表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/25

21話

 金曜の夜、所内は珍しく全員が早めに切り上げた。

 資料のアップロードを終えて、会議室の窓から見える夜に風があった。

「五分だけ、屋上いきませんか」

 桐原の声が、風の軽さに似ている。


 屋上は暗くなりすぎない暗さで、風鈴の回廊を思い出させた。

 街の音が遠く、空の音が近い。

 ふたりで手すりに肘を置く。背もたれを持ち上げるみたいに。


「七月の音は、置き場所がむずかしい」

「置き場所」

「“がんばれ”を置く場所です。近すぎると苦しい。遠すぎると届かない」

「では、手すりの上に」

「……ちょうどいい」


 沈黙は、夜の風で形がわかる。

 僕はポケットから付箋を出して、手すりの影に『今日のがんばれ=手すりの上』と書いた。

 桐原がそれを受け取って、猫をひとつ描く。

 付箋は風で少し揺れ、落ちない。


「麻生さん、明日も在宅ですよね」

「はい。二重保存は夜になります」

「いないと寂しいけど、いない夜が、歩ける夜のときもある」

「分かります」


 帰り際、彼女が言う。

「“ありがとうの交換帳”、明日は“何も書かない”を置いてもいいですか」

「置かないのも当日仕訳」

「はい。濃度を保ちます」


 エレベーターの緑が、ゆっくりと目に馴染む。

 “言えること”と“言わないこと”の境目を、今日は風が測ってくれた。


《桐原カット》

 手すりの上に“がんばれ”を置いたら、胸が少し楽になった。

 置かない“ありがとう”も、当日仕訳のうち。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ