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<スカスカ>  作者: 連星霊
第5章【Scar】
62/75

第62話【祭】

 ライブハウス『新宿LEFT』。フロアキャパ500人の中規模の箱だ。

 本日開催されるのは、Bluelose主催のライブ『青FES』。出演アーティストは主催のBlueloseに加え、KAISEN、<Chandelier>、WhiteLogic、吐開唱動はかいしょうどう。計5組のアーティストが出演する。

「みんな忙しい中、出演してくれて本当にありがとう!今日は全員で!最高のライブにするぞ~ッ!!」

「「「「「おーッ!!!!!」」」」」

 総勢21人で円陣を組み、Blueloseのギターボーカル、妃乃愛ひのめの合図で全員声を上げる。

「じゃ、最高のスタートにしてくるッ!」

「頑張って!」

「おうよ!」

 Blueloseの5人はステージへ。


「───準備いいかお前らァ!!!」


 空斗そらとが叫ぶと共にオーディエンスが湧き上がる。


「最初っから飛ばしてくぞ~~ッ!!」


 ────青FESは、主催、Blueloseの最初にできたオリジナル曲『青春ブレイカー』から始まった。

 疾走感あるドラムとギターに乗せられる、青臭いのだがどこかサッパリしたメロディと歌詞。全体を引っ張っていくのは柊夜しゅうやのドラムだ。リズムに乗りやすく、それでいて在り来りな感じは無い。ベースはドラムと共にリズムを取りながらも、魅せるところで魅せるためにメロディを担当する箇所がある。基本的にリードギターのヒロがメロディを担当し、キーボードの凜々華は後ろに影を潜めながら全体のメロディに厚みを持たせるような役回りをこなす。そして2人のボーカルによる熱い掛け合い。

 起源にして、Blueloseの演奏形態を最大限に披露するような作りになっている1曲『青春ブレイカー』の演奏が終わると、続けざまに『羨望オミット』、『才能カラミティ』を演奏。どちらも劣等感から来る感情の数々を歌った曲で、ここまで3曲、空斗が作詞作曲に携わったものが連続で披露されていた。

 才能カラミティの演奏が終わったところで、最初のMCパートへ移行した。

「初めましてもしくはお久しぶりです!Blueloseです!」

 空斗が挨拶をすると、オーディエンスも各々声を上げて反応。

「えー、今日は待ちに待った我々の主催ライブということで。楽しんでくれていますでしょうか!!」

 空斗が聞くと、またみんな歓声を上げてくれる。

「ありがとう。今日は、我々も凄く楽しみにしてて。声かけられる限り最高のメンバー…アーティストをね、誘って。快くOKしてくれて。KAISENと<Chandelier>と、WhiteLogicと、吐開唱動のみんなにも本当に、ありがとうって言いたいし、ここに集まってくれたファンのみんなも。本当にありがとうございます!!…てなわけで。5組いるんでね。無駄話してる時間は無いんですけどね。次で最後の曲にしたいと思います」

 空斗が『最後の曲』と言うと、『えー』と残念そうな声が湧く。

「大丈夫大丈夫。主催権限でね。今日のアクトのラストにね、もう一度出番あるんで。それまで、俺らが選んで声掛けた最強のアーティストたちのライブをどうかよろしく!…それじゃ聴いてください、『星明消灯せいめいしょうとう』」

 ギターとキーボード、ふたつのメロディが交錯する、神秘的なエモを感じさせるイントロが始まる。

 頼りにしていた星明かりが消え、暗闇に放り出されたような、絶望感よりは悲壮感。やるせなさと、言葉にならないむしゃくしゃした気持ちを音符の並びに乗せて放った。目指していたものや追いかけていたもの、憧れていたもの。勝手に神格化して信じていたのは自分で、その対象が変わってしまったのを裏切りだと言うのは勝手に信じて勝手に思い込んでいた自分が悪かっただけで的外れだろうか。そんな、ある日突然、いや、じわりじわりと大人になっていってしまったある1人へ向けた自分の思いとその思いへの葛藤を歌い散らした1曲が『星明消灯』だった。だが、多くは語らないことで聞き手によっては様々な解釈が出来るのもこの曲のいいところで、ある人には目指したものの喪失、ある人には失恋ソングと、幅の広い受け取り方ができる歌詞も魅力の一つだった。

 そんな『星明消灯』の演奏が終わると、Blueloseの5人は集まり「ありがとう!」と叫んだ。

 転換を挟み、アクトは男性3人のスリーピースバンド『KAISEN』へ移る。

「初めましてKAISENと申します!今日は精一杯やらせて貰います!」

 ベースボーカルの匠海たくみの挨拶を経て、『マリンガール』を披露。その後も立て続けにオリジナル曲を披露し会場を盛り上げ、新曲『荒海』でその出番を〆た。



「──頑張れ」

「うん」


 ───KAISENから<Chandelier>へアクトは移る。



 ───ある程度の場数を踏んで分かってきた。本当の自分の音楽。目指したいもの。

 歌うのもギターを弾くのも好きだ。でもそれ以上に、ライブが。生演奏が好きだ。熱気。盛り上がり。臨場感。一体感。この空気を感じるために音楽をやっていると言っても過言では無い。

 今までの箱のキャパは多くて200人だったが今回は500人。2倍以上にも増えたオーディエンス。ステージからの眺めは圧巻だが、まだ足りない。いずれはもっと。何倍、何十倍もの人数の前に立ちたい。

 手にしたジャズマスターに誓う。

 誰もが知っているメジャーバンドに、私たちは。<Chandelier>は、成る。


  ───優しく響くアルペジオ。柔らかいオーバードライブの音色がエモーショナルな戦慄を奏でる。ひと撫でしたコードの余韻が消えていくのを待って、シンバルが4カウントを始める。

 ───4人が息を合わせて繰り出す爆竹が爆ぜるような『Shake it all off』のイントロが炸裂した。

 世界に、全人類に「私の音を聴け」と叫ぶように、激しいサウンドを叩きつける。

 <Chandelier>目当てのお客さんはおよそ80人。残りの420人、全員を飲み込む勢いで、この音の輝きを耳に焼き付けさせる。

「行くぞ新宿~~~ッ!!!」

 ひたすらに鬱憤を晴らすように、目の前の楽器をぶっぱなし、Shake it all offを〆、その最後の音が響いているまま次の曲へと繋いでいく。

 碧のドラムソロの裏で緋と黎はカポタストを外す。

 全員の準備が整うと、碧が緋へバトンタッチ。ドラムの音が止んで、緋のアルペジオが静かに鳴り響く。エモさに酔う隙をギリギリで留め、ストロークに切り替える。

「『Scar』!!」

 曲名を叫び、最高に熱いイントロでフロアを盛り上げていく。

 静かに語るAメロ、じわりじわりと、ふつふつと心の奥底に眠る感情を掻き立てるようなBメロを経て爆発させるようにサビで盛り上げていく、<Chandelier>らしい曲の流れで500人の心を掴んでいく。

 2本のギターの掛け合いと、リズムをキープし続けるベース。パワーよりテクニックが光るドラム捌き。少し走り気味に全員を纏めあげて引っ張るボーカルと、それに添えられるコーラス。緋、蒼、黎、碧、4人それぞれの音が一つ一つ目立ちながら互いを引き立て合う。

 傷だらけになった心の中身を歌い散らし、『Scar』のアウトロから続けてメンバー紹介に移る。

「Drums!故村こむらみどり!」

 緋がメンバーを人差し指で指し示す。碧はただひたすらにアウトロから伸ばした勢いでドラムを叩き散らしていく。

「Guitar!昏木くらきれい!」

 緋の左手、黎はES-335を掻き鳴らす。

「Bass!霜夜しもよあおい!」

 蒼も弦を思うがままにはじく。

「Vocal!ついひいろ!」

 緋はジャズマスターを高く掲げて掻き鳴らす。

「私たちが<Chandelier>だ覚えとけ~~~ッ!!!」

 4人、それぞれ暴れ散らかすように楽器を鳴らすが、全員の息は合ったままで、フロアの盛り上がりも途切れない。

 緋はジャズマスターをスタンドに降ろすとスタンドからマイクを抜き取る。

「まだまだ踊りたいか新宿ぅ!!」

 前に掲げたマイクが歓声を拾う。

「新曲やっちゃって良いでしょうかァ!!」

「───!!!」

 500人。ここまでノリよく盛り上がってくれるとは思っていなかった。予想以上に沸き立ったオーディエンスに、こちらも釣られて体の動きも声も大きくなっていく。

「This one's called…!『Wiper Dance』!」

 黎のメロディに続き蒼と緋で手拍子を入れ、音を足していく。

「踊れェ!!」

 リズミカルな旋律に乗せられ、この場の全員と体を動かしていく。

 耳に残るイントロを経て、ベースとドラムがビートを刻み、黎がギターではなく手拍子で演奏に参加、観客を巻き込んでこの場にいる全員を楽器にしていく。乗ってきたのを確認するとBメロからギターに手を戻し緋のボーカルの裏でもうひとつのメロディを流す。

 サビへ向けて溜めに溜めたテンションをギターが引っ張る。

「ワイパー!!」

 頭上に掲げた手を左右に振る。

 体全体で音楽を愉しんで欲しい。この空間に酔って欲しい。とにかく、盛り上がって、みんなに楽しんで欲しい。この場所は遠慮も何もいらない、衝動的に音楽に乗っていい場所なのだ。

 日々進化し続ける<Chandelier>のライブパフォーマンスを存分に発揮し、新曲『Wiper Dance』を〆、水に口をつけてMCパートへ。


「…改めまして、<Chandelier>と申します!」

 拍手喝采を受け、話を始める。

「えー、今日はありがたいことに、Blueloseの皆さんにお誘いいただいて、こんなに素敵な皆さんと一緒にライブができて、本当に、感謝の気持ちと、楽しい気持ちでいっぱいです!本当にありがとうございます!!…私たち<Chandelier>を初めて聴くって人も多いと思うんですけど、みんな盛り上がりのプロですよね絶対。今までで一番です。<Chandelier>史上最高のライブだと思います。本当にありがとう!」

 下げた頭を上げても拍手が鳴り止まないので、仕方なく前のめりに話を進める。

「それでは、もう1曲聴いてください。ここまで激しい曲で暴れたので、少しゆったりとした曲で。酔って下さい。『SkyBurst』」

 歪んだギターサウンドが、ドラムが迫ってくるのと共鳴するように揺れる。

 テンポは遅いがヘビーなサウンド。しかし何故か甘いような雰囲気のある不思議なメロディが奏でられる。

「───」

 音に乗って送られる、危なっかしさを感じる甘い言葉。

 激しく動いた後で少し意識がふわふわとするような、酔いが回ったような感覚のまま、ゆったりとしたリズムに乗って体を動かす。

 綺麗なようでほんのりと闇を感じる、新たな<Chandelier>の世界観に、皆が飲まれていく。

 そうして500人の心を掴んだ<Chandelier>のアクトももう終わりに近づいている。


「改めまして皆さん本日は本当にありがとうございました!」

 緋はジャズマスターを担ぎ直す。

「最後に、<Chandelier>とWhiteLogicの《《コラボ曲》》で、バトンタッチしたいと思います!!」

「───!?!?」

 さらっとコラボを打ち明けると会場から悲鳴にも似た驚愕の歓声が巻き起こる。

「WhiteLogic!Come on!」

 緋に呼ばれてステージに現れたWhiteLogicの5人。

「───ペンライト準備いいかぁぁ~~っ!!」

 星麗奈せれなが叫ぶと、「うおぉぉぉおお!!!」というオタクたちの咆哮と共にフロアが5色の光を放つ。

「ペンラ持ってない人も!一緒に手ぇ振って盛り上がっていきましょう!」

 真冬もこの箱の熱に浮かされたのか声のトーンが上がっていた。

 緋はそっとGコードをひと撫でする。

「…This one's called,『S4(エスフォー)』!」

 緋がつま先で床を叩きリズムをとり、演奏を開始。

 爽やかな中にどこか哀愁が漂うメロディを奏でていく。そして緋と真冬、2人で交互に歌い進める。もう1人のボーカルと4人のダンサーが追加され、今までにない光を放ってみる。

 これはこれで悪くない。それどころか凄くいい。全く別のアーティストと意見を交わしながら作る体験そのものが刺激的で、新たな可能性に気付く良い機会になったと思う。そして、ライブで披露してみて更に気づくこともある。ダンサーがいるということ、ファンへの煽り方、ファンのノリ方。全てが<Chandelier>のみでは味わうことの出来ないものになっていた。

 夏の思い出を音と歌と動きに込めて外へと吐き出して、<Chandelier>のアクトはWhiteLogicへと移り変わった。

「ありがとうございました!<Chandelier>でした!!」

「ありがとう<Chandelier>!!」

 真冬にバトンを渡し、緋はステージを去った。





 ───その後もライブは大盛り上がりで、『命が白紙になるまで』を初めとした代表曲を披露したWhiteLogicからバトンを受け取った吐開唱動が『革命家になれない僕らの叫び』等でパンクな世界へと誘い、最終アクトにはBlueloseがワンマンライブ開催を告知し『名刀』を披露。3時間にも及んだBluelose主催ライブ『青FES』は最高の状態で幕を閉じた。

 出演者が殆ど未成年のためこれから打ち上げとは行かなかったが、また今度都合のいい日に集まれるメンバーで集まろうということになった。




 ───そして、8月が終わる。



 ……To be continued

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