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<スカスカ>  作者: 連星霊
第2章【Shake it all off】
24/50

第24話【天空の星まで】

 ライブハウスに集まったScarletNightとさくなは、グッズを並べる。

「ミニアルバム『Provocation to the My Past』、『スカレTシャツ』、『スカナイTシャツ』、『マフラータオル』、『リストバンド』、『終緋ランダムプロマイド』がラインナップです」

「ちょっと!最後の何!?」

「いや~、黎ちゃんの携帯のフォルダーに、独り占めさせるには勿体ないくらいの写真が詰まっていたもので……」

「いや、どんな中身なの?っていうか全部盗撮写真だよね?何してくれてんの?」

「……さくな。黎。ランダムプロマイドのラインナップはどんな写真なのかしら」

「いや、興味を持つなよ…」

「決して興味があるとかでは無いわ。内容次第では許すけど………分かってるわよね?」

「ぁぁ……えぇっと………」

「ひとつ、開封してみてもいいかしら」

「あッ……」

 さくなの制止も虚しく、蒼によって銀色のビニールが破られる。

 躍動感溢れる緋のスカート。見えそうで見えないギリギリのラインで留まっている。しかし、実は肝心なのはそこではなく、はち切れんばかりのシャツの胸元のボタンとボタンの間から僅かに中が覗いて見える角度であることが重要なのである。

「………これは何」

「こ、これは『奇跡の一枚』…とでも命名しておきましょうか……」

「黎。さくな」

「「は、はい………」」

 蒼の眼光に震える2人は、怯えて返事をした。蒼は2人の肩に手を置くと、処遇を言い渡す。

「………私にも頂戴」

「発売中止!!!!」

 呆れた緋がすべて取り上げた。



◇◇◇



「そういえば紫音。今日の参加アーティストの中に知り合いっている?」

「えっと……あ、Bluelose。こいつらはSKYSHIPS時代の同期っていうか、同じ場所で結成したバンドなんだ」

「そうなんだ」

「鉢合わせたら紹介するよ」

「うん、よろしく」

「あとは知ってるやつは何組かいたけど、話したことがあるやつは1人もいねぇな」

「そっか」

「だから、だいたいの出演アーティストは私たちのことは知らないもんだと思っていい。……それとお前ら全員、他のバンドからは何か陰口言われるかもしれないけど気にすんなよ」

「?…は、はい」

「まあ、そうよね。ガールズってだけで毛嫌いするロック好きは多いし」



◇◇◇



 ───その後、リハーサルが終わると、楽屋で『Bluelose』と鉢合わせた。


「…久しぶり、Blueloseのみんな」

「紫音…!!」

 リハーサルが終わり、紫音がBlueloseのメンバーに話しかけに行くと、Blueloseのギターボーカル、妃乃愛(ひのめ)が心配したような、嬉しいような、複雑そうな顔をして駆け寄ってきた。

「やっぱ心配かけたか?」

「当たり前でしょ。ネットニュース見てビビったんだから」

「え、ニュースにまでなってたのかよ」

「今激バズり中のガールズユニット『SKYSHIPS』、ドラムが脱退。理由は方向性の違い。って」

「貴女、SKYSHIPSがどれだけ有名になってるのか自分で分かってなかったの?」

「いやまあ……でもバンドでドラムの脱退って結構あるあるじゃね?」

「そういうのでもネガティブなニュースってだけで人は盛り上がっちゃうの」

「ネガティブか……」

 紫音は少し下を向く。

「──紫音」

「…柊夜」

「俺はお前がまたバンドやっててくれて嬉しいよ」

「…ありがと」

「俺からもいいか」

「空斗?」

「……お前、少なくとも半年前まではSKYSHIPSにいたんだよな」

「…まあ、そうだな。5月の終わりくらいか」

「…その時の結衣の様子を聞きたい」

「…お前も一途だなぁ」

「うるせぇ。これでもう最後にする。…あいつはどんな気持ちで曲作ってたんだ。教えろ」

「……“バズらなきゃ意味が無い”。ただそれだけだ」

「……………そうか。……ありがとう、紫音」

「空斗……」

「……俺、妃乃愛の書いた歌詞、ようやく自信持って歌えるよ」

「……そう。……こんな分かり方したくなかったでしょ」

「仕方ないさ。…失恋ソングはBlueloseの定番だからさ。ボーカルに魂込められてなきゃ、ロックバンドなんて名乗れねぇ」

「へー、今も失恋ソングばっか書いてんのか妃乃愛」

「え、ちょ、恥ずかしいからその話は無し!歌詞の深い詮索を本人の前でしない!!」

「お、おう……なんかごめん……」

「さーさー、SKYSHIPSの話はおしまい!!今の紫音はScarletNightでしょ?戦友との話ばっかりじゃ3人にも悪いし」

「そうだな。悪いなお前ら、待たせちまって」

「いいよ。昔からの友達なんでしょ?」

「そうよ。私たちは友達いないから、微笑ましく見させてもらったわ」

「微笑ましい内容だったか?」

紫音はポツリとツッコむ。

「初めまして、緋さんと蒼さん、黎さん。Blueloseのギターボーカル、妃乃愛です」

「ScarletNightのギターボーカルの緋です」

「ベースの蒼です」

「ギターの黎です」

「あと、その他Blueloseのメンバーたち」

「せめて名前で紹介しろや」

「ごめんね。…あ、呼び捨てでいい?私のことも呼び捨てにしていいから」

「あ、はい」

「ありがとう。うちの紫音が迷惑かけたでしょ」

「うちのってなんだ。いつから私はお前んとこの娘になったんだ」

「はい……迷惑してます」

「緋?おい」

「冗談」

「しばくぞ」

「もし緋をしばいたら私は貴女を殺すわよ」

「冗談!!」

「私のも冗談よ」

「お前のは割とガチだったよな…?」

「ふふふっ、仲良くやってるんだね」

「うん。楽しい」

「バンド仲良くていいなー。うちは結構ギスギスする時あるし」

「そうなの?」

「そう。やっぱりさ?5人もいると何かしら意見が食い違ったりする時があるわけよ。それに、SKYSH……おっと、この話は今はNGだね」

「でも、ギスギスしたとしても解散にはならないんでしょ?」

「まあね」

「ちょっとぶつかる時もあるけど、それはみんな音楽に対して真剣だからだし、なんだかんだで、このメンバーが好きだからさ」

「解散は考えたこと無いな」

「だね」

「それは仲良いのでは…?」

「ん?…まあ確かに仲は良いのかも…」

「良いチームだと思う」

「ありがと。私も、スカナイは良いチームだと思ってる」

「そう?」

「そうだよ。リハで少し聴いただけだけど、いい音楽やるなーって、そう思った」

「俺もだ。ギター2人でメロディ作ってるのが凄いよな」

「確かに、キーボードいないもんね。ギター大変じゃない?」

「まあ、頑張ってやってます」

「キーボード欲しいなーとかは思わないの?」

「んー…いたらいたできっと凄く良い曲やれるんだろうなって思うけど、紫音はともかく、私と蒼と黎はちょっと人間関係得意じゃないから……」

「あー。確かにそれはあるか。そういえば蒼ちゃんも黎ちゃんも、今もだんまりだもんね」

「あ……はい…。えっと……人の話に割り込むのはどうも苦手で……」

「あー。妃乃愛みたいなのの話だと特にねー」

「凜々華ー?」

「…まあ、私はこの4人の態勢が1番しっくり来てるからさ。そのうち増えるかもしれないし、この4人のままかもしれないけど、私たちは今できる最高の曲をやるだけだよ」

「…うん。そうだよね。だからスカナイは良いチームなんだよ」

「ああ。俺たちも応援してるし、ライバルとしても見させてもらうからな」

「うお、やべーバンドに目ぇ付けられたな、緋」

「大丈夫。受けて立つよ、Bluelose。ScarletNightはまだまだ小さなバンドだけど、いつかもっともっと大きなステージに立つバンドになるから。まずは今日のライブ。見ててよ」

「うん。見させてもらうよ。ScarletNightが、どんなライブをするのかを」




◇◇◇




 店がオープンし、続々と人がホールに集まってくる。

 2ヶ月ぶりの空気を肌で感じる。

 開演時間が過ぎ、1組目のアーティストの演奏が始まる。

 1組目から既にライブハウスは熱を持ち始めていた。


「──なあ。次のバンドってなんだっけ」

「ん?あー、スカーレットナイト…?だって」

「知らねぇ……」

「フライヤー見たけどガールズだぞ、それ」

「ガールズかよ…」

「ガールズのロックはロックじゃねーんだわ」

「SKYSHIPSの前例がなー」

「期待できねぇわ」


「…私は陰口くらいじゃ折れないよ。自慢じゃないけどね」

「笑えない冗談よ」

「蒼や、みんなのおかげだよ。今だけは、どんな過去も笑い話にできる。…ScarletNightにとってはセカンドライブ。黎にとっては初のライブ。蒼も、紫音も、黎も、それぞれ背負ってるものがあると思う。その想いに応えられるように、自分を裏切らないように。このライブ、絶対成功させよう 」

「ええ」

「ああ」

「はい」


「──次、ScarletNightさん。お願いします」

 出番が回ってくる。

「よし。…行くぞッ!!!」


 4人で円陣を組んで、1人ずつステージへと進む。

 ───緋のギターから始まる『Opening Act』。エレクトリカルでリズミカルなストロークに、蒼が合流。さらに紫音が合流。そして、黎が合流する。


 3人の時よりも、何段階も進化したOpening Actをぶっぱなす。


「……すげぇじゃん」


 誰に何を言われたって、己を曲げることは無い。

 己の全てをさらけ出して、それで認めさせるまで。


 ───私たちの好きなことは、辛いことひとつで折れるほど脆くない。


「ScarletNightです!!今日は!!他の、どのバンドよりも皆さんの記憶に残るライブをやります!!!嘘も、偽りも、遠慮も要らない!!ただ、私たちにとっては、音楽が全てだから!!!自分の生きる意味だから!大切な誰かをほっとけないから!誰も傷つけたくなくて、裏切りたくないから!遠く離れた場所に行ってしまった誰かに聴いて欲しくて、届いて欲しいから!私たちScarletNightの生き様を!!見て聴いて下さい!!!『Shake it all off』!!」

 『Opening Act』から繋いだセッションから、流れるように『Shake it all off』のイントロへ繋げていく。

 紫音のクラッシュシンバル4回から、全員で一気にテンションをぶち上げていく。

 街で聞けば誰もが「なんか凄い奴がいる」と、“足を止めてしまう”ような凄まじい勢いのイントロ。そこに、黎が入り、そして度重なる路上ライブで曲は熟成され、ライブへ向けてさらなるアレンジを加えたこの曲は、興味のない人の“目を奪う”ような衝撃的な曲に進化していた。そして、緋の歌声もまた、歌えば歌うほどに歌唱力を上げ、バンドを、ライブを引っ張っていくカリスマ性を伸ばしていた。

 フロアいっぱいの観客を、この空気に乗せていく。

「───行くぞRAIN OF BOW~~~ッ!!!」

蒼もまた、緋の横に立つ者として、その力を発揮していく。緋が引っ張ったこの盛り上がりを、後ろから更に押していく。

 Shake it all offはラスサビへと突っ込んでいく。

 Opening ActとShake it all offで精一杯盛り上げたところで、その空気を冷まさないままアウトロから、次の曲のイントロへと持っていくための繋ぎの演奏に入る。



「……すげぇな……本当に2回目かよ」

 Blueloseのメンバーは、入口付近からScarletNightのライブ風景を見ていた。

「学生の君たちの初ライブと一緒にするんじゃないよ」

 雨美は腕を組んで空斗の呟きに突っかかる。

「この前のLEVORGERのオープニングアクトの代役に何でスカレが選ばれたのかは聞いてないのか?」

「どういう……?」

「スカレは結成した時からずっと路上ライブでファンを増やしてきたらしい。誰にも立ち止まって貰えなくても、何ヶ月も何度も何度も積み重ねて、ライブ技術を磨いてきたんだろうよ。あの繋ぎの演奏は、多分路上ライブで客を逃さないためのもので、今回の場合は、それが一度上がったテンションを途切れさせないためのものとしてしっかり機能してる。…路上ライブって、見ず知らずの人が見るわけさ。それを知らないバンドの知らない曲で、その心を繋ぎ止めなきゃいけない。知らない曲でも、足を止めさせて、その上でさらに、お金を払ってまでライブに行きたいって一から思わせるのは、とても大変なことなんだよ。でも、あいつらはそれをやってきた。それで、オープニングアクトもやり遂げたんだ」

「……!!」



 音を絶やさずに、『Aggressive Attack』や『渇望』、『Crap&jump!!』等、オリジナル曲を次々に繰り出していく。


 そして、『No Limiter』、メンバー紹介に続き7曲目『愛されていい』が終わり、最後の繋ぎの演奏へと差し掛か─────


 ─────バツンッ。


「──!!」


 ───ES-335の1弦がブリッジの根本で切れた。


 嫌だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ。次は最後の曲だ。それも、緋さんが私の話を聞いて書いてくれた新曲なのに。これじゃ弾けない…!天国にいる2人に聴かせてあげることができない─────!


 ───。


 ───黎のギターの弦が切れる音はしっかり聴こえていた。

 どうする。次の曲は黎のギター無しでは成り立たない。

 黎は焦ったような顔をしている。焦って、どうしようどうしようと思っても、しかし何も思いつかずパニックになっている。私を慕ってバンドに入ってくれた黎が、こんな顔をしている。


 ──私はバンドのリーダーだ。メンバーのために、私ができることは─────!!



「───黎!」

「!!」

 黎は緋に呼ばれて、緋の顔を見る。


「───聴かせてあげなよ。黎のギターを!」


「──ッ!!」


 母から受け継いだES-335をスタンドに下ろす。


 緋は長い髪を乱しながら、ギターを上に持ち上げて掻き鳴らし、そのままストラップを肩から外してストラトキャスターを黎に渡した。


 そして、スタンドからマイクを抜き取り、手に持つ。


「────ラスト1曲!!ここで新曲ぶっぱなします!!どうか最後まで!お付き合い下さい!!『どうか、天空の星まで』!!!」


───紫音の4カウントに続き、緋が歌い出す。


「ッ───!!」

──お母さん。お父さん。聴いててよ。


 緋の歌うサビのフレーズから、イントロへと入っていく。蒼と紫音の前面で、黎の早弾きとタッピングが、凄まじい疾走感でメロディを奏でていく。それは泣きそうになる程に辛くて、それでも前を向いて歩き出す、悲しみと意志の強さをさらけ出す、黎の心の底からの決意を音として吐き出すイントロが終わり、Aメロへと入っていく。

 歌詞は、少し下向きだ。けれど、ただ俯いているだけではない。大切なものが消え去って、現実に打ちのめされて、涙を堪えられずに泣いたとしても。本当に小さな理由だとしても、立ち上がりたいと思える理由がある。完全に前を向けた訳では無い。忘れることは出来ない。大切なものだから。残酷な現実だとしても、それは強くなるためには覚えていなければいけないことで、忘れたくない大切な思い出だったから。あの日、果たせなかった約束を。果たせなくなった約束を。果たすことのできない約束を、今でも追い続けるのは滑稽で、意味の無い事かもしれないけど、自分にとってはそれが全てだから。 届かない声を出して、届かない想いを歌って、届かない音に意味を託して。自己満足に終わったとしても、自分がそれで満足して救われるなら、それは過去に打ち勝ったと言えるだろうか。そんな、願いとも葛藤とも言えない、自分の心にも説明できないもどかしさと焦燥を、さらけ出していく。

 ───大切な人に、聴いて欲しかった。


 紫音が叩くドラムが勢いを付ける。蒼の弾くベースが曲を支える。感情的で、心を揺さぶる緋のボーカルと蒼のコーラス。そして、緋から託されたストラトキャスターが放つ、亡き母から紡がれた自分のギターの音色。

 新曲『どうか、天空の星まで』の、あまりの刺さりように、黎は演奏しながらも感極まって涙が溢れてくる。

 でも、弾くことはやめない。このバンド全員で作り上げた曲で、このライブを最高のものにしたいから。そして、この演奏を、きっと両親も見て聴いてくれているから。

 涙を振り払うように1度下を向いて上を向く。

 泣いて崩れ落ちて当たり散らかしたあの頃とは違う。悲しさで泣くんじゃないんだ。これは、きっと───


「──やべぇ…泣きそう」

「だっせぇ……」

「…お前もう泣いてんじゃん」

 激しく、突き動かされるようなビートで、体はリズムに乗っているのに、歌声とギターフレーズはエモり散らかしていて涙腺を抉りに来る。

「何だ…この神バンド……!!」


 ───たくさん失ってきた。でも、それだけじゃない。悲しみだけじゃない。楽しさや嬉しさ。今生きているうちで感じる全ての感情が爆発するから、泣いてしまうんだ。


 ──これが。


 これが────


「────これがScarletNightの音だぁあああッ!!!!」

 激しく、激しく鳴り続けるドラムとベースとギター。長かったようで、一瞬だったライブも、もうおしまいだ。


 ───全員で息を揃えて、『どうか、天空の星まで』のアウトロを〆る。


 止むことのなかった音が消えた瞬間、拍手喝采がScarletNightを包み込んだ。


「ありがとうございましたぁあッ!!!!」



 ───やり切った。少し涙が溢れてしまったけれど、私は、私たちはやり切った。

そして、下げた頭を上げた時。


「───!!」

 ──ほんの一瞬だけ、両親の顔が見えた気がした。


「──お嬢ーッ!!最高でしたよッ!!!」

「…!!」

 目線を声がした所へ向ける。

 ステージへ向かうと中央より右側の方。真ん中くらいの場所に、バンドグッズで身を固めたヤクザみたいな顔した奴が2人いた。

「…ふふっ……。似合ってるよ2人とも。最高」

 全く似合ってない。皮肉を言って、黎はステージを後にした。




◇◇◇




 ───妃乃愛は、楽屋での緋の様子を思い出す。その時は、大人しくて可愛らしい子だと思った。会話はこちらから振られた話題に返していくスタイルで、あまり積極的なようには感じず、コミュニケーションを取るのが苦手なような印象を受けた。蒼に至っては、 会話に入ることすらも躊躇していた。人とのコミュニケーションを恐れているような、そんな彼女たちの様子を見ていながら、不思議と不安は感じなかったような気がする。それはきっと、彼女たちにとってのコミュニケーションが、言葉や、それによる会話ではなかった、ということだからだろう。

 彼女たちは、言葉より先に、音に想いを乗せる。

 伝えたいことを隠さずに人に向ければ、それが凶器になることもある。取り繕った言葉は、真意を霞めてしまう。それを包み隠さず、誰も傷つけず、吐き出す。彼女たちにとっては、音楽こそがコミュニケーションなのだと、そう感じた。

「……全部捨てて音楽、ね………」

 妃乃愛は壁に背中を預ける。

「……何においても中途半端なんだな、私」

 音楽も、日々の生活も、学校も、……恋愛も。

「………でも不思議だ。…スカナイのライブ見てると、この劣等感も良い味だなって思っちゃう。…私だって頑張ってる。だから負けんな、って、そう思える。…不思議な歌を歌うんだね、緋は。……いいバンド見つけた」

 妃乃愛はホールを後にし、控え室へ戻る。

「お前、ギリギリまでスカナイ見てただろ」

「ごめんごめん。いやぁ、改めてスカナイ、良いバンドだなって思って。負けらんないね」

「ああ」

「だな」

「うん」

「おう」

「……先輩バンドとして、スカナイが盛り上げてくれたこの箱の一体感のバトン、絶対落とすなよ!!」



◇◇◇




「…ScarletNightだったか。ガールズってだけで興味なかったけど…めっちゃ良かったよ。ごめんな」

「あ、ありがとうございます…」

後の方のバンドからお褒めの言葉を頂く。


「お疲れ、ScarletNight。良かったぜ」

「ありがとう」

「良かったら俺たちのも聴いて行ってくれ」

「うん」

 次のBlueloseへバトンを渡し、ScarletNightは楽屋に戻った。


「……」

 ──一瞬。ほんの一瞬だけ、お父さんとお母さんの姿が見えた気がした。聴きに来て欲しいという想いが天まで届いたのか、天まで届く程の音楽ができたと満足しているだけなのかは分からない。それでも、2人がそこにいたように感じた。

「黎」

「…!」

 ──緋に名前を呼ばれて、自分が泣いていたことに気付く。

「お疲れ様」

 緋に抱き締められた。

 蒼に殺されてしまう…と心配したところで、蒼にも抱き締められた。

「頑張ったわね」

「ぁ……」

「ほら。紫音も。なに突っ立ってるの」

「え…私も?」

「そうよ」

「……ったく、しょうがねぇなっ!」

 紫音は3人を一気に抱き締める。

「あっ…ちょっと…!」

「お前らも頑張ったろ!」

「……そうだね」


 オープニングアクトから2ヶ月。本当に色んなことがあった。

 緋も、蒼も、紫音も、黎も。一人の人間として、バンドとして。少しは強くなっているだろうか。


 大切なものの為に、人生を賭け続ける。一般に推奨されている普通の生き方ではないとしても、これが生きる意味だから。


 ScarletNightは、音を奏で続ける。




……To be continued

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