりとりを終えてヴァラロスと別れたディアは、そのままその足で目的の場所へと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
「あーけーろー! あーけーろー!」
ドンドンッ!ガチャガチャッ!
扉を叩きドアノブを回しながら、鍵のかかった扉を開けるようにと建物の主人へ訴える。借金取りのような様は傍目に見て恐ろしいものである。この迷惑行為を暫く続けていると建物の電気がつき、主人が現れた。
「もう閉店したんだが……」
「オーディーン、あんたに聞きたい事があるの。ちょっと上がらせてもらうよ」
「いや、だから今日はそっちも閉店の時間……あぁ分かったよ……」
オーディーンはディアを渋々迎え入れる事にした。ここは逆らってはいけない。直感がそう言っている。
「それで、聞きたい事ってなんだ?」
「これ、なんか魔法を吸い取るみたいなんだけど何か知ってる?」
そういうとディアがポケットから光る石を出す。別れる際にヴァラロスから預かったものだ。重いからと言ってヴァラロスが残りを持ってくれている。これが何か分かってからどうするかを考えようと思い、神であるオーディーンにこの白い石の正体を聞きに来たのだ。
そして、ディアの目論見は当たっており、オーディーンは石を見た途端「ほぅ」と反応を示す。どうやら何か知っているようでオーディーンは石について話し始めた。
「こいつは魔法石だな」
「魔法石……? 聞いた事無いけど」
「大昔は、魔法が十分に使えない者もこれを使うことで安定して魔法を使えるって話題になってたんだぜ? もうその技術は無くなったがな」
「それ、いつの時代よ……そして、一度文明が滅んでそうなことを言うんじゃ無い……」
腐っても神。そんな言葉がディアの頭に浮かぶ。ディアが知らない時点で千年以上その技術は失われていた事になる。それこそ一回人類が滅んでいた可能性が高い。そして、それを観測しているオーディーンはまごう事なき神であろう。
ディアが神という存在を再認識していると石を見ていたオーディーンが懐かしそうに説明を続ける。
「コイツは初めに吸い込んだ魔法を、石の魔力を使って半永久的に継続させる代物だ。石に蓄えられた魔力が続く限りその効果は続く。魔力が尽きて効果がなくなっても、魔法石に外から魔力を注げば魔力を石に充填できる」
「はぁ!? そんな便利なものがあるの!?」
「昔は重宝してたんだがな。この魔法石はライトの魔法か。これなら一回魔力を込めれば1ヶ月は光りっぱなしに出来るぞ」
「なにそれ……すごく便利。でも、魔法を消したい時は? 光を止めないと夜寝れないよ?」
「そこが難点だ。コイツは止めたり付けたりが出来ないから使う魔法も考えなきゃならん。ライト程度なら上から布を被せればいいが、ファイアボールなんてやったら魔力が尽きるまで石が燃え続ける。家に置こうものならすぐに火事になっちまう。……当時の文明も戦争で魔法石を使い、魔法が止められなくなって滅んだからな」
何それ怖い。あんまりな情報を聞いたディアは微妙な顔をする。要するに自滅という事だろう。それなら自分で制御できる分、自前で魔法を使った方が良さそうに見える。
「……ちなみに、発動中の石を砕いたらどうなる?」
「単純に2つに別れるだけだ。厄介なのが、石を割っても、割った片割れが近くにあれば魔力を共有することが出来る。これの応用で、同じ魔法の魔法石を1箇所にまとめればより巨大な魔法石と同等の効果が期待できる。…………そこが分かってなかったみたいでな、過去の戦争で何百もの同じ攻撃魔法の魔法石を集めて使ったら、敵も味方も一瞬で跡形もなくなったってわけだ。爆発の弾みで石が四方八方へ飛び散ったが、石が多すぎたんだな。超広範囲に魔法石がばら撒かれたもんだから、その一帯にも魔法が同じ威力で展開された。あとはお察しの通りだ」
「神なら止めようよ……」
「いや、こんなもんが生まれてるなんて予想外だったからな。気付いたら世界が滅んでた」
「…………いや、これ危なくない?」
「…………使い方によるな」
使うならライトの魔法に限った方が良さそう。そんな事を考えているとオーディーンが確認してくる。
「しかし、こんなもんどこで拾ったんだ? それこそ時代錯誤の遺物だぞ?」
「空山だけど……」
「……なるほど。そうか……そういうことか」
オーディーンがなにやら勝手に納得している。ディアはオーディーンが何を納得しているのか見当もつかないという顔をする。すると、それを見たオーディーンは謝りながら言葉を続けた。
「悪い、きっと星の生命力が溢れ出たことによる副産物だろう。前に滅びる前にも似たような現象があったんだ」
「え、ちょっと待ってよ。今この世界滅びない? 大丈夫?」
オーディーンの言葉を聞いて不安になるディア。役目を考えた時に滅びてしまうのは許容できないのだ。
ディアの心配を受けてオーディーンは頭をかきながら考えて答える。
「まぁ、使い方によるな」
「ちょっとおおおおおおおお!!?」
神からの言葉とは思えない回答に思わずディアが叫ぶ。まぁ待てと言わんばかりに手を振りオーディーンは言葉を続けた。
「よく考えてもみろ。なんでも強大な力は使い方を誤れば破滅を導くものだ。魔法石に限った話じゃない。大昔にたまたま魔法石でいち文明が滅びただけだ」
「その脅威が生まれてるところが問題なんでしょ!?」
「そればかりはどうしようもない。大元の方は俺の方で調べるから変に首を突っ込むんじゃないぞ?」
「言われなくても……目の前のことで手がいっぱいよ……」
ディアが疲れたと言わんばかりに目頭を押さえながら不満を言う。不満を言うその目の前にはライトの魔法を取り込んだ魔法石が光り輝いていた。
それを見ていたオーディーンはディアが路銀を稼ぐために依頼を受けていたことを思い出しある提案をする。
「せっかくライトの魔法石があるんなら、簡単な商品作ってうちに置いてみないか? 絶対に売れるぞ?」
「商品を置いてみないかって言われてもね……って、もしかしてあの依頼?」
「あぁ、見たか。あれはこの店の依頼だ。客引きの商品が欲しいんだ。その石なら割って3個くらいに分けても十分使えそうだしな。数も用意できそうだ」
完全に道具屋店主として振る舞い始めた神はそんなことを言う。呆れながら聞いていたディアだったが、ある妙案を思いつく。
「商品、卸してもいいけど、こっちの条件も飲んでもらうからね」
「……しまった。なんか余計な事に巻き込まれたか?」
オーディーンは多少の無茶を覚悟した。しかし、ディアから告げられた内容を聞くとそこまで無茶な話でも無い。それくらいならとオーディーンはディアの要求を了承するのだった。……多少問題はありそうだがルール上何も問題はない。その抜け道を使うだけである。
ディアはオーディーンから商品に使えそうな材料を貰うと、すぐさま宿へ帰るのであった。
宿へと戻り、そのまま数日間宿泊したいと宿主に話すと快く受け入れてもらえた。手持ちが金貨8枚と銀貨25枚となり、多少の余裕が生まれた為、とりあえず3泊と各3食のお金である銀貨18枚を払った。それでも今日の午前の稼ぎだけでプラスとなっていることから、今後に希望が持てた。
◇ ◇ ◇
翌日ヴァラロスに経緯を説明しにギルドへと向かう。その際、ディアは完全武装をしていた。
「あれ……ディア……?」
「ふふん。これ可愛いでしょ?」
経緯を説明しにギルドへきたはずが、新しい服をヴァラロスへお披露目する状況となっていた。前日の決意通りオシャレな黒のワンピースを着てヴァラロスの前に登場する。ワンピース姿で一周くるりと回るディア。フワリと広がった布から足がチラリと見える。それを見たヴァラロスは顔が赤くなった。
「そ、その服どうしたんだよ」
「あ、照れてる照れてる! 田舎者だからって馬鹿にするなよー。この服はね、この街に着いた時に買ったんだよ。可愛かったからついね。どう? ヴァルの感想はどうですか?」
ついついイタズラしたくなるディア。足元の布を摘みフリフリしながらいろんなポーズをとるディア。そんな急に可愛らしい言動までしてくるディアにヴァラロスは思わず本音が出た。
「ディア……おまえ可愛いな……」
「っ!? そ、そうかな……」
可愛いと言われると思わなかったディアは不意打ちをくらい赤面する。ヴァラロスのことだからまぁまぁだの、服は可愛いなだの言うと思っていたので、素直な感想は期待していなかったのだ。
そんな様子のディアを見てハッとしたヴァラロスは急いで言葉を続ける。
「あ、いや、あれだ! 馬子にも衣装って言うだろ。可愛い服だなと……まぁ、似合ってると思うぞ……?」
「むっ……どうせ可愛いのは服ですよー」
慌てて余計なことを言うヴァラロス。それを聞いたディアは少し怒ったような反応をするが、ヴァラロスの照れ隠しのための言葉であることを分かっていた。その為、プイッとそっぽを向きはしたものの、そのあとのディアの顔は綻んでいた。
しかし、ヴァラロスはあることに気付く。ディアの目的を考えるとその行動は矛盾していた。
「なぁ……ちなみにその服、いくらしたんだ?」
「えっ!?」
路銀を稼ぐ為にパーティを組んだヴァラロスはディアがお金に困っていると考えていた。昨日の格好はまさにお金に困っていそうな服装であったし、納得も出来た。だが、今のディアは流行の最先端をいこうと言わんばかりの服を着ている。服だけではない靴も変わっている。
ヴァラロスはディアが羽目を外してしまったであろう事を見事に見抜いていた。
指摘された当のディアはなんて回答するべきか困っていた。何を言っても浪費した事は間違いない。どうすればこの場を切り抜けられるかを考え、先ほどのやり取りからひとつだけ思い付いた。そして、それを臆する事なく実行に移す。
「ち、ちょっとだけ高かったけど……ヴァルに着てるところ見てもらいたいなー……って思って」
「なっ!?」
お、存外に効いてる。そう思ったディアであったが今度はヴァラロスが固まってしまった。
このままでは話が進まない。そう思ったディアは頭を切り替えて話を進めようとした。
「え、えっと! 服のことはもういいから! 今後のこと相談させて!……今後のことなんだけど、3日間だけ時間が欲しいの。残りの依頼16個を3日間で終わらせるから」
「お、おぅ……。えっ? い、いやいや、頼んでおいてなんだが、流石にそれは無理だろ。昨日のだって結構無理したと思うぞ? しかも、一人でやる気か?」
ヴァラロスが正直な感想を述べる。朝から夜暗くなるまで依頼を受ける事はあるがひとつの依頼を受けている時にやむを得ない場合だけである。それでも体力的にキツイところがある。ヴァラロスは複数の依頼を同時に受けると考えて、夜通し依頼を受けるものかと思ったのだ。
ヴァラロスの懸念はもっともである。だが、ディアとしても昨日のような無茶はする気はない。
「違う違う。あの道具屋に光る石について聞いたんだけど、商品作ったら置かせてもらえるって話になったんだ」
「商品を置く……? それってまさか」
「そう。あのよくわからない依頼。あれを商品ひとつにつき、依頼をひとつ達成した事にしてもらえるように話をつけてきた。だから商品を16個作ればいい」
自慢げに話すディアであったがヴァラロスは苦笑いをする。話をつけてきたと聞いて先日の修羅場を思い出したからだ。だが、ヴァラロスも覚悟を決めていた為使えるものはなんでも使う。そう考えて納得する事にした。しかし、ひとつだけ懸念が残っている。
「でも、ディアは商品なんて作れるのか? 魔法が得意なのはよく分かるが……」
「アタシこれでも手先は器用なんだ。ちょちょいと作るから待っててよ」
「まぁ、そういうことなら」
こうして、新衣装のお披露目が終わりディアの魔道具作りが始まるのであった。
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