表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界恋愛+α(短編)

幸せ航路に面舵一杯!

作者: いのりん

「おやおや、何やらお困りのようですねぇ」


 お昼休み、園芸部の畑でため息をついていた私に声をかけてきてくださったのは、淑女科の学友で王女でもあるランチ・ストレングス様でした。


「最近装いも変わったし、暗い顔している事も増えたじゃん。どしたん、話きくよ?」


 その言葉に驚きと嬉しさを感じます。

 のほほんとしているようでこの方、実はとんでもない才女かつ聞き上手でもあるんですよね。


 なので、お言葉に甘えて少し悩みを聞いて頂きましょうか。まあ、いかに王女様でも解決するのは難しい問題かと思いますが……





 私、アルビダは公爵令嬢です。

 しかし現在の立場はあまりよろしくありません。尊敬できる両親を海難事故で亡くし、後見人としてやってきたのがノットエレガントな人達だったからです。 


「童話シンデレラの義母姉に、放蕩強欲叔父がくっついてきた感じといえば、私の現状をイメージしてもらえるでしょうか。」


 そんな後見人夫婦は現在、お金目的に私と変態貴族の縁談をまとめようと画策中。

 また、甘やかされて育った義妹のギーマはワガママ放題で、そのとばっちりを受ける羽目になるのも私という現状です。

 ドレスや宝石を奪われるなどは日常茶飯事、面倒事は私で祝事は義妹というルートができており……


「うーん、アルビダの後見人夫婦と義妹ちゃんは、思っていた以上に困った人達だったんだねぇ」


 憂い顔になるランチ様。こちらを本気で心配して下さっているのが伝わってきます。


「そのようなお顔をさせてしまい、申し訳ありません。」

「いやいや、アルビダは全然悪くないじゃん!これは見過ごせませんなぁ……よし、何とかできないか、お母様と相談してみるよ」




「絶っ対に嫌! 国王様、ばっかじゃないの!?」


 ギーマは、そう言って手当たり次第に周囲にあるものを投げつけ始めました。しかも今回は王家への暴言、どう見ても不敬罪です。


 ああ、またいつもの癇癪が始まったと、私は内心でため息をつきます。


 しかし本日は、いつもと違い弾む気持ちも少しばかりありました。



 ことの発端は、国王のビルイヤーデ様が我が家に、諸外国との関係強化を目的とした二件の政略結婚をお命じになられたことです。王家からの手紙を要約するとこう書かれていました。


『アルビダは豊かな南国の王子に、ギーマは北の海賊にそれぞれ嫁げ。一方は少々大変な生活となるだろうが適性があり大丈夫だと判断した。国益となるよう貴族の責務を果たすべし。』


「婚約破棄してよ! 婚約破棄!」


 ギーマが叫びますが、それは無理筋というものでしょう。だって王家の勅令なのですから。ランチ様ったら、本当に『なんとかしちゃった』んですね。


「よりにもよって、『海賊の嫁になれ』なんて……!」

「そうよ、何が『適性がある』よ!きっと略奪や暴力や恫喝を生業としたむくつけきよ。ギーマとは真逆だわ」


 いやいや叔母様。

 その方、いつも私のドレスや宝石を奪って、今もリアルタイムで物を壊して叫んでいますよね。


「そ、そうは言ってもお前たち。これは王家からの勅令で……今さら断ることは、ねえ……?」


 叔父は、なんとかギーマの機嫌を取ろうと、おろおろしています。そんな態度にしびれを切らしたギーマは、暴れるのをやめ——


「げほっ、ごほっ……! うぅ、苦しい……」


 今度は激しくせき込み、悶え苦しむ演技を始めました。


「ああ!ギーマ!」

「可哀想に!こんなショックを与えてしまったばかりに!」


 叔父夫婦は悲鳴をあげ、あわててギーマを構いはじめました。どうしてこんな大根演技に気付かないのでしょうか。不思議でなりません。


「こんな身体で、北方の寒さに耐えられるはずがないわ!」

「まったく、国王はなんていい加減な男なんだ!海賊の嫁など、適切があるとしたらアルビダの方だろう。」


 ほら、今だってうまく二人の気を引けた途端にギーマは咳き込むのをやめてにやっと笑っています。


 都合の悪いときだけ病弱演技でわがまま放題するのは彼女の常套手段。そしてその時、一番とばっちりを受ける羽目になるのは——


「ねえ、お父様、海賊の嫁になるのお義姉様に代わらせられない? お姉様は私と違って図太いから北国にだって耐えられるわ」

「アルビダ、国王に直訴してやるから海賊にはお前が嫁入りしろ」

「妹を助けるのは当然のことよ。分かってるわね」

「うふふ、ありがとう、お義姉様!私は次女だから耐えられないけど、長女だから耐えられるわよね。」



 しかし、これには流石に私だって反論させて頂きます。なぜなら、貴族には全うせねばならない責務というものがあるからです。なんでも許されるわけではないのです。


 だけど逆に三人は物凄い剣幕で私を怒鳴りつけてつきました。


「病弱な義妹が苦しんでいるのに、かわいそうだと思わないのか?」

「 お前は健康なくせに、弱いものへの思いやりがないわね。」

「お義理姉さまったら、なんて心が汚いの!」


 明らかに向こうが間違っているのに、数の暴力でこちらが悪者にされるのは、とても気分が悪いものです。


 途中、思い切り頬を張られ、床に倒されました。痛みの中薄っすら開けた瞳に、ギーマが鼻で笑っているのが見えます。





 結局、三人は意見を変えませんでした。そして後日、国王様に「嫁ぎ先を逆にすべきです」と直訴して二つの条件付きで可決させてしまったのです。


 その条件とはこの二つ

『嫁ぎ先でどんなに辛いことがあっても出戻りは絶対に認めない』

『相手側から強いクレームがあった時、その責任は叔父夫婦にあるものとする』





「と、言うわけで何があっても我慢しろ。絶対に戻ってくるなよ!」

「貴族には責務というものがあります。国に迷惑をかけてはいけないわよ」

「海賊なんて、きっと見た目も中身も最悪なんでしょうね。あー、結婚しなくて助かったわぁー。そんな私の相手は南国の王子様、お義姉様の分まで幸せになりますね。それじゃ、いってらっしゃい。」


 当日の朝、意地の悪い三人に笑われながら私は屋敷を出ました。






 こんなの横暴よ!

 くそったれー!!




 今回の件は、流石にこたえました。

 ちょっと心がやさぐれたのが自分でわかります。


 叔父夫婦の責任になるように、いっそわざと問題を起こしてやろうかとも思いましたが、貴族の責務を放棄して国益を損ない国王夫妻やランチ様に迷惑をかけるのは本意ではありません。

 

 それに夫となるのは海賊とのことですが、もしかしたら叔父夫婦よりは話がわかるかもしれません。突然暴力を振るわれるとしてもそれだって以前と変わらない生活ですし、とにかく当面は我慢、我慢です。


 そんなことを考えていましたが、夫となる人物との初対面で私は大いに考え方を改めることになりました。


「はじめまして、アルビダ殿。遠路はるばるお越しくださり感謝申し上げます。」


 目的地である北の街は美しく整備された大きな港があり、王都に負けないくらい栄えていました。一番良いホテルに案内され、疲れが取れた私の前に婚約者として現れたのは、モノクルと燕尾服の似合う、輝く銀髪をもった知的な美男子。


 本当に『海賊』なんですか、この人が?


「は、初めまして、アルフォート様?この度は、婚約者を突然になって挿げ替えることになってしまい、大変ご迷惑をおかけいたしました」


 私はおずおずと頭を下げました。


「いえ、頭を上げてください。事情は全て、賢妃様より伺っております。その上で言いますが、貴女の方が妻として来て下さったのは望外の喜びでしかありません。申し出を受け入れて下さったこと、いくら感謝してもしきれません」


 物腰柔らかな対応。もしかして、性格もよろしい方なのでしょうか?海賊と聞いて予想していたイメージとのあまりの違いに訝ります。


 そんな私を「まずこれから住む事になる街をご案内します」と彼は促し、私たちは一緒に散策することになりました。


 私こういうの初めてなんですが、もしかしてデートという奴でしょうか。


 さて、散策中のアルフォート様といえば、カフェの席につく時は、さっとハンカチを敷いてくれるわ、さりげなく車道側を歩いてくれるし歩くペースも私に合わせてくれるわで……。すごいです、洗練された紳士っぷりが、とどまることを知りません。


 それだけではなくて、街中でよく声をかけられていました。街の皆様に相当慕われているのがわかります。この方をみると、周囲の皆さんが笑顔になるのです。



「今日は本当に楽しかった。アルビダ殿のおかげです。ありがとうございました」


 別れの際に海上に輝く太陽のように屈託のない笑みを浮かべたアルフォート様を見て確信しました。

 この方、圧倒的な善人です!




 その一週間後に挙げて頂いた結婚式は盛大で、とても幸せなものでした。そこで紹介されたアルフォート様の肩書きは『ストレングス王国辺境伯爵、そして海軍提督』でした。

 全然『海賊』ではありませんよね?!びっくりです。



「この街は長年どの国にも属さない自治領でしてね。でも、この度はストレングス国が破格の条件で併合してくれると言ってきたのでお受けたのです」


 そう言って笑うアルフォート様。


 アルフォート様の一族は「海の商人」として代々その商才と政治的センスでこの地域を平和的に発展させてきたそうです。


 しかし、他国の悪い商人や略奪者、海の魔物に対抗するために武装もしていて、いざ戦うと鬼のように強かったことから他国からは『海賊』と恐れられていたそうな。一方で寒い地域なので冬場の食料問題が長年、悩みのタネだったとのこと。


 一方、私の出身ストレングス国は豊かな穀倉地帯があり陸軍が強い。しかし海路の流通と海軍は弱い。私の両親も海の魔物を原因とした海難事故で亡くなっていますしね。


 そこで、国王夫妻が他国を刺激しないように調整しながら、winーwinとなる併合話を内密にすすめていたとのこと。


 驚き 桃の木 山椒の木ですね。



「うーん、美味しい。」


 手元にあるのは絶品のお菓子。

 南国からの流通品であるチョコレート、穀倉地帯から運ばれてきた小麦、そして自領の匠の奇跡コラボにより先日生まれました。


 開発には私も一枚噛ませてもらっています。夫の所有する帆船の意匠入りデザインにさせて頂きました。ありがたいことに大好評で、国内外で飛ぶように売れています。


 私はそれに舌鼓を打ちながらランチ王女からのお手紙を読んでいました。


 実は結婚相手として不良債権なのは南国王子の方だったと。かの国は資源豊かではあるけど発展途上の小国で、男尊女卑の強いカルチャー。ストレングス国出身の女にとっては生き辛い国だそう。


 女は男の所有物扱いでDVだって日常茶飯事。しかもギーマは正妃ですらなく第二夫人という立場になるそうです。疫病や害虫も多いそうな……うへぇ、大変そうですねぇ。


 でも、貿易相手としては上々。

 今回公爵家の令嬢を送り込んだので顔は立ち、かつギーマの評判が悪いから今後ストレングス国の女性に政略結婚の申し入れはなくなりそうだと。


 そしてここで、嫁ぎ先を逆にする際に定めた二つの条件が発動。


『嫁ぎ先でどんなに辛いことがあっても出戻りは絶対に認めない』

『相手側から強いクレームがあった時、その責任は叔父夫婦にあるものとする』


 と、言うわけでギーマは何があっても我慢しなければならず、絶対に戻ってこれないみたいですね。

 そして、南国から強いクレームがあったので叔父夫婦は責任追求されて、公爵家の後見人は変更されたとのこと。


 叔父夫婦、元の身分は子爵だったのに男爵まで降爵されています。公爵家の遺産で放蕩の限りを尽くし狂った金銭感覚は、今後悪い方向に作用しそうですね。




「これは所謂、ざまぁってやつなんですかね」


 そして何と今回の結婚話、全てが王家の掌の上のことだったそうです。叔父夫婦が「嫁ぎ先を逆にすべきです」と直訴してくることまで折り込み済みだったんですって!


「どうしたんだい、アルビダ」

「ああ、アルフォート様」


 ちなみに私はそんな三人にを尻目に、この後アルフォート様とラブラブデート。どう言ったわけか彼、叔父家族からは「小賢しい目隠れ陰鬱女」なんて蔑まれていた私の事を「その聡明さや、綺麗な瞳が秘匿されている奥ゆかしさが素敵なのに」なんて褒め倒し、溺愛して下さっているのです。


「どうやら南国の王子、結構な不良債権らしいんですよ。あー、結婚せずに済み本当に助かりました。一方で私の旦那さんは素敵な方なので、ありがたく義妹様の分まで幸せにならないとなーと」


 

 おかげ様で、幸せ航路に面舵一杯です。

 それでは、いってきまーす。

誤字報告やポイント、感想を下さる皆様へ。


あなた応援、創作の海を征くなろう作家の財宝です。

いつも本当にありがとうございます。



下の転移魔法陣から20年前の王国のお話にワープ可能

ご好評いただいておりますので、よろしければどうそ↓



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20年前のお話はこちら
いいの?『定食屋令嬢』だよ
― 新着の感想 ―
>「うふふ、ありがとう、お義姉様!私は次女だから耐えられないけど、長女だから耐えられるわよね。」 長女は炭治郎かな?w 定食屋令嬢も面白かったし20年後のお話も面白かったです(*´ω`*)
ア○フォートだ!一番好きなお菓子だ! と思ったら旦那の名前が(笑) これは芸術点高いですね。
定食屋令嬢の20年後のお話、こちらもごちそうさまです。 「舌切り雀」の葛籠を彷彿とさせる結婚相手たち、こちらは国王がビル君なので、全く心配していなったから、これはもう水戸黄門的安心感でお約束。でもやっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ