第46話【劣化版】
3月下旬。黎も春休みに入ったため、ScarletNightは平日の朝から路上ライブに駆り出した。
「アコギですか?」
黎はさっそく緋の新たなギターに気づく。
「CPX1000。エレアコだから音量は大丈夫だよ」
「ストラトキャスターはどうしたんですか?」
「再塗装に出してる。しばらく入院」
「そうですか…!綺麗になって帰ってくるのが楽しみですね」
「うん。買った時から傷だらけだったから、新品同然の姿は想像もつかないけど…すごく楽しみ」
「ですね」
「だから、しばらくはこの子に頑張ってもらう。曲の雰囲気結構変わるかもしれないけど、たまにはいいよね」
「任せてください。アレンジ重ねるのは私たちの十八番ですし」
「ありがと」
「音色ひとつで変わるからな。まあ、やってみない事には分からないし、さっそく合わせてみようぜ」
「うん」
チューニングを合わせ、各自音量を調整する。
「何やるの?」
「んー、じゃあ、Crap&jump!!」
「いいですね」
「分かったわ」
「おう。じゃ行くぞ」
───紫音の疾走感あるドラムに、音を乗せていく。
サクッと1番だけ演奏してみる。
「…こっちのバージョンも良いな」
「ね」
「カバー曲もやるんですよね?せっかくアコギですし、アコギのサウンドを生かせる曲にしますか?」
「だね。…じゃあ、あの曲行っちゃおうかな」
「分かったぞ。緋の好きなやつだ」
「私ももちろん分かったわよ」
「え、2人とも『あの曲』だけで分かるんですか?」
「まあな」
「緋の好きなバンドの、アコギ使ってる曲。ミュージックビデオの再生数は億を超えてるわ」
「あ、分かりましたよ、アレですね」
「名曲中の名曲だよ。いつまでも色褪せない」
「そうね。私も大好き。特に2番の歌詞が好きなのよね」
「私も好きな曲だ。あの覚醒の路上ライブでやった思い出もあるし」
「他は…気分で決めよう」
「いつものアドリブな、了解」
「感覚に任せて勝手にやっちゃってもいいんでしょ?」
「うん。その時は任せる」
「相変わらず自由ですね」
「それがいい所なんだけどな」
「それは否定しません」
「じゃ、人集まるまではリハ的な感じで軽くやってこう」
「ええ」
「じゃ、Aggressive行っちゃおう」
「あいよ」
「まだリハなのに飛ばしますね」
「歌ってて気持ちいいからさ。まあ、ツイートもしたし、2曲3曲くらいやってるうちに人も集まる時間になるでしょ」
「だな」
───ベース、ドラムに続き、ギターがストロークとメロディを乗せていく。
思うままに体を動かして、Aggressive Attackを演奏する。
「…うん、良いね」
「アコギも別ベクトルの圧があっていいな」
「ね。良いよね。これからはアコギ用の曲も作っていってもいいかも」
「そうね」
「…よし、じゃ次は……あ、Blueloseの曲やってみない?」
「へぇ、なかなか新しいな」
「主催ライブにも呼ばれたし、いいんじゃないかしら」
「じゃあ、Blueloseで『星明消灯』と『青茨』続けてやろう」
「いけるかしら…」
「星明消灯って、なかなか絶妙なチョイスだな。緋、そんなBluelose聴いてたのか?」
「主催ライブに呼んでもらったし、一通り聴いたよ。どの曲も凄く良い曲でさ。…正直、少し悔しい」
「私たちの曲も負けちゃいないだろ」
「まあ、私たちには私たちの良さがあるけどさ。Blueloseは…なんて言うか、泥臭くて好きなんだよね。人の心に刺さる曲って、こう、人間味に溢れる感情から出来ていくんだよなって」
「ああ、なんか分かる。…妃乃愛も空斗もそういう奴だからな。星明消灯は特に、私に刺さったな。SKYSHIPSが路線変更したその頃に空斗が書いた曲みたいだからさ」
「歌詞からもなんとなく分かるんだよね。憧れも、羨望も、劣等感も、全部を音楽に詰め込んでるんだって。…本当に一生懸命頑張ってる。…私も負けてられないなって思う」
「そうだな」
「……ま、雑談はおしまい。原曲通りはキーボード無いし無理だから、アレンジで誤魔化していこうよ」
「そうですね。私も何回か聞いただけですけど、頑張ります」
「よし、じゃやろうか」
───星明消灯に続き、青茨を演奏。着々と人も増えてきた。
「そろそろ本格的にやるか」
「だね」
4人準備が出来たところで、テンションをライブモードに切り替えていく。
「…ScarletNightです!路上ライブ、良かったら聴いていってください!…行くよ、『Shake it all off』」
───攻撃的なイントロから始まり、静かなAメロ、勢いよくサビに入っていく。エレアコも曲によく馴染んでいる。良いアレンジが加えられていた。
アウトロから掻き鳴らして、繋ぎのセッションに入る。ドラムとベースが繋いでくれている間に緋はギターを下ろし、黎もカポを外し、エフェクターのツマミを回す。
2人の演奏から、黎のギターソロへバトンタッチ。シームレスに、テンポを変えていく。
「『Trying to fly with a tailwind』」
バチバチに歪ませたオーバードライブのサウンドが響く。ギター、ドラム、ベース、どの音も消えずにそれぞれがハッキリ目立っている。少ない音数で、オシャレなロックを奏でていく。
「お、路上ライブ」
「ガールズだけどオシャレでいいね」
「かっこいいじゃん」
集まってくる人々のそんな呟きを聞く度に、「つまんな」と呟かれた時からの成長を感じで嬉しくなる。
テンションが少し上がる。全力で演奏を楽しんで、Trying to fly with a tailwindをアウトロへと進める。
「ありがとうございました!ScarletNightオリジナル曲のTrying to fly with a tailwindでした!」
一言添えて、緋はギターを手に取る。
「続けて行きます!聴いてください、『Farewell to the shitty band』」
勢いあるドラムから、緋のオシャレなギターリフに繋げ、そこから黎の歪んだ攻撃的なサウンドを乗せていく。
どんどんテンションを上げて、盛り上げていく。
その後も何曲か演奏し、そしてアウトロからまたセッションへ入り、黎はエフェクターを踏んで歪みを消す。緋は2フレットにカポを取り付ける。
「じゃあそろそろやっちゃおう。邦ロック好きなら誰もが聴いたことのある、あの曲をやります!」
ドラムとベースでリズムを合わせていく。
「One、two、one、two、three、four!」
───エレキのクリーンなメロディと、アコースティックギターのストロークが奏でる、特徴的なイントロ。
「行くぞ!」
そこへ、一気に合流して迫力を上げていく。
緋にとって、夢の追いかけ方の教科書はこの曲と言っても過言では無い。この曲で音楽を学んだ。命の使い方を学んだんだ。
サビへかけて、ストロークに力を込める。
サビのフレーズで、蒼のコーラスが凄まじく綺麗にハモる。
ドラム、ベース、ギター、バッキング、ボーカル、コーラス、その全てが合わさり、最高の一瞬を刻んでいく。
こうして改めて歌うと、自分はまだまだだなと思う。
足元にも及んでいない。なんの根拠もないのに、どこか心で自信過剰になっているのではないかと思ってしまう。目指しているものは果てしなく大きくて、そこに辿りつくのはあまりにも険しい。でも、これしかできない。ただ、歌いたい。
蒼は2番の歌詞が好きだと言っていた。私も同じだ。優しい歌詞が好きだ。絶望のどん底から、大空へと飛び立たせてくれるような、そんな歌が好きで、そんな歌が歌いたい。
こんな、風に───。
「───やっぱこれこそ名曲中の名曲だよな」
「───もっとコピーやってくんないかな」
「───」
………こんな風に、歌えているのだろうか。
………こんな曲を、こんな名曲を、私は生み出せているのだろうか………。
いや、曲ではなく、バンドとして見てもらえているのだろうか。
◇◇◇
ScarletNightのチャンネルに投稿されている路上ライブのオリジナル曲の再生数は、基本的に3桁。行って4桁が限界だ。それに比べて、どこかの誰かが投稿してくれている、ScarletNightが路上ライブで披露したカバー曲の動画は、軒並み4桁再生を記録し、特に世間的に人気の曲の場合は5桁、つまりは数万再生を叩き出している。Shake it all offとAggressive Attackはミュージックビデオがあるが、それでさえ1万再生には到達できていない。
ブランド力の欠如というのならそれは仕方の無いことだろう。だが、コメント欄を見ると、そうもいかなくなる。
『○○のカバーから来ました』
少なくとも、カバー曲を聴いて、オリ曲にも流れてくるリスナーはいるわけだ。その上で、あるコメントが鋭いナイフの様に突き刺さる。
『圧倒的な劣化版感』
『中途半端なパクリはコピーよりダサい』
『こんなんだから売れないんだよ』
『作詞も作曲もセンス無いただのパクリバンド』
『才能無い』
『自分で一から曲作る気無いなら一生カバーだけやってろ』
才能がないと言われてもそんなの知ったことではなかった。ただ下手くそと言われても、上手くなればいいだけだと思っていた。
私には自信があったはずだ。
どの曲も、自信を持って世に送り出せると思っていたはずなんだ。
どこの誰かも知らない人の誹謗中傷程度で怯むような、そんな意気ではなかったはずなんだ。
はず。それで止まっている限り、まだ確証は持てない。
私は本当に自分の音楽に自信が無いのか。それを、路上ライブで確かめたかった。
◇◇◇
憧れのバンドの曲をコピーしてみて、改めてその良さを実感すると同時に、遂に自分の曲に自信が持てなくなった。
敬愛するのはいいが、それは自分が星のように輝いていないと認めているようなものだ。
輝く星ではなく、ただ、“太陽”の光を受けて輝かせてもらっているだけの、“月”に過ぎないのだと。
最後の曲を終え、「ありがとうございました」と感謝の言葉を述べたところで、ギターを離した手がだらんとぶら下がる。
「…緋?」
蒼の呼びかけが辛うじて聞こえる。
「……片付けしよっか」
……To be continued




