第19話【恋バナ的なコトをしてみる】
いつもの朝とは少し違う目覚めだった。いつもより緋との距離は近くて、文字通り目と鼻の先に彼女の顔がある。ほんの少し顔を動かせれば唇も重ねられる距離。彼女の背中に回していた手を戻し、彼女の頬に混ざりあって垂れた緋色と蒼色の髪を指で避ける。
「……緋……」
◇◇◇
土曜日。
緋と蒼は、紫音に指定された待ち合わせ場所へと向かう。
「……お、来たか」
「緋さん、蒼さん!」
紫音と黎は既に集合していた。
「ごめん、待たせた?」
「いいや。私もさっきそこで黎と合流して一緒に歩いてきたところだ」
「あの……」
「なに?」
「おふたり……ちょっとというかだいぶ距離近くないですか?」
「ん?」
「そうかしら」
「いや…そうですよ!!何イチャついてるんですか!!」
緋と蒼が手を繋いできた現状を指で刺し、叫ぶ黎。
「まあ……否定はしない」
「なんか、お前ら距離感会う度にバグってるよな」
「…?…そうかしら」
「そうだろ」
「わかんない」
「わかれ」
「……。それで……ここがレコーディングスタジオ?」
「…ああ。SKYSHIPSがまだインディーズだった頃に世話になったスタジオだ。…ダメ元で連絡してみたら、この日空いてるって言うからさ。あんまり大きいところじゃないけどいい所だ」
「何から何までありがとう、紫音」
「いいんだよ。バンド歴でも歳でも私が1番先輩だしな。使えるもんは全部使うよ」
「…やっぱり、ドラムって感じよね、紫音は」
「ですね。少し前のめりにバンドを引っ張ってくれる感じがして頼もしいです」
「ね。本当にScarletNightを引っ張っていってくれてるのは紫音なのかもね」
「それは言い過ぎだ、緋。リーダーはお前だし、私たちを纏めあげてるのもやっぱりお前なんだよ」
「そうかな。私、ちゃんとリーダーやれてる?」
「やれてるよ。私ら全員、ファンのみんなも含めてさ。…なんて言うか、お前のカリスマ性みたいなところに、惹かれてんじゃねぇかって思うんだよな」
「そう?」
「はい。ドラムがバンドを引っ張るとは言いますが、本当に前を歩いていくのはボーカルだと思います」
「そうね。いい曲って、やっぱりボーカルが作り上げていくものだと思うし。緋の歌、私は大好きよ」
「……なら、良かった」
「じゃ、行こうぜ。時間キッチリ使って、ミニアルバムに入れる6曲全部収録しないとだからな」
「うん。あらためてよろしく、みんな」
「ええ」
「ああ」
「はい」
スタジオに入っていく。
「お久しぶりですね。元気にしていらっしゃいました?」
スタジオには、晴れた日の空のような空色の髪の女性がいた。
「ああ。元気にやってます。…緋、レコーディングエンジニアのハレさんだ」
紫音が紹介してくれる。
「よろしくお願いいたします。エンジニアのハレです」
「初めまして。ScarletNightです。今日は1日よろしくお願いします!」
緋たちも頭を下げる。
「ええ。任せてください。あの元SKYSHIPSのドラムスが、自らの地位も名誉も捨てて着いたバンドです。必ず良いものにしてみせます。それでは、時間も少ないですし、早く取り掛かりましょうか」
「はい」
「貴女がボーカル?」
「はい。ギターとボーカルです。蒼がベース、黎はギターです」
「了解です」
いつものリハの流れでセッティングを終わらせる。
「じゃ、ガイド録ろう」
「あ、ごめんなさい。ボーカルさんはこっちです」
「へ?」
緋は隣の別室へ連れていかれそうになり困惑する。
「ボーカルにドラムの音が入るとドラムさんの邪魔になるので……」
「……そうですか…」
合わせなのにひとりぼっち。3人と1人は仲間はずれみたいで悲しい。
「…わ、私もコーラスやるんですけど…!!」
緋が連れていかれそうになり、慌てて蒼が緋の手を掴む。
「蒼…」
コーラスもやるが、1番は『緋と離れたくない』ただそれだけだった。
「…じゃあ、ベースさんもこっちへ」
「ほっ……」
「……私もコーラスやろうかな」
「おい」
◇◇◇
「それじゃあ、本番録りますよ。ドラムとベースから」
「なんでドラムとベースは同時なんですか?」
「リズム隊が顔を合わせてできた方が、別録りでも一体感が出やすいしやりやすいし、時短にもなるからな」
「なるほどです」
「じゃあ、私と黎は待ってる」
「ああ」
「黎。緋をよろしく。でも何かしたら殺すわよ」
「し、しませんよ!!」
「黎はそんな子じゃないもんね」
「そうですよ!!蒼さんは私をなんだと思っているんですか?」
「ストーカー?」
「んなわけないです!確かに部屋には緋さんの写真沢山飾ってますけど、後をつけたりとか迷惑はかけていないので決してストーカーではありません!!」
「写真沢山飾ってんだ…」
「え、初耳なんだけど」
「やっぱり緋を黎と2人にする訳には……」
「だ、大丈夫ですよ!!指1本触れません!!約束します!!」
「……」
「ま、まあどの道ギターの私たち2人は待つしかないし、行ってきて。大丈夫だから。ね、黎」
「はい。元より、私は緋さんの力になりたくてバンドに入ったんです。決してやましい理由も邪な気持ちもありません!」
「……まあ、そこまで言うなら信用してもいいんじゃないか?蒼」
「……分かったわ」
「ん。蒼、紫音、頑張ってね」
「任せろ」
「ええ、頑張る」
緋と黎は、蒼と紫音を送り出す。
「……」
ほんの少しだけ沈黙するが、緋は黎にすこし聞きたいことがあった。聞いてもいい事なのか、戸惑いながらも口を動かす。
「あのさ」
「はい。なんでしょう」
「……黎ってさ」
「はい」
「……私のこと、好きって言ってたよね」
「は、はい……そうです……」
「………あの、さ……」
「……はい…?」
「……いや、ほんと、悪い意味じゃないからね。ただ、本当、理由を聞きたいだけ。……黎は、何で私のことが好きなの?」
「………それは……」
「うん」
「……笑わないでくださいよ?」
「返答によるかな」
「……一目惚れです。その理由は多分、緋さんが私とは全く違う世界を生きてきたように見えたからです」
「何それ。違う世界?」
「……私には、味方が沢山いましたし、敵なんていませんでした」
「……そう」
「……両親にも、その仲間にも愛されて、何不自由の無い人生を送ってきました。両親は数年前に事故で亡くなりました。絶望…してたと思います。でも私には、敵なんていなかったんです。沢山の味方に囲まれて、私は前を向くことができた……のかは分かりませんが、ただ、私は、愛を知って産まれて、愛を知って育ちました。…あ、出身は別に愛知じゃないですよ」
「ふふっ、ははは、ダジャレ?」
「べ、別にウケを狙った訳ではありません!!少し冗談を言わないと、緋さん暗い顔すると思って……」
「…ありがとう。私は面白いと思ったよ。紫音辺りにはウケなさそうだけど」
「分かります」
「……それで?黎は私が別の世界の人に見えたと」
「…はい。…興味…だったんでしょうか。今となっては、その時の感情の正体は闇の中ですけど、時間が経つにつれて、それが……好意……のようなものに変わっていったんだと思います」
「そっか」
「……私からも……緋さんに質問があります」
「なに?」
「…蒼さんとは、その……付き合ってるんですか?」
「ふぇ?」
突然の謎の質問に困惑する。
「…と、とぼけないでくださいよ!!付き合ってるんですよね!?」
「うーん……付き合ってる……のかな…?」
「……も、もしやもう既に結婚してると……!?」
「い、いやいや!!そんなことないけど。っていうかこの国の法律的に無理でしょ。女の子同士だし……」
「では質問を変えます」
「うん」
「“好き”なんですよね?蒼さんのこと」
「…うん。好き」
少し顔を赤らめて言う。
「…え、初めて見ましたよ緋さんのそんな乙女な表情。激レアじゃないですか」
「し、仕方ないでしょ。なんか、人にこうやって話すのちょっと恥ずかしくない?」
「公開告白を振った人に言われたくないです」
「いや、それとこれとはまた別の問題でしょ。っていうか別に私振ってはないよね?バンドに入れてくださいってお願いは聞いた訳だし」
「あれ、確かにそうですね。……いや、そういう事ではなくてですね?」
「なに」
「……私は緋さんを応援したい。それだけなので。だから、緋さんが蒼さんを好きだというなら、私はその恋路を邪魔する訳にはいきませんから」
「黎……」
「私の緋さんへの好きは、《《多分》》、恋愛的な意味は無いので心配しないでください。ということを言いたかったんです」
「…うん。分かった」
「それで……どこまでいったんですか?」
「どこまでって?」
「同棲してるんですよね」
「言い方……。まあ、一緒に住んでるけど」
「………その………き……キス……とかは……したんですか」
「んー?したと思う?」
イタズラに黎に微笑んでみる。
「っ………」
「ふふっ、可愛いね、黎」
「か、からかわないで下さい!!」
「蒼と何をしたかは、黎のご想像にお任せしようかな」
「な……っ……ナニをしたか……!?」
「顔真っ赤。黎もなかなか面白い人だね」
「うるさいです…!!」
……To be continued




