表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

生き延びて、泣いて、そして笑っていくんです



─────海上基地ポイントL 居住区域 入口




「皆さん!落ち着いて避難してください!

押さないで!順番を守って中に進んでください!」



「慌てないでください!

現在作業区域への移動は全て禁止されています!

あ、コラ!戻るんじゃない!」






「…団長!風守(かざかみ) 真虎(まこ)団長!」



「……報告です。作業区域の監視モニターを確認した所、

侵入してきたハエ型の怪物は全部で9匹との事。全て体長が2mを超えた巨体、低空から急加速でアントへ突っ込んで襲う傾向が見られます」



「ん…わかった」



自警団の仕事を終えた後、休暇でゆっくり眠れると思った矢先に、こんなB級映画みたいな理由で現場に呼び出されるとは、流石に俺も予想外だった。

部下から報告を聞いた時は「コイツ寝惚けてんのか?」と思ったぞ。


なになに…【漂流船を発見し、作業区域に着港させた所、コンテナの中から怪物が現れ、ポイントL所長を含めた数名の犠牲者が出る】か…。

他の犠牲者の方は気の毒だが、あの所長に関しちゃ因果応報な所があるだろコレ。



まあいい。

これ以上の犠牲は俺が許さない。

相手がバケモノだろーがコバエだろーが、

俺の仲間達には指1本触れさせやしない。

………俺が、全員守ってみせる。





「…聞け!これより自警団『山嵐』は作業区域へ突入し、暴れ回ってる害虫の駆除を開始する!殺虫剤の効果は薄そうだ。

代わりに7.62mm弾を散布してやれ!」


「了解!」


「先頭は俺が立つ。安心しろ、お前達は絶対死なねぇ。

俺より前に出てこない限りな」


「うおおおお!団長!!団長!!」



「ッ…うるせぇ!!早く行くぞ!」







─────海上基地ポイントL 作業区域 広場




作業区域(作戦エリア)へ突入………いた!あいつか!

奴さんもどうやらこちらに気付いたようだが、俺を標的にしたのが運の尽きだ。



「団長!発砲許可を!」


「まだ撃つなよ……ッ!」



部下が銃口を向けるよりも先にハエが特攻してくる。

成程、確かに速いが…軌道がわかりやすいッ!



「…ッオラァア!!」


真正面から飛び込んできたハエを両手で受け止める。

並のアントなら衝撃で腕が折れそうな勢いだが、生憎()()()()()()()

すぐさま(はね)の付け根を鷲掴みにし、背負い投げの感覚で軽く体を捻った後、鉄板とコンクリートの床に思い切りハエを叩きつける。


……なんだ、死に方も普通の虫と変わらないのか。



「これで1匹。次は…また前方からか」


「発砲許可良し!胴体と翅を狙え!

飛べなくなりゃこっちのもんだ!」



許可を出すと同時に、前方からご丁寧にこちらへ飛んでくるハエの翅がボロボロになっていく。

勢いを殺されたハエは、可哀想に俺の懐まで届かず目の前で転げ落ちちまった。



「…2匹目」


サッカーボールを蹴る感覚でデッキから海に向かってハエを蹴り落とす。…最近スポーツをやってなかったのが悪かったな。蹴り方を誤って足の甲がちょっと痛む。

今度フィットネスクラブでも予約しておくか。



「次は…区域内部の方か。続け!」











「……団長!仕留めました!あれが最後の1匹です!」


「…フゥーーッ…これで終わりか」



想定よりもあっさりと駆除(鎮圧)に成功した。

最初はどれほどのバケモノが出てくるかと思ったが、

結局はサイズアップしただけの虫に過ぎなかったって事か。


「鎮圧完了。これより作業区域に取り残されたアント達の救助活動を行う。恐怖心でパニックに陥って手をつけられなさそうな奴がいたら俺を呼べ。引っぱたく」



時刻が終業時間だったこともあって、作業エリアに残っていたアント達はそれほど居なかった。

生き残っていた多くは、ハエが入り込めなさそうな狭い物陰に隠れてやり過ごしていたようだ。

やれやれ、所長が死んだとなれば後始末も面倒な事になりそうだぞ……




「団長!大変です!

貨物船のコンテナからもう一匹姿を現しました!」


「そーかぁ。じゃあ俺が片付けてくるからお前らは引き続き…」


「それが…先程の3倍近くの大きさらしく…!!」



「………………は?」




ドガアァァァァアアアン!!




《………ギイィィィィィイイイイイイイイイイイン!!!》




……ッ!!いってぇ…吹っ飛ばされたのか…虫の癖に雄叫びなんてあげてんじゃねーよ!

しかも壁をぶち破って突っ込んできやがって…

というか、なんだあのデカさ!?

10mは超えてるだろ!



「…ッ、山嵐!瓦礫の後ろに隠れて援護しろ!

俺が奴の気を引く!絶対にそこから出てくるな!!」



……痛ッ!

まさか、さっきの激突で右手首をやっちまったか?

こりゃ…マズイな…。














「………酷い…」



あれから自分は、所長を襲った怪物達の襲撃から逃れる為に、作業区域の奥地にある内部通路まで逃げ込みました。

自分が標的になっていた以上、他のアント達と一緒に居住区域に逃げ込めば、余計危険に晒されてしまうことがわかっていた為、やむを得ない状況でした。


そして今、目の前には…あの怪物に襲われて息絶えた無数のアントの亡骸が転がっています。




……!彼は、確か自分に有機物製造の業務内容を丁寧に教えてくれた方、です……


あぁ…こちらは、あの時廃棄物回収中にコーヒーを奢ってくれた方……


……ッ、3週間前に…ショッピングモールで怒られた店長さん………

奥様のプレゼントを買う為に仕事の掛け持ちを始めたと、少し前に言っていましたが…まさか、そんな……





「…………グスッ……」




……!誰か、生きている?

休憩スペースから、微かに声が聞こえてきましたが……あれは、まさか。






「…セフィアさん?」


「……ッ!…エル…ノ……」



良かった。どうやら無事だったようですね。

セフィアさん、ここは危険です。早く居住区域へ避難しましょう。きっとキョウドさんも心配し……て……………




「…キョウドさん?…キョウドさん!」



そんな…そんなの……嘘でしょう…?

っ…胴体部のレゾナクオーツを食い破られている…

仮にコアが無事なら助かる見込みがありましたが…こうなってしまっては……もう。








「……私、さっきここでキョウドさんと話をしていたの」


「エルノの事で……あなたの、契約の事で…」



……………!



「どんなに仕事が上手くいかなくても…どんなに周りから煙たがられても…あなたは、間違いなく…このポイントLの大切な仲間なんだって…みんなに知ってもらいたくて」


「それを私が…支えて……証明するって…キョウドさんに相談してた…」


「でもあなたはもう……私の前から、

消えてしまうんだよね…?」


「あんな無茶苦茶な契約のせいで…消えてしまうことを、

エルノは選んでいたんだよね……」




………それ、は…



「………そんな事聞かされて…いてもたってもいられなくて…部屋から飛び出したの」


「でもしばらくしたら……あのサイレンが聞こえて……バケモノが……」


「………恐くなって…ここに戻ってきたら…キョウドさんが………」


「どうして…?どうして…必死に生きようと、

明日の為に頑張ろうとする人達が先に死んじゃうの…?」


「キョウドさんも…エルノも……!」


「もう…私には分からないよ…」




ようやく自覚しました…。

どうやら、自分は間違えた選択をしていたようです。

ポイントLの人達の為と言いながら、本当は〝自分の為に〟悪魔の契約を結んでいたのでしょう。

記憶も故郷もない、そんな自分が必死に頑張ったという証だけでも、ここに残そうとしか考えていなかったのでしょう。

だから、キョウドさんやセフィアさん…そしてこんな自分を良くしてくれていた人達の想いに気づくことが出来なかった。


…………我ながら、とんでもない大馬鹿者だと痛感します。




ですが、まだ間に合います。


セフィアさんが教えてくれました。

自分は、ポイントLの『大切な仲間』だと。

この穢れた契約に塗れた自分の心を洗い流すには、

キョウドさん達の想いに応える為には、

それを証明しなければなりません。

自分は…『廃棄物処理場のゴミ番長』ではありません。


このポイントLの、大切な仲間達と共に生きる……

『エルノ・クライフ』です。





「………セフィアさん。居住区域へ避難してください。

地下通路のルートからならあの怪物達も流石に侵入出来ないはずです」


「…今は確かに、辛いかも知れません。

ですが、あなたはまだ生き残る権利があります」


「キョウドさんの為にも…

生き延びて、泣いて、そして笑っていくんです」




「………エルノは…?」



「…自分も、生き延びます。

もうあんな契約を守るつもりはありません。

そのために…今出来ることを尽くして来ます」



「…待って…置いていかないで……」




「大丈夫です。自分は…あなたの大切な仲間なんですから」


「さぁ…走って!」



「…………ッ!」



自分なりに檄を飛ばしてみましたが、セフィアさんは応えてくれました。

涙を拭って、必死に地下通路の奥へ走っていく彼女の後ろ姿を確認します。







さて…ここから先は、




エルノ・クライフの本領発揮です!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ