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<スカスカ>  作者: 連星霊
第3章【Aggressive Attack】
29/75

第29話【別れ】

「お疲れ様でした。お先に失礼します」

「お疲れ様~」

午後7時。アルバイトを終え、店を出た所で、携帯に通知が来た。

れい?珍しい…」

携帯を開く。黎からメッセージが来ていた。

あおいさん今なにしてますか』

「……何?」

質問の意図はよく分からないが、とりあえず『バイトが終わって今から帰るところ』と返信し、歩き出す。

『1人ですか?』

『そうだけど』

『危険です。タクシー使うか紫音しおんさんあたりに迎えに来てもらって下さい』

「……どういうことよ……何なの?急に過保護になって……」

黎からの違和感しかないメッセージに、どう返せばいいのか分からなくなる。

『歩いて帰れるわよ』

『ダメです。バイト先飲食店ですよね。今すぐ引き返してください』

『何なの?何かあった?』

『貴女に何かあると緋さんが悲しむんです』

『だから早く帰るわよ』

『そうじゃなくてですね。とにかく1人は危ないので誰かと一緒に帰って下さい』

「……何でこんなこと───」


『貴女は狙われてるんです』


「────霜夜蒼さん。だよねぇ」

「ッ……!!?」

背筋がゾッとするような声が背後で聞こえて振り返る。黎とのやり取りに集中していたためか、誰かが背後にいるのに気付かなかった。

「……誰…!?」

女3人。もう日も落ちて暗く、顔はよく見えない。

「あーあー、忘れちゃった?小学校、1年と2年の頃、同じクラスだったんだけどなぁ……」

「……悪いけど、記憶にないわね」

「あは、あははははっ!……まあ、そうだよねぇ。蒼は緋のことしか見てなかったもんねぇ」

───緋。

「あなた……まさか、緋に何かしたの!!?」

「アハっ…これからすんのよ…。緋の大切なものぐちゃぐちゃにしてさぁ…もっと…!もっと歪んだ顔にしてやりたいからさァ!!!」

「ッ……!!」

いきなり殴りかかってくる。咄嗟にその拳を避ける。

何者なのかも分からない。ただひとつ分かることは、この女が緋の敵だということ。

「っ…!」

訳が分からない。彼女の攻撃を避け、逃げることにする。

「…ッ……逃げてんじゃねーよッ!!」

「あッ!」

運動が得意ではない蒼はすぐに追いつかれ、彼女からタックルを貰って地面に転がる。

「つぅ~かまぁ~えたっ!!」

乱暴に蒼に飛び乗って潰す。

「がッ…!!」

「あぁ~最っ高!!楽しみっ!楽しみねぇ~!!あんたをズタボロにして、緋に見せつけてやるのっ!!何て最高なの!!こんな気持ち……こんな気持ちの昂りっ!!!マジで生きがいだわ…」

「ッ……そうやって……緋を……ッ!!!」

「そうだよ?」

「ッ…貴ッ…様ぁ…!!!」

「暴れさせんな」

「ッ──」

取り巻きが蒼を囲み、蹴って痛めつけていく。

「ぁ……」

「ほら!!もっと良い声で泣けよッ!!!あんたがぐちゃぐちゃになったところ!!緋に見せてあげたいんだから!!」

蹴り飛ばされたその後、胸ぐらを掴まれて投げ飛ばされ、コンクリートの地面に頭を打った。

「ぁ………」

目の前が真っ白になる。暗い夜のはずなのに、凄まじい閃光を食らったような───。



「───やば……血出てるじゃん……」

「…ねぇ、これ流石にヤバいんじゃ……」

頭から血を流し、ピクリとも動かなくなった蒼を見て、取り巻きの2人がたじろぐ。

「………真優ちゃん…?」

「……ふ……ふふふふッ……あはははははははッ!!」

「ま……真優ちゃん…!?」

「これよ……!!これよ!!!これを緋に見せてやんのよ…!!大切なんでしょ…!!蒼が!!!転校していったあの頃もそうだった!!!緋の悲しむ顔は最っ高なの!!!もう一度見たい……!!あの顔が!!!あの顔以上の緋の顔が見たい!!!」

「…真優ちゃん……」

「あは…ははははっ!!」

「わ、私……晩御飯の時間に遅れるとお母さん心配するから帰るね……」

「わ、私も………緋の顔見た感想は明日聞かせてよ……」

「……は?」

「ッ…」

「………一緒に緋の顔歪ませに行こうって乗り気だったよなぁ?」

「いや……だって……こんなことは流石にさ……」

「………お前らも…こうされたい?」

「ッ……!!」


「────お前ら!!何やってんだ!!」

「!!」

紫髪の少女が走ってくる。

「…ドラムの奴か」


「はぁ…ハァ……ッ……」

蒼のバイト先を目指して全力疾走で駆けつけた紫音は、3人の謎の女のうち、そのボスらしき1人の足元に蒼が転がっているのを見つけた。

「────!!」

頭から血が流れているのが、街灯に照らされて見える。

「あ……お…い……?」

「──紫音!何かあっ───」

「──緋!!来るな!!!」

「え────?」


────緋と真優が対面する。


「あはっ…!!緋ぉ……久しぶりぃ…!!」


「……ぁ………」


──理解が追いつかない。ただ、トラウマが蘇って気分が悪くなる。傷跡が騒ぎ出して、血を吹き出すような感覚になる。


「ひ、い、ろっ!私ら、あんたがいなくなってから超寂しかったんだからぁ………なのにあんたは居場所見つけちまって、ヘラヘラ笑いやがってさぁ……ゴミ緋のクセに調子乗んなよ?」

「ッ……」

「ほら。見てみなよ緋。あんたにプレゼントだよ」

ひいろ見んな────」

「────」

頭から血を流して転がっている蒼を蹴っ飛ばして転がす。

「─────あおい……?」

「そう!あんたが誰よりも大切に想っていた霜夜蒼よ!!!ねぇ!!今どんな気持ち!?ねぇどんな気持ち!!?あんたの大切な人が!傷付けられて、どんな気持ち!?ねぇ!教えてよ!!」

「緋!そいつの言葉に耳を貸すな!!」

紫音が何か言っているが、そんなのはどうでもいい。

「蒼……」

力無く倒れて動かなくなった蒼にふらふらと歩み寄って、抱き起こす。

「ねぇ…蒼……!ねぇ…!返事してよ!!」

緋の呼び掛けに応えは返ってこない。

「蒼…ッ!…蒼っ!」

必死に揺すって呼びかけるが、返事は無い。

「そう!!そうよその顔が見たかった!!!あんたが大切にしてるもの!!蒼をぶっ壊したらあんたがどうなるのかずっと気になってた!!!最高!!最ッッ高!!!」

「テメェ…!!」

紫音は真優を睨み付ける。

「はぁぁあ…最っ高!!なんて最高なの…!!うふっ!あはははっ!!………はぁぁ……ヤバい、楽しすぎてめっちゃヤバい……やっぱ緋って最高の玩具オモチャだわ……超満足…っ!……今日はこの辺にしといてあげる。…じゃあね、緋」

「待ちやがれッ」

「いいの?蒼ほっといて。マジ死んじゃうよ?」

「ッ……」

紫音は振り返る。蒼の姿に絶望し、壊れてしまった緋はもう使い物にならなくなっていた。

「テメーが殺人未遂犯で済むことを願うよクソ女!!」

紫音は119番に怒りをぶつけるしかなかった。



◇◇◇



───急いで蒼のバイト先の飲食店へ向かい、そこから家までの道を走る黎を、サイレンと赤色灯が追い越した。

「………救急車……?」

どういうことか理解するのに時間がかかった。いや、理解はしていたが、認めるのに時間がかかった。

蒼からの返信が途切れ、何かあったのかと思い紫音に電話し今すぐ蒼を迎えに行くようにと伝えた。

自分も急いで向かってみれば、そこは救急車とパトカーが赤い光を放っているという、ドラマで見たような事件の現場だった。

「……何で…どういう………!」

赤い光に照らされる中、紫のくせ毛の少女が目に入る。

「…紫音さんっ!!」

思わず駆け寄る。

「黎!」

「蒼さんは………」

「……蒼は……」

──担架に乗せられ救急車に運び込まれる蒼。

「嘘………」

信じたくない。あの優しい蒼が。

──あの悪魔にScarletNightを知られてしまったから……。

「私の……せいだ……」

「お前のおかげだろ。…お前からの電話が無かったら、蒼はここに倒れたままだった」

「違うんです…!!」

「黎……?」

「私が教えてしまったんです…!!あいつに…!!ScarletNightの事を……緋さんの事を……!」

「………」

「私が……余計なことしなければ……ッ」

「黎。少なくとも、お前のおかげで私は蒼の危機に駆けつけて救急車を呼べた。今はそれだけでいい。お前の詳しい話は後で聞かせてくれ」

「………紫音さん……」

ただ、ただやるせなくて、涙を零した。




◇◇◇




蒼はどれだけ呼んでも応えない。

ただ、手を握って、祈ることしかできなかった。

病院のベッドに横たわる蒼を、呆然と眺めたまま時間が過ぎていった。

「私が……巻き込んだんだ………」

あそこにいたのは、確かに葛葉真優だった。彼女は誰よりも虐めを楽しんでいた。1番積極的に虐め来るうえ、暴力が過激だった。上履きや制服が赤く染ったのも、彼女とその取り巻きによるものだった。

そんな彼女に、蒼が狙われた。

「…私といたから……こんな目に……ッ…」

意識が戻らない蒼の手からは、以前のような温かさを感じない。

「……ごめん……ごめんなさい……蒼……!!」

こんな思いは初めてだった。今まで、犠牲になるのは全て自分だった。自分だけが傷付けれれて、もうバラバラに砕け散った心は何も思わなくなってしまっていた。だが今は、蒼が傷付けられて、とにかく沢山の想いが溢れ出して、どれから手をつければいいのかも分からない。

私はどうすればいいのだろうか。

このままここにいてあげるべきなのだろうか。蒼は言っていた。「私は緋と一緒にいたい」と。

けれど、私と一緒にいることでこんな目に遭うくらいなら、蒼は私から離れて、1人でいる方が、辛くないのではないか。そんな風にも思いつつ、もし立場が逆だったなら、私は蒼と一緒にいたいと思うだろう。意識が戻った時、そばに蒼がいてくれた時の温かさを、私は知っている。

「……でも………私は………ッ…」

───蒼に傷付いて欲しくないんだ。

今の蒼には、私以外にも頼れる人がいる。紫音が。黎が。さくなが。目が覚めた時、私が居なくても、蒼を抱きしめられる人はいる。

「………ごめんね、蒼……私やっぱり……愛されちゃいけないんだってさ……神様に言われたんじゃ…仕方ないよね……っ…!」

立ち去りたくない。でも、もう蒼と関わるべきではない。

「……ッ……」

堪えきれず、眠ったままの蒼を抱き締める。

「………さよなら。蒼……!……愛してる……!!」

人生最後の別れを噛み締める。

「…ごめん…っ!!…ごめん……ッ!!約束……破っちゃってごめんなさい……!!」

蒼からの願いは、『永遠に貴女のそばにいさせてほしい』。その願いを破り捨てて、緋は蒼から手を離す。


「……元気に生きてね…」




……To be continued

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