第40話【日常パートのようなもの】
───音が止まる。
「……休憩にしようか」
1時間半ほど楽器を触り倒していた緋たちは、一度楽器から手を離す。
「そうね。一区切りついたし」
「だな」
「はい」
暖房を付けているとはいえ、趣のある和屋敷は冷える。4人は炬燵に転がり込む。
「そういや緋のギター、よく見ると凄ぇ使い込まれてるよな」
「あぁ…まあね」
「確かに。最初に見た時はヴィンテージモノかと思いましたが、比較的最近のストラトですよね?」
「うん。小3の時に中古で8万くらいで買ったんだけどほぼジャンク品みたいなもので、それはそれは酷い状態でね。ボディはご覧の通りだし、金属部分は殆ど錆びてたし、ネックも反ってて。前の持ち主にちゃんと保管されてなかったんだと思う。少しずつ直していって、今に至る感じ」
「へぇ」
「緋、一目惚れで選んだって言ってたわよね」
「なんか、似た者同士な感じがしてさ。…だから、ほっとけなかったのかな。私もこの子も絶対に良い音を鳴らせるんだって、そう信じて。私が治して、一緒に成り上がってやろうって」
「緋……」
「……それで、変えられるパーツは殆ど変えたし、次はボディの再塗装かな。やっぱり傷があるのは可哀想だし」
「再塗装か……」
「…私の体の傷は消えないけど、この子の傷くらいは消してあげたい」
「体の傷?」
「…私、虐められてたのって話したっけ。小学校2年生の春、蒼が転校していってから、高校1年生までの9年間。その9年で、私は心も体も壊れちゃった。…特に胴回りは酷いからさ。アザと裂傷の痕だらけ。首元にもあるし、よく見てれば気付いたかも。首筋ジロジロ見られると正直気持ち悪いけど」
「見ねぇよ…。でも、アレか。夏とかどんだけ暑くてもTシャツ以上の露出は無かったのはそういう事なんだな」
「そいこと。アザに関しては少しずつ消えてきてるよ。蒼が優しくしてくれるおかげかな」
緋は隣の蒼にもたれかかる。
「お仲がよろしいようで。…でもなんつーか、そういうことも話してくれてありがとな。…なんか、心開いて貰えたのかなって」
「まあね。今の私はひとりじゃないし、頼れる人には頼っていいんだって思うから。もちろん、ただ頼ってたくはないから、私もみんなに頼って欲しい。頼りあって支え合っていくのがバンドだと思うからさ」
「ですね。…あ、そうだ、テレビ付けてもいいですか?」
「いいぞ。そもそも黎の家だし、お前がルールだ」
「何見るの?」
「音楽番組です。お母さんが生前好きだったバンドがこの時間帯に出るらしいので」
「へぇ」
「黎も好きなの?」
「嫌いではないですよ。でも、好きかは分かりません。ファンではないですし、好んで聴くわけでもないんですけど、こういう機会があれば見ておこうって思う。そんな感じです」
テレビの電源をつけながら、黎が答える。
「そっか」
「まあ、家族でも曲の趣味って意外と違ったりするものよね」
「そうですね」
チャンネルを音楽番組に変える。やけに大衆受けの良さそうな顔面の女性グループが踊っている。
「うーわ、Kポップ…」
紫音が嫌そうな顔をする。
「嫌いなの?」
「好みじゃねぇな。中身スカスカで曲が頭に入ってこねぇし心に響かん」
「なかなか敵を作りそうな発言ね…。まあ私もそうだけど」
「私も好きじゃないですけど、外で言っちゃダメですよ」
「言わねーよ。これはただの私の感想に過ぎねぇし、それを人に押し付ける気は無い。みっともねぇだけだよ。今はお前らが相手だから言った。カッコ悪いところ見せていいのは仲間だけだ」
「そう」
「まあ、私には合わねぇけど、好きなやつには好きなやつなりに理由があんだろ」
「その場合はどんなところが刺さるのかしら」
「知らん。逆に私らがひねくれ過ぎてるだけなのかもしれねぇ」
「それはあると思います」
「私たちが少数派なの?」
「なわけねぇと思うけどなぁ…でも実際そうなんだろ」
「まあ、一般的な人生送ってるとも思わないけど。高校中退してバンドに全振りなんて生き方が普通なわけないわ」
「確かに」
「でもこっちの方が私は好きかな」
「私も」
「私もです」
「ちゃんとした人生を送りたかったっていうのも、思ったことあるけど、でもやっぱりこれこそが私の人生だって思う」
「そうね」
「嫌われて、虐められても、私には蒼がいてくれたし……」
蒼の胸に収まる緋。抱き抱かれの彼女たちはなんとも微笑ましい。
「もう…。よしよし」
「惚気んな」
「いい事ですよ。仲がいいのは」
「そうなんだけどさ。……いや、いいか。これでいいんだ」
「?」
「紫音?」
「いや、緋と蒼って2人ともお互いに依存しあっててさ。どっちかに何かあったらこのバンドは崩壊しちまうんじゃねぇかって思ってたけど、去年のアレを乗り越えてきてるからさ。お互いに支え合って、そばに居続けられるなら、もう大丈夫だよなって」
「あぁ、そういう」
「新曲もな。ただ感情ぶつけて暴れ散らかすような曲じゃなくなってきて、なんつーか、緋、ちゃんと前向けてるんだって思えてさ。これが本当の緋なんだよなって」
「そうね。そうかもしれないわ。…こうして私に甘えてるうちに寝ちゃうのも本当に可愛い」
「え、さっきまで起きてたよな」
炬燵で蒼の胸に抱かれたまま、緋は寝息を立てていた。
「…よく寝落ちするよな緋」
「安心しちゃうみたいね。少し疲れが溜まってるとすぐ力尽きちゃうのよ」
「こんな寝てばっかでよく太らねぇよな……」
「……全部胸に行ってるんじゃないですかね」
「…そうね。最近また大きくなったわ」
「なん……だと……」
「え、マジ話ですか?」
「マジ話よ」
「……」
「ま、まあ黎もそのうち成長するわよ」
「歳ひとつしか違わないんですけど…」
「1年後に期待しよう」
「緋さんは1年以上前からたわわでしたが」
「そもそも緋と比べんなよ」
「確かに紫音さんは私と大して変わりませんね」
「………」
「…この会話に意味はあるのかしら」
「知らん…」
「…あ、見たかったバンドです」
音楽番組は出演アーティストの順番が周り、目当てのロックバンドの出番が来ていた。
ボーカル、ギター、ベース、ドラムスの男性4人組だ。歪んだギターサウンドの重厚感が凄まじい。全体的に低音の迫力が凄く、クールに歌い進めつつ、サビで一気に圧力の上がる歌声が物凄くカッコいい。
「…めっちゃカッコいいな」
「人気アニメのファイナルシーズンの主題歌みたいです」
「へぇ」
「歌詞はそのアニメをイメージしたものってことね」
「そうですね」
「主題歌って、責任重大よね。アニメに込められたメッセージの根幹を詰め込んで、作品の看板を背負うわけだから」
「だな」
「…いつか、私達も何かの主題歌をやる時が来るのかしら」
「ないとは言いきれませんね」
「いや、多分あるな」
「じゃあ、そんなタイアップが来るように、人気上げていかないといけないわね」
「当たり前だろ」
「ですね」
……To be continued




