第58話【<Chandelier>】
「───初めましてェッ!!」
────4人、アイコンタクトを取り、息を合わせて叫ぶ。
「「「「───<Chandelier>です!!!」」」」
蒼、黎、碧はそれぞれの楽器を狂ったように鳴らし散らす。
「以後お見知りおきを」
緋はストラトキャスターを担ぎ直し、またマイクに手を添えて叫ぶ。
「…早速、新曲やって良いでしょうかァッ!!」
緋が叫ぶと、歓声が湧き上がる。
「This one's called────」
──楽器の音が静まるのと同時に、曲名を伝える。
「───『Evolution』」
疾走感あるベースの低音が響き、緋がギターをひと撫でする。ドラムが盛り上げ、黎のギターがガキャゴキュとメカメカしい金属音を響かせて激しいイントロへ。楽器をぶっぱなし、ただその楽しさをこのホール全体と共有するように、激しくも楽しさを詰め込んだメロディを響かせる。
緋の歌と蒼のスラップを主体に、合間合間にギターとドラムを挿していく。
次から次へと、メンバーの音を魅せていく。
───最高に楽しい。
激しく光る照明。激しく鳴る4人の楽器。
何もかも忘れて音楽に浸る。酔いが回った様な感覚がある。頭がクラクラする。このままでは意識が持っていかれるような気がする。それくらい、この空間は熱があって、言葉では言い表せないくらいの楽しい気持ちが溢れてくる。
アウトロから続けて『No Limiter』へ繋げる。
「暴れる準備出来てるかァ~~~ッ!!!」
全身全霊を込めて、限界を取っ払って、渾身の音楽を炸裂させる。
約4分、暴れ散らかして、No Limiterはアウトロへ。
「Yeah yeah yeah!!! Everybody, Come on!!」
「Yeah yeah yeah!!!」
「もっと声出せェ~ッ!!」
「Yeah yeah yeah!!!」
「もっと行けんだろ!!!」
「Yeah yeah yeah!!!!」
「ラスト!!!」
「Yeah yeah yeah!!!」
───No Limiterを〆る。
体が熱い。
汗だくになった髪を耳にかけて、ペットボトルの水を飲み干す。
ストラトキャスターを下ろして、マイクに向かう。
「……改めまして、ScarletNight改め、<Chandelier>と申します!!」
緋が挨拶をすると、拍手と歓声が帰ってくる。
「このシャンデリアという名前は……あ、見えるかな、Tシャツ。作ってきたんですけど……」
緋は観客に着ているTシャツを見せる。決して暴力的な発育を見せびらかしている訳では無い。
黒地に、白い文字で『<Chandelier>』と書かれている。
「ただのChandelierじゃなくて……これ、小なり大なりで囲ってます」
緋は、Chandelierの文字を囲う『<>』を指で指す。
「これも含めて、<Chandelier>というバンド名です。4人で決めました。この名前には、お洒落に、煌びやかに、かっこよく。みんなを明るく照らすような存在になりたい。そして、他の何よりもビッグになりたい。そんな想いを込めてます。…この名前に恥じないバンドになります。ScarletNightに親しみのある人はすぐには慣れないかも知れませんが、どうかこれからもよろしくお願いします!!」
拍手のフェードアウトに合わせ、蒼がマイクに手を添える。
「…私からひとついいかしら」
「蒼?」
「今日、6月22日は、我がバンドのボーカルギター終緋の誕生日です。この尊い存在の誕生をどうか祝ってあげて下さい」
「ちょっと蒼…」
「──緋ちゃんおめでとー!」
「おめでとう!」
「あ、ありがとう…」
あまり人に祝われたりしてこなかったので少し変な感じがする。
「…メンバー紹介行きます!まずはDrums!故村碧!」
緋のMCから流れるように碧のゆったりとしたドラムソロへ移行する。
「Guitar!昏木黎!」
歪みの少ない爽やかなフレーズを奏でる黎。
「Bass!霜夜蒼!」
碧のフィルインを挟み、黎から蒼へバトンタッチ。
スラップを交えながら、色とりどりの音を華麗に魅せていく。
「Vocal!終緋!…この4人で<Chandelier>です!!」
そして流れるように『Nadeshiko』へと繋げる。
ジャズ風味のゆったりした雰囲気のアレンジを加え、疲れを癒すようなサウンドを響かせる。
そしてアウトロから繋ぎの演奏を挟んで『桜錯乱』へ繋げる。それもまた優雅なアレンジが加えられており、ゆったり光る照明も相まって優しい空間が演出されている。
桜錯乱を〆、拍手を受ける。
「…みんな、今日は本当にありがとう。この1時間、本当にあっという間だった。今日みんなの前で演奏できて本当に楽しかったです!…本当にありがとう!!」
歓声も止まぬうちに、緋は続ける。
「最後の曲です!<Chandelier>舐めんじゃねぇぞ!!」
クライマックス。一層の盛り上がりを見せるフロア。
────照明はギターを持った緋のみを照らす。
───緋のアルペジオが響き渡る。ストロークに切り替え、三本指で持ったピックで力強く弦を斬り上げていく。
「───『Scar』!!!」
───静かな雰囲気をぶち壊すように、3人が合流し、最高のイントロが炸裂する。
そして音数が減り静かに緋のアルペジオが揺らめく。盛り上がったテンションはそのままに落ち着いたAメロへ移っていく。
じわりじわりと、ふつふつと湧き上がっていく衝動。
黎がメロディを付ける。
心臓の鼓動が早くなっていくのを表すように、少しずつ走り気味になっていくBメロを経て、サビでぶち上げていく。
叫ぶように、心の底からの声を歌って吐き出す。
言いたい事を言葉にするのは難しくて、例え必死に絞り出した言葉でも、それが誰かに伝わることは無かった。傷付いて、傷付いて、死にたくなるような日々を過ごして、誰かと出会っては傷付いてきた。たったひとつ、音楽に生きる意味を託して。感情は音に託せばいいと思った。言葉じゃ伝えられないことを、音に託して、吐き出した。それでも上手くいかない事ばかりだ。誰もが繋がることは出来ない。例え薄っぺらくても、誰にだって信念のようなものが、考えがあるのだから、分かり合うことが出来ない。そういうものだと割り切らないと生きていけない。そうやってまた傷付きながら、私たちは音楽に何かを求めて生きていく。これまでも、これから先も。
消えない傷を心に抱えたまま、私たちは生きていく。ただ、何か、その傷の痛みを抑えるものを求めながら───。
新しく目指す未来を、やりたいことを、好きなことをただ叫び散らす。
「───!!」
ラスサビまで歌い切り、全力でアウトロを駆け抜ける。
「ありがとうございました!!<Chandelier>でした!!」
アウトロから、ジャラジャラとギターを掻き鳴らして引き伸ばす。
「愛してるぜRAIN OF BOW!!」
最後の最後まで。時間いっぱいまで引き伸ばす。
「またお会いしましょう!!」
ギターふたつ、ベース、ドラム。4人の音が響き渡る。
4人は目を合わせる。体を揺らし、タイミングを合わせて、〆る。
「「「「ありがとうございましたァ!!!!」」」」
……To be continued




