表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<スカスカ>  作者: 連星霊
第2章【Shake it all off】
21/75

第21話【アー写】


10月も終わりに差し掛かっていた。

2学期の中間テスト最終日。学校が早く終わった黎は急いで家に帰ると制服を脱ぎ捨てシャワーを浴び、精一杯のお洒落をして、ギターを担いで家を出る。

「今日は待ちに待った…アー写撮影…!!」

ScarletNightに加入してから、約1ヶ月。路上ライブやレコーディングを経て、バンドに馴染むことはできたと思うが、やはりメンバーならアーティスト写真に写ってこそだ。

電車に乗り、集合場所へと急ぐ。

駅前の広場で、ベンチに座る緋と蒼を発見する。2人はくっついて座って、たい焼きを食べさせあっていた。なんとも微笑ましい。見てるだけでこっちも幸せになる空間がそこにあった。

彼女たちの世界に入り込んでいいものかと考えていると、2人は黎に気づき手を振ってくれた。黎も手を振り返して駆け寄っていく。

「すみません、遅くなりました…!!」

「いいよ。まだ紫音も来てないし。それより、テンション高いね、黎」

「そりゃあ、私もようやくアー写に写れるんですから」

「楽しみにしてたのね」

「はい!」

「あはは、可愛いね、黎は」

「そうですか?」

「緋。私は?」

「蒼も可愛いよ」

嫉妬し始める蒼に甘えに行く緋。

「……。大変そうですね、蒼さんの機嫌取るのも」

「お世話になりっぱなしなのは私の方だし、このくらいはね」

「…まあ、なんでもいいですけど。紫音さんはまだ来てないんですよね。さくなさんは?」

「さくなはあそこ」

「ん?」

緋が指さす方を見ると、歩道橋の上から緋たちに向かってカメラを構える不審者がいた。

「……何してるんですか、あの人……」

「さあ。撮りたいんじゃない?私たちを」

「カメラ構えてるのでまあそれはそうでしょうけど、普通に怪しい人では?さくなさん大学生ですよね。女子高生の歳の女の子に遠くから一眼向けるの流石に気持ち悪くないですか?」

「緋を盗撮して部屋に飾ってる人が何を言っているのかしら」

「いや、私が撮ってたのは路上ライブとその前後なので普通ですよ!?あんな所から狙撃手みたいに狙ってるのとは違います!!」

「ちなみに黎は私のどんな写真撮ってたの?」

「え………えっと……ぎ、ギター弾いてるところとか……」

「他は?」

「え……路上ライブの準備中のところとか、片付けのときとか…」

「……まあいいわ。今度黎の家に行ってどんな写真なのか確認してみましょうか」

「えっ…それはちょっと…」

「何その反応…」

「…黎。その片付けのときの写真、緋が履いているのはスカートかしら」

「っ…ちょ、ちょっとこの話はやめにしませんか?」

「黎……それは流石にちょっと気持ち悪いかな……」

「えっ……いや、いやいやいや!?スカート以外の写真もありますから!!色んな服装の色んな緋さんを撮ってますから!!絶対領域が最高なのは当たり前ですが緋さんの良さはそこだけでは無くてですね!?緋さんといえばやっぱり胸………ぁ…」

「…この変態。私の緋に近付かないでくれるかしら」

「え、いや…ちょっと蒼さん!待って下さい!!これにはーあのー、ふ、深い訳があってですね!?」

「…なんか、黎ってもしかしなくてもやっぱりヤバい人?」

「そうよ緋。こいつはやっぱりストーカーよ。でも安心して。貴女は私が守るわ」

「いや、これは誤解………!!…じゃないですね……はい……すみませんでした…」



「───どういう状況なんだこれ……」

合流した紫音は、相変わらずくっついている緋と蒼に向かって土下座する黎を見て困惑気味に聞く。

「…何で土下座してんの」

「本当に緋のストーカーだったからよ」

「え、マジで……」

「引かないで下さい紫音さん……」

「まあ、拗らせファンだったみたいですし。盗撮とはなかなか歪んだ愛をお持ちなようですね、黎ちゃんは」

そこそこ大きな鞄を2つ背負うさくなは、温かい目で黎を見る。

「さくなも人の事言えないような……いや、黎よりマシか…」

「失敬な。何も分かっていないストーカー風情と比べないでください」

「黎…結構ボロカスに言われてて面白いな」

「今度黎の家に押しかけるわ。緋の写真は全部私が回収させてもらう」

「それ蒼が欲しいだけなんじゃ…」

「紫音。それ以上口を開いたら殺すわよ」

「えぇ……」

「実物の私がそばにいるのに写真なんかいらないでしょ?」

「そうよ。私がしっかり処分してやるんだから」

「うーん、嘘なのか本気なのか分からん」



◇◇◇



「……。まあ、ともかく、5人揃ったね。さくな、どうするの?」

「今日は…そうですね。みなさん服装はそれでも大丈夫ですか?」

「ええ」

「うん」

「私も」

「私もだ」

「じゃあ、このままで行きましょうか」

5人は歩き出す。

「それで、どこへ行くんですか?」

「私がコスの撮影でよく行ってるスタジオがあるんです。そこをお借りしました」

「スタジオ…」

「そういえばコスプレもやってるって言ってたね」

「興味がおありですか!?緋ちゃんは絶対何やっても可愛いですよ!!!」

「え……いや……私アニメとか漫画とか見ないし……」

「大丈夫ですよ!別に明確な元ネタが無くても、単にそういう衣装着るだけでも良いんで!!メイドとか!!ナースとか!!チアとかッ!!バニーとかッ!!!」

「ちょっとさくな。緋が困ってるわ」

「そ、そうですね…。少し先走りすぎました」

「でも、分かるわ。緋は何を着ても似合う」

「ですよね!!今度何か着せてみましょうよ!!」

「え…私は嫌なんだけど……」

「えー。せっかくだから着てみりゃいいじゃん」

「そうですよ。もうあと2か月もすればクリスマスじゃないですか。ミニスカサンタとか絶対エr……可愛いですよ」

「今とんでもないこと言おうとしたわよね」

「いえ…気のせいじゃないですかね…」

「黎はやっぱり1回痛い目見ないとダメかしら」

「反省するので勘弁してください!」

「…なんか、徐々に黎の本性があらわになっていってるよな………」

「……でも、蒼も凄く可愛いし、蒼も何着ても似合うと思うな」

「わ、私!?」

「お、いーじゃん。蒼も何かコスしろよ」

「私はいいわよ…。紫音こそ何かやってみれば?」

「は!?私のキャラじゃねーよ」

「みんな人にばっかり言っておいて自分は嫌とか何なの…」

「黎ちゃんはどうですか?」

「私はいいと思いますけどね」

「おぉ!!黎ちゃん好き!!マイベストフレンド!!!」

「え……5歳歳上の大学生に好きと言われましても……」

「あ、大学3年だけど1回留年してるから6歳上ですよ」

「留年してんだ……」

「高校中退してる人に言われたくないですね……」

「ぐはッ…」

「う……」

「さくな。それはライン超えよ」

「あ……すみませんでした…」

「私はノーダメです」

「やっぱ黎ちゃんしか勝たん!」

「緋から推し変したな…」

「…ともかく、やはりスカレの皆さんには1度なにかしらのコスしてもらいたいですね。こんなに美少女揃いなんですから」

「……まあ、露出度高くないやつなら」

「緋は露出度高くてなんぼだろ。なあ蒼」

「ええ……いえ、ダメね。緋の肌を見ていいのは私だけ」

「なん……だと……」

「私も、蒼以外に見られるのはちょっと……」

「なん……ですって……!?」

「まあ、そのうち着てもらいましょう」

「いや、ほんとに露出度高いのは絶対着ないからね?」

「「「えー」」」

「えーとか言わないの。嫌がってるのに無理強いするのは良くないわよ」

「……まあ、確かにそうか…」

「…そうですね。すみません、緋ちゃん」

「ごめんなさい」

「いいって。……私の体なんて、人に見せられるようなものじゃないからさ…」

「そんな事ないですよ。緋ちゃんはスタイルも良いし肌も───」

「──さくな。ダメよ」

蒼がさくなの言葉を遮る。

「蒼ちゃん……?」

「……この話はこれ以上はダメ。私が許さない」

蒼は今までに見せたどの顔よりも敵意を込めてさくなを睨む。

「………分かりました。やめときます」

さくなも、この異様な空気を読んでここで引き下がる。

「……ごめん、ありがとう蒼…」

「いいのよ」

蒼は緋の肩を抱き寄せる。

「……」

紫音は2人を見て思う。蒼の「緋の肌を見ていいのは私だけ」という発言は、冗談ではなく本当のことなのかもしれない。それも、蒼の個人的な想いという訳ではなく、割とマジな理由で。

隣を見ると、黎も少し顔を落としている。

「……黎?」

「…ごめんなさい。私も軽率でした」

「………」

黎は何か知っているのだろうか。……分からないが、これ以上の詮索はよそう。緋の傷を抉ることになる可能性が高い。

「………。ほら、みんな顔上げてよ。今からアー写撮るんだから」

「……そうですね。楽しく行きましょう!!」



◇◇◇



5人は、撮影スタジオへ到着する。

「へぇ、凄いな。これでスタジオなのか」

「コスプレイヤー御用達のスタジオです。どうです?日本じゃないみたいでしょう?」

ゴシックな雰囲気で、現代日本とはかけ離れた内装が広がっている。

「うん。雰囲気凄いね」

「1時間取ってあります。色々撮ってみましょうよ」

「1時間もいるのか?」

「舐めないでください。正直足りないくらいですよ。使うかどうかは分かりませんが、ミュージックビデオ用の映像も少しここで撮っておきたいので」

「私だけギター持ってこさせられた理由はそれですね……」

「御明答。特に、黎ちゃんのギターがこのスタジオには合うと思って黎ちゃんに持ってきてもらいました」

「まあ確かに、私のストラトはこの雰囲気には合わないか…」

「というわけで、まずはアー写です!とりあえず、並んでみてください!!時間が少ないのでじゃんじゃん撮ります!!」

さくなは鞄から三脚とカメラ、ビデオカメラ、ドローンを次々に取り出していく。

「ドラ○もんかよ」



◇◇◇



さくなの指示のもと、ScarletNightの写真撮影大会 (撮影者はさくなのみ) が始まった。

立って撮ったり、肩を組んでみたり、ソファに4人で座ったてみたり。緋に3人で抱きついてみたり。

「ちょ、紫音、変なところ触んないで」

「殺す」

「いや!!不可抗力!!!」

トラブルもありつつ、良い写真を追い求めて構図を変えていった。

「やっぱりソファに座ってるのが1番シンプルにかっこよく撮れますね」

「じゃあ、座った状態で如何にしてかっこよくするかってところかな」

「あとは並びですね。個人的にはやはり緋ちゃんと蒼ちゃんにはくっついていて欲しいですけど、離してみるのもアリですかね」

「ナシよ」

「即答……。まあ、だろうと思いました。……じゃあ私から見て左……。右から、紫音さん、蒼ちゃん、緋ちゃん、黎ちゃんの順に座ってみましょうか。全体的に気だるげな感じで」

4人はその通りに並んで座る。

「紫音さんもう少し態度でかくできます?」

「どういう指示だよ」

紫音はそう言いつつ、どかっと偉そうに座ってみる。

「良いですね。蒼ちゃんは緋ちゃん側に少し傾いて…緋ちゃんはもう少し蒼ちゃんの方に寄り添ってもらって……良い!!めっちゃ良いです!!これだけでご飯3杯イケます!!黎ちゃんは足組んでくれたり……そうそう!!それで…左手を前髪横に流すようにおでこに……神!!!」

パシャパシャとシャッターを切りまくるさくな。

「マジ神!!最高!!全員モデルやった方が良いですよ!!というか是非やってください!!物販に写真集出しましょう!!!」

「アイドルじゃないんだから…」

「いや、売れるぞ多分」

「音楽で勝負したいんだけど……」

「Tシャツもタオルも同じだろ」

「それもそうか……。……じゃない!!恥ずかしいからダメ!!」

「逆に考えろ。音楽売るために音楽性犠牲にするよりは余っ程良いと思うぞ」

「…………まあ確かに」

「紫音にそう言われるとキツイわね」

「私買います」

「メンバーなのにお金払って買ってどうするのよ…」

「……ということで、ライブの物販にScarletNightの写真集出品は確定で良いですね?」

「……まあ。みんなはいいんだよね?」

「え?緋の写真集だよな?」

「私全員って言いましたよ?」

「私てっきり緋さんの写真集かと……」

「マジか……」

「紫音、ファン欲しいんじゃなかったの?緋だけの写真集なら、貴女のファンは増えるどころか全員が緋の虜になってしまうわよ」

「ぐ………確かにそうか……」

「まあ、みんなの写真集なら恥ずかしさは4等分だよね」

「そうですよ!では物販に写真集出品決定ですね!!ヨシ!!……ボーカルだから少し緋ちゃん多めにしても違和感は無いでしょう……」

さくなは最後にボソッと呟く。

「何か最後に言わなかった?」

「いえ、なにも」

「…そう」

「……とりあえず、今撮った写真見ますか?」

「見る!」

4人はさくなの近くに集まり、いまさっき撮った写真を見る。

「これが1番良いかな」

何枚もあるうちの1枚に決める。

「私もこれが良いかしら」

「私もだ」

「同じです」

「全員一致。じゃあ、これに決定ですね。編集は後程やります」

「いやー、ちょっと疲れたな。写真撮るだけだったけど」

「本格的にやるのは大変なものね」

「だね」

「はい」

「さくなもありがとう。頑張って良い写真撮ってくれて」

「いえいえ。このくらいは。私は、私が撮りたいものを撮っているだけに過ぎないので。…さ、残り時間少ないですけど、黎ちゃんにはもう少しだけ頑張ってもらいますよ」

「はい」

黎はケースからギターを取り出し、ストラップを肩にかける。

「緋ちゃん、Shake it all offを流せますか?」

「うん」

「黎ちゃんは、好きに弾いてください」

「分かりました」

カメラに写らないように、緋と蒼と紫音は少し離れる。

緋が携帯の画面をタップし、音源を流す。

黎がそれに合わせてギターを弾いていく。

「…………」

さくなは三脚に取り付けたビデオカメラの画面を確認しつつ、同時にドローンも飛ばして舐めまわすように黎の姿を撮る。

「凄い真剣な顔……」

「普段はアレだけど、さくなの夢に向かう姿勢はやっぱり本物なのね」

「…だな。あいつのこと見直したよ」

約4分のShake it all offの再生が終わる。

「………。…ありがとうございました、黎ちゃん。お疲れ様でした」

「いえ。私はただギター弾いてただけです。さくなさんこそ、お疲れ様でした」

「私も同じです。ただ撮ってただけですから。あとは、そこにギター置いて貰えますか?」

「はい」

その後も、時間いっぱいまで撮影し、5人は撮影スタジオを後にした。



◇◇◇



「この後はどうされますか?私は解散でも、遊びに行くでもなんでもいいですけど」

「私と蒼は特に用事は無いよ」

「私も暇だな」

「私もです」

「じゃあ、5人で何処か行きますか?」

「だね。そうしよっか」

「そういえば、このメンバーで遊びに行くとか初めてかもしれないな。黎加入の時のカラオケは例外として」

「このメンバーどころか、黎のいない時代でさえ遊びに行くとか無かったよね」

「写真すら撮ったこと無かったんですからね」

「懐かしいな」

「あの頃はまだ暑かったよね」

「もうすっかり秋ね」

「ですね」

「……ほんと、あっという間だったな、今年」

「まだ終わってないぞ、緋」

「……うん。だけど、今までは、毎日が長くて長くて……早く終わってくれって願ってばっかりだったから。……蒼に出会ってから、毎日本当に幸せだったなって。今がずっと続いて欲しいなって、そんなふうに思うようになった」

「なんだ、いい話かと思ったら惚気話かよ」

「ご馳走様です」

「さくなは一体なにを頂いてたんだよ」

「推しカプのてぇてぇを」

「何なんだそれ…」

「……まあ、蒼もそうだし、紫音もさくなも黎も。みんなと出会えて、本当に良かったなって」

「…なんだよ。私だって、緋に出会えて良かったって思ってるよ」

「私もです」

「もちろん私も」

「…みんな、緋が繋いだのよね」

「…だといいけど。…でも、これで満足はしてられない。ScarletNightの目標は、ZOZOマリンスタジアムでワンマンライブだから。そこに辿り着くまで、そこに辿り着いたその先を目指して、私たちは進み続ける」

「なんか死亡フラグみたいなセリフだな」

「紫音。不謹慎よ」

「…すまん」




……To be continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ