第73話【ロストワールド】
ライブは進み、遂にラスト。<Chandelier>の出番がやってきた。
ステージに進むと、アンプとベースをシールドで繋げてサウンドチェックに入る。チューニングは良し。音量は碧のドラムに合わせる。<Chandelier>は特にベースが核になるため、他のバンドと比べ少し大きめにするのがポイントだ。ギュアー、と緋と黎のギターもそれぞれ良い音を奏でる。トトトトト、と碧のドラムも音を鳴らす。緋と共にマイクスタンドの角度と高さを調節し、ピックホルダーの位置もそれに合わせて微調整してくっつけ直す。声を出してマイクの音量もチェック。そしてまた楽器の音量の確認。言葉も交わさず、それぞれの楽器の音量や音質を調節していく。息が全く合っていないようで実はしっかり合っている。そんな、この何気ない時間が地味に好きだったりする。
思う存分準備を整えると、4人は1度ステージ裏へ戻る。
音のない時間。この準備と出番のほんの隙間の時間、この瞬間だけは異様に緊張する。場数はそれなりに踏んできたが、この瞬間だけはどうも慣れないまま。
「緋。少し抱きしめさせて」
「うん」
緋を抱きしめて精神を安定させる。とても温かくとても柔らかい、最高の抱き心地。他に何もいらない。いらない緊張はここに置いていく。
「………ふぅぅ……。ありがとう」
「いいって。……それじゃ、皆、今日も私からひと言。デビュー前最後のライブ、悔いの残らないよう、全力でやろう!」
◇◇◇
「……お願いします!」
緋がスタッフにひと言声をかけると、入場SE『Opening Act』が流れ始める。4人はステージへと進む。埋め尽くされたフロアからの歓声を浴びながら、蒼はスタンドからジャズベースを拾い上げ、ストラップを肩にかける。少し前のめりになって、低い位置に陣取るベースの弦に指をかける。緋はストラトキャスターを、黎はES-335を、それぞれ構える。碧も椅子に座り、スティックを構える。
全員が全員と目を合わせ、頷く。『Opening Act』 のSEに被せて演奏開始、それに伴ってSEがフェードアウトし完全生演奏に切り替わる。
緋と蒼が中心となり、曲を作る。バンドの核となるジャズベースの低音。ストラトキャスターのハッキリしたサウンドがオーバードライブのエフェクターを通して心地よく鳴り響く。そこへ黎が被せてくる、ES-335のまるで鉄が軋むような音、そしてバンドを後押しする碧のドラム捌き。激しく点滅する照明。メンバー間で欠かさずに行うアイコンタクト。楽器の音の他にも体の動きでリズムを共有する。緋は蒼と向き合って楽器をぶっぱなして、その次は黎と向かい合って互いにギターソロをぶつけて火花を散らす。そして『Opening Act』をアウトロへと進行させる。
「お待たせしました<Chandelier>と申します!今日は皆さんに最っ高の時間をお届けするためにここへ来ました!最初から最後まで全力で楽しませるので皆さんもどうぞ全力で楽しんでいってください!!」
流れるように『Shake it all off』へと繋げる。燃え盛る爆炎のように激しく鳴り響く爆音。自分の奥底に眠る全ての感情をさらけ出して、弾き散らして吐き散らして暴れ散らす。何も考えずただ全力全開で楽器をぶっぱなす。この感覚だけは何にも変え難い心地良さがある。
「行くぞ下北ぁぁあ~~ッ!!!」
「オイ!!」
ライブではお約束となっているShake it all offラスサビ後のアウトロ手前の僅かな時間に繰り出される蒼によるシャウト。このライブハウスという空間にいる全ての人間が一体となって、声を上げる。
こっちが真のラスサビと言ってもいいくらいに盛り上がるアウトロを経て、メンバー4人で精一杯暴れ散らかして〆、緋はピックをフロアに向かって投げ捨てる。そして休む暇もなく碧によるドラムソロが始まり、その間に緋はギターを下ろして水を1口飲み、マイクをスタンドから抜き取る。
「まだまだこれから!もっともっと盛り上げて行きます。手拍子下さい」
ドラムソロからベースのルートにバトンタッチ、そしてそれに手拍子が加わってリズムを維持していく。黎と碧もそれに乗り、緋は『No Limiter』を歌い始める。通常のバージョンのような激しい疾走感はないが、オーディエンスとの一体感によりいつも以上の盛り上がりを実現させている。手を挙げ、ステップを踏み、頭を振り、全身全霊を惜しみなく使って人と音を纏め上げ、そして追い討ちをかけるようにドラムの手数を増やして勢いをつける。
「Yeah Yeah Yeah!!皆声出せぇ!!」
これまた恒例のNo Limiterアウトロのコール。ステージもフロアも関係ない。演者も観客もひっくるめて、この場の全員がアーティストであり、全ての音が曲の一部なのである。この空間にいる全員で作り上げた、この時間だけのNo Limiterを、目を合わせ、体を揺らし、息を合わせて〆る。
「シェイクイとノーリミでしたありがとうっ!」
もう既に肩で息をしている。暑い。水を喉に流し込んで、改めて、いっぱいになったフロアを眺めて口を開く。
「…改めまして、こんばんは<Chandelier>です!」
蒼と碧と黎で歓声を楽器の音で指揮しつつ、緋は話し始める。
「いやあの、本当に今日はこんなに沢山の方にライブに来ていただいて、一緒になって盛り上がってくれて、本当に嬉しいし楽しいです。皆も楽しい?」
各自テンションに身を任せて声を上げる。「楽しい!」と素直に答えてくれる人もいれば「イェーイ!」ととりあえず叫ぶ人もいる。皆に感謝しつつ、緋は続ける。
「…私は、自分の曲が全ての人に刺さる曲だとは思ってないんです。でも、皆はここに居る。ここにいなくても<Chandelier>を好きだって思ってくれてる人、足を止めて路上ライブを見てくれた人がいる。そんな皆のために歌います。いらないものとか、重たいものとか、全部ここに置いていってください」
ストラトキャスターを拾い上げて構え直し、曲名を伝える。
「This one's called『Scar』!」
メンバー4人で目を合わせ、演奏に移る。ゆったりとした前奏を経て思いっきりピックを振り下ろし、高速のストロークを経てイントロを炸裂させる。心の奥から全ての感情をさらけ出す。そのために必要な歌。<Chandelier>の曲はだいたいそうだが、それでもこの『Scar』という曲は特別だ。傷を負った自分が前を向いて進むために歌う曲。駆け巡るストラトキャスターのサウンドがじんと心に突き刺さる。低音から高音まで、英語も日本語も、なんでも使って、言葉にならない想いを音に込める。
弾き散らした。歌い散らした。叫んで、暴れて、汗を垂らした。
『Scar』のアウトロを引き伸ばし、そして4人でタイミングを揃えて〆、さらに流れるように、蒼、黎、碧によるセッションへ移行。緋はギターを下ろし、シンセサイザーでセッションに加入。これまたライブ定番曲の『Nadeshiko』へと繋ぐ。これまでのUKロック色の強い曲からは打って変わって、重厚感ある神秘的なサウンドへ。続けて『どうか、天空の星まで』のバラード調アレンジバージョンへと繋げる。身振り手振り、精一杯の動きで観客を纏め上げ、<Chandelier>の世界に引き込む。アウトロの最後、メンバー4人と200人以上のオーディエンスで体を揺らしてこの曲を終わらせ、照明が切れる。
拍手と歓声を受けながら、照明が再びステージを照らす。
「『Scar』、『Nadeshiko』、そして『どうか、天空の星まで』でした。楽しんで頂けましたでしょうか!」
緋が何か言う度に反応をくれる観客。ありがたい限りだ。
「ありがとう。…ってことで…告知というか宣伝というか!」
緋がそう言うと、蒼がステージ裏から色々物販で売っているものを持ってくる。
「まずは…これからいっちゃおうか。Tシャツ!」
白地に黒い文字で<Chandelier>と書かれたものと、黒地に白い文字で<Chandelier>と書かれたものの2種一応前から存在していたものだが、しばらく品切れ状態だったので再入荷した。
「白と黒の2バージョンあります!いい生地使ってるので是非沢山着てください!…続いて、ラバーバンドとステッカー!ステッカーは緋蒼黒碧の4色あります!こちらも是非買ってくださいっ。続いて、CD!1stアルバム『Trying to fly on a windy day』、2ndアルバム『Like Yamato Nadeshiko』!音源はサブスク配信もしてますが、こちらは歌詞カードとかも入れてあるので、バンドグッズとしても満足していただけると思います!……っと、グッズの宣伝も済んだところで、ですね。…事前に、告知していた、重大発表をですね。…させて頂いてもよろしいでしょうか!!」
何だ、何だとざわめくフロア。
ここまで来て、何故か心臓がドクドクと鳴っている。
深呼吸して、緋はマイクを握る。
「私たち<Chandelier>。…GR.PROJECTという事務所とご縁があり……!」
察しのいいファンはもうここで気付いて、手で口元を覆っていた。
「───WR-RECORDSというレーベルから、プロデビューが決定しましたっ!!!」
───その瞬間、悲鳴にも似た歓喜の声が聞こえてきた。
本当に、自分でも嬉しいが、それ以上に、自分たちと同じように、いや、自分たち以上にこうして喜んで、涙まで流してくれるファンがいてくれることに胸がいっぱいになる。
「バンドを組んで2年弱、私たちがここまで来れたのは、間違いなく、皆さんの応援があったからです。ほんっとうに、ありがとうございます!!…まだ詳しいことは言えませんが、そのうちまたお知らせします!……ってことで!こっから最後までノンストップでいきます!!どうぞお付き合い下さいな!!新曲いきます!!『四匹狼』」
緋はストラトキャスターを構え、メンバーで向かい合って体を揺らしてカウントを始め、全員で演奏に入る。
リズミカルで否が応でもテンションの上がる王道ハードロック。最近続いていたオシャレ路線から原点に舞い戻り、初期のScarletNightを思い出すような、尖りに尖ったビートが狼の牙のように攻撃的な英語歌詞で突き刺してくる。群れた狼の狩りのような1曲をぶつけ、続けて『Aggressive Attack』へ。これまた凄まじく攻撃的な曲。敵は音楽で黙らせる。自分を見下してきた者たち全てへ向け、『これが私だ。文句あるか』と開き直るようにして、見下す。脆い力強さを吐き出し、攻勢に攻勢を決め込んで無我夢中で音の暴力を世界に放つ。
『Aggressive Attack』のアウトロからセッションへと繋ぐ。
「Drum!“KOMURA MIDORI”!!」
緋はステージ下手側へと下がり碧の方を指さす。
「故村碧!!」
緋の紹介に合わせて勢いを増す、テクニカルなドラムソロ。続けて黎の紹介へ移る。
「Guitar!“KURAKI REI”!!」
歪んだ強烈なストロークで攻める黎。
「昏木黎!!」
「黎ちゃーん!!」
紹介と言うよりは呼びかけ。煽り。歓声を煽り、拍手を促す。
「Bass&Chorus!“SHIMOYO AOI”!!」
驚異的な指捌きで繰り出される速弾き、からのスラップ。
「霜夜蒼ぃっ!!」
ベースもかっこいいんだぞと言わんばかりに、蒼を目立たせる。
「Vocal!!終緋!!」
蒼の紹介で前に出る。ひたすらにストラトキャスターを弾き散らし、メンバー全員でめちゃくちゃに暴れてみる。続く演奏の中、緋はピックをフロアに放り投げてストラトキャスターをスタンドに下ろす。
汗だくだ。髪を後ろに払い除けて、上着を脱いでフロアに投げ捨てる。
「きゃぁぁぁ好き!!」
フロアから発せられる黄色い悲鳴。
「緋さん、なりふり構わず色気を振り撒かないでくださいっ」
黎も例に漏れずやられかける。汗だくで髪をかきあげる仕草は形容しがたい“良さ”がある。男女問わず殺られる。特に、あの上着をキャッチできた運のいい少女は卒倒してもおかしくない。
「緋ちゃんの上着!」
「大事に持っててよ!」
「はい!」
「落としたり汚したりしたらタダじゃおかないわよ!!」
「はっ、はい!!?」
蒼が怒鳴るように叫んだため、緋の上着を抱えた少女は少しビビった様子。これが蒼が発してきた中で過去1番のシャウトかもしれない気がして、メンバー3人は思わず苦笑いしてしまう。
「蒼ったらもう…。…それじゃあ!名残惜しいですが!これが最後の曲になります!!<Chandelier>ナメんじゃねぇぞ!!!」
マイクスタンドに取り付けられたままのマイクを握りしめ、そのまま叫ぶ。握ったスタンドごと横に構える。碧のシンバルロールと共に遠のいていくギターとベースの残響。ほんの少しだけ、刹那の無音からアンプの泣きだけが静かにこの場の空気の熱を逃がさない。
「This one's called………『Farewell to the shitty band』!」
体を揺らし、そのリズムに合わせて楽器を鳴らす。
歪んだサウンドがじわりじわりと近付いてくる。大きな一撃のリズムで大きく体を動かす。心地好いカッティングから、静かにガキャガキャとギターを慣らしていく。
「下北沢最後まで暴れましょうぅ!!!」
緋は頭上で手を掲げ、手拍子を促す。そして緋の動きを基準にして、全員で一気に盛り上げる。
リズムとメロディに乗ってガトリングガンのように放たれる言葉の数々。英語でも、理解できなくても、関係ない。ただノって、跳んで、手を掲げるだけでいい。心の底から音を楽しんで、嫌な気持ちを捨ててけばいい。それが、音楽であり、ライブだ。
全身を使い果たして、全力を出し尽くして、このライブももう終わる。
引き伸ばす。アウトロを終わらせずに、めちゃくちゃでもとにかく音を絶やさず、心を解放する。
「ありがとうございました<Chandelier>でしたぁっ!!!愛してるぜ下北ぁ!!またお会いしましょう!!」
全員で、体を揺らして、揺らして、揺らして、〆る。
「ありがとうございましたっ!」
◇◇◇
ステージの片付けをして、4人は楽屋で一息つく。
「今日やれることはやり切った」
「そうね。皆も乗ってくれたし、良いライブだったと思うわ」
「ですね」
「うん。値段以上のパフォーマンスはできたと思うよ私」
「ん。みんなもありがとう。…さ、フロア行こ。みんな待ってると思うし」
「ええ。はやく行きましょうか」
緋は蒼と共にフロアへ出ようと歩き出す。
「碧、黎。貴女たちも。これから<Chandelier>はもっともっと大きくなるわ。こうしてファンの人たちと近い距離で話すことが出来る機会も、そのうち無くなるかもしれないんだから」
「…うん。そだね」
「はい…!」
<Chandelier>の4人は楽屋から出る。フロアに入れば、そこでは沢山のファンが<Chandelier>の凱旋を待っていた。
「みんな…ライブ、どうだった?」
「最っ高でした!」
「やっぱり<Chandelier>が1番かっこよかったですよ!!」
「本当に良かったです!!」
「よかった……!」
「緋ちゃん、上着」
「あ、ありがとう」
「匂い嗅いだりしてないわよね?」
「しっ……ししししししてないですよ!?」
「蒼。ファンの子にそんな顔しちゃだーめっ」
「あ、Tシャツ黒の方ください!」
「はーい。2500円になります」
碧が物販を引き受ける。
──そして何人か物販の列が進んだ時、碧はある小女に話しかけられた。
「あの、碧さん」
「ん?」
同い年くらいの女の子だ。長い髪をポニーテールにしているが、毛先の方で縛っていたであろう跡がある。どうやらライブ慣れしているようだ。
「…あの、えっと…とりあえず、ステッカーの碧色」
「はい。300円になります」
碧は少女から100円玉を3つ受け取る。
「…えっと、その……よ、良かった、です。碧さんのドラムっ!私、す、す……す、好き……ですっ」
「あ、ちょっと…!」
少女は恥ずかしくなったのか、逃げるように走り去っていってしまった。
「……ふっ」
碧は、なんかほっこりしたというか、嬉しい気持ちになった。
◇◇◇
暗い街を歩いて、帰りの電車に乗る頃には、もうすっかり緋は力尽きて、蒼の肩に頭を置いて眠っていた。
「お疲れ様。…よく頑張ったわね」
蒼は緋を胸に抱き寄せ、抱きしめながら頭を撫で始める。
「…そういえばさ。緋、前まではライブ終わりで力尽きてたけど、最近すぐ寝落ちすること無くなったよね?」
「あ、確かにそうですね」
「……まあ、あんなにたくさんの人に来てもらってるんだし。ファンのみんなとお話しないなんて勿体ないじゃない。…ライブの後も、ライブハウスにいる間に、もっと楽しい時間を作りたいのよ。『フロントマンの私が物販行かなくてどーすんの』って、そう思ってるから、こうして電車まで耐えるようになったのよ」
「緋…ほんとあんたって奴は…」
「ちょっと。触らないで。私の緋に」
碧も撫でてあげようとしたのだが、蒼が緋を独り占めして拒否してしまった。
「えぇ……」
「……冗談よ」
「…の割には緋を抱きしめたままなんですが?」
「いいじゃない」
「うーん、まあ悪くはないけど!」
「最近、緋が私だけの緋じゃなくなってきているんじゃないかと心配になるのよ。だから私は誰よりも緋の近くにい続けなければならないの。分かる?」
「その理屈はよく分かんないけど、まあ分かったことにしとく」
「偉いわ。賢い判断よ」
「何その上から目線…」
「誰がなんと言おうと緋は私だけの大切な人なんだから」
「そんなこといちいち言わなくても」
「口出ししない」
「はい…」
「緋さんがいないと誰も蒼さんを止められない……」
「だからって起こそうとしないでよ。気持ちよさそうに眠ってるんだから」
「まあ、はい」
「よろしい」
蒼は宝物を抱えるかのように緋をしっかり抱きしめたまま、電車に揺られ続けた。降りる駅が近付くと、ようやく緋を起こしにかかる。
「緋。そろそろ起きて」
「…ん……あと5分……」
「降り過ごすわよ」
「緋さんのお守りも大変ですね…」
「大変だなんて思わないわ。可愛いじゃない」
「デレデレじゃん……」
「当然よ。…ほら緋」
「ん…」
蒼は緋を抱きしめたまま立ち上がる。
「それじゃあね。黎、碧。今日は最高のライブだったわ。また明日、感想戦をしましょ」
「うん」
「はい。緋さんをよろしくお願いします」
「ええ」
「……あれ、蒼、荷物荷物!」
停車すると共に、緋と降りようとした蒼だったが、緋に夢中で楽器とグッズを置いたまま忘れていた。
「あ…」
「まったく、私らが持ってってあげっから!」
ベース、ギター、シンセサイザー、グッズを黎と碧で持って、4人は同じ駅で降りる。
「ごめんなさい。私としたことが…」
「いいって」
「緋さん疲れてると思うので。家まで私たちが持ちますよ」
「…ありがとう。助かるわ」
蒼は緋を背中に担ぐと、帰り道を歩く。
「…意外と駅から遠いんですよね。蒼さんの家」
「ええ。苦労をかけるわね」
「私は大丈夫です」
「私も平気。緋と蒼にはお世話になってるし、このくらいはね」
「そうですよ。仲間なんですから」
「……ええ。仲間だものね」
仲間。本当に大切に想っているのは緋だけだが、それでも、仲間というのも温かいと思った。
しばらく歩いて、ようやく緋が目を覚ました。
「…ごめんほんと、寝てた」
「いいのよ。歩ける?」
「うん。ありがとう蒼。…それと、黎と碧も?」
「荷物持ち」
「え、ありがとう。もう大丈夫だから」
「気にしなくていいって。持つよ。私の荷物はシンバルだけだし」
「じゃあ、お願い」
「おうよ」
緋と碧の裏で、蒼は黎からベースを受け取っていた。
その後も4人でしばらく歩く。
「ってか、なんか新鮮だね、4人でこの道歩いてるの」
「そうね」
いつもは蒼と2人で帰る道。黎と碧も一緒になって歩くのは初めてだ。
「2人は気楽でいいなぁ。私と黎ちゃんはこの道戻らなきゃなのに」
「じゃあ泊まってく?」
「……ぅあ、そういう意味で言ったんじゃなくて!」
「そう?」
「蒼も迷惑でしょ」
「私は別に構わないわよ。緋とお義母さんに変なことしなければ」
「しないし」
「黎のことね」
「えっ」
「し、しませんよ何も!」
「じゃあ今日は2人とも泊まってこ?」
「私は遠慮なく」
「いや…着替えも無いし……」
「貸すわよそのくらい」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「やった、ライブ終わりにお泊まりとか青春な感じがする~」
「そもそも4人で一晩過ごしたのって半年くらい前にホワロと合宿した時が最初で最後でしたよね」
「確かに」
「まだまだチームワークの伸びしろがありそうだよね、私たち」
「それは同感っ」
◇◇◇
とまあ、なんだかんだで私と黎ちゃんは蒼の家に泊めてもらうことになった。
緋と蒼はまず先にお風呂に行った。2人が上がった後、私と黎ちゃんも一緒に入ることにした。
「厳つ……」
小柄な彼女の背中のタトゥーに戦慄しながら、髪を洗ってあげた。
タトゥーは厳ついが、小柄で童顔、甘え上手なところがある黎ちゃんはなんだが妹みたいでついつい可愛がりたくなる。怒られそうなので口では言わないが。
バンドのツートップと同じ良い匂いのする風呂場から出て、好きに使っていいと言われたオイルやらなんやらをやや遠慮気味に使う。相変わらず緋そっくりの緋ママ、茜さんの手料理をご馳走になって、居間ですこし寛いだ後、緋と蒼の部屋へと案内される。インテリアはモノクロでシックな雰囲気。緋のアコギがスタンドに立てかけてあったり、机周りは楽譜等で少し散らかり気味だが全体的には綺麗な方。しかしながら、女子の部屋というよりはアーティストの部屋だと思った。
ベッドの隣、床に2人分の布団が敷かれていた。
「ごめんね床で」
「全然。暖房も効いてて快適すぎるぅ」
碧は布団に倒れ込んだ。
「だらしないですよ」
「黎ちゃんは変なところでお行儀良いんだから…」
「碧までとは言わないけど、黎も、自分の家だと思ってくれていいから」
「…ありがとうございます」
蒼に言われ、黎も布団の上で座る。
「いーなー、私もここに住みたい」
「それもいいかもね」
「いや、冗談だし…」
冗談で言ったつもりが緋に肯定的な返事を貰ってしまい少し焦った。
「流石に5人で暮らせるほど広くは無いわよ」
「そっか。残念」
緋と蒼はふたりでベッドに横になる。
「…でも、こうしてさ。メンバー4人で揃ってるの、なんかいいよね」
「ええ」
「…だね」
「分かります」
「……みんな。これからもよろしく」
……To be continued




