第67話【渾身の1枚】
───12月。
終緋、霜夜蒼、昏木黎、故村碧。この4人体制で我が道を進むガールズロックバンド『<Chandelier>』は確実にその腕を上げていた。まだまだ満足とはいかないが、自分たちの音楽はその辺のバンドより圧倒的に上だという自信が出てくるくらいには目指すものに近づいている実感がある。
「……そろそろいいよね」
「ええ」
「はい」
「だね」
ライブ終わり。緋の呟きに3人は頷く。
「売り込もう。<Chandelier>」
◇◇◇
──売り込む。具体的にどうするかと言うと、CDをレコード会社に送り、レーベルと契約しデビューしようということだ。
「ここで録る」
緋はスマホの画面をメンバーに見せる。とあるレコーディングスタジオのホームページだった。
「セルフ?」
「そう。できるだけ出費を抑えるためにも、エンジニアの付かないセルフスタジオでいく。それに、完全に自分たちの実力だけでアルバムを作ってみたいっていうのもある」
「なるほどね。実力勝負、悪くないじゃん」
「ええ。私もいいと思うわ」
「私もいいと思います」
「<Chandelier>の命運がかかった1枚。レコーディングは2日でやる。最高の1枚を作るつもりでいるから。覚悟してよ」
◇◇◇
レコーディング1日目。楽器を抱えてスタジオに入る。
「まず合わせでやって、気になるところを録りなおして差し替え。これを繰り返す」
「了解」
「『Trying to fly with a tailwind』から。いくよ」
4人、息を合わせて演奏に入った。
この4人で確立した、<Chandelier>だからこそのサウンドを。
以前のミニアルバムと1stアルバムの時にやったやり方は、バンドの良さが失われていたような気がしていた緋は、今回この2ndアルバムのレコーディングをオーソドックスなパートごとに録るやり方から外し、できるだけ全員で演奏するやり方にした。
というのも、<Chandelier>の中心にいるのは緋と蒼であり、この2人が作り出すリズムにもう2人が乗るというのがこのバンドの基本である。1stアルバムの最大の失敗は、緋と蒼が別々になって収録したことに他ならない。2人が揃わないといつもの調子が出ないというのを自分で分かっていなかった。バンド演奏の核となるリズムを無くし、ありきたりなバンドサウンドになっていたのが、1stアルバムが閃光フェスの1stステージすら通らなかった理由であると緋は考えていた。
試行錯誤を繰り返し、音源として残す最大限のアレンジを加え、時間を最大限使って、1日目は収録曲のうち半分の6曲を録り終えた。
一旦素の音源を聴いてみる。
「良いんじゃない?」
碧の呟きに3人は頷く。
「ええ。まだまだだろうけど、1stとは比べ物にならないクオリティに仕上がると思う」
「ミックスは持ち帰って私がやる。みんな、今日はありがとう。明日もよろしく」
「悪いね、ミックスまでお願いしちゃって」
「いいよ。みんなにはお世話になりっぱなしだし」
「別に世話なんかしてないけど」
「ほんと感謝してるんだよ。碧が<Chandelier>に入ってくれて、本当によかったって思ってる。メンバーへの恩返しはどれだけしてもしきれない。いつも私が望んた曲に仕上げてくれるし。碧も黎も。本当にありがとう」
「…照れるからやめれ」
「私は素直にその感謝の気持ちを受け取ります」
「歳下は甘えれていいなぁ」
「何、碧は甘えたいの?」
「別にそんなんじゃないし。私はあんたに感謝されるようなことは何もしてないから。私がやってることは全部私がやりたくてやってんの」
「まあ、そう言うならそういうことにしとく」
「ほら。また明日もレコーディングするんだから、今日はもう解散ね」
「ん。お疲れ様」
「お疲れ」
◇◇◇
2日目。ひとまず残りの6曲を一通り録り終えるが、ここで完成とはいかない。
ここからはMIX。そして気に入らなければまた録るつもりだ。
ただひたすらにパソコンに向かい、マウスのクリックする音と、ヘッドホンから少し漏れた<Chandelier>の楽曲が部屋に流れる。
渾身の1枚。<Chandelier>の、終緋という女の運命を決める1枚。
この世界で、終緋を傷付けた全てを見下す。終緋を好いてくれる全てに感謝を伝える。そして悲しみを背負って生きる人の味方になりたい。
今に見てろ。
このアルバムが、私の本気の音楽だ。
────そして、しばらくが過ぎた。
「───できた」
<Chandelier>2ndアルバム、その名も『Like Yamato Nadeshiko』。
収録曲は、
1.Trying to fly with a tailwind
2.Nadeshiko
3.桜錯乱
4.This is self-talk!
5.Farewell to the shitty band
6.Scar
7.晴れた日の歌
8.Evolution
9.Accomplice
10.Wiper Dance
11.SkyBurst
12.アスリスタ
以上12曲。
「『Like Yamato Nadeshiko』。『Trying to fly on a windy day』を超える、<Chandelier>が作った超大作!自信持って言える。これは本当にどんなバンドにのアルバムにも負けない!!」
緋は1人、部屋の中で豪語していた。
◇◇◇
完成した音源を、メンバーにさくなを入れた4人と共に聴いてみる。
「──!!」
───全12曲。最高のロックサウンドだった。
「良い!めちゃくちゃ良い!!」
「ほんとですよ!緋ちゃん天才です!!」
「想像を遥かに超えたクオリティです!本当最高です!」
「緋、本当にお疲れ様!これなら絶対に行けるわ!頂点まで!」
「ありがとう!私も、私にできる全力を尽くした。この4人だからできたアルバムだと思う!あとはジャケット撮って入れたら本当に完成!」
「優秀なカメラマンもいるしね」
「責任重大ですね。私も最高の1枚を撮ってみせます!」
「期待してる。それで、アルバムが完成したら、書類と一緒に《《目立つ封筒》》に入れて目につくレコード会社に片っ端から送り付ける!!」
「これが一番大変かもしれないわね」
「でもやるよ。緋はMIX頑張ってくれたし。私も私に出来ることを頑張る!」
「私も頑張ります!」
「みんなありがとう!それじゃ、デビュー目指してできることをしよう!」
後日、黎の家で撮影したCDジャケットは、緋が洋服を着たまま着物に袖を通すその瞬間をアップで撮った1枚に決定。
アルバムが本当の意味で完成し、4人は大手からマイナーな所まで徹底的にレコード会社を洗い出して書類の制作にとりかかった。
プロフィールは簡潔に。動画サイトのチャンネルのQRコードを貼り付ける。
『<Chandelier>』とロゴを刻印した緋色の封筒にアルバムと共に書類を突っ込む。
この作業を何十回にも渡って繰り返し、ただひたすらに郵便を送りまくった。
できる限りの事はやった。使えるだけの金と時間を使って、自分は最高だと信じて、この世界に挑むための申請をした。
行けると信じている。だが不安もある。でも自分を信じている。結果は分からないが、強気でいることこそ大切だろう。『ほら、早い者勝ちだぞ、この神バンドと契約できるのは1社だけだぞ』と。調子にのるくらいが丁度いいんだ。…そう思うことにした。
……To be continued




