第32話【4人と聖夜とストリートライブ】
1人の冬は来ない。
私のそばには蒼がいて、この手は温かい。
傷付いてノイズまみれの思い出と比べて、今年のクリスマスはあまりにも輝いていた。
「緋」
「ん?」
「ありがとう」
「なに?急に」
「…大切な人がそばにいてくれるって、凄く幸せだなって、そう思って。感謝を伝えようと…」
「…ふふっ、私も同じようなこと考えてた。私からもありがとう、蒼」
◇◇◇
「クリスマスってのは…どうもなぁ……」
ショッピングモール内のステージ前の広場で、紫音は愚痴をこぼす。
「紫音さんってそういうこと考える人でしたっけ」
「いや…ほら、周り見たらカップルばっかじゃねーか」
「ちゃんと見てくださいよ。ひとりぼっちのメリークリスマスを送っている人たちもたくさんいますって。それに働いてる人だって沢山いるんですよ」
「…それもそうか……。ま、形はどうであれ、私たちの音楽をここに轟かせることに変わりは無い」
「そうですよ。……って……」
手を繋いで歩いてくる緋と蒼が黎の目に写る。
「……クリスマスイブだからってみんな浮かれてるように見えるのは気のせいで、もしかしてみんないつも通りなだけ……?」
黎はひとりで呟いた。
12月24日、午後2時のショッピングモールに、ドラムの音が鳴り響く。
「OK、次蒼」
「ええ」
ベースの低音に続き、ギターが鳴る。
「あ、あ」
「よし、マイクOK」
間もなく始まるScarletNightのストリートライブを見に、続々と人が集まってくる。
「緋ちゃーん!」
「ん」
軽く手を振ってファンサ。
「時間あるし、Shake it 最初からやる?」
「イントロからやったらもう始まったと思われないか?」
「リハももうライブの1部みたいなものでしょ」
「まいっか。リハで足止めて全部見てもらおうぜ」
「よしきた」
「1番だけね」
「了解だ」
「入りは任せるよ」
「準備はいい?」
「いつでも大丈夫です」
「じゃいくか。────」
───Shake it all offのイントロで、歓声が上がる。
歌唱は無く、楽器の演奏だけだが、みんな乗ってくれている。
「…ふふっ!」
つい笑みが零れ、本番に取っておくつもりが、堪えられずにサビから歌い出してしまう。
「ったく!」
「でも、緋さんらしいですよ」
1番からアウトロへ入り、リハーサルを終わる。
「みんなリハからありがとうございます!間もなく始まるので最後まで楽しんでいってください!」
黎がマイクに告げ、一旦ステージ裏へ。
「バランス問題なし。コート脱ごうかな。熱くなりそう」
「そうね」
4人は上着を脱ぎ、紫音以外は楽器を構え直す。
「準備OK。クリスマスイブだからって容赦はしない。私たちの音楽で、全員ぶち上げてやろう」
「ええ」
「ああ」
「はい!」
「じゃあ……行こうか」
───Opening ActのイントロのSEに合わせて緋がステージへと上がり、SEに繋げてギターを弾く。
蒼、紫音、黎も合流し、テンションを上げていく。
「──なに、凄い人集まってない?」
「確かライブステージだよな。音聞こえるしライブやってんだろ。見に行く?」
「そうね。ちょっと見に行こ?」
Opening Actで盛り上げ、音の止まないうちに紫音のドラムが次へと紡ぐ。緋がギターを下ろし、手拍子が鳴り始め、テンションがどんどん上がっていく。
「みんな今日は集まってくれてありがとう!!クリスマスイブだからって容赦しないぞ!踊れ!!『Crap&jump!!』!」
掛け声と共に、手をかざして跳ぶ。
4人が、それぞれの武器で、この場にいる全員を、味方につけていく。
辛くても、音楽があるから。音を放って、手を叩いて、飛び跳ねている間は、この世の全てから解放されている。音がある間は楽になれる。現実逃避だって言われても構わない。必死に考えた。逃げるのは罪なのか。答えは否だ。誰しも、全てを受け入れられるほど強くは無いのだから。
疾走感と爽快感に溢れるCrap&jump!!に続き、アウトロからシームレスに繋いでいく。
緋が再びギターを持つ。
「──『No Limiter』!!」
勢いを更に増し、この場のテンションを上げていく。
「──暴れろ!!」
普段よりも走り気味に、激しさを増して、増して、限界を取っ払うように、掻き乱すように目の前の楽器をぶっぱなす。
クリスマスでもお構い無しだ。
この空間はScarletNightの音に満たされている。
聞き飽きたクリスマスソングだらけの世界から、急に異世界に飛ばされたような感覚。飲まれてしまう。この空間の、熱に、乗せられてしまう。
毎日、自分を抑えながら生きている。会社の上司には反抗したくてもペコペコと頭を下げ、後輩にはいい顔をしようと無理をする。そうしているうちに、自分が小さくなっていっていた。そんな現実から、自分を見つけられたような気がした。
「Come on!!」
「───!!」
つられて体が動いてしまう。つられて声が出てしまう。
暴れたくても暴れられない、そんな窮屈な現実が霞んで、心の底から暴れてもいい非現実のような現実にのめり込んでいく。
「───ッ!」
激しく描き鳴らされるギター。No Limiterのアウトロから繋ぎの演奏へと移行する。
「こんにちはScarletNightです!!今日は来てくれてありがとう!!まだまだ盛り上げてくから!是非最後まで楽しんでいってください!!」
普段の路上ライブとはまた違う。ちゃんとしたステージの上にいることで、観客たちのこともよく見える。100人近くいるだろうか。それ以上かもしれない。この広い広場の中で、このステージの前に人が密集している。
「ドラムス!曇紫音!!」
流れるように、メンバー紹介へと移る。
「ギター!昏木黎!!」
紫音のドラムソロから、黎のギターソロへとバトンタッチ。タッピングから早弾きへと繋がっていく。
「ベース&コーラス!霜夜蒼!!」
黎から蒼へと繋がり、低音が響く。
「ギター&ボーカル!終緋!!」
4人で合わせて、激しく音を放つ。
「この4人でScarletNightですどうぞよろしく!!」
そして音を途切れさせることなく、次の曲へと移っていく。
「──『愛されていい』」
激しく鳴る音。
爽快感がありつつ、優しさをエモさを感じるようなフレーズが駆け抜けていく。『愛されていい』から続けて『どうか、天空の星まで』を演奏。そのアウトロで一瞬音を途切れさせて、拍手と歓声を受けてすぐさま『Shake it all off』のイントロでまたテンションを上げていく。
「これが無料で見れるのすげぇよ」
「だな…!」
──『Shake it all off』から『Aggressive Attack』へと繋ぎ、そのアウトロからセッションを挟んで『渇望』へ。そして、『渇望』のアウトロへ。黎のギターフレーズが、アウトロを引き伸ばしていく。
「ラスト2曲!新曲ぶっぱなします!!最後まで付いてきてくれますかEverybody!!」
大勢からの返事を貰うと、緋は黎からのバトンを受け取るように、次の曲のイントロのフレーズを弾き始める。歪みの少ない、少しクリーンなアルペジオから、キレのあるフルストロークに繋げていく。
「───『Lighting City』!!」
かつての、ソロ時代とクソバンド時代にあった曲『シティライト』の再アレンジ曲だ。歌詞とコードを一部踏襲しているだけでほとんど別の曲になっているが、それでも、思い入れの強い曲だったあの曲を、今の自分が作り直した曲だ。
今の自分ができる最高の音楽。それは常に更新され続けている。きっと、今の曲も少しずつ変わっていく。その時その時で、出したい音も奏でたいメロディも歌いたい言葉も変わっていく。そうやって、ゴールのない道を、ひたすらに進んでいく。1人だけの街、吹く風が冷たいと思っているのは変わらない。でも、今は隣に蒼がいる。寒いだけじゃない。このステージが広すぎるだなんて思っていない。蒼が、紫音が、黎が、一緒にいてくれる。この四重奏が、沢山の人に聴こえている。誰かに認められることが叶わない夢だなんて思うことはない。夜の街明かりに掻き消される星じゃない。それ以上に光るだけだ。自問自答の必要も無い。このバンドが私の居場所で、私はこのバンドのギターボーカルだ。そう歌うだけだ。
Lighting Cityを〆て、最後の1曲へ。
「──ラストになります。聴いてください。『スターゲイザー』」
───カチャカチャとしたカッティングから鳴るアルペジオが少しポップかと思いきや、一気に歪んだストロークが緋と黎の2人がかりで描き鳴らされる。そして引き続き激しく鳴る緋と、エモさを掻き立てるメロディを作る黎に別れる。
イントロからAメロへ。緋と蒼の2人で歌い始める。
「「───!!」」
緋と蒼。この2人から全てが始まったのだ。
離れ離れになっていた間に積み重ねられた音楽への期待。世界に嫌気が差していた2人は、再会したことで夢を見ることができるようになり、温かさを知った。2人の音楽が、人を繋ぎ、仲間もできていった。小さな光でも、集まれば地上を照らすことができるだろうか。そんな私たちを、誰かが見つけてくれる。見て、聴いて、記憶に刻んで欲しい。ScarletNightの物語を。
緋が先陣切って前を征く。蒼が全てを支える。紫音がリズムに乗せる。黎が音に色を付けていく。
───これからも。4人で。光り続ける。
誰かに届いて欲しい。その一心で、これからも音楽という光を放ち続ける。
───『スターゲイザー』はアウトロへ。
時間いっぱいまで音を放ち続け、全員で息を合わせてこのライブを〆る。
「───ありがとうございました!ScarletNightでした!!」
……To be continued




