各駅停車でブラックダイヤモンドへ
学校生活を送っている今野拓は日々の積み重ねで疲弊していた。そんな時に上杉真弥という女子と接点ができる。
連絡を取り合い徐々に距離を深めていく二人だが、拓は我慢のせいでついにメンタルがやられてしまう。
梅雨が明けて流れゆく外の景色が赤、黄、茶色の暖色で少しずつ塗られていく時、俺はだんだん黒ずんできていた。そんな時彼女と出会った。
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家から出てすぐ絶え間ない銀杏の匂いに眩暈がした。身に覚えのない眩暈とも合わさって毛穴がしまった。
学校は好きだ。友達とも話せるし、部活だって楽しい。でも最近は人と話すのだって疲れてしまう。
いつからこうなっちまったのかな。
数年前の今野拓とは少し雰囲気が違ってきているのは自分自身で痛いほどわかる。もういっそ頭にキノコが生えてきて欲しい。
授業がカタコトカタコト進んでいく。
時計もチクチクタクタク進んでいく。
気がつけばもう家だ。家族の小言も気遣いも今では心をナイフで撫でられている気分。今日も一日の疲れを沈めるために風呂へ、
ピコン
その時一つの光が目を焼いた。DMだ。
「「タクくんもこのアーティスト好きなんだ!!」」
帰宅してからの果てしないネットサーフィンで見つけた良さげなアーティストの曲を気まぐれにノートに貼り付けて後で名前を忘れないようにしていたことを忘れていたわ。
「「さっき見つけたんだけどいいよねこれ、俺こういうのがだいぶ好きなんよねー」」
DM返答の時は学校モードに切り替え、指で文字をすくい取る。
この人は隣のクラスの、ええと、、上杉さんだったかな。全体的に明るいけどどこか不思議な人ってイメージが強かった。友達の友達みたいなポジションの人であまり関わりがなかったからビビった。
そのあとはどんな曲が好き?とか曲の感想を言い合ったり、学校の世間話をした。時計の針が180度傾いた時にひと段落した。何も考えずに過ごせたのは楽しかったぜ。中身がない時間だったが、密度は高まっていた。
連絡が終わりほぼ放心状態で風呂へ、風呂に浸かるとどうでもいいことを考えがち。成長の節目って駅みたいだなぁ。人生がレールなら今俺はどの駅に停まっているんだろうか。そう考えた時に今の自分は不純物を積みすぎている。そのうち重量オーバーで脱線事故を起こしてしまいそうだ。
少しずつ連絡しているうちに上杉さんと話す機会が増えた。彼女は学校の駅から自分より2個手前の駅でいつも降りるようなので、よく駅で会う。待ち時間に世間話をするようになったのは意外な展開だった。それでもまだ人とリアルで話すのは体力が削られる。言葉一つ一つに思考力が持っていかれる感覚。
「私ね、最近猫引き取ったんだけどさ可愛くて可愛いくて。これ見てよ!やばくない?」
見せられた写真の中にはヘソ天した白黒猫。おそろしくかわいい。
「今野くんって何かペット飼ってたりするの?」
「俺の家には犬と、魚と、インコと、、」
「ちょとちょと多いね?!ワンチャン何の犬種なの?」
「これなんだけどさ。」と言いこちらも写真を見せる。くらえ俺の癒しの全てを!尊さにひれ伏すがよい!
と、とてもほのぼのした会話をすることができた1日だった。彼女も最近の俺の癒しとなりつつある。
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しばらくした時、癒しが効かなくなった。俺は体のキャパを超えてしまったのだとおもう。多分我慢のしすぎなんだと思う。多分、対人関係なんだろうなとは思いつつ布団に潜る。胸に何かがぶら下がり常に重い。
「はぁ、俺ほんとになにしてんだろ。」
乾燥気味の肌に前触れもなく涙が流れちゃった。
寝れないのでコンクリだらけの夜景を見ようとすると寒さで肌を焼く空気が頬をかすめた。それでも今は心地よく感じる。
「早く雪降らねぇかな。」
ピロン
降ってきたのは上杉さんのDM。
正直返す気力がない。
当たり障りのない会話をして乗り過ごそうとしたのに、向こうはいつもどうり。
会話に集中できない俺をよそに彼女は語り続けてくれる。ブルーライトだけが目に吸い込まれていく。
人が向こうにいると考えると少し楽だが、実際に会うのは疲れるなぁ。
またコクコクと時間が過ぎていった。すっかり紅葉もなくなり雪で真っ白になった世界。体の芯も冷え切ってしまう。
思い返してみれば俺は周りの人の黒い部分を吸収し過ぎたのかもしれない。白い布だったのに周りの泥水を吸収して、汚れを拭き取って、洗濯を蔑ろにしたせいで真っ黒になった布。景色は白くなったのに黒い俺は異物感が拭えない。
触らずに同じ形の氷とダイヤモンドの区別はつくはずがない。
もう何も感じなくなって、ただ日々を過ごしていた。
通過していく貨物電車の音が妙に響く中、体に衝撃が走った。
寝不足からついにぶっ倒れたか、と思ったのに、冷え切った体に温もりが伝わる。
手が繋がれていた。
ギュッと力強く握られているのに今にも外れてしまいそうな感じがする。そこには見慣れた顔があった。
「上杉、さん?」
しかし、見慣れた顔には見慣れない表情が染み付いている。
「今野くん。ちょっといいですか?」
顔は暖かみを帯び、防寒具に身を包んでいるのに震えている。
「その、、ええと、、ね、、今日、、いや、、。」
「どうしたの?どこか具合でも悪い?」
「!! ううん!ごめん!単刀直入に言うね!私、今野くんのことが好きなの。」
え?
一気に周りがシンシンと言い始める。
「え?」
何か返事をしようとしたのに、出てきたのは白い息と言葉じゃない単語、そして涙だった。
「え、えぇ、なんで泣くの、そんな嫌だった、ですか?」
「嫌、違くて。本当に、さ。」
これまでの心の重さを引きずりながらここに立っている。相談もろくにせず一人で抱え込み過ぎたバカにいきなりほぼ救いの手とも言ってもいいものが出てきたら誰だって困惑する。
あぁ、そうか、よりかかる所が欲しかったんだな、俺。
「本当にごめん。泣かせるなんて思わなくて、、」
上杉さんが言い終わる前に体が動いてしまった。
そこで俺は、初めて彼女の髪の匂いを知った。
「ンン?!」
「こっちこそごめん。泣いてたのは別のこと。俺も好きだよ上杉さんのこと。ありがとう。」
しばらくお互いの体温を交換してお互い冷静に戻った。戻っちゃった。
「そのー。なんていうか、こっちからも言わせて欲しいです。俺、上杉さんのことが好きです。俺が泣いたせいでなんか変な感じになっちゃったんだけどさ、付き合ってくれませんか。」
俺は最低だと思う。他の人の負の部分を根っこまで吸って黒くなったのに、今度は他人にそれをなすりつけ薄めようとしている。実際今は心には何もついていない。駅のホームから見える空はグレーに沈んでいる。
前に上杉さんと話しているときは何も感じなかったのに。今は靴を見ているだけで心臓が速くなって痛い。
そんな時に上杉さんからハグをしてきた。
「はい。」
と、雪が降る音にかき消されそうな細く綺麗な声でつぶやいた。
アナウンスが鳴り、帰りの電車が到着した。厳しい寒さで鼓膜は痛いし、足も頬も引っ掻かれたように痛い。でも今は手と同じぐらい胸が温かい。開いたドアからの暖房を感じながら乗り込む。
俺らを乗せた電車は白い雪景色の中、次の駅へと向かった。
読んでいただきありがとうございます!最近寒くなってきましたので風邪はひかないように気をつけてください。
思いついた恋愛模様を書いてみたのですがいかがでしたか?励みになるので読んでくれた方、ぜひ評価の方をよろしくお願いします!




