12.帰る場所
ヴァラロスが落ち着きを取り戻したところで、二人は下山する事にした。登る時に時間をかけてしまっていた為、遅くなり、山を下りている最中に辺りが暗くなってしまった。
「まずいな……もう辺りが暗くなって足元が見え辛くなってきた」
「うーん? これくらいなら大丈夫だけど……まぁ、そういうなら。ライト」
ディアが魔法を唱えると、手の平から光の玉が現れた。突然現れたそれは手の平を追いかけるように宙に浮かんでいる。これで歩きながら足元を照らす事ができる。
「はぁー。便利な魔法だな。これが出来れば洞窟での探索もだいぶマシになる」
「ヴァ……あなたも戦闘で使えるくらいには魔法使えるんでしょ? それならこれくらい出来るようになるよ。教えようか?」
「ヴァル」
「え……?」
「ヴァルでいい」
「でも……」
あんな話を聞いたばかりだ。ヴァルとつい呼びそうになってしまったが、それでも彼をそう呼ぶのは気が進まなかった。
しかし、ヴァラロスは先ほどとは違い笑いながら言葉を続ける。
「言っただろ? もうそう呼んでくれるのはディアだけなんだ。……だから、今まで通りにしてもらえると嬉しい」
「……わかった」
ヴァラロスの顔を見てディアは元の呼び名に戻す事を決めた。そう、お願いをしてくる彼のその顔にはもう、幼馴染の影は見えなくなっていたから。すると、突然ディアが光を強くする。
「うお!? ちょっと、眩しくて見えないんだが」
それは、今の顔を見られるのは恥ずかしいから、全てを光で包み込みたかったのだ。光の強さを元に戻したディアはヴァラロスへと向き直り元気よく宣言する。
「じゃあ! アタシがきっちり教えてあげるから! 覚悟してよね。ヴァル?」
「あぁ! 望むところだ!」
互いに笑い合う。もうそこには二人しかいなかった。
ディアは歩きながらヴァラロスに魔法を教えた。ライトの魔法の他に、ディアが得意とするアイス系の魔法についても基礎を教える。教えるといっても魔法を使う際のイメージを伝えるくらいしかやる事はない。結局のところ魔法で一番大切な事は術者の持つイメージである。そこがしっかりと定まっていれば魔法名を唱え、魔法を使う事ができる。
歩きながら魔法の練習をする2人。足元をライトの魔法で照らしながら下山していると、突如ディアの前にあった光の玉が消失した。正確には、地面に転がっている白い石に吸い込まれたようで、白い石が光を発している。
「うぉっ!?……なんだそれ? 急に光が消えたと思ったら地面の石が光ってるぞ?」
「…………これはアタシも初めて見る。魔力を吸い取る石……? いや、この感じは違う。魔力を吸い取るんじゃなくて、魔法の効果を石に込めて維持できる……?」
「つまり……どういう事だ?」
ディアが白い石を拾い上げ、その性質を分析しているとヴァラロスがよく分からないといった様子で訊ねてくる。その問いにディアはわかる範囲で答えた。
「えっと、簡単にいうと。この石が媒体となって魔法を発動できるみたい。普通は術者の魔力ないし、生命力を使って魔法を発動して維持するんだけど、この石にライトの魔法が吸い込まれてからはアタシとライトの魔法との接続パスが完全になくなってる。つまり、石に蓄えられた魔力を使う事で吸い込んだ魔法を維持してる。ってことかな?詳しくは分からないから持ち帰って調べてみないとだけど」
ディアはそう言うと、その白い石に魔力を込めてみる。すると、光が強くなるではないか。どうやら、本当に石に蓄えられた魔力だけで魔法が行使できているようである。
(ん? もしかして、これってあいつが言ってた星の生命力の漏洩と関係があるんじゃ……)
ディアは突然閃き、なんとしてもサンプルを持ち帰ろうと考えた。
「ねぇ、これと同じ石ここらに落ちてないかな」
「そこらにありそうだけどな……ライト。あ、ほら」
ヴァラロスがライトの魔法を使った瞬間に近くにあった石に光の玉が吸い込まれた。
「おぉ、そこら辺にあるのな。これは拾うとして、ほかのそれっぽい石も拾っておくか」
「そうだね。出来るだけ拾っておきたい。そして、帰ったら道具屋行ってくる。あいつなら何か知ってるかもだし」
「分かった。けど、あまり遅くなるなよ? 明日もあるんだし」
「分かってるって。じゃあ、持てるだけ持っていこう」
ディアとヴァラロスは持てる限りの石を拾って下山するのだった。
◇ ◇ ◇
下山を終えると辺りはすっかり暗くなってしまっていた。待たせていた馬がどうなっているか心配したが大人しく待っていてくれたようだ。……何故か、かけておいた縄が外れていたがその場に居たのだから問題はないだろう。
ヴァラロスは急いで馬車に荷物を置き、馬に引かせるように用意する。そのまま馬に跨り後ろを振り向くと、ヴァラロスが準備している間にディアも荷台へ乗り込んでいた。
ディアが魔法で光の玉を馬の前方へ生み出すと、馬は少し驚いた様子を見せたがすぐに落ち着きを取り戻しヴァラロスの指示に従って歩き始めた。ウルフの時も感じていた事だが、案外この馬は大物なのかも知れない。
移動している間にディアは採集した山菜やきのこを仕分ける。帰る途中で見つけた薬草も、都度馬を止めている間にディアが摘み、依頼を達成出来るほどの量を揃える事ができた。
そして、そのまま街へ戻ると門番が通してくれた。出ていった記録があるのか特に止められる素振りはなかった。
「あんた達! 大丈夫だったか?」
馬車貸しに馬車を返すと怪我はないかと心配してくれた。どうやら、ワイバーンの群れが空山へ飛んで行ったのを誰かが目撃し、ギルドへ通報してした為、空山へ向かっていたディアとヴァラロスを救助に行くかという話があったらしい。馬車を貸しだした主人が事情を話したようで、そんな彼に心配してくれたことへのお礼を言い、まずはギルドへと足を運ぶことにした。
◇ ◇ ◇
ギルドに着くと建物内から慌ただしい声が聞こえてくる。なにやら急いで準備しているようであった。恐らくヴァラロス達を捜索する手筈を整えているのだろう。そう考えたヴァラロスとディアは急いでギルドの建物へ入った。
カラン
扉の開く音がし、ギルド内の全員が扉の方を向く。注目の的となった二人はあまりにも一度にこちらをみるものだから少し驚いてしまった。
「ヴァラロスさん!」
「お前ら! 無事だったか!」
ヴァラロスをやたら気にかける受付嬢とドミニクが声を上げる。よほど心配だったのか入り口まで走ってきた。
「心配したぞ。空山にワイバーンの群れが飛んで行ったって報告があったが、遭わなかったか?」
「空山の中腹あたりの岩場で遭遇しました」
「岩陰に隠れてやり過ごした。10匹はいたと思う」
「っ!?……無事で何よりだ」
ヴァラロスとディアが簡潔に答える。それだけで状況把握するには十分だった。一度見つかれば容赦なく襲いかかってくるだろう。そんなにも居たのであればよほど上手く隠れない限り見つかってしまうと考えられた。ましてや岩場である。隠れられる場所が限られる為、運が良かったとしか言えない状況であった。
「……こんな時間なのに、こんなに集まったの?」
「ん? 当然だろ?」
ディアの質問にドミニクが当たり前かのように答える。
「仲間がピンチの時に駆けつけないで何が冒険者だってことだ」
「仲間……ありがとう」
「おうよ!」
ディアは自分もその仲間に入っていることに驚いた。冒険者登録をしてたった二日にも関わらず、夜の時間に総出で探しに行こうとしてくれたのだ。ヒト族の互いを想いやる心に触れ、ディアは自然と柔らかな笑みを浮かべるのであった。
ヴァラロスとディアが無事帰ってきたことにより捜索は中止となり集まっていた人々が一気にいなくなる。集まるのも素早いが、解散も早い。冒険者ならではのスピード感である。
いつも通りに戻ったところでヴァラロスとディアは依頼達成の報告をした。背中に背負っていた籠を受付の机の上に置くヴァラロス。籠の中から袋を出す。実は、ディアがあらかじめ納品物を仕分けていたのだ。通常、納品の依頼を達成した際はそのまま納品するが、今回は複数の依頼をまとめて受けていた為、籠のままではごちゃごちゃになってしまう。ディアとヴァラロスはギルド側で仕分ける手間を考えてあらかじめ依頼毎に袋を分けることにしていた。
それらを受け取った受付がほっとした表情で話し始める。
「ありがとうございます。正直、こちらで仕分けるのは大変だったので助かります。分けてもらえれば一つひとつ普通の依頼として確認できますので。ただ、時間が遅くなってしまったので報酬は明日のお渡しでもよろしいでしょうか」
「もちろんだ。ただ、納品物の劣化には気を付けてくれ」
「袋の中冷やしておいたけどもう効果無くなってる。冷暗所で保管すると良い」
「分かりました。ギルドとしても出来るだけ気をつけるようにします。また明日お越しください」
受付にそう言われたので今日ギルドで出来ることはないだろう。そう考えたディアとヴァラロスはギルドを後にした。
「んーっ! 終わったぁ!」
ディアは外に出るなり身体を伸ばし、解放感に浸る。丸一日依頼をやっていたのだからそうなるのも仕方のないことである。それを横目で見ていたヴァラロスが少し呆れながら話す。
「お前、他の人と話す時って露骨に態度違うよな」
「ん? だって舐められたら終わりだし? 仕事のやりとりなら簡潔に話したほうがいいでしょ?…………ん? アタシ、なんでヴァルには普通に話せてるんだ?」
「さあな」
基本的にコミュニケーションに問題があるディアだが、自分でも気付かないうちにヴァラロスには普通に話せていることに気づいた。そっけなく返事をしたヴァラロスだったが、その顔は無意識に綻ぶのであった。
第二章完です。ここまでお読みいただきありがとうございます!
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