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<スカスカ>  作者: 連星霊
第4章【渇望】
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第49話【バンドとアイドル】

4月。ScarletNightの4人は、ライブ出演のためRAIN OF BOWを訪れた。店の前には、温かみのある手書きのプレートが立ててある。ライブタイトルは『RAIN OF BOW Presents「虹の箱」』。出演アーティストは4組と少なめ。

「お。来たね、スカナイちゃん」

店に入ると、夏姫なつきがいつも通りにカウンターで出迎えてくれる。

「トリなのに早いね。今日は君たちが1番乗りだよ」

「え、私たちが1番乗りですか?」

「うん。…まあ、今日は出演アーティストもそんなに多くないし……今日は逆リハでいくよ」

「じゃあ、それでお願いします」

「はいよ。…あ、そういえば、今日のチケット、ネット販売分がソールドアウトまで行ってね。そのだいたい半分がスカナイ目当て」

「半分!?」

「うちとしてもありがたいよ。ギャラははずませとくね」

「遂に音楽でまともな収入が…!!」

「まあ、まともな収入かどうかは分からないけど……高校生のお小遣いにしてはまあまあな金額になるかな」

「おおお…!」

「なんか、少しずつですけど、努力が報われてきた感じがしますね」

「だな」

「ね」

「…あ、グッズ置かせて頂いてもいいですか?」

「おお、もちろんいいよ。並べとくから、ホール行っといで」

「はい。お願いします」

「任せなさいな」



◇◇◇



セッティングとサウンドチェックを終える。

「いやぁ今日も絶好調だ」

緋は純白のストラトキャスターを「よしよし」と撫でる。

「綺麗になってよりいっそう愛着が湧いたみたいだな」

「そりゃあもう。私を世界一のロックンロールスターに成り上がらせてくれる相棒はやっぱりこの子だよ。この先、サブ機が増えていくこともあると思うけど、きっと私のメイン機はこの子から変わらない。CPXには申し訳ないけど、私の手にはこの子が1番よく馴染むし、私の目にはこの子が1番綺麗に写って見える」

「やれやれ、ゾッコンだな」

「緋は一途だから」

「知ってる」

「…緋、1曲やるわよ」

「ん。Shake itでいい?」

「OK」

緋と黎は4フレットにカポタストを嵌め、PAの雪麗に合図を送る。

「───」



───ScarletNightのリハーサルが行われているホールに、インディーズアイドルユニット『WhiteLogic』の5人が降りてくる。

「……!」

WhiteLogicの5人は、ステージに立つ少女たちに目を向ける。

「……ScarletNight……」




◇◇◇




進路希望調査、なんて、どう答えたらいいか分からなかった。

高校2年生、11月。私、兎白としろ真冬まふゆはその紙切れを眺めてため息をついた。

進路なんて知らない。私はアイドルをやりたい。それでしか生きられない。

小学校へ行き、中学校へ行き、高校へ行き、人によっては専門学校や大学を挟んで、結果、会社員として生きる。在り来りすぎてつまらなすぎる。誰の記憶にも残らないまま、何も成し遂げられないまま、消えていく。そんな風になりたくなかった私は“アイドル”に憧れを抱いた。だが、そんな、常識的な、世間一般のレールから外れた、所謂『正しくない生き方』は、『正しい生き方』をした人間、そうしようとしている人間からは見下される。

ましてや、私は普通の人と比べると圧倒的に劣っていた。生まれつき心臓が弱く、思うように運動できない私は紛れもなく、何者にもなれない産廃だった。

私のような人間にアイドルなんて無理だと、誰もが言うだろう。他の誰にも言わないで、私は仲の良い仲間内でこの胸に秘めた想いを共有し、幼馴染の黒姫くろひめまい、小学校からの同級生の夜攫よざらい星麗奈せれな芦原あわらかすみと共に、中学3年生の冬、インディーズアイドルユニット『WhiteLogic』を結成した。高校1年生の1年間を、作詞作曲と振り付け、衣装製作に費やした。そんな1年間を送り、2年生になりいざ活動を開始すると、梅雨が明けた頃にアイドル活動のことが同級生にバレ始めた。

「兎白さんたち地下アイドルやってるらしいよ」

「マジ?ウケるんだけど」

「確かに顔はいいけど、兎白さん体弱いんじゃなかった?」

「やめといた方がいいと思うけどなぁ」

「現実的じゃないよね。勉強した方が堅実じゃない?」

分かっていたことだ。知っている人からそんなことを言われることくらい。とっくに予想していたはずだ。それなのに。私は傷付いていた。


教室の窓から入ってくる秋の風に吹かれながら、途方に暮れていた。


「…真冬まふゆ?」

放課後、名前を呼ばれてようやく今が放課後だということに気付いた。

声の主は、金髪と碧眼が美しい、WhiteLogicリードボーカル担当の夜攫よざらい星麗奈せれな。今はメンバーで唯一同じクラスの人物だ。

星麗奈せれな…」

「…真冬まふゆ、最近元気無いよね。私で良かったら話聞くよ」

「別に何も」

「……何も無い人はそんな顔しないよ」

「………」

「……無理にとは言わないけど、もし良かったら少し散歩していこうよ。少しは気晴らしになると思う」

「……うん」

鞄を持って立ち上がった。


星麗奈せれなと共に、適当に街を歩く。

星麗奈せれなは優しい。困ってる人を放っておけない。捨て猫を拾ってくるような人だ。私も拾われた。拾ってくれたんだ。

「寒いね。ついこの間まで半袖だったのに。一気に寒くなったよね」

「うん」

「秋は体調崩しやすいかは気をつけなよ。…なんて、外に連れ出しといて、私が言えたことじゃないか」

「……星麗奈せれな

「ん?」

「…進路希望調査、書いた?」

「……あー、書いてない。真冬は?」

「私も。何も書けてない」

「一緒だね」

「……そうだね。一緒」

「……私もさ。よく分かんなくて…」

星麗奈せれなも?」

「うん。…私たちはさ。普通じゃない道を選びたかった。刺激は無いし今ひとつだけど安定した人生を送るって選択肢もあったし、今だってその道を選ぶことができる。というか、その選択をするのが正しい生き方なんだ。みんな、正しい生き方をしてる。そういうの見るとさ。私たちって、子供のまま夢ばっか見てるんじゃないかって思っちゃうよ」

「……分かる」

真冬まふゆさ。小学生の低学年のときとかにさ、将来の夢とか書かされたの覚えてる?」

「覚えてるよ。アイドルって書いた。それで、星麗奈せれなも同じだった」

「そうそう。私と真冬まふゆは、同じ夢を見てた。それに、他のみんなも、思い思いの夢を見てた。お花屋さんとかケーキ屋さんとかは定番だったし、男子はスポーツ選手率高めだった。…みんな、あの頃は自分が大好きで、人生にわくわくしてたんだ。…それなのに、みんな変わっていった」

「…みんな、現実しか見なくなった。…常識だから、って、割り切って、世界に消費されていく」

「そんなふうには、なりたくないんだけどね……」

「……私たちも、なりたくなかった大人になりかけてる」

「…周りに流されたくないって思っててもさ。やっぱりキツいよね。緩やかな川の流れに逆らっていくのは行けそうでも、激流になられちゃぁね…」

「……私はWhiteLogic続けていきたいよ…。死ぬまで」

「私も同じだよ」

「……でも、書かされるんだよ。進路希望調査」

「……道は舗装されて、ご丁寧に標識やガードレールまで設置してくれるんだ。正しい生き方をしたい人にとってはありがたいだろうけどさ。私たちにとっては苦痛だよね…」

「……このまま、ひとまず、ひとまず、って適当なこと書いて、それに従って生きていくようになるのが怖い」

「………そうだね……」

2人はため息をつきながら、公園に入っていく。

「………」


───少し賑やかだ。楽器の音が聞こえてくる。


「路上ライブやってるみたい」

「見に行く?真冬まふゆ

「うん。行ってみよう」

真冬と星麗奈は、音のする方へと向かう。


「───!!」


30人くらいが、4人の少女の前に集まっていた。

「───This song is called, “Shake it all off”」

集まるお客さんを掻き分けて、真冬の視線はギターボーカルの赤い少女に引き寄せられる。

「……!」

若い。同い歳くらいの少女。超が百個付いても足りないほどに可愛い顔をしていながら、ボディラインを把握しづらいストリート系のカジュアルコーデの上からでも分かるスタイルの良さ。そして、ビジュアルもそうだが歌唱力も凄まじい。低音から高音まで、幅の広い音域から繰り出される優しくも刺激的な歌声がグッと心臓を掴むように、体の芯を囲んでくる。残念ながら私に英語は分からないが、それでも彼女の想いが伝わってくる。音楽に感情が乗りすぎているのか、表情がコロコロと変わる。これまた顔面偏差値の高いベースの子と向かい合って楽しそうにギターを弾く時もあれば、間奏が終わりマイクに向かうと急に目付きが悪くなる。

ボロボロのギターを掻き鳴らし、彼女たちのオリジナルであろう曲を〆る。

「……ありがとうございました!ScarletNightオリジナル曲、Shake it all offでした!」


周りにつられるより先に、拍手をしていた。


「来週の日曜日、下北沢のライブハウスRAIN OF BOWのライブに出演します!予定の合う方は是非ライブ見にお越しください!後悔はさせないと約束します!」


「……真冬まふゆ…?」

「……凄かったね」

「……うん」

「…勇気貰ったよ。私」

「…私も」

「本気になっていいんだ。これくらい本気で、私たちもやっていいんだよ。自分のやりたいことを貫く。単純なことだった」

「だね。…進路希望調査なんか白紙でいいんだ」

「…誰に何を言われても、自分は曲げない。私たちは私たちだから」




◇◇◇




あの日、自分に気づかせてくれたロックバンド、ScarletNightが、私たちの目の前にいる。

同じステージで、ライブができる。その事に喜びを感じていた。

いつの間にか隠れファンみたいになっていたが、それほどまでにScarletNightは私に刺さった。気になって調べ、英語の歌詞を翻訳してみると、彼女たちの音楽にかける情熱と人生を生き抜く決意が顕になって、改めて、どうしようも無くカッコいいと思った。

Shake it all offの、内に秘めたる何もかもが爆発するようなイントロが始まった瞬間、気分が高まって体が揺れてしまう。

「……真冬まふゆの目、キラキラしてる」

「…まぁね。そうかも」

「推しのバンドだもんね」

「うん。…私たちはアイドルで、スカレはロックバンド。全然違うけど、刺さったんだよね。…話すと長くなるから止めとくけど」

「オタクになっちゃってるよ真冬」

「ま、推される側も推す側の気持ちは知っておいた方が良いよね~」

「……そうだね」


ScarletNightのリハーサルが終わる。


「OK。次、WhiteLogicちゃんね」

「はい」




……To be continued

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