第59話【青フェス】
ScarletNightから<Chandelier>への改名を経て数日。季節は梅雨真っ只中で、紫陽花が綺麗に咲いていた。
居間の畳のスペースで、スマホ片手にネットニュースを眺めていた緋は俯いて言葉を零した。
「………紫音、SKYSHIPSに戻ったんだね…」
SNSではSKYSHIPS復活がトレンド入りし、初となるアリーナツアー開催が大々的に告知されていた。
「……私たち……本当に見下されてたのね…。少し悲しいわ」
麦茶がいっぱいに入ったグラスが乗ったトレーをテーブルに置いて、蒼は緋のすぐ横に座る。
「…私たちは私たちのスタイルで。<Chandelier>らしい音楽で上を目指す。この先何年かかってでも成し遂げる。…紫音の言うような、人に言われて自分を捻じ曲げる事でしか人に認められないなんて、そんな事は絶対にない。…それは楽な道に逃げてるだけだと私は思ってる。だから蒼。私たちは自分を見失わないために音楽をやり続けよう」
「ええ。音楽をやってまで、人の顔なんて気にする必要無いわよ」
2人は寄り添いながら手を握る。
「目指すは世界一のロックバンド。そしてそのためのひとつの目標が、ZOZOマリンスタジアムでのワンマンライブ。いつになるかは分からないけど、必ずやろう。蒼」
「ええ」
───2人が自らの目標を再確認したところで、緋の携帯にメッセージが届く。
「何かしら」
「Blueloseの妃乃愛から。主催ライブに誘ってもらってたじゃん。8月30日でいいかって」
「そういえばそんな誘いを受けていたわね。8月中ならまあ、ギリギリ夏休みシーズンだし悪くない時期なんじゃないかしら」
「ね。…他にどんなバンドが出るのか分からないけど楽しみ。会場も500人規模の有名な箱だし、凄く盛り上がりそう」
「Blueloseは私たちにとっては格上の先輩バンドになるし、そんなBlueloseが選んだ出演バンドは気になるところね」
「…それで今度、各グループのアクトの順番決めるために集まろうって。…各グループから1人以上来れればいいから、メンバー全員で行く必要はないみたい」
「じゃあ、<Chandelier>は私と緋がいれば十分かしら」
「そうだね。一応黎と碧には言っておこう」
「ええ」
◇◇◇
それから数日後。緋と蒼は、ライブハウス『新宿LEFT』を訪れた。
「お。来たねスカナイ。あ、今は<Chandelier>か。久しぶり。色々あったみたいだけど…来てくれてありがとう」
中に入ると妃乃愛が出迎えてくれた。
「久しぶり、妃乃愛。まあ色々あったけど……割り切って進むしかないから」
「…うん。頑張って。私、<Chandelier>はいいバンドだと思ってるから」
「…ありがと」
笑って礼を言うが、少し気まずい。元々Blueloseと仲良くなれたのは紫音の仲介があったからに他ならない。紫音とあんな別れ方をした手前、友達であろう妃乃愛とどう接していいか分からないのが正直なところだった。
「──<Chandelier>じゃん!久しぶり!」
「WhiteLogic!」
─WhiteLogicの真冬は、緋を見るやいなや嬉しそうに駆け寄ってきた。
「久しぶり。ホワロも誘われてたんだ」
「うん。知ってるアーティストがいて良かった。…それより、<Chandelier>、凄く良い名前だと思う!」
「ほんと?ありがとう」
「キラキラしてて凄くかっこいいと思う。…それでさ。<Chandelier>にひとつお願いがあってさ」
「お願い?」
「うん。…もし良かったら、私たちとコラボ楽曲作らない?」
「コラボ楽曲?」
「WhiteLogicと<Chandelier>、お互いに意見出し合って、1曲作れないかなって」
「へぇ、面白そう。いいよ、やろう」
「いいの?」
「蒼もいいよね?」
「…まあ、別に断る理由もないし」
「やった!ありがとう緋!蒼!」
真冬は2人の手をとる。
可愛いなこの子…と、緋は何処か上からの目線で思ってしまう。
その後もしばらく4人で盛り上がっていると、今日集まる全員が揃ったようで、主催であるBlueloseの空斗が集合をかける。
「みんな、今日は来てくれてありがとう。揃ったみたいだし、一旦こっち座ってくれ」
小さなテーブルを囲うように置かれた8つの椅子。各自好きなところに座る。
緋の右隣は蒼の定位置。緋の左側に、WhiteLogicの2人が座る。
集まったのは、計5組の出演アーティストの代表者たち。
4人組ガールズロックバンド『<Chandelier>』から、リーダー、終緋(Vo./Gt.)と霜夜蒼(Ba./Cho.)。
主催の『Bluelose』から、花形妃乃愛(Gt./Vo.)と井中空斗(Ba./Vo.)。
5人組のインディーズアイドルユニット『WhiteLogic』から、兎白真冬(Center/MainVo.)と黒姫舞(Dance)。
3人組のロックバンド『KAISEN』から、魚津匠海(Ba./Vo.)。
4人組ガールズバンド『吐開唱動』から、高嶺桃(Gt./Vo.)。
計8人。簡単に自己紹介を終え、妃乃愛が立ち上がる。
「改めまして、みなさん、今日は暑い中集まってくれてありがとうございます。今日は各グループの順番と持ち時間を決めようと思います」
「妃乃愛、改まりすぎじゃないか?一応全員顔見知りだし歳も同い歳以下だろ」
慣れねぇ、と言うように空斗が妃乃愛にボヤく。
「司会って、こういうものじゃないの?っていうか、顔見知りでもさ。高嶺さんは私らより格上だよ」
「…まあ、それもそうか。すまん、高嶺さん」
「いいのよ?別に。空斗君の言うことはアタシ否定しないし、妃乃愛ちゃんになら楽に絡まれても全然気にしないわ」
蒼の右隣、そう優しく微笑む高嶺桃。桃色の髪とパンクな服装が特徴的な少女だ。彼女がボーカルを務める『吐開唱動』は、現在開催中の10代限定のロックフェス『フラッシュシャインフェスティバル』通称『閃光フェス』の3rdステージへの進出が決まっている実力派ガールズバンドだ。
「えへへ、じゃあ、遠慮なくタメ口で行かせていただきます!」
「敬語じゃん……」
空斗のツッコミを他所に、妃乃愛は話を続ける。
「それで、順番だけどね。私たちBlueloseが主催だから、最初と最後にBlueloseを入れさせて欲しい」
「まあ、Blueloseのライブだしね。そこは口出ししないよ」
「ありがと。それじゃあ、これから、アクトの順番を話し合いで決めようと思います!」
「話し合い……」
人と話すのがあまり好きではない蒼は少し下を向く。
「大丈夫大丈夫。私たちと同じで、音楽やってる人なんて所詮は陰──」
「──おいおい、せっかく可愛い顔してんだから顔上げようぜ!」
──高めのテンションで放たれた圧の強い男性の声。スリーピースロックバンド『KAISEN』の魚津匠海。少し日に焼けた肌と短髪も相まって陽のオーラが凄い。
「ひッ……」
緋と蒼はお互いに身を寄せあって後ろに下がる。
「ちょっと。怖がってるじゃん」
匠海から見て右側、空斗を挟んで口出しする妃乃愛。
「怖がられるようなこと言ったか?」
「シャンデの2人は繊細だし男性慣れしてないみたいだから貴方みたいな陽キャにグイグイ来られるとそりゃ怖いでしょ」
「そういうもんなのか……すまん」
「なかなか可愛いのね、<Chandelier>」
「でしょ。でも、ライブになると人格変わるんだよ。<Chandelier>のライブは凄く盛り上がるから」
「それは楽しみ。…WhiteLogicはどうなの?」
「ホワロは凜々華が誘ったんだ。アイドルって俺はよく分かんないが、凜々華の好みにはドストライクだったらしい」
「曲は意外とオルタナティブ系のロック調だから期待していいよ。ロックバンドとはまた違うオーディエンスとの一体感が味わえると思う。ね、まふゆん」
「うん。…よろしくお願いします」
「それじゃ、ちょっと脱線したけど、順番決めようか。みんな、何番目がいいとかある?」
「アタシはラストかな。初っ端に切るには惜しいバンドだと自負してる」
「まあ、吐開唱動は閃光フェス3rdステージ進出決まってる程の実力者だからな…」
「WhiteLogicは<Chandelier>のすぐ後がいい」
「へぇ、理由聞いても?」
「ちょっと考えてることがあってね」
真冬は緋を見る。
「…ああ、そういうこと。私はいいよ、ホワロの前で」
「了解。KAISENは?」
「トリは吐開唱動が希望してんだよな。じゃあ、俺らが1番目貰うぜ。ぶち上げワッショイしてやんよ」
「1番っていうか、2番目だな。…よし。じゃあ順番は、Bluelose、KAISEN、<Chandelier>、WhiteLogic、吐開唱動、そんでもっかいBluelose!これでいいか?」
「いいんじゃない?」
「おうよ」
「異論ないわ」
「うん」
「いいと思う」
「ちなみに各グループごとに持ち時間は30分程度、多少の前後は目を瞑るよ」
「それじゃ、ライブ本番まで2ヶ月。各自練りに練りまくった渾身のセトリよろしく!」
各自返事をする。
「では…今日は集まってくれてありがとう!良いライブにしましょう!解散!」
……To be continued




