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1.運命のはじまりの、はじまり

※本作は、別連載作品『ジェミニ 〜魂の契約者達〜』の「魔王と勇者のえとせとら編(ep177-223)」を抽出し、一つの物語として完結するように大幅な加筆・再編集を行った作品です。

ジェミニの前日談に位置するのでこの作品から読んでも楽しめる内容にしています。

「あ、アタシ……実は……」

「なぁ、ディア」

「な、なに……?」

「……お前、魔族だろ」

「……………ぇ?」


 突きつけられた言葉はディアを狼狽させるのに十分だった。その為か、問いかける彼の瞳の奥にある感情を読み取ることは出来なかった。






     ◇ ◇ ◇






「そうだ。ヒト族の街を見に行こう」


 突然そんな呟きが、しんとした部屋の中から発せられる。

 そこは魔王の執務室であり、机の上に乗った書類の束を処理しているところであった。

 何故そのようなことを口走ったかと言うと、始まりは数分前に遡る。



 魔王はひとりで書類の山を処理していた。その書類は集められた意見書であり、半分程が魔物の被害絡みである。そのほとんどが早急に対策を打たなくてはならない事態であるものばかりだった。

 特に、魔王城の近くにあるアルティマの町は最近大きな被害を受けたばかりで、抜本的な改革を望む声が多数存在しているのだった。


(抜本的と言われても、こう何度も魔物に来られると町の復旧どころじゃないし、魔物をどうにかしようにもそっちに人を割いたら町の復旧が滞る。……現状、魔物の来るペースを上回るペースで侵入防止の壁を作ろうとして、職人が疲労で倒れて本末転倒……と。……これ、詰んでない?)


 魔王も思いつく限りのことを試してみたのだがどうやってもうまく行かなかったため手詰まりであった。


(そもそも、昔からこの方法でやってたのになんで急にこうも魔物被害が増えるの……こんなんじゃ全然追いつかない……。魔物に語りかけようにも知性のない奴らだからこっちの言う事なんて聞かないし、このままだとアルティマでさえも保って2ヶ月。何かしら手を打つとしても1ヶ月は準備に必要……なにか打ち手はないかな……ん?)


 そんな時ふと、突拍子もないことが頭に浮かんだ。何故そのような考えに至ったのかは分からない。ただ、自然に疑問が浮かんだのだ。


(そういえば、ヒト族はどうやって魔物の被害から町を守ってるんだろう……?魔物は全地域で増えてるようだし、あちら側も被害は出ていると思うんだけど……)


 魔王はそう考えていると何やら閃いた。


「そうだ。ヒト族の街を見に行こう」


 こうなったわけである。


(どうせ、ここに残ったとしてもやれる事はないし……ちょっと見てきても……いいよね?)


 事実、最初は各地域に魔王が自ら出向いて魔物の群れを殲滅して回っていたのだが、どうにも数が減らないのだ。魔王自身手が回らなくなってしまった為、配下の魔物に各地域の魔物を説得出来ないか聞いてはみたものの、暴れているのは知性のある魔物ではないので説得は意味を成さないとのこと。

 結局、部下を各地域に派遣して町や村を守る事にしたのだが、圧倒的に人手が足りていないのだ。この視察で何かヒントを得られないかと思い出掛けることに決める。……行き詰まった為、気分転換にどこか出掛けようと思っていたのは秘密である。


(そうと決まれば善は急げだ。見た目は……認識阻害の魔法で耳をどうにかすればいいか。いつもの威厳のある格好に見える様に認識阻害の魔法かけちゃうとどこ行くにもバレそうだし、そもそもヒト族の街に入った瞬間捕まる。それなら耳以外自然体でいた方が逆にバレない!)


 人がいる時は常時、認識阻害の魔法をかけて仮初の姿を見せている魔王にとって、部屋で素のまま過ごす時間が貴重である。逆に素の姿を知っているものはほとんどいない状態であった。

 だからこそ、出来るだけ自然体で出かける方が逆にバレないと思い、認識阻害の魔法は耳以外解く事にしたのだ。


(よし。じゃあ転移紋使って行きますか。場所は……ノヴィシム……でもいいけど、すぐ隣だから、万が一捜索隊が来たら見つかって連れ戻されそう……。どこかいいところないかな……)


 魔王がそう思いつつ地図を広げて確認する。魔王の城から最も近い町がアルティマであり、そこから空山の洞窟を越える事でヒト族の領地のノヴィシムへと続く。魔族は基本的に空山を越えようと思わない。空高くそびえ立つその山は、高すぎて越えることが困難なのだ。洞窟を通ってもいいが、魔物が巣食っている為危険である。だから、普段はヒト族の領地には足を踏み入れないのが普通であった。

 それでも地図があるのは、たまに洞窟を超えてやってくるヒト族と僅かながら交流があった為だろう。アルティマに住む魔族が耳を隠しつつ情報を交換し、地図を手に入れていたのだ。


(ノヴィシムの隣……うわ、また山越えるの?……でも、それなら追っ手は来なさそう。えーっと……)


 地図をなぞる指の先にはプロカルの文字が書かれている。


(ここなら良さそう。場所的に魔物も多そうだし、なにかヒント得られるかも。問題はどうやっていくかだけど……転移紋で空山のヒト族側まではいける。そこからいったんノヴィシムまで行って……山を越えなきゃいけないのよね……)


 魔王は頭を悩ませていた。プロカルにいくのはやぶさかではない。問題は山越えである。道がちゃんと整備されていれば、さほど問題ではないが、もし、森の中を彷徨うような状況になった場合に方向を見失う恐れがある。そうなった時にひとりで山を越えるのはリスクがあった。


(かといって部下を連れて行くわけにもいかないし……。そういえば、ヒト族に冒険者って居た気が……。アレになれば即席の仲間を作って山越えも出来るかも?……馬車での移動とか出来たらいいなぁ)


 楽をしたい。そんな考えが根底にある魔王である。


(よし!それなら早速この部屋の転移紋を使いましょう!)


 魔王はいそいそと町娘風の服へと着替えると部屋の隅にある転移紋へ魔力を込める。すると、魔王の姿はその場から消えるのであった。





コンッコンッ


『マオウサマ。チイキノマモノノカツドウニツイテオシラセシタイコトガ……』


………………


『……マオウサマ?』



     ◇ ◇ ◇



「ついた!……って暗っ!?」


 魔王は暗闇の中を記憶を頼りに手探りで辺りを把握する。


「たしかここら辺に……あった!」


 壁に取っ手が付いており開けることが出来た。そこはノヴィシム側の空山ふもと洞窟の出入口付近であった。普段は壁の中に部屋を隠しており、不用意に誰かが魔王城に転移しないように対策を講じてある。


「うーん……。当たり前だけど変わり映えはしないなぁ」


 洞窟を抜けた魔王は軽く伸びをして感想を述べる。山を一つ挟んだくらいでは魔族領とヒト族領とでその景色に変わりはしない。頭では分かっていたものの、密かに期待してた魔王にとって少し残念であった。


(まぁ、魔物の襲撃から村や町を守るための方法を探ろうとしているんだから周りがガラッと変わられても困るけど)


 魔王はそんなことを思いつつ、どこか物足らなそうにノヴィシムの街へと歩いて向かった。








 街に着いた魔王は辺りを見回し物珍しそうに街の壁を見ている。


(やっぱりぐるっと囲むように壁を作るのが正解だよね……これ、どれだけ時間かければ作れるのよ。端が見えないんだけど……)


 それもその筈、ノヴィシムの街は近辺の冒険者を束ねる大きい冒険者ギルドがある。その為、この地域の中核となっているのだ。冒険者ギルドがあれば当然冒険者がいる。つまり、よほどのことがない限りは働き手はいくらでも手に入る。昔から街の拡張を繰り返してきた結果、今のように大きな街へと発展したのだった。


(眺めてても仕方がない。まずは冒険者にならないと。……あれ、冒険者ってどうなればいいの?)


 魔王が街の入り口で立ち止まり肝心なことを失念していたことに気づく。冒険者になり、依頼を受ける。それは予備知識として持っていた。しかし、肝心のどうやって冒険者になるかについては知らなかったのだ。

 ……当然、ヒト族の慣習について知る由もなく次々と問題に直面することになる。


(まぁ、悩んでても仕方ない。まずは中に入りましょうか!……えーと、認識阻害の魔法っと……)


 魔王は念の為、再度認識阻害の魔法を強めに耳の部分にだけかけ、自分が魔族だと分からないようにした上で街の門へと歩き出した。そしてそのまま門をくぐろうと歩き進む。


「ち、ちょっとちょっと! そこの嬢ちゃん! 止まりなさい!」

「え!?」


 ……当然門番に止められる。魔族領では門番が止めるのは魔物くらいである。寿命が無いに等しい魔族はどの町の誰であっても基本的に知り合いの為、誰もがどの町であっても自由に行き来できるのだ。

 それは魔族領の特殊な治安事情に起因する。よほどのことがない限り死なない魔族にとって、人間関係のトラブルは死活問題である。一度関係が崩れたら向こう数百年とギスギスした関係になりかねない。一度そうなってしまった場合は別の町へ移住することも考えられるが、道中魔物に襲われて命を落とす危険もある為、出来るだけリスクを負う行為は避けるべきである。

 つまり、魔族間では基本的に争いは起きないのだ。争いが起きなければ当然警戒する必要がない。だからこそ魔王はまさか門で呼び止められるなんて夢にも思わないのだった。


 呼び止めた門番が魔王に詰め寄る。


「ちょっと困るよ。まずは身分証出してもらわないと」

「み、身分証……?」

「そう。身分証。……まさか身分証を発行してない田舎から来たのか……? 確かにちょっと服が汚れてるが……」


 洞窟の扉を開けた時にホコリを被っただけだよ。魔王は内心そう思い抗議をしたい気持ちが強かったが、今はそれどころではないと自分の気持ちをグッと堪えた。


「……道で落とした」


 見え透いた嘘である。だが身ひとつで来てしまった為どうにかして街に入る為には仕方のない嘘である。


「……じゃあ通行料は払えるか? 身分証がない場合に通行料の銀貨3枚を払えば街の中に入ることが出来る。ただし、街の中で身分証を再発行して提示することが条件だ」


(身分証って何!? 再発行もなにも存在しないよ!!?)


 お金自体はある程度持ってきている。通行料を支払うくらいなら問題ない。ただ、その条件が問題だった。門番は再発行した身分証の提示が条件と言った。もし、身分証の発行が管理されていた場合に、魔王の身分は証明されていない。バレた瞬間に街の中で詰む。ならば今取るべき選択は…………。


「……お金もない」

「…………うーん、どうしたもんかな」


 嘘をついてこの場から逃げることである。身分証の発行をしていない田舎という言葉も出てきたが、出生が管理されている可能性もある。その場合、生まれた町の名前を言えば管理簿と突き合わせてすぐにわかるだろう。

 万が一バレて四面楚歌の状態にでもなってしまうと目も当てられない。


(ど、どどどどうしよう!!?)


 最初の街へも辿り着けない魔王であった。

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