第35話【決意】
大晦日の音楽番組が流れるテレビを他所に、緋と蒼は互いに身を寄せ合い、密着しながら炬燵で寝転んでいた。
「あと少しで今年も終わりね」
「そうだね」
「今年は本当に、色々な事があったわ」
「うん。…高校辞めて、彷徨って、蒼に会えて。バンド組んで、ライブして……。本当に、人生が変わった」
「私もよ。緋に会えて、何も無かった人生に意味ができた。……本当に、毎日そばに緋がいることが幸せで……夢みたい」
「夢じゃない。ここにいるでしょ」
「ええ。…これからも、ずっと一緒にいましょうね」
「うん。ずっとずっと一緒だよ。蒼…」
こちらを向いた蒼に寄り添うと、ギュッと抱き寄せられる。蒼に体を預けて目を瞑る。
こうしている間にも、時間が進んでいく。1秒、1秒、今年が終わるまでのカウントダウンが進んでいく。
そして気が付けば、除夜の鐘が鳴っていた。
「あけおめ、蒼」
「おめでとう、緋。今年もよろしく」
「ん。よろしく」
◇◇◇
元日の朝。人混みの中で、着物にギターケースを背負っているという中々見ない格好をした黒髪の少女を見つける。
「黎!」
「あ!緋さん!蒼さん!あけましておめでとうごさいます!」
「ん。あけおめ」
「あけましておめでとう、黎」
「今年もよろしく」
「はい。よろしくお願いします!」
「着物可愛いね」
「あ、ありがとうございます…!」
「私も着物にしたら良かったかしら」
「蒼さん。めんどくさいですよ」
「…それはどっちの意味なのかしら」
「両方ですよ」
「……言うようになったわね…」
「張り合わないで。…黎、紫音見た?」
「紫音さんはまだ見てないです」
「既読もつかないわね」
「寝てる……のかな」
「なくはないわね…」
「ここ1週間くらい会ってないですし……どこかで野垂れ死んでる可能性は…」
「紫音に限ってそんな…」
「…でも…可能性は捨てきれないわ」
「紫音さん…。南無阿弥陀仏……」
「──おい。勝手に殺すな」
「あ、紫音。あけおめ」
「おう。3人とも元気そうで良かった」
「紫音は元気?」
「クソ眠いだけで元気だぞ」
「なら良かった」
「年末はどうだった?」
「ん?まあ……正直暇してた。お前らは?」
「私と蒼も似たようなものかな」
「私もです」
「堕落……」
「あ、でも練習したり曲作ったり、今後のこと考えたりはしてたよ?」
「それは偉い」
「でも、やっぱり皆で集って演奏やりたいなって思った」
「同感だ。ちょっと休暇取らねぇととは言ったものの、やっぱり皆でやらねぇとなんかムズムズしてくる」
「ですね」
「…んじゃ、さっさと参って路上ライブ行くか」
「うん」
4人は神社へ続く列に並ぶ。
そしてしばらく時間が過ぎ、列が進んでいく。
手を合わせて願うのは、ただ1つ。
───この4人で、最高の音楽ができますように。
◇◇◇
Blueloseの5人もまた、初詣に来ていた。相変わらず、全員私服である。
「おみくじ引いとこうよ。今年の運勢占いたくない?」
参拝を終えたところで、妃乃愛がおみくじを引きたがる。
「妃乃愛は運試し好きだよな~」
「超好きだよ」
「空斗。お前妃乃愛のこと頼むぞマジで。パチスロとか絶対やらせちゃダメだからな」
「やらせねぇよ」
「クズ大学生といえば酒とタバコとスロットだからな。クズバンドマン通り越してただのクズにだけはなるなよ2人とも」
「なるか」
「なりません~っ!みんな私たちのことなんだと思ってるの?」
「え~っと……なんだろう。妃乃愛は妃乃愛だし、空斗は空斗だよ」
「説明になってないんだが……」
「とにかく、心配いらないって。大学生になっても、私たちは私たちのまま、変わらないからさ」
「何いい話っぽく纏めてんの?逆に不安なんだが?」
「まあ、その話しは置いといてさ。せっかくだしおみくじは引いとこうよ。こういう機会でもないと引くことないし」
「……まあ、それもそうか。運勢悪くても落ち込むなよ受験生」
「全員運命共同体なんだけどなぁ……」
「運勢悪かったら実力でなんとかしろ」
「辛辣……」
「それはそう」
色々言いつつ、5人でおみくじを引く。
「う……」
「お……」
「マジか……」
「え……」
「あ……」
「………みんなどした?もしかしてヤバい感じ……?」
凜々華はメンバーの顔色を伺う。
「せーので見せ合おうか」
「いいぞ」
「じゃ、いくよ。せーの」
5人で一斉に見せ合う。
妃乃愛が中吉。空斗が大吉。ヒロが凶。凜々華が末吉。柊夜が吉。
「ヒロ…ッ…お前…ッ最高…!」
「凶って…!」
「日頃の行いだろ」
「俺何かしたか…?」
「ま、実力でどうにかしたらどう?」
「完全にフラグだったなぁ。見事過ぎる回収だ」
「俺が言ったことだしな。実力でどうにかするよ」
「それでこそ」
「逆に、微妙な妃乃愛はいいとして、空斗は運頼りになるんじゃねぇぞ」
「なるかよ」
「ねぇ、微妙って何」
「中吉は微妙だろ」
「末吉の私は……」
「お前はもっと微妙。実力でなんとかしろ」
「全員実力でなんとかするの!」
「努力と実力のBlueloseだからな」
「運勢なんて元々期待しちゃいねぇから」
「だな」
「ほら、おみくじ引くことでやる気の底上げできたでしょ」
「……ったくもう……」
「今年はみんな一気に生活変わると思うけど、折れんなよ」
「折れるかよ。今年は今まで以上にガチでやるんだからな」
「スカナイに追いつかれないようにな」
「いいや。SKYSHIPSをぶち抜く」
「おいおい……」
「いーや。それでこそBlueloseだよ」
「紅白出る気かよ」
「んなもん出る気無ぇよ。カウントダウンに決まってんだろ」
「最高」
「行けっかなぁ…」
「行くんだろ」
「今年は幕張で年越す!」
「…やるしかないか」
「……やろうぜ。やるだけのこと」
「…っし…。分かったよ。死ぬ気で生き急いでやる」
◇◇◇
駅の近く、人通りの邪魔にならなさそうな開けた場所を今日の会場に決め、この場所で路上ライブ開催の旨をSNSに投稿。元々この辺りで開催予定な事は事前に投稿してある。
アンプを置き、3人はチューニング、紫音は電子ドラムを組み立てる。
4人でそれぞれ音を出し、ある程度音量を調節して、紫音の合図でShake it all offのイントロとサビ部分を演奏。その音を聞いてもう一度アンプの音量を調整する。
「お、路上ライブ?」
「これから始まるっぽいよ」
興味を持ってくれたのか、何人か立ち止まってくれる。
「初めましてScarletNightです!今からライブやるので、暇があれば是非聴いていって下さい!」
───『Opening Act』から路上ライブを始める。
今年のライブ初め。去年以上の大躍進を目指し、それぞれ音を鳴らす。
Opening Actから、Shake it all offへ。そして途中にカバー曲を挟みつつ、合計10曲を披露して、今年初の路上ライブを終わりにする。
「ありがとうございました!ScarletNightでした!!」
人の足は止まった。最後までとは行かずとも、1曲フルで聴いてくれる人は多かった。CDを買ってくれる人もいた。スタートとしては悪くないと思う。
ファンの声掛けに対応しつつ片付けをしていく。
「…なぁ、緋」
「ん?」
「ライブの頻度を上げたい。…具体的に言うと、月1以上のペースで、色んな箱のライブに出たい。それと、さくなにも協力してもらって、ミュージックビデオももっと作りたいと思ってる」
「……紫音…」
「路上ライブも勿論続けるけど、そろそろ攻めに行っていいと思う。チケットを売る力は付いてる。だから、もっと本格的に、攻撃的に行きたい」
「……うん。そうだね」
「…いいか?」
「もちろん。私も、そろそろ土台は出来てきたと思ってたところだから」
「私もよ」
「私もです」
「……ありがとう」
「ん。……この時代、ロックバンドなんて数え切れないくらい沢山いる。その中で、私たちは上を目指さないといけない。だから、休んでる暇なんて無いんだなって」
「ああ。…あ、でも、適度に体休めることは大事だからな。そこんとこだけ勘違いすんなよ。緋は特に」
「私?」
「ああ。壊れないように、ちゃんと自己管理しとけよ。…今年も私たちは、困難に立ち向かっていかなきゃいけねぇんだからな」
「ん」
……To be continued




