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18話

 その駅は、六月だけ風鈴の飾りを出すらしい。

 商店街の軒先に、ガラスと金属と竹の小さな音。

 桐原は歩幅を少しだけ短くして、音の間に呼吸を置く。


「ラムネ、飲みますか」

「半分こは未使用にしましょう。各自一本」

「ルール遵守」

 王冠の栓が、二回、似た音で跳ねた。


 坂の途中で、古い神社が現れた。

 鳥居の手前に短い行列。

 「合格祈願、ありますね」

 「祈りは各自で」

 「隣人ルールに追記します」


 境内に、ひんやりした影。

 絵馬の棚に、淡い木の匂い。

 桐原は“まだ途中”とだけ書いて、右下に小さく猫を描いた。

 僕は“継続力”と短く置き、角を二度押すみたいに、縁を指でなぞった。


 風鈴の回廊を抜ける途中、彼女が言う。

 「写真、どうしますか」

 「各自の端末。共有は一枚」

 「ルール ver.4ですね」

 「“見返しても疲れない枚数”が、いちばん続きます」

 「わかります」


 商店街で小さな雑貨屋に入り、付箋の新しい色を一つずつ買った。

 レジの人が「六月の色ですよ」と笑って、薄い青を渡す。

 「六月は“水を多めに溶いた青”なんです」

 「きれいな言い方」


 帰りの電車。

 窓の外の木々が、定義の短い緑をしていた。

 桐原がスマホのメモに『“祈りは各自、共有は一枚”』と打ち、猫を一つ付けた。


「“ありがとう”、今日はどこに置きますか」

「ラムネの王冠と、坂の影の間に」

「いい場所」


 駅に着くと、風が少し冷たくなっていた。

 今日の色は、明日の付箋にうまく移せそうだ。


 “まだ途中”の絵馬は、未来の私に渡す手紙。

 共有の写真は一枚。

 足りないくらいで、続く。

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