第80話【<Chandelier>の1日】
微睡みの中。ただ、柔らかくて温かいものを抱きしめていた。抱き心地は夢見心地。愛して愛して止まない、愛しくて愛おしくてたまらない体温。全身で感じて、そしてまた大切に大切に抱きしめる。幸せで幸せで幸せすぎて、本当に天国にいるかのような錯覚に陥る。そんな、毎朝変わらない目覚めに精一杯の感謝の気持ちを込めて、私『霜夜蒼』は、この世どころか天上天下、全世界線、限りない概念を超えてもまだ足りない、言い出せばキリがないのだがとにかく、ものすごく控えめに言うと『1番大切な人』に、キスをした。
「おはよう。緋…」
「……ん……」
暖を求めるように、緋は私の胸の中に顔を埋めて可愛く呻く。
「朝よ。緋」
「……ぅぅ……」
死ぬほど可愛い。キュン死しそう。
「起きて…」
「……あと……5時間……」
「そんなには待てないわ。ライブに間に合わないでしょ」
「…らぃ…ぶ……」
「そう。ライブよ」
「………ぅん」
返事はしてくれるのだが、ぎゅーっと抱きついてきて、起きる気配は無い。
「……ぁ…ぉ…ぃ…」
「………こら。起きてくれないと、私もつい甘やかしそうになるじゃない…」
私も私だ。口では起きろと言うものの、起こそうとはせずただ起きてくれるのを待っている。緋の抱き心地が最高すぎるのと、緋が可愛すぎるのがいけない。そして、私が緋を好きすぎるのもいけないか。いや、それはいい。愛しい人を愛して何が悪いものか。
ずっとこのまま、ふにゃふにゃの意識で甘えてくる緋を抱きしめていたいが、彼女の面倒を見るのも、私の役目。
眠り姫を起こすため、その唇に唇を重ねる。
「……ん…っ…」
柔らかくて、温かくて、凄く甘い。
「………ん…」
唇を離すと、薄目を開ける。まつ毛の間から潤った緋色の瞳がほんのりと覗く。
「……おはよう…蒼…」
「おはよう緋。起きれる?」
「うん……」
その返事を聞き、蒼は毛布を払い除ける。冷房が効いており少し肌寒い空気を浴びせると緋はまた蒼にくっついて離れなくなった。
「起きるわよ」
「うん………」
◇◇◇
ガールズロックバンド『<Chandelier>』のボーカル、『終緋』の起床はだいたい午前11時。愛してやまない最愛の人からのおはようのキスで目を覚ます。
私は睡眠欲がかなり強く、毎日ついつい寝すぎてしまうのだが、蒼は毎朝優しく起こしてくれる。好き。
シャワーを浴びて眠気を飛ばし、化粧水やオイルを付ける。その後、軽めの朝食を取り、コーヒーを飲んで更に眠気を飛ばす。
少しゆっくりして、その後は身支度。服装もきちんと整えて、後は、爪を切ったり、少しだけ…というかかなり控えめだが化粧をしたり。ギターやエフェクターボード等の機材と、ライブでは汗だくになるので着替えの準備もする。
13時。家に迎えが来る。<Chandelier>のマネージャーの菫さん。「おはようございます」と挨拶を交わして、家を出ると、黎も一緒。迎えに来てくれる時はいつも碧と黎から順番に迎えに行ってくれている。今日は、碧は碧で別の迎えが行くため、黎だけだ。
「おはようございます。緋さん、蒼さん!」
「ええ。おはよう」
「おはよう黎」
黎とも挨拶を交わし、機材を荷室に積み、乗り込む。
「では、出発します」
<Chandelier>を乗せ、ごくごく普通のハイエースは走り出す。
「いつもありがとうございます、わざわざ」
「いえ。これも仕事ですので」
優しく微笑みながら、菫は車を走らせる。
今日の行先は、ライブハウス『下北沢CLUB9』。デビュー前からも度々対バンでお世話になっていたライブハウスで、そのデビュー前最後のライブをしたのもここだった。レイボーに続いて思い入れのあるライブハウスである。
車でだいたい1時間ちょっとでたどり着く。
14時過ぎ、会場入り。ライブハウス入口で碧が待ってくれていた。
「おはよ」
「おはよう碧。今日もよろしく」
「うん、よろしく」
碧と一緒に中へ入り、スタッフさんに挨拶。ホールに進むと店長の男性が出迎えてくれた。
「おう<Chandelier>。少し見ない間に立派になりやがって…!」
「ご無沙汰してます。今日はよろしくお願いします!」
「ああ。よろしくな。いいライブにしよう」
機材の準備と打ち合わせ、そして音出しが始まる。
ステージに進む緋が持つのは、ピカピカに輝く白いジャズマスター。それを見た黎が、目を輝かせて寄ってくる。
「緋さんニューギアですか!かっこいいです!!」
「ありがと、黎。これは自分へのご褒美というか、なんというか。プロなんだし、それ相応の良いギターは持っとかないとなって。ちなみに蒼もニューギア」
「え!?」
黎は蒼の方を見る。蒼は、今までのナチュラルのジャズベースではなく、ブルーメタリックのジャズベースに変わっていた。
「青もかっこいいですね!凄く似合ってます!」
「ただのジャズベースじゃないわよ。Fenderの本場、アメリカ製の高級品よ。凄く値は張ったけど、それ相応の良い音が鳴るわ。物凄く良いベース」
「ちょっと3人とも。あたしのドラムも見ておくんなさいな」
そう碧が言う。ステージ中央奥には、TAMAの文字がデカデカと書かれたバスドラが2つ鎮座するドラムセットが構えていた。もちろん、その両脇には碧のトレードマークと言ってもいい、スティックが届くのか心配になる高さのクラッシュシンバルも。
「これが持ち込みしたドラムセット!」
そう。今回は<Chandelier>として初の試み、ドラムセットをフルで持参してみた。この大荷物の持ち込み自体はかなり大変で大掛かりだが、せっかくワンマンなので試しにやってみることにしたのだ。
「スタークラシック・ブビンガ!あたしのかわい子ちゃんよ、どう?」
碧は自慢げにドラムセットを見せびらかす。
「かっこいい!まさに<Chandelier>の要塞」
「でしょ!」
にっ!と笑って、スローンに座る。スティックも新品に新調されている。材質はヒッコリー材。シンバルの微細なサウンドの使い分けに最適な小さめのチップに、スティック径も13ミリと小径、長さも390ミリの小さめのサイズで取り回しがよく効く、コントロール重視のスティック。パワーよりテクニックタイプの碧らしいチョイスである。
「プロとしてサウンドにはとことんこだわる。ギターもベースも、ドラムセットも。最高のロックバンド目指して、機材投資は惜しまないよ。売れても一生貧乏バンドマンだ」
「いいなー3人とも。私も少し新しいギターが欲しくなります」
「いいじゃん。黎も給料入ってるんだし、今度見に行く?」
「…いえ。私は母から受け継いだギターが335の他にも2本あって、それぞれ十分良いものなので、それ以上のものが見当たりませんから……。…そのうちですね」
「そっか。……じゃ、リハやろう!」
<Chandelier>のリハーサルはかなりガッツリだ。デビュー前の対バンでも、早く会場入りして他の出演アーティストが来るまでリハをやったりしていた。それで店長に苦笑いされたこともあったような。
2時間近くリハーサルをして、時刻は4時半。腹が減っては戦ができぬとも言うし、軽く食事の時間にする。デビュー前はまさかこんな体験をするとは思わなかったのだが、所謂『ケータリング』というものを楽屋で頂く。<Chandelier>メンバーは食の好みが和食派に固まっているため、おにぎりと緑茶が基本。コンビニでよく見るおにぎりである。
「緋はいっぱい食べるね」
「ん?うん」
他3人がおにぎり1つを食べる間に、緋は1人で2つを平らげ、3つ目に手を伸ばしていた。
「緋、ご飯粒がついてるわ」
「ん」
蒼は緋の口元のご飯粒をなんの迷いもなくキスをするようにして自分の口に入れる。
「お2人とも、いくらなんでもイチャつきすぎでは」
「緋成分が足りてないと精神が崩壊してしまうのよ」
「24時間緋さんといるのにまだ足りないと…!?」
「足りないの」
「足りないの?蒼。キスする?」
「する」
「やめてください人前で!」
「怒られた」
「ハグで我慢するわ…」
「そうしよっか…」
「“ハグで我慢”がパワーワードすぎることに誰も突っ込まないんですか…!?」
「あ、いやまって蒼。人前じゃないならOK?」
「やっぱり緋は天才ね」
「ちょ、どっか行かないでくださいよ!人前じゃなくても想像しちゃうじゃないですか!!」
黎の言葉も虚しく、緋と蒼はくっついたまま楽屋を出ていってしまう。
「………碧さぁん……」
「ん?まああの2人らしくていいじゃん」
「いや……仲睦まじいのはいい事ではあるんですが……」
「ん?」
「………」
碧が黎の顔を見ると、黎は顔を真っ赤にしていた。
「ふふっ、なに黎ちゃん。顔真っ赤」
「いや、ほんと…想像しちゃうじゃないですか…!あんなこと言って出てったら!今私たちが見ていないところで、緋さんと蒼さんは一体ナニをしてるのか!!目の前でやられるより精神に来てるかもしれません!!」
「あはははっ!そりゃ、限りなくディープなやつをさぁ」
「うわああああああ!!!!」
「ふっ、あはははははっ!!黎ちゃん何がそんな嫌なのさ」
「私の中の……孤高のシンガーソングライターだった緋さんが崩れていく……」
「厄介だね」
「悪かったですね厄介で」
◇◇◇
ライブハウス前には、今日のライブのフライヤーが貼り付けられたプレートが置かれていた。
『7/4 (Sat) OPEN 17:30 / START 18:00 <Chandelier> ONE MAN LIVE “Provocation to Freedom Rockers” in 下北沢 CLUB 9』
ちなみに、今日のライブのタイトルを決めたのは蒼である。
開演まで自由な時間を過ごす。ストレッチしたり、蒼とマッサージをし合ったり、ギターを触ったりしていると、すぐに時間になる。
ライブ前のルーティーンとして、蒼とハグして深呼吸。よし。
「───最ッ高の<Chandelier>を、見せよう!!」
───SE『IGNITION』。デビューEP『<Chandelier Supernova>』1曲目に収録されているインスト曲で、重いギターサウンドから徐々に徐々に火力を強めていくような演出を伴うドラムが印象的。碧、黎、蒼、そして緋がステージへと進み、各自己の武器を取る。
ギター。Fender USA Custom Shop Jazzmaster (Olympic White)。
シンセサイザー。KORG MONOLOGUE (Silver)。
ベース。Fender USA Custom Shop Jazz bass (Blue Metallic)。
ギター。Gibson ES-355 (Cherry)。
ドラムセット。TAMA Starclassic Bubinga (Emerald Sea Sparkle Fade)。
ドラムスティック。TAMA Traditional H7A。
それが、<Chandelier>のサウンドを担う相棒たち。
SEのフェードアウトに合わせ、緋はマイクに手をかけ、フロアを埋め尽くす280人のオーディエンスに語りかける。
「───Are you ready?」
「Yeah~~~~~~!!!!!」
「っ─────!」
───返事をしかと聞き届け、『Opening Act』の演奏に入る。ジャキジャキとしたジャズマスターの音色がライブハウスを満たす。蒼と向き合い、体を揺らして、周りを巻き込んでいく。
黎と、碧とも目を合わせ、そしてフロアを埋め尽くすオーディエンスとも、目を合わせる。
───爆発。
蒼と目を合わせ、笑い合い、そして黎とも目配せして、碧とタイミングを合わせてこの弾ける爆竹のようなイントロを炸裂させる。
「シェイクイ!!」
「好き!!」
<Chandelier>ファンには言わずとも知れたScarletNight時代からの代表曲のひとつ、『Shake it all off』。燃え上がる炎、火薬が爆ぜる、とにかく膨大な熱さを伴う衝撃的なイントロに始まり、少し静かなAメロへと進み、サビでまた更にブチ上げる。
「Came on 下北!!」
激しい演奏に呼応するように、激しく光り輝きステージとフロアを照らす照明。ギターとベース主体でオーバードライブのサウンドを叩きつける、まさにハードロックの王道中の王道を突き進み、嫌なもの全てを置き去りにしていくような1曲。
「───ッいくぞ下北ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ~~~~~~~~ッッ!!!!!」
「ッあい!!!」
蒼のシャウトに続き、イントロ以上に爆発的なアウトロへ。
リズムに合わせて頭を振って、『Shake it all off』を終わらせに行く。しかし、音は止めない。余韻に浸らせる暇もなく、ドラムの裏でカポを外し、4人で目を合わせタイミングを確認するとすぐさまセッションへ移行、そして最後のひと撫での裏で4カウント。大きく勢いをつけて体を揺らし音を出す。『Farewell to the shitty band』のイントロへ。
「こんばんは<Chandelier>と申します!!今日は皆さんの心に、魂に!<Chandelier>こそが最高のロックバンドだってことを刻んで、染み込ませて、人生最ッ高の夜にしていきます!!」
「──Fuuuuuuu~~~っ!!!!」
「『Farewell to the shitty band』!!めちゃくちゃ盛り上げてくんで付いてきてくださいっ!!」
両手を頭上へ掲げ、手拍子を煽る。
「aaYeah!!」
豪快、かつ豪華で爽快、跳びたくなるようなギターリフで攻める。
叫ぶように歌い、挟まる間奏で蒼や黎、碧と目を合わせて笑い合い、またマイクに戻る。
「行くぞ暴れろ~~~っ!!!」
大きく仰け反ってジャズマスターを振り上げ、ハイキックを繰り出しながらマイクに頭突きする勢いで戻りサビへ。最高に気持ちよく叫ぶような歌で、フロアと一体になる。
間奏でまたメンバーと体を揺らすことでリズムを合わせ、一斉に楽器の音で殴り掛かる。2番へ移行。フロアの手拍子の一体感があまりにも気持ちいい。
「もっと暴れろ~~~~ッ!!!」
数歩ステップを踏んで後ろに下がり、ジャンプしてジャズマスターを膝で蹴り上げるようにしてピックはダウンストローク。1番と同じく頭突きする勢いでマイクに向かい叫ぶように歌う。
『Farewell to the shitty band』も、『Shake it all off』に引き続き、過去を振り払うような曲。弱い自分を捨て、もっとかっこいい自分を目指し続けるための曲。タイトルは直訳で『クソバンドにサヨナラ』。なんとも安直なネーミングだが、この真っ直ぐさが終緋らしさで、ファンに愛される所以とも言える。
「ありがとう!!!」
『Farewell to the shitty band』はアウトロへ。4人、オーディエンス共に体を揺らして、この曲を〆ると同時に掻き鳴らしてドラムソロへ。緋は水を喉に流し込んでメンバーとアイコンタクトを取り、次の曲のイントロへとその演奏を引き継ぐ。
揺れるアルペジオ。夜の光る街並みが浮かぶような旋律が緩やかにライブハウスを照らし出す。
1stアルバム収録曲『Lighting City』。緋のシンガーソングライター時代のオリジナル曲『シティライト』のリアレンジ版として生まれ変わった曲。
「下北ァ!!!」
大きく体を揺らしてイントロ本番へ。エモーショナルに振り切ったサウンドが体を熱くする。
夜の街で1人きり、誰も聴いてくれない歌を歌い続けたあの日々を、4人で奏で歌いながら、目の前の280人のオーディエンスが乗ってくれるこの眺めに心の底から感動する。
「Came on!!!──O Wow wow!!」
「O Wow wow!!!」
「もっと声出せぇぇえ~~~ッ!!!!」
「O Wooow woooooo!!!!」
「Thank you!!!」
ラスサビ。ここにいる意味を叫び歌い散らして、アウトロ。できうる限りの最高の演奏を届けて、アウトロ最後のひと撫で。拍手喝采とその余韻が消えないうちに、また次の曲へと移りゆく。
緋はジャズマスターをスタンドに下ろすとシンセサイザー、モノローグの鍵盤を叩きツマミを回す。
蒼のベースと共に、心臓に響く低音でグルーヴを感じさせる。リズムキープをモノローグのリピートに任せて、緋はマイクスタンドからマイクを抜き取る。
「踊ろうよ。下北」
黎のギターもさり気なく変わっている。サンバーストカラーのFender製ストラトキャスター。ダウンチューニング用のギターだ。
とにかく低音。重たい音で体を揺さぶる。重低音アレンジ版『Nadeshiko』。
溢れ出す、リズムに乗って跳びたい、踊りたい、体を動かしたいという衝動。
手を挙げ、振って、音の世界に酔って狂っていく。
グルーヴの鬼と化して、『Nadeshiko』、続けて『悪意無き悪へ』も重低音アレンジでぶつけていく。さらに、流れるように次へ。
黎はES-335に持ち替え、緋もモノローグを触りつつ再びジャズマスターを構えて弾き鳴らす。
「ノーリミ!!!」
「~~~~!!!!」
『No Limiter』。ノーリミの愛称で親しまれる<Chandelier>のライブの定番曲。流れる連撃のように英語歌詞をフロアへと飛ばしていく。
「Yeah yeah yeah!Everyone came on!!」
───煽る。返されたコールに更に返す。
「Yeah yeah yeah!もっと声出せぇぇえ!!!」
煽れば煽った分だけ、みんなが声をくれる。
楽しい。最高の『No Limiter』だった。アウトロからドラムソロで繋げる。碧には本当に感謝しかない。
「続けて行けますか下北ァ!!!」
「Yeah~~~~っ!!!!」
「This one's called 『Scar』!!!」
「きゃぁぁああああっ!スカー好き!!」
ドラムソロから流れるようにバトンを受け継ぎ、緋のギターソロへ。エモーショナルなアルペジオから、高速ストロークへ。そして仲間と息を合わせてイントロ本番へ。ベースがリズムとメロディラインを支える、静かだが確かな熱さの籠ったAメロ。シンセの柔らかい電子音もそれと共鳴し、ふつふつと滾ってくる感情を刺激する溜めを作ってサビへ。
「───Everyone!!!」
『Scar』は<Chandelier>にとってデビュー曲とも言える大切な1曲。ライブでも確実にやる定番曲で、無論、トップクラスの人気曲。一緒になって歌えないファンはいない。サビのフレーズは、オーディエンスと皆で歌う。
最高の大合唱。自分の作った曲が、こんなに沢山の人に聴いてもらえて、そのうえ覚えて歌ってもくれるなんて、傷だらけだったあの頃の私に話しても信じて貰えないだろう。いや、どうだろう。そうなって当然と思うだろうか。
2番サビ、ラスサビも共に最高の大合唱を巻き起こし、『Scar』はアウトロへ。キラキラとした旋律を響かせ、体全身、意識の全部も使い倒して、体を動かしメンバーやオーディエンスとの意思疎通もして、楽しみ尽くしてこのアウトロを〆る。ここまで、Shake itから数えて6曲。あまりにも全力で飛ばしすぎたため、少し休憩のためにMCを挟む。ジャズマスターを下ろして、水をがぶ飲みして、マイクに向かう。
「改めましてこんばんは<Chandelier>と申します!!」
「Fooooooo~~~~っ!!!」
「いやぁ……ほんっと楽しい。『Scar』の大合唱とか、みんな、一緒に歌ってくれて本当に嬉しかったです。どうもありがとうっ!!」
拍手喝采をドラムで取り持ち、ライブを進める。
「……それじゃあ、次は、少しゆったりとした曲で、攻めようと思います。聴いてください。『愛されていい』」
スタッフからCPX1000を受け取り、アコースティックバラードアレンジバージョンの『愛されていい』を演奏。ゆったり、すこししんみりとしたような、ほっこりしたような。そんな優しい歌とサウンドで、オーディエンスをまた別の<Chandelier>の世界へと引き込んでいく。さらに続けて『渇望』のアコースティックバージョン。こちらはデビューEPにも収録されたアレンジバージョンだが、そこからさらにゆったり目にしてある。初っ端からブチ上げてグルーヴで押して暴れさすような曲を続けてやっていたので、このアコースティックバージョンは穏やかに心を癒していく。さらに続けて『スターゲイザー』。少し寂しさを感じるような旋律。そして『Side You』。この曲は1stアルバムのラストに収録されている曲で、あまりライブでやることが無いレア曲。いつも隣にいてくれる蒼のことを思い描いて書いた曲で、ライブでやる頻度が少ないのは少しだけ気恥しさがあるため。さらに、2ndアルバムのラストに収録されている曲である『アスリスタ』を演奏し、アコースティックバラードアレンジ軍のパートを終わりにする。
「ありがとうっ!」
感謝の言葉と共にピックをフロアへ投げ入れる。
優しいバラードアレンジでほっこりしたところで、緋はCPX1000をスタッフに渡し、幌歌から譲り受けたサンバーストのジャズマスターに持ち替える。エモーショナルなコードを鳴らして、マイクに向かう。
「ここから少しずつ、またテンション上げていきますよ」
シンセサイザーの鍵盤を叩いていく。ふんわりと世界を彩る青と赤の照明。そして、ピンク色に。
「『桜錯乱』という曲です」
『桜錯乱』のアンビエントアレンジバージョン。静かだが味わい深い一時をご提供。そして次の曲へと繋げるため、シンセサイザーの音色は少しずつテンポを上げていく。
「『四匹狼』アンビエントからお送りします」
出だしはまださっきの静かな、まるで水族館のような雰囲気を残している。そんな状態から、サビへ、2番へと進むにつれて、いつの間にかテンションが上がっている。間奏を経て、溜め。4人で息を揃えて楽器をぶっぱなし、ラスサビから本来のハードロック仕様へと変貌。
「ラストスパート!ノンストップで駆け巡りましょう下北!!!」
もう、ここからアンコールまで、止まるつもりは無い。
「『This is self-talk!』!!」
『四匹狼』のアウトロから流れるように『This is self-talk!』へ。こちらも最高にイカしたハードロックだ。歌詞は緋の人生を薄っぺらい言葉を並べて語るだけのものなのだが、意外と隠れた人気がある曲。さらに『Evolution』へと続く。こちらも王道ハードロック。ガキュゴキュと金属が軋むようなサウンドで黎のES-335が唸り、UKロックの血筋を色濃く残す旋律でありつつも勢いで責め立てる。
───そして。繋ぎの演奏から、最後の曲へ。
「最後の曲です!」
───そういった時、少し寂しい気持ちになる。
「───『Aggressive Attack』」
煮えたぎる負の感情を原動力に、敵全てを負かす勢いでロックサウンドを響かせる。少し長いイントロだが、メンバー間、そしてオーディエンス。最大限のアクションで、取りにくいリズムを共有する。
攻撃的な言葉を英語で吐き出す。ここにいる人達はみんな私のことを好きでいてくれる人だが、そんなみんなにもきっと、憎くて憎くて仕方がない敵がいると思う。だからこの曲が、そんなみんなの原動力に、なってくれれば。
アウトロへ。
「─────ッ!!!」
───終わってしまう。
───アンコールがあると言ったらそれまでだが、この熱を途切れさせたくない。
「すみませんがもう1曲追加でやっちゃって良いでしょうかァ!」
「~~~~~~!!!!」
ただの叫び声でしかないが、「大歓迎だ」という想いは伝わる。
蒼と黎と碧と目を合わせる。蒼は「そうこなくっちゃ」みたいな笑顔。黎と碧は「仕方ないなぁ」とでも言いたそうな笑顔。スタッフさんは少し苦笑いをした後、手を挙げて「OK」とサインを出す。ごめんなさい。そしてありがとうございます。私のわがままに付き合ってくれて。
「ありがとうっ!!!」
モノローグの鍵盤を押し込み、ツマミを回していく。今回は低音からではなくしっかりと電子音らしいピコピコしたような音。
「皆さんの脳を、心を、想いを。揺さぶる1曲をお届けしたいと思います!『どうか、天空の星まで』。聴いていってください!!!」
───シンセサイザーの音から黎のタッピングへとバトンタッチ。
アドリブだが綺麗に決まった。宇宙の彼方に輝く星まで届いて欲しい暖かな気持ちを、このライブハウスから送り出す。
アウトロから、終わりにかかる。
体も楽器も暴れ散らかして音を奏でる。めちゃくちゃやっているようでちゃんと息ぴったりで纏まっている。そんな押し寄せる波のような音符の数々を吐き出して────
───何を血迷ったか、私はもう1曲追加する。
音楽とはアルコールである。私は酔っているのかもしれない。
あれで終わらせたはずのアウトロに続けてジャズマスターを掻き鳴らす。
「This one's called 『Wiper Dance』!!」
心の中でスタッフさんに頭を下げる。
けれど、本当に楽しいんだ。
毎回毎回最高のライブを届けたい。まだまだやりたいないし踊り足りない。そんなわがままで、もう1曲追加した。
「踊れぇぇぇぇええええ!!!!ッFu!!」
黎にイントロを引き継いでもらい、ジャズマスターを下ろす。スタンドからマイクを抜き取って、緋もステージ上で踊り狂う。
ステップを踏んで、身振り手振り、体も楽器であるかのように使って、オーディエンスも煽り、まさに全身で音楽をやる。
心で躍り体で踊って暴れ散らした。もう汗が止まらず髪も服も全部ずぶ濡れだが、不快感はゼロ。
「ありがとうございました<Chandelier>でした!!またお会いしましょう~~~~ッ!!!!」
蒼、黎、碧。3人の放つ楽器の音がシンクロするように、緋が指揮を執る。といっても、本能と衝動に任せて暴れているだけだが。
暴れて暴れて、アウトロを引き伸ばして、伸ばして、溜めて溜めて溜めて、最後に1発全力の爆音をぶっぱなす。緋は体を大きくのけぞらせて、この熱気を投げつけるように全身を振ってこの音を〆る。
歓声と拍手喝采の中、手を振ってステージを後にする<Chandelier>の4人。
鳴り止まない拍手は、やがて一体となりリズムを刻んでいく。
バラバラだった拍手は手拍子となり、そのリズムを早めていく。
「───アンコール!」
「アンコール!!!」
「アンコール!!!!!」
「アンコール────!!!!」
────アンコールを受け、<Chandelier>は再びステージに舞い戻る。
凄い歓声。改めてライブは最高だと思う。
汗だくになっていたので、シャツだけはさっと着替えた。<Chandelier>のロゴがプリントされたバンドTシャツだ。
「アンコールありがとうございます!!」
私の音楽を求めてくれるファンたちに心の底から感謝して、スタッフさんから受け取ったストラトキャスターを構える。
「アンコール1曲目。この曲は、私がバンドを組む前。ひとりで、曲を書いて、路上で歌ってを繰り返してた時代の曲です。『会えないあなたへ贈る歌』とい言います。聴いてください」
───少し寂しい、哀愁感のあるメロディ。そして、<Chandelier>では珍しく英語歌詞がほとんど無く、ストレートな日本語歌詞で言葉を届ける。
元は1人の弾き語り。<Chandelier>4人で演奏してもバラード調だが、ラスサビへかけて盛り上がりを見せる。紛れもなくバンドアレンジ、<Chandelier>バージョンとして生まれ変わっている。
大切な人。会いたい人。離れ離れになって何年経っても、その思い出は決して消えることなく心に残り続けている。
また、蒼に会えたならと。どん底で思い続けて、書いた曲だった。
「………っと、いうことで改めましてこんばんは<Chandelier>と申します!!!」
アンコール1曲目の演奏が終わり、ここでようやくMCパートへ。
「アンコールも、ありがとうございます。本当に嬉しいです。私の曲が、<Chandelier>の音が、皆さんに届いて、なんて言うか……本当に楽しいライブになってます。間違いなく、盛り上がりのプロフェッショナルの皆さんのおかげです。本当にありがとうございます!!」
パチパチと鳴り響く拍手を鎮めて、また喋り始める。
「…っと、アンコール……続けて、やっていかせて貰いたいんですけど………」
溜める。
「おぉぉぉぉ??」
その反応に、返答。
「───新曲が、あります」
「うおぉぉぉぉぉおおお!!!!」
「やっちゃって良いでしょうかっ!」
「Yeah~~~~~~!!!!」
「ヤッちゃって良いでしょうかァァ!!!!?」
「Yeah~~~~~~~!!!!!」
「安直すぎる曲名ですが許してくれますかァ!!!」
「Yeah~~~~~~~~!!!!!」
「『ヤケクソブチアゲソング』!!ブチ上がって行きましょう下北ァ!!!!」
「Yeah~~~~~~~~~~!!!!!!!」
碧の4カウントで演奏に移る。イントロから暴れ散らかす。
「暴れる準備出来てるかァァァア!!!!?」
「Yeah~~~~~~~ッッ!!!!!」
イントロからさらにシンバル4カウント、別の曲に切り替わるようにテンションを上げる。
あえて音楽理論を無視しまくった意味不明な転調でイントロからイントロ後半へ。
「Jump!Jump!Everyone!Came on!!」
飛び跳ねて、Aメロへと突っ込んでいく。死ぬほど乗りにくいリズムだが、今はまだ序章。この先のことなんて、オーディエンスは誰も知らなかった。
緋は歌うのを止め、わちゃわちゃのフロアに問いかける。
「ダイブ、モッシュ、経験ある人いる?」
「~~~~~!!!??」
そう。こんな質問をする意図が分からないわけが無い。半数くらいが手を上げる。
「ダイブ、モッシュ、嫌な人は?」
静まり返る。ならば。
「初心者に優しく。遠慮はいらないけど配慮は必須。痴漢絶対禁止。………<Chandelier>史上初。モッシュとダイブ、この曲の間だけ解禁します!!!暴れろ~~~~~~ッッ!!!!」
「Yaehhhhhhhh~~~~~ッ!!!!」
ハチャメチャに暴れ狂う。
「Make some noise!!」
ここまで2時間以上かけて、音楽というアルコールが脳と体に染み渡ったこの場の全員が、言ってしまえば酔っ払いなわけだ。
「現実とか考えなくていいから!!ここは“《《ライブハウス》》”なんだから!!!」
そうしてめちゃくちゃに暴れ散らして、『ヤケクソブチアゲソング』のアウトロを〆る。
肩で息をしながらマイクに向かう。
「ありがとうございました新曲『ヤケクソブチアゲソング』でした~~っ!!!」
「Foooooooooo~~~っ!!!」
「いやあ………ダイブモッシュ、初の試みだったんですけど、無事……怪我もなく終わって良かったです。楽しかった?」
「Yeah~~~~~~っ!!!」
「良かった!……で!……私もダイブしていい?」
「えぇぇぇ!!!?」
「いいよ緋ちゃぁぁぁあん!!!!」
「飛んで!!!!」
緋の質問に答えるファンたち。
「えっへへへへ!!」
ライブが楽しすぎて泥酔しており冷静な判断ができなくなっている。変な笑いで答える。
「………」
蒼がマイクに向かう。
「緋に傷1つつけてみなさい。全員私が殺すわ!!」
「!!??!?」
「それじゃ飛びます!!みんなちゃんと受け止めてよ!!!」
助走をつけてステージから飛び降りる。
くるりと回って、背中から落ちる。みんなが受け止めてくれた。
────ステージには、白いストラトキャスターとジャズマスターに加え、サンバーストのジャズマスターが並んでいる。
────学校の屋上からコンクリートの地面にじゃない。私が飛ぶべきだったのは、ライブハウスのステージからオーディエンスの手にだった。
担がれて、ステージに戻る。
「みんなありがとう!!!」
「変なところ触った人。殺すわ」
「ちょっと蒼…」
これはこれで蒼らしい。
「……いや、蒼もダイブしとく?」
「え?いや、私はいいわよ……」
「えぇ~~~?みんなも蒼がダイブしたら受け止めてくれるよねぇ!?」
「当たり前~~っ!!」
「おうよ~~っ!!!」
「だってさ!」
「………」
「───霜夜!!ダイブ!!!」
「!!」
「しーもーよっ!!ダーイーブ!!」
「しーもーよっ!!ダーイーブ!!!」
「しーもーよっ!!!ダーイーブ!!!!」
ダイブコールが巻き起こる。
「ね!大丈夫だって!」
「……仕方ないわねっ!!!」
蒼もジャズベースをスタンドに下ろすと、助走をつけてステージから跳ぶ。
「きゃ…!」
大丈夫。みんながしっかり支えてくれた。
「……はぁ……!」
蒼がステージに戻ってくる。
「どうだった?」
「…まぁ……悪い気はしないわね」
「そっか!ならよかった!…それじゃ、名残惜しいですが……本当に寂しいですが……!最後の曲にします!!!」
「ええぇぇ~~~!!!」
「大丈夫!また会えるから!!」
緋はスタンドからマイクを抜き取る。
「ラスト。踊って踊って、有り余る体力全部使い果たして、今日は脳みそ空っぽにして帰ってください!!This one's called 『Crap&jump!!』!!」
碧のテクニカルな4つ打ち。
「はい!ッはい!!ッはい!!ッはい!!Came on!!」
「ッはい!!ッはい!!ッはい!!ッはい!!」
「いいね下北!!!」
緋もリズムに合わせて飛び跳ねて、オーディエンスとひとつになる。
「手拍子!手拍子!手拍子!手拍子!!Came on!!!」
乗せていく。最後まで、全力で。
「行くぞ下北!!!Let's Jump!Jump!Jump!Jump!!!」
もう、『最高』以外の言葉が見つからない。そんな時間が、一瞬で終わっていく。
蒼と一緒になって体を振って、この空間を掌握。
バンドと、スタッフと、オーディエンスと。全員で、音と熱に乗せられて、泥酔。そんな時間が、永遠に続いて欲しいと思っているが、ライブとは花の如し。この時間が過ぎて散るからこそ美しく、また来たい、またやりたいと思うのかもしれない。
全身全霊を尽くした『Crap&jump!!』の、アウトロが、終わっていく。
「皆さん今日は本当に本ッッッ当に!!ありがとうございました!!!<Chandelier>でした!!!!」
こんな、生きてる実感が無いくらいに生き生きしていられる時間が。終わってしまう。
「またお会いしましょう!!!」
───最後の最後、爆音をぶっぱなして、音を止める。
「ありがとうございましたぁァッ!!!」
────その後。ステージから去ったはずの私は、鳴り止まない拍手が私を呼んでいるような気がして、吸い寄せられるようにもう一度ステージへと歩いていった。
「最後に1曲だけ!ほんとにほんとに最後だから!『スカイブルー』という曲です」
◇◇◇
「────緋。起きて。着いたわよ」
「……んぇ…?」
薄目を開ける。真っ暗闇の、車の後部座席。私は蒼にもたれかかって眠っていた。
「いいですよ、ゆっくりで。今日も本当によく頑張ってくださいましたし」
「ありがとうございます、菫さん。……ほら緋。降りるわよ。家着いたから」
「ぁ………ぅん…」
目を擦りながらシートベルトを外し、ハイエースから降りる。少しふらつくが、蒼が支えてくれた。蒸し暑い、夏を感じる夜の空気も、冷房の効いていた車から降りた直後だと心地良い。
「……私…は……」
───私はライブをしていたはず。
──記憶が無い。
───いや、あるにはある。私は確かに、ステージに立ち歌っていた。ステージ上で輝く私を見上げ、手を挙げ、共に音に乗り踊り狂ってくれた280人のオーディエンスの姿はしっかりとこの目に焼き付いている。
「………2時間半…一瞬だったな……」
「……そうね。本当に一瞬だった」
確かにライブをしていた。けれど私はついさっき家を出たところのように感じる。それほどまでに、あの楽しい時間は一瞬で過去になってしまっていた。
Shake it all offに始まり、オリジナル曲をただひたすらに披露し続けて、歌って踊って音に酔っていた。終わらせてしまうのが寂しくて、アドリブで本来セトリに入ってなかった2曲を追加でやって、アンコール1曲目時点で既に終了予定時間をオーバーしていたのにも関わらずもう1曲だけ更にアンコールをしてしまったくらいだ。それでも、終わってみれば本当に一瞬だった。
「……菫さん。今日はありがとうございました」
「はい。こちらこそありがとうございました。本当に良いライブでしたよ。どうぞゆっくり休んでください。お疲れ様でした」
「はい。お疲れ様でした」
車で走り去る菫を見送り、緋と蒼は玄関の扉を閉める。
時刻は午後11時。ギターとベースはひとまずリビングに置いて、朝着ていてライブ後に着替えて脱いだ服を洗濯カゴに入れる。
「緋は休んでていいわよ。お風呂沸かしてくるわ」
「うん」
うとうとしつつ眠ってしまわないように気をつけながら、蒼が戻ってくるのを待つ。そして、風呂が沸くまでの間は蒼と今日のライブの振り返りをする。振り返り自体はライブ終了直後や、片付けや車の用意を待っている間にメンバー全員でしているのだが、蒼と2人でもういちどする。バンドのツートップとしての自覚もそうだが、なにより、蒼と作ってきた思い出のひとつとして、大切にしていきたいのだ。
風呂が沸けば、蒼と一緒に入浴。ここで起こることについては秘密としておく。
風呂上がりにはお互いに髪を乾かし合い、保湿クリームやオイル等を付けて、甘いコーヒー牛乳を飲む。寝る前に飲むにはアレかもしれないが、あまり気にしない。寝室の冷房が効くまでの間、居間で少しゆっくりして、丁度眠気が回ってきたところで、もう日付は跨いで1時間ほど経ってしまってはいるが、この1日に終わりを告げに行く。
私が先に布団に入り、蒼は明かりを消してから布団に入る。
「おやすみ、緋」
「おやすみ、蒼」
おやすみを言って、キス。甘く絡みつくようなキスをして、お互いの体温を求めて抱きしめ合う。
暗い部屋の中で、夏の部屋の温度を下げるエアコンの音と、時計の秒針の進む音。毛布や布が擦れる音と、吐息の音、そして心臓の音が、ライブハウスの爆音を聴いてきた耳と脳に心地よく浸透してくる。
「………あおい…」
「なあに?」
「………ず…っと………っ…しょ…に……て…ね…」
「ええ。…ずっと一緒よ」
「ん………だい…すき…」
「ん。だいすき」
午前1時30分。最愛の人に寝かしつけられながら、就寝。
これが、この世界で1番幸せなふたりの一日である───。
……To be continued




