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<スカスカ>  作者: 連星霊
第1章【Opening Act】
11/75

第11話【オープニングアクト】

ライブハウスRAIN OF BOWに、続々と人が集まってくる。

9月最後の日曜日。時刻は18:00。

店の前に置かれたボードには、ライブタイトル、開店時間、開演時間、チケット、ドリンク代、そして出演アーティストの名前が手書きで書いてある。

当日券2500円と、別途ドリンク代500円。

開演時間は18:30。キャパシティ170人のフロアがどんどん人で埋まっていく。


「はぁ……」

「…緋は大丈夫…?」

「…うん。緊張するけど、大丈夫。蒼は?」

「私?…緊張で死にそう」

「へぇ、蒼でも緊張するんだな。結構堂々としてるイメージだけど」

「私だって人間なのよ?ライブハウスのこの独特の空気感もあって……」

「まあ、分かるぜ。色々思うところあるよな」

「LEVORGERさんたちに迷惑はかけられない。下手な演奏をすれば、お金を払って来てくれたお客さんに失礼極まりないし、私たちの今後にも関わるわ。絶対成功させないと…」

「まあそう重く考えんなよ。いつも通り、落ち着いてやればいい。路上ライブも散々やってきたじゃねーか。それに、LEVORGERの4人だって、私たちのことを認めてくれてる」

「……ええ。分かってるわよ」

「蒼」

「なに?緋」

「人からの評価なんて、気にしたところでどうにかなるものじゃないでしょ?私たちは、私たちであって、他の何者でもない。だから、本当の自分を、たださらけ出せばいい。それを誰にどう思われようが、それが本当の自分である以上、それを曲げることはできないんだから、全力でぶつかるしか道は無い。嘘は歌わない。偽って笑うこともしないよ。心の底からの音楽を届けようよ。蒼は、バンドやってて楽しい?」

「楽しいわよ。生きてる中で1番楽しい」

「私もそう」

「私もだよ」

「だから、楽しもう。それはここへ来てるお客さんだってそう。音楽が好きだからここにいるんだよ」

「……ええ。そうね。ありがとう、緋」

「ん。……さ、そろそろ時間だね。ScarletNightの初ライブ。最高のライブにしてやろう」

「ああ」

「ええ」

「信じてるよ」



◇◇◇



16時。リハーサルのため、ScarletNightはライブハウスに入った。


「お、来たねスカナイちゃん」

「待ってたぞ」

「夏姫さん、それに店長さんと……」

「初めまして。PAの雪麗よ。…よろしくね」

白銀の髪が美しい女性だ。服装も白基調でとても綺麗。ただ、気怠げですこし眠たそうだ。

「ちょっとダウナーな感じだけど、腕は確かだ。期待していい」

「ScarletNightです。よろしくお願いします、雪麗さん」

「ん。セトリ貰える?」

「はい」

雪麗は緋からセットリストの紙を受け取る。

「…路上ライブでファン作ってきたのよね?だったら結構アドリブ多めでしょ」

「あ…そうかもしれません」

「了解。大丈夫、安心して。最高のライブにしてあげるから。そうそう、うちは出演バンドが少ない時はリハの順番は特に決めてないんだけど、今日は逆リハ。さっきLEVORGERさんのリハが終わったところよ。楽屋にLEVORGERさんいるから、挨拶して少しお話したら、ホールにきてくれる?」

「はい」



◇◇◇



楽屋に入ると、主催のLEVORGERの4人がそこにいた。

「初めまして、ScarletNightです。本日はよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしく。LEVORGERのベースボーカルの藤宮遼だ」

「ギターの畔風音だよ、よろしくね」

「ドラムスのイルよ。よろしく」

「ギターの悠人だ。よろしくな」

「あ、ギターボーカルの終緋です」

「えっと、ベースの霜夜蒼です」

「久しぶり、藤宮さん」

「おう。よろしく。紫音も元気そうで良かった。アー写とフライヤー見て思ってたけど、良い顔するようになったじゃんよ」

「そうか?」

「ああ。…お前が音楽辞めないでいてくれて、俺たちは嬉しいよ」

「…そうか。心配かけたみたいだな。悪い」

「いいのよ、私たちは大人だし。大変だったでしょ」

「イルさん…」

「2人も、こんな子拾ってくれてありがとうね」

「あ、いえ……」

「フリーにしておくには勿体ないドラムだなと」

「はは、そんな気を使わなくてもいいんだぞ。生意気でムカつく小娘だなって、本音吐き捨てちまえ」

「ひでーな悠人さん!!」

「ほんと大丈夫ですよ。紫音はいい子です。生意気とか、ムカつくとかは決して………。………」

「おい、言葉を詰まらせるなよ」

「あはははは!いじられ方も分かっちゃってるなんて、仲良いのね。アー写見たときから思ってたけど、ほんと仲良くやってるんだ。私嬉しい!」

「風音さん……」

「それと、2人も紫音ほどとまではいかなくていいけど、気軽に絡んでくれていいからね。先輩バンドだからって、遠慮しなくていいから。分からないこととかあったらなんでも聞いて。お姉さん張り切っちゃうぞっ」

「は、はい。…少しは遠慮しますけど、頼らせていただきます」

「うん。素直でよろしい」

「…それと、礼がまだだった。今回、突然の出演依頼だったのに、受けてくれてありがとう。助かった」

「いえ。私たちも、こんなスタートダッシュの機会を頂けて嬉しいですし、光栄です。ありがとうございます」

「若手バンドの発掘とその応援が最近の俺たちのマイブームでな。ただやりたいことやってるだけだから、そんなに頭下げることねぇよ」

「は、はい…」

「うーん、やっぱり緊張してるね、緋ちゃんも蒼ちゃんも」

「え…いや……まあ……はい」

「風音がグイグイ行くからでしょ」

「そうだぞ。少し抑えろ」

「うえぇ…私のせい?」

メンバーに言われた風音は紫音に聞く。

「だと思う」

「うぐぐ……」

少ししょんぼりする風音。

「…路上ライブの映像見ると結構活発なのかと思ったけど、実際そうでもないんだね」

「…まあ、歌ってる時は歌ってる時と言いますか……」

「ああ、そういうタイプだ。酒飲んで性格変わる人みたいな」

「例えがあまり良くない」

「あはは……」

「まあ、風音はこんな奴だけど、仲良くしてやってくれ」

「はい」

「……っと、そろそろホール行ったほうがいいんじゃないか?」

「そうですね…。少し話したらホールに来るように言われてますし」

「それじゃ、一旦雑談は中断だね。ホール行こっか」

「リハーサル、見させてもらうけど、別に私たちのことは気にせず、いつも通りやればいいからね」

「は、はい!!」




◇◇◇




開演直前のフロアの空気が肌に触れる。淡いライトの光の当たるステージを見つめる。

「緋さん……」

黎は小さな手を握りしめ、彼女が現れるのを待つ。


────18時30分。


───1Fの時計がその時刻を指し示したと同時に、ギターの音がフロアに響き渡った。


「…!!」

ハッとして顔を上げる。

赤いライトに照らされるステージで、長い髪を揺らして、静かに、それでも陽気で、明るいような、でもどこかで寂しそうな、そんな、真逆の捉え方ができるような、不思議なメロディが、彼女のギター1本で奏られている。

───そこへ、ライトが青く変わるのと同時にベースの音が合わさっていく。ギター1本だったところに、重厚感のある、確実な足場が出来る。

緋と蒼はアイコンタクトを取り、体を揺らす。メロディの色が少し変わった。まるで、1人から2人になったことで、寂しさを忘れたように。

───さらにそこへ、ドラムが合流した。紫のライトが3人を照らす。

力強く、確実な音が、2人の背中を押すように、演奏に勢いを与えていく。

ギター、ベース、ドラムと、音が増えるにつれて、どんどんと盛り上がっていく。

3人が目を合わせると、今までのメロディが一瞬にして激しいものに変化した。赤、青、紫の照明が激しく点滅する。

凄まじいキレを魅せる3人の演奏。激しく光る3色の先に見える3人は、真剣な顔をしながらも、本当に楽しそうな顔をしていた。

──そして、この曲も終盤に差し掛かる。

激しく鳴る楽器の音は止まぬまま。

今回のライブのために作った、約1分のインスト曲である『Opening Act』のアウトロから、『Shake it all off』のイントロへとシームレスに繋げていく。急いでいたとしても“思わず足を止めて聴き入ってしまう”ような、攻撃的で疾走感のあるイントロが、盛り上がってきていたフロアの空気をさらに一気に突き上げていく。

勢いを保ったまま、少し静かなAメロへ移行する。細かく鳴る音がふつふつとテンションを上げていく。

英語歌詞と日本語歌詞を織り交ぜ、時にぼかし、時にストレートに、心を動かしてくる。明るい歌詞とは言えないかもしれない。けれどそこには、頑張って、辛くて、崩れそうになっている人に寄り添い、一緒に泣いて、一緒に立ち上がってくれるような優しさと強さがある。

この曲は乗りやすいリズムであるとは言えない気がする。けれど、自然と体が動く。ステージに立つ3人の息がピッタリ合っているからこそ、それがフロアを埋める観客にも伝わってくる。

黎の黒い瞳は、彼女たちに釘付けになっていた。

───最高にかっこいい。

フロアの一体感にも背を押され、心の底から体を突き動かされるように、手を伸ばす。

気が付けば、Shake it all offはアウトロへ差し掛かっていた。

「初めまして!本日、このライブのオープニングアクトを務めさせていただきます!!ScarletNightです!!!」

音は止めない。それがScarletNightのスタイルだ。曲と曲の繋ぎの演奏に繋げていく。

「私たちのような駆け出しのバンドにこのようなお誘いを頂いて、LEVORGERの方々には本当に感謝しています!今日は、オープニングアクトとして、精一杯のパフォーマンスで盛り上げてLEVORGERさんに繋いで行きたいと思っています!!皆様今日は、よろしくお願いします!!!」

路上ライブの時よりも、はっきりと彼女の声が聞こえる。ライブハウスという空間だからこそだろう。小さなアンプとは比べ物にならないくらい良い音が、良い声が、心臓にまで届くような感覚がある。

「今日はどうか最後まで楽しんでいってください!!」

───繋ぎのドラムからベースへ。その裏で、緋は4フレットのカポを取っ払う。

「──『Aggressive Attack』!!!」

セッションからのシームレスな繋ぎ。路上ライブで培ってきた、音を途切れさせない技術を最大限に活かし、次のイントロへと移っていく。

蒼のスラップに混ざり、そしてフルストロークで一気に盛り上げていく。

攻撃的で尖りまくった音楽を繰り出していく。


「────ッ!!Thank youッ最高!!!!」

最高潮とも言っていいくらい盛り上がったAggressive Attackは、アウトロに入り、そして鳴り止まぬ楽器の音から繋ぎの演奏へと繋げていく。

「いつもの路上ライブではカバー曲もやってますけど、今日は私たちの、私たちだけの音を聞いて欲しい!今まで沢山ScarletNightを聴いてくれた方も、初めて聴く方もここにいる!だから今は全員平等に!!!新曲ここでぶっぱなします!!!こっから上げてくぞ!!!!『Clap&jump!!』!!!」

激しく、リズミカルに鳴る紫音のドラム。緋はそれに合わせて、手を叩き、足を鳴らしていく。

「はい!!はい!!はい!!はい!!!」

観客もそれに釣られて、体が動いていく。

「今日のこの場所は、普段の自分を忘れる世界!!辛いこと、悲しいこと、従わなくちゃならない世界に押し潰されて、本当の自分が、取り繕った自分に負けて、消えてしまわないように!!みんなは自由に、自分を解放していい!!暴れたくても暴れられない時が沢山あるから!だからここで!自分に成れ!!!!」

───凄まじい疾走感のギターが掻き鳴らされる。

緋の隣で、蒼も叫ぶ。

「もっといけるでしょ下北沢~~ッ!!!!」



────。



─────。



最高の盛り上がりをキープしながら、『Crap&jump!!』に続いて『渇望』を歌い上げる。


ギターソロから繋げ、ただ本能に任せてかき鳴らしながら叫ぶ。

「改めまして、本日はオープニングアクトなんて大役を頂けて、本当に感謝しています!初めてなのにノってくれる皆さんにも、本当に感謝の気持ちでいっぱいです!本当にありがとうございました!!私たちも最後まで全力で盛り上げるので!どうかよろしくお願いします!!最後の曲、聞いて下さい!…This song is called『No Limiter』!!!」


───。


「────ッ!!!」


『Opening Act』、『Shake it all off』、『Aggressive Attack』、『Crap&jump!!』、『渇望』に続いた、ラスト1曲『No Limiter』を歌い上げる。

「──本当にありがとうございました!!!ScarletNightでした~ッ!!!」

ギター、ベース、ドラムの音は鳴り止まぬまま。

「この後はLEVORGERさんなので!最後まで楽しんでいってください!!今日このライブが、みんなの記憶に残るライブになったなら本望です!!」


───3人息を合わせて〆る。


「「「───ありがとうございました!!!」」」




……To be continued

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