第44話【両手に花】
霜夜蒼、17歳。私は今、両手に花を抱えている。
好きで好きでたまらない緋と、そんな緋と瓜二つの茜。最強の親子は私の手の中にある。
「勝った」
「何にだよ」
紫音にツッコミを受けた。
ここは蒼の家の居間。親子揃ってすやすやとお昼寝中の緋とその母である茜を、蒼は両手に抱えていた。
黎は平日のため学校に行っており、紫音だけ来ていた。
「何にって…人生に?」
「お前が勝つことによって負け扱いにされる人生さんに涙を禁じ得ないよ」
「ほら見て。緋が2人になったみたい」
「幸せな空間ですこと」
「幸せよ」
「それは何よりだけどさ。…蒼的にはいいのか?緋の母親って言っても、今までやってきたことは虐待そのものだ。許していいことなのか?」
「……緋がいいって言うからいいのよ。私たちが口を出すことじゃないわ」
「…緋が辛い思いをしてきたのも事実だろ」
「お義母さんを傷付けるだけよ。ようやく緋とお義母さんが打ち解けられたんだし、それでいいじゃない」
「……はぁ。まあ、それもそうだな…」
「過去は消えないけど、その分、これから親子らしいことをやっていけばいい。お義母さんも、DVから解放されたし」
「解放…されたのか?今のこの現状は、どう考えても応急処置的な保護でしかないぞ」
「…そうよね……。緋と会った時からそれは感じてたわ」
「…そもそも、年頃の娘が家出なんてしたら、普通生きた心地しないだろ」
「普通じゃないから。悪い言い方だけど」
「そうだな。…普通じゃねぇよ」
「緋と添い遂げるためにも、2人を取り巻く闇をどうにかして晴らさないといけないわ」
「理由はちょっとズレてるけど、まあそうだな。同じバンドに人生賭けた仲間として、私もやっぱり緋と茜さんのことは救ってあげたい。……それに、“まだ解決してない問題”もあるし、心置き無く音楽にのめり込めるようになるのはまだ先かもな」
「虐めね。私も酷い目に遭わされたから覚えてるわ」
「蒼も被害者だったな。……コンクリの地面に、血が出るほどの打ち方だろ。…緋も寝てる今だから聞くけど、打った頭は本当に大丈夫なのか?」
「……そうね。まだ少し痛む時があるわ」
「マジかよ。無理すんなよ」
「無理はしてないわ。日常生活にもバンド活動にも支障はないから」
「その無理の積み重ねで酷い目見んなよ」
「分かってるわよ。酷い時は休むから」
「…それより、胸糞悪いのが、あの事件の結末とその加害者の虐めっ子の今だ。当たり前だがあれは傷害事件だ。なのに、事件は闇に葬られて、黎から聞いた話じゃ学校でもそんな話はなく、あいつは普通に学校に来て何食わぬ顔で悠々と生活してるって」
「…馬鹿馬鹿しいわね。まあ、緋の惨状を見るに、ロクな学校じゃないのは分かってたけど」
「虐めの程度は相当だったんだろ」
「緋に会った時、緋の体には酷い裂傷やアザが至る所にあったわ。今も傷跡は消えてない。それに、虐めだけじゃなくて、教師からの体罰も相当だったみたいよ。逃げ出さなかったら、もう本当に救いがなかった」
「……ちゃんと逃げ出せてよかったよ」
「ええ。…だから、私は『もう大丈夫』って言ってあげたい」
「そうだな…」
「……お義母さんもうちに泊めるわ」
「ああ。その辺は任せる。…でも、こうして話してみると、私たちかなり厳しいよな。直面してる問題が色々ありすぎる」
「…そうね。緋のケアは勿論、家族のことや虐めのこともいずれ必ずなんとかしなきゃいけないわ。バンドのことも、アルバムの収録、閃光フェスのこともあるし、路上ライブと箱ライブも欠かさずにやっていかないと。新曲もどんどん作らなきゃいけないし…」
「いつになったら落ち着けるんだろうなぁ…」
「さあ。…でも、とりあえずバンドのことに関してはいつも通りやればいいわ」
「それはそうだけどさ」
「私にできることなんて、せいぜい緋を支えてあげることくらいだもの」
「そうなんだけど…そうなんだけどさぁ…」
「もどかしい気持ちも分かるけど、どうしようも無いものは仕方がないわよ。私たちにできることは、緋を支えつつ、ScarletNightを成長させることだけ」
「…そうだけど……蒼は…なんとも思わねぇのかよ」
「何が?」
「……緋を虐めてた連中、許せないんじゃねぇのかよ」
「許せないに決まってるでしょ。何を当たり前のことを。全員生きたままバラバラに身体を切り刻んでピラニアのいる川に捨ててやりたいわよ」
「う……そこまでは……」
「……でも、暴力に暴力で立ち向かったら、それは屈したのと同じなの。だから、私たちは今は音楽をやるしかない。…成り上がって、見下す。私たちにできる仕返しはこれしかない」
「…………はぁ。まあ……そうだよな……」
「…分かればいいのよ。だから、今は緋とお義母さんのメンタルケアをしつつ、バンドやり続けましょう」
「……だな」
◇◇◇
ギリギリのスケジュールで、フラッシュシャインフェスティバルの1次審査用かつ自主販売用の1stアルバムの収録へ臨む。
以前ミニアルバムの制作でもお世話になったスタジオで6曲レコーディングする。ミニアルバムに収録されている6曲は、音源は録らずMIXのし直しのみに留めたが、そのうち第二版なんかで新音源にしてみてもいいかもしれない。
「1stアルバム完成…!」
「ジャケットもカッコいい!」
ScarletNight1stアルバム『Trying to fly on a windy day』。
CDジャケットには、蒼空の下、風に吹かれる緋の姿が写されている。収録は、
1.Opening Act
2.Shake it all off
3.Aggressive Attack
4.No Limiter
5.Crap&jump!!
6.渇望
7.Lighting City
8.悪い無き悪へ
9.愛されていい
10.どうか、天空の星まで
11.スターゲイザー
12.Side You
の12曲。
「もう3月も中旬に差し掛かってるし、結構ギリだったな」
「間に合ったんだからヨシ。……これを閃光フェスの1次審査に送る!それでいいよね」
「ええ」
「通ってくれ…!」
「通りますよ。私たち渾身の1枚なんですから」
郵便に4人の想いを詰め込み、包みを預ける。
「……1次審査の通過は締め切りから1ヶ月以内には分かるんだよな」
「公式サイトのスケジュールを見る限り4月のうちにもう2次審査が始まるみたいだから、そうね」
「スタジオ審査も鬼門だけど、やっぱり1次審査が不安だな、私…」
「私たちの強みはライブ感だからな。緋の不安も分かるよ」
「うん。それに、この間がどうしても怖くなる。相手の顔も見れないわけだし」
「ネットに動画上げるのともまた違いますからね」
「言葉にできない不安がいっぱいあって……」
「…大丈夫よ。私たちの1stアルバムを信じましょう」
「……うん」
……To be continued




