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<スカスカ>  作者: 連星霊
第7章【Violet】
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第77話【空飛ぶ船の操舵輪】

 はるとデートをした。

 はる、そしてSKYSHIPSへの後ろめたさというか、申し訳なさというか、そんな感情が拭いきれない中でも、ちゃんと私は春との時間を楽しむことはできていた。


 ───ScarletNightのことなんか、完全に忘れて。


「あぁ~っ…取れないっ!!」

 ゲームセンターのクレーンゲームの操作ボタンの前で、春はまた財布を開く。100円で1回、500円で6回の挑戦が可能で、既に1500円を溶かしている。

 春が取りたがっているのは、紫音がいた時代のSKYSHIPSが主題歌を担当したアニメのヒロインのフィギュア。2本のゴムの滑り止めが巻かれた棒の上に縦に置かれている、橋渡しタイプの台。現在、箱は縦向きのままナナメになった状況で、何度もこの状態から横に斜めになってまた戻る、を繰り返していた。

「…変わろうか?」

 クレーンゲームに夢中になる春のことを可愛いなと思いつつも、さすがにこのまま金を溶かし続けるのもどうかと思い、痺れを切らして交代を申し出る。

「ほんと?紫音しおんやれる?」

「少なくともはるよりは」

「ん、じゃあ期待する」

「あいよ」

 そう返事して自分の財布を開く。使える小銭は100円玉が4枚。他は一円玉や10円玉ばかりだ。両替に行くのは面倒くさいし変わった手前格好がつかない。

「……。……うん」

 400円を投入。

「え、あと100円入れれば1回お得なのに」

「残念なことに貧乏なんでな」

「じゃあはい」

 春は100円玉を1枚追加で入れる。

「…サンキュ」

「ん!」

 春が笑ってくれた。その笑顔を見て、改めて、SKYSHIPS時代の私は彼女にかなり救われていたのだと思う。なんというか、癒される可愛さのようなものがあった。一緒にいて心地良いし、何より“リズム”が合う。

「…よし、見てろ」

 まず1回。できるだけアームを箱の端へ持っていき、そして下がっている手前側を引っ掛け、持ち上げ、転がす。片方は滑り止めの影響で固定されており、片側だけ転がろうとして斜めになる。

「え、すご!!」

「んでもって…」

 2回目。奥を側をすっと持ち上げれば、するりと2本の棒の間を箱が落ちていく。

紫音しおん天才!2回だったんだけど!でも私の100円無駄になっちゃった」

「え、返還とかできねーの?」

 そう言って投入口付近を見るが、そのようなスイッチは見当たらない。

「できねーのか。まあ、フィギュアはやるから」

「え、いいの?ありがとう!」

「おうよ。ここまで頑張ってたのははるだからな」

 まあ、そもそもゲームセンターというのは思い出料金のようなものだ。物にいくらかけたとかは、些細な問題だと思う。そう思うことにする。3回ミスってただけと捉えればいい。春が楽しそうにしてくれている。私もなんだかんだで楽しいのは事実。

「…ね、クレープ食べたい」

「甘いもの好きだよなはるは」

紫音しおんも好きでしょ」

「…まぁ、否定はしない」

「えへへ」

 そんな春の楽しそうな顔につられて、紫音も無意識に笑う。


 春がイチゴと生クリームたっぷりのものを選び、紫音は少し考えた後にカスタードとチョコクリームのものを注文。

あめぇ…」

 そりゃそうだ。果物の酸味も一切なしのクリームのみなのだから。

「いーなー激甘。ねぇ、1口ちょうだい?」

「ぅえ、まあ、いいけど」

「ありがとっ」

 春は長い髪を耳にかけて、差し出されたクレープの紫音の口をつけていた部分に「はむっ」とかぶりつく。

「ん。激甘だ」

 春はほっぺたにクリームを付けて笑う。

「クリーム付いてっぞ」

「ん?」

 春はほっぺたについたクリームに舌を伸ばしてなんとか辞めようとするが、全然届いていない。

 そして、そんな春の姿が、なぜだかイケナイもののような気がして、ゾクッとした。

「っ………」

 艶やかな唇もそう。クリームのついた柔らかいほっぺたも、潤いある舌も。

「……ぎっ、行儀が悪いからやめた方がいいと思う」

「んゅ」

 とりあえず適当な言い訳を用意して、私は春のほっぺたに手を伸ばし、人差し指でクリームを拭いとる。

「ありがと」

「おう」

 危ない。今日はというか、再会してからずっと。春にドキッとさせられる瞬間が多くある。多分、久しぶりに会ったからだ。SKYSHIPSを辞めてから、1年の月日が流れているのだ。あの頃と少し感じ方や関わり方に変化があっても何もおかしくない。

 きっと、彼女の存在の大切さを改めて思い知っている。多分そんな感じだと思う。

「あ、私のも1口あげるね」

「おう。遠慮なくいくからな」

「どーぞ」

 春から差し出されたクレープは、既にそこそこ食べ進められていて包み紙も少し破られていた。形が歪にはなっていないためどこからでもいけるが、ここは端から。イチゴを狙ってかぶりつく。

「ふふっ」

「なんだよ」

「関節キス」

「…っ……」

 むせそうになるがなんとか耐えて、甘酸っぱい生クリームとイチゴを噛み締めて飲み込む。

「………お前……なんか心臓に悪いことばっかするなぁ」

「ドキドキしてくれてるの?」

「……分かんねぇ。そうなのかな」

 そう言うが、春はクレープを頬張るパートに入ってしまっており返答はできない状況になっていた。なら、と紫音もクレープを平らげる。

「…私ね、紫音と一緒にいるとすごくドキドキするの」

 食べ終わって包み紙を手で丸めながら、春は呟く。

「…前に言ったコト…忘れてないよね」

「……ああ。覚えてるよ」


 ───貴女の事が好きです。ライクじゃない、ラブの方。もしずっと一緒にいてくれるなら、凄く嬉しい。

 ───返事、待ってます。


「…本当なの。紫音しおん。私、貴女のことが好きなの」

「……好き……か………」

 それ即ち、『恋』。

 私は、そんな目で春を見れるのだろうか。

「……はる。…私は………」

 口の中の水分が無くなっていく。

「………私は……好きとか……恋とか………よく分かってなくて……だけど………!」

 いつもは思った通りに、本音が出てくる。けれど、今私は、何か言いたいことがあるはずなのに、何も言えなかった。

「………なんて言えばいいんだ……」

「………紫音」

 春の柔らかい体に抱きしめられる。

「春……」

「ごめんね。……変なこと言って」

「謝んな。…私が分かんないだけなんだ。………いつもいつも……人の気持ちが…分からないから……だから……」

 だから。私はどうしたいんだ。


「───教えてくれ」


 助けを乞うように絞り出した言葉。


「……分かった」

「……!」

 ぎゅっと抱きしめられて、その腕がほどかれる。


「私も、教え方なんて知らないけど。…でも、教える。紫音に好きって言ってもらえるように」


「……ああ。宜しく頼む」


「うん」




◇◇◇




 ───そんな、紫音とのデートを経て、私はSKYSHIPSメンバーに連絡をした。

 まずは、楓花ふうか。『明日暇?』とラインを送ると、速攻で既読が着いた。『暇』と帰ってきたので、 私は、


『お昼、一緒にご飯食べに行こうよ。SKYSHIPSで』


 と返す。

 少し時間を置いて、『了解。待ち合わせ場所は?』と返ってきたので、3人の家から1番丁度いい距離の駅を指定。時間は11時集合とした。


「……さてと、楓花はOKだけど………結衣ゆいは……」

 結衣とは、事務所に『しばらく休ませて欲しい』と頭を下げたあの日を最後に一切連絡を取っていない。

「………」

 紫音がいなくなったあの日から、どんどんどんどん、まるで病に犯されたように、神経をすり減らして、最後にはもう疲弊しきって、完全に塞ぎ込んでしまっていた。

 ラインは恐らく未読無視される。ならば、電話。

「お願い…出て、結衣ゆい…!」

 電話をかけてみる。何度コールがなっても、出てくれない。

「紫音が戻ってきてくれるから……!お願い結衣!私たちには『SKYSHIPS』が必要でしょ!?」

 諦めない。結衣は押しに弱いところがある。何度も何度も電話をかけ続ければいつか必ず出てくれる。そのはずなんだ。


「────ねぇ……結衣……」


 ────出てくれない。


「………結…衣……」




◇◇◇




 かなり長くなった黒髪を纏めてパーカーの中に入れると、サングラスをかけて家を出る。

 《《買ったばかりの新しいスマホ》》の画面には、待ち合わせ場所に指定されたファミレスへの経路案内が映っていた。

 ファミレスへ入ると、奥の席に既に待ち合わせている対象らしき3人、座っていた。らしき、というのは、実際に会うのが初めてだからだ。

 茶髪ボブの少女と、オレンジ髪のショートカットの少女と、水色の髪のロングヘアの少女。事前に言われた特徴と一致する。

「初めまして。『ユイ』です。すみません、私が募集したのに、待たせてしまって」

「いえいえ、全然。時間ピッタリですよ。こっちどうぞ」

「ありがとうございます」

 私は空いている茶髪の少女の隣に座る。

「…改めて、今日は私のバンドメンバー募集に集まって頂きありがとうございます。ギターボーカルを担当します。『ユイ』です。よろしくお願いします」

「すごいお淑やか…。ユイさんもしかして芸能人だったりします?」

「芸能人とかではないですよ」

「サングラスかけててもめちゃくちゃ美人なの分かるし……」

「容姿を褒めて頂きありがとうございます」

「ってか、服も凄く良くない?お嬢様?」

 身に付けている服は見るだけでも分かる高級ブランド品。

「いえ。ごく普通の一般家庭の生まれですよ」

「………。それでその服はおかしいでしょ。……私、男に体差し出すような奴なんかとバンド組みたくないんだけど」

 水色の髪の少女の機嫌が少し悪くなる。

「……まあ、隠さなくてもいっか…。…これなら納得して頂けますか?」

 ───私はサングラスを取った。


「………嘘……でしょ……!?」


 ───現代の音楽好きなら、絶対に分かるその顔。艶のある長い黒髪と、見るものを圧倒する赤みを帯びた紫色の瞳。バズりにバズった、J-POPの最前線に立っていたガールズユニットのギターボーカル。


「───SKYSHIPSの……才禍さいか結衣ゆい………!?」





……To be continued

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