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23話

 翌朝のボードに、小さな列が増えていた。

 “ありがとうの交換帳(当日だけ)”。

 最上段に大村—『雨の段差、注意喚起ありがとう』。

 その下に斉藤—『ゼリー保護ありがとう(再発防止)』。

 そして、桐原—『配席の件、当日受領』。右下に猫。


 午前の九十は簿記論の総合。

 桐原は“理由の長さ=合格ライン”に合わせ、語尾を〜であるで揃える。

 途中で迷ったとき、ノートの端に小さな四角**を描く。

 『十秒』と書いて、息を入れ替える。

 ピッという音で、付箋の列に炎が一つ増えた。


 休憩の十分、給湯室で紙コップの湯気を受け取る。

 「昨日の追記、わかりやすかったです」

 「業務様式に寄せました」

 「うん。恋愛様式に寄せないの、好きです」

 「続ける様式に合わせました」


 昼、机ランチ。

 桐原は卵焼きをゆっくり噛みながら、付箋を一枚、僕のほうへずらす。

 『“未投函”は、私の机の右上で保管』

 「保存方法の共有、助かります」

 「二重保存もしときます」

 「心強い」


 午後、麻生さんから短いチャット。

 『本日版、二重保存。背もたれは低め』

 背中の高さを言葉で合わせてくれる人がいると、

 言わないまま運べる荷物が増える。


 夕方、ボードの端に“隣人ルール ver.5(仮)”が仮置きされた。

 - 助けは呼ばれたら一回だけ

 - 緊急はノーカウント

 - “ありがとう”は当日仕訳、翌日持越不可

 - “?”は付箋に出す

 - 早口は安心の合図

 - 相合い傘はありがとうで会計処理

 - “赤字”は箱に落として、学びを隣に貼る

 - 写真は各自、共有は一枚

 - 祈りは各自、共有は団子でも

 - 配席は選択、ただし未投函の保管可(新規)


 斉藤が「条文が増えた」と笑う。

 大村は「手すりは多いほど落ちない」と、紙皿を重ねた。


 帰り際、玄関の庇の下。

 昨夜よりも弱い雨。

 桐原がゆっくり言う。

 「未投函、当日のうちは、ここに置いていきます」

 「回収は、急ぎません」

 「うん。“まだ途中”のまま、続けたいから」


 非常灯の緑が、足もとに細い道を描いた。

 隣は距離じゃない。

 置き方で、意味になる。

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