第20話【Provocation to the my past】
ドラムとベースを録り終えた紫音と蒼が戻ってくる。
「お疲れ様、2人とも」
「お疲れ様です」
「ああ」
「ただいま、緋」
「ん」
蒼はすぐさま緋に駆け寄ると抱き締める。
「黎に何かされなかった?」
「されてないから。大丈夫」
緋は蒼を抱き締め返す。
「2人、やっぱスキンシップ多くなったよな」
「ですね……」
「まあ、仲睦まじいのは良いことか」
「そうですね」
「私も良いことだと思いますよ。バンド内恋愛は修羅場になりやすいですけどね」
「それならもうすでに1度やってるので大丈夫です」
「あらあら」
ハレは、お互い満足いくまで抱き合った緋と蒼が離れるのを見てからレコーディングを次に進める。
「次はギターの2人、お願いしますね」
「「はい」」
「緋、頑張って」
「うん」
「黎も頑張れよ」
「はい。頑張ります!」
緋と黎はブースへ入っていく。
「…そう寂しそうな顔すんなよ」
「分かってるわよ」
「…蒼ってさ。……やっぱ緋と付き合ってんの?」
「え?」
「……あれ、なんだその反応……。緋とはてっきりそういう仲なのかと思ってたんだけど……」
「……ええ、そうね。そうかもしれないわ」
「……好き、なんだよな?」
「ええ。好きよ。だいすき」
蒼は頬を赤く染めて答える。
「おぉ……なかなかのレア表情だな。初めて見たよ、蒼のそんな顔」
「うるさいわね。人にあまりこういう話はしないから……」
「まあそれもそうか。恋バナみたいで恥ずかしいよな」
「恋……そうね。やっぱりそうかもしれないわ」
「……緋ってモテるよなぁ…」
「当たり前よ。世界で1番可愛いし」
「蒼もモテるよな」
「そうかしら」
「そうだろ。お前みたいなクール系は特に」
「別にモテたいとは思わないわ。私には緋がいればいい」
「蒼のファンも結構いそうだけどな。ファンに緋と蒼の関係バラしたらどうなるのか、気になって夜しか眠れん」
「眠れてるじゃない……。っていうか、別に隠すつもりも無いけど」
「そうなのか?」
「アイドルじゃないんだから。このバンドは別に恋愛禁止なんてないでしょ」
「それはそうだけどさ」
「私は緋が誰よりも好きだし愛してるし傍にいる、それは紛れもない事実だから。でも、自分たちからそんなこと言うのも恥ずかしいじゃない」
「まーな。私としては、お前らのファンが私に流れてくる可能性にかけて、是非公表して欲しいところなんだけどな」
「もしかして握手求められなかったこと未だに根に持ってるの?」
「あたりまえだろ」
「意外。紫音にもそういう欲があるのね」
「同じバンドメンバーなのにお前らだけ人気なのも悔しいだろ」
「ボーカルとコーラスが目立つのは当たり前だと思うけれど」
「私もコーラスやろうかな……」
「私と緋の愛の巣に立ち入らないでくれるかしら」
「いやそんなつもりで言ったんじゃねぇんだけど!?」
◇◇◇
ギターの収録が終わり、ボーカルとコーラスの収録へと移行する。
「緋、ギターの収録はどうだった?」
「なんか、不思議な感覚だった。自分の声が聞こえてくるの」
「分かるわ。不思議よね。…そして、今回はその逆。弾いてないベースとギターが聞こえてくるわ」
2人は、ヘッドホンを付けるとマイクへ向かう。
「それじゃあ、始めますよ」
「はい」
自分の曲を、自分の演奏を聴きながら、歌う。
なんだかカラオケみたいだ。
ギターの収録の時よりも違和感が凄い。その理由は多分、自分が自分の曲を歌う時は常に手元にギターがあったからだ。曲を作ったり、メンバーと合わせる時も、歌よりギターが最初にあった。ボーカルは、常にギターとセットだった。だからこそ、ギターが無くなったことで、ある違和感が助長されている。
今、ギターを持たずに歌ったこと、そしてバンドで演奏をしないことで、初めて気がついたことがある 。……いや気が付いたというより、自覚したのかもしれない。
自分の曲はリズムが取りづらいような気がする。何故かはよく分からないが、この収録でそんなふうに思った。
ただ、今はボーカルとしての力を、余すことなく曲に使いたい。今やるべきことはそれだけだ。
「───」
言いたいことを吐き出す。ただ、それだけのことでも、言葉だけでは伝わらないから。言葉には音が必要で、音には言葉が必要なのだと、そんなふうに思う。
歌声に力が入る。感情を込めて、音に乗せる。この歌に込めたものが、誰かの心に伝わるように。
6曲目を歌いきる。感情を込めて歌うのはいつもと同じだが、その場限りのライブとはまた少し違う。音源になるということを意識した。誰かが家で、日常の中で、この曲を聴くのだから。何回でも、何回でも。末永く遺る曲にしたいと願った。
「………はぁぁ………」
「お疲れ様。やりきったって顔してるわね」
「うん。……みんなとやる演奏はまた違う感じがして、ライブとも違う緊張感があって難しかったけど……これが今の私に出来る精一杯の“曲作り”かな」
「……ほら。私がそばにいても、ちゃんと音楽に一生懸命になれるじゃない」
「…そうだね。…ありがとう、蒼」
「ええ」
2人は、紫音と黎のいるスタジオへと戻る。
「お疲れ様でした。私はこれからラフにMIXしてみます。皆さんは好きに休んでてもいいですよ」
「ありがとうございます」
「あの、MIX立ち会っても良いですか?」
「もちろん良いですよ。作った人が一緒の方が、いいものになると思います」
「ありがとうございます」
「緋がいくなら私も」
「緋の近くにいないと死ぬ病気にでもかかってんのか」
「そうよ」
「即答すんな」
◇◇◇
緋と蒼の意見を聞きつつ、ハレによってMIXが行われ、ScarletNight初のミニアルバム『Provocation to the My Past』に収録される6曲『Shake it all off』、『Aggressive Attack』、『渇望』、『No Limiter』、『Crap&jump!!』、『愛されていい』の音源が完成した。
「本当に、短い時間でここまで仕上げていただいてありがとうございます!!!」
「これでもプロですから。こちらこそ、ありがとうございました。ScarletNight初のミニアルバムのレコーディングを担当できたこと、誇らしく思います。バンド活動、頑張ってくださいね。応援していますから」
「はい。頑張ります!!」
ハレに別れを告げ、レコーディングスタジオを後にする。外はもう日も落ちかけていた。
「暗くなるのも早くなってきたね」
「そうね」
「だな。まだ少し暑い日もあるけど、これから一気に寒くなるぞ」
「ですね。体調管理に気をつけましょう。この時期は体調崩しやすいですから」
「私は風邪とか引かねーから大丈夫かな」
「あ、バカは風邪を引かないってやつですね」
「おい。誰がバカだ」
「ふふっ、自覚あるの?」
「ねーよバカ」
「は?貴女今緋に向かってなんて言ったの?殺すわよ」
蒼は割とガチな目で紫音を睨む。
「はいはい喧嘩はだーめっ」
緋が蒼の腕に抱きついてなんとかバチギスを阻止する。
「緋…」
「みんな仲良く!」
「はい…」
……To be continued




