第56話【再編成】
緋、蒼、黎、そして碧。再び4人になったScarletNightは、下北沢のライブハウスへ赴く。
たった15分の公演。アクトの合間に出番を貰っていた。
リハは簡単に済ませる。
楽屋で出番まで待機中。
「はぁ…初ライブ緊張する…」
碧は深呼吸して手首を回す。
「大丈夫?」
「大丈夫。心配はいらない。始まれば緊張なんて関係なくなる」
「そう。…信じてるからね。碧」
「まかして。…過去一のライブだって思わせてやるから」
「期待してるわよ」
「うん」
「…はぁ」
黎は息を吐くと、自分のほっぺたを両手でペチペチと叩く。
「切り替えた。…碧さん。よろしくお願いします!」
「うん。よろしく、黎ちゃん」
「…そろそろ時間か。行こう」
バックステージでしばらく待機し、前のバンドからバトンを受け取る。
ステージの証明が消えた中、各自、楽器の音を確かめる。碧はクラッシュシンバルを高い位置にセットする。
「高すぎない?」
「シンバルは高ければ高いほどいい。これが私のスタイルだから」
「そうなんだ」
「任せてって。ふざけてる訳じゃないから」
「了解。ライブで魅せてよ。私を世界一に連れていってくれるドラム捌き」
「了解、リーダー」
セットの叩きやすさは上々。音の質も高い。
「みんな準備はいい?」
緋が3人に聞き、3人は頷く。
緋はフロアの150人に向かい、スタンドマイクを口元に近付けて口を開く。
「───初めまして。ScarletNightです。今日は15分だけの出演ですが、どうかよろしくお願いします!…聴いて下さい、『どうか、天空の星まで』」
───すぅ…っと息を吸い、ストラトキャスターの音と共に語りかけるように歌い始める。ゆっくりとサビのフレーズを口ずさみ、響いたギターの音が消えていくのに合わせて黎のタッピングが特徴的なイントロに繋げていく。緋と蒼でリズムを作り、黎がメロディを乗せ、碧が迫力と疾走感を足してフィルインで綺麗にイントロを〆てAメロへ導いていく。
Aメロでも変わらず、リズムを作るのは蒼と緋。ギターもボーカルも無い間も、体の揺れでリズムは取れる。黎が裏で静かに単音を鳴らし、それらに碧が合わせて纏める。
碧は、的確に、緋と蒼のリズムに乗っていく。
───人間の本質は音楽にも表れるものだと思う。私は、人に、周りに合わせるのが得意だった。それがドラムの叩き方にも影響しているのだと思う。自分からリズムを取り、それに周りを乗せることはできない。だから、緋と蒼がリズム隊をやってくれるおかげで、そこに色を付けることができる。単調にさせず、飽きのこない曲に仕上げるのが私のドラムの役割。
スティック回しを絡めながら、Bメロを優しく叩いていく。
──たとえ力強い音が出せないとしても、細かいテクニックやパフォーマンスには自信がある。
碧は感じていた。
───この3人となら、最高のドラムが叩ける。
3人も感じていた。
───碧となら、最高の音楽を作れる。
緋は早くも確信する。
碧のドラムこそ、自分の目指す『最高にクールでオシャレなロック』を奏でるために必要な要素のひとつだと。
──最高。この一言では片付けられないけれど、この二文字以上の言葉を知らない。
───サビに入り、A、Bメロとは打って変わって一気に盛り上げ、叫ぶように歌う。
この、終緋と、霜夜蒼と、昏木黎と、故村碧の音楽を、世界に轟かせてやる───!!
───『どうか、天空の星まで』に続けて、『渇望』を演奏し、アウトロからメンバー紹介に移る。
「最高にイカした新メンバーが入りました!Drums!故村碧!」
激しく打ち鳴らしてアウトロから引き伸ばす。
「Guitar!昏木黎!」
黎もジャラジャラと掻き鳴らす。
「Bass!霜夜蒼!」
べんべんと低音を響かせる蒼。
「Vocal!終緋!」
緋もギターを掻き鳴らしていく。
「今日は短い時間でしたが楽しかったです!本当にありがとうございました!最後の曲、聴いてください!…This one's called『Accomplice』!」
──碧の叩いたシンバルでツナギの演奏に区切りをつけ、そのまま『Accomplice』のイントロを始める。
緋ただ1人による飾らない全力のフルストロークから、続けて、4人で煌びやかな前奏を放つ。
優しく囁くようで、尖っていて攻撃的な一面もある。そんなScarletNightらしさ全開の15分間だった。
「ありがとうございましたScarletNightでした!」
◇◇◇
たった15分のライブだったが、新たなScarletNightの手応えは十分感じられた。
帰り道、4人は軽い打ち上げとしてファミレスに入る。
「打ち上げっていつもやってんの?」
「しないわね」
「いつもはライブの後に私がすぐ力尽きちゃうから…」
「確かに、結構動いてたもんね。あれを何十分と続ける訳でしょ。そりゃダウンするわ。今日は15分だけのライブだったから、打ち上げやる体力あったってことか」
「まあね。あとは、ちゃんと歓迎できてなかったし、碧の歓迎会も含めて」
「え、なに私のためにわざわざ歓迎会とかしてくれんの?」
「そんな大層なものじゃないけどね」
「それでもいいよ。嬉しい。ありがと、緋」
碧は爽やかに笑う。こんな碧は初めて見たかもしれない。
「蒼と黎ちゃんも、ありがと」
「いえ…」
「別に、何もしてないわよ」
「謙遜しちゃって。私なんかに気を使う必要ないから。黎ちゃんも、歳は私がひとつ上かもしれないけど、バンド入ったのは私が後だし、敬語いらないから」
「え…いいんですか?」
「いいよ。ってか、同じバンドの仲間なのに敬語ってなんかよそよそしくない?」
「そうですか?」
黎は緋と蒼に聞く。
「確かに、タメで話せた方が距離近くなりそうかも」
「そうね」
「え、ええ…?」
「まあ無理にとは言わないから。試しに呼び捨てで呼んでみてよ」
「…緋。蒼」
「おぉ…」
「……慣れません……」
「……まあ、仕方ないか。気が向いたらでいいよ」
「気が向いたら………はい。頑張ります」
「……。で、ライブの打ち上げって何をするのかしら」
「え……」
「…打ち上げらしい打ち上げってやったことないから……」
「…まあ……私もよく知らないんだけど。…とりあえず、次のライブのこととか話す?今後の活動について、私は新入りだから特に知っときたいし」
「ああ、それなら碧にひとつ言っとかないといけないことがある」
「なに?」
「バンド名、変えるから」
「え、ScarletNightじゃなくなるってこと?」
「うん。メンバーも変わったしさ。気分一新のために」
「そっか。スカレって呼び方好きだったんだけどね。エルレっぽくて。…って、『レ』しかあってないか」
「碧、エルレ分かるの?」
「ん?まぁね。蒼は好きなの?」
「ええ。…幼い頃からずっと」
「蒼らしい。あんた捻くれてるくせに優しいもんね」
「私は私が優しいだなんて思ったことないわ。そこは解釈違いよ」
「そう?蒼は優しいよ」
「緋にだけはね」
「じゃあ別に解釈違いなんてことは無いね。…んで、新しいバンド名は考えてるの?」
「うん。碧が良いと思ってくれれば、これで行く」
「聞かせてよ。なんて名前?」
───碧に教える。
「良いじゃん。文句ないよ。めっちゃ良い」
「ありがと。じゃあ、この名前に決定でいいね?」
「ええ」
「はい」
「ん。じゃあ決まり!…次のライブで改名しようと思う」
「おっけー。次のライブの予定は?」
「来月。今月は新曲制作とアレンジを中心にやってこうと思う」
「了解」
「あ、そういえば、碧って学校は?」
「不登校」
「辞めてはないんだね」
「まあ行かないけど。…バイトはするつもり」
「じゃあ割といつでも集まれる感じって認識でいるよ」
「それでいいよ」
「…まあこんな感じかな。あんまり具体的に決められなかったけど」
「十分でしょ。んじゃ、何か食べて解散かな」
「ん。改めてみんな今日はお疲れ様」
「お疲れ様!」
……To be continued




