6 守のための攻
「――ということになっちゃったので,早めに準備しなければ不味いことに...」
僕は村民たちの前で話す。
「結局失敗かよ」「火種撒いたんだからしっかり始末しろよ」「もう逃げるしかない」「終わりだ」「変に行動しなければよかったのに」
――やっぱり,こうなるよな。
失敗したのは僕なわけだし。
村民の多くはそんなことを話している中。
「それでも,こんな危険なことをやってくれたんだ。感謝の意を示そうじゃないか。」
「だからなんだよ!!こいつが変なことしなければ村に来るまでにもっと時間があったかもしれないんだぞ!!」
「それは...」
村民たちにもこの行動に意見が二極化する。
「――僕が,絶対なんとかします。この件の話をなかったことにしたいから,とかではなく純粋に僕がこの村に送りたい感謝の感情です。」
「―――」
この一言で村民たちが黙る。
「蒼が居なければこんな機会すらなかったかもなんだよ~?」
「それは...事実かもしれない...」
「僕にできることなんて,限られすぎてると自分ですらわかってます。」
でも,と付け足す。
「だから,できることはなんだって本気でやってやります!それだけは絶対に!」
「僕は諦めが嫌いです。諦めることなんてしたくない。でも僕にできることなんて少ししかない...だから
――少しでも手伝ってほしいです。僕は一人じゃなにもできない人間です」
「お願いです。こんな失敗をした僕に,また協力していただけませんか...?」
「――一つ,お聞かせください。」
「何ですか?」
「今,ここで協力したら,失敗はないと。必ず成功という旗を掲げてここに帰ってくると。それを約束し ていただけませんか?」
一呼吸おいてから答える。
「はい。もちろんです。その約束は必ず守って見せます。絶対に成功で帰ってきます。」
「今から言っても遅いかもしれないですが...」
「「「よろしくおねがいします」」」
「...!!ありがとうございます!」
僕は深く頭を下げた。
※
夜が更けたころ。
「よし,行くぞ」
「うん,行くッス。」
「魔法は任せてね~」
「そういえば,お前は戦えるんだったか?エラン。」
「俺はその時の体力に応じて威力や大きさを変えられるハンマーがあるッス」
「それは役立ちそうだな。近距離は頼むぞ。」
「もちろんッス」
「絶対,生きて帰ってきてくださいね」
「死ぬ気はないです」
「今からそんな話をしてるなんて余裕あるんだね~」
「余裕なんて無ぇよ」
一度,深呼吸をする。
「「「行ってきます。」」」
~
「ここが,村...であってる~?」
「場所はあってるはず...なんだが...」
明らかに前来た時と雰囲気が違う。
前は辛うじて森ということもできたが,今は完全に森ではない。
闇に飲まれた空間の中に,洞窟がある。そんな感じだ。
「これが森...なんッスか?」
「全く違うようにしか見えないね~...」
「たしか洞窟の奥の方にいたはず...」
「でもこれ以上近づくのはあまり賢明な判断とは言えなさそうッスね」
「ベラン,頼む。」
「うん。感覚遮断」
「これで多少ならなんとかなるな」
「でも道中に戦うことも考えておいた方がよさそうッスね」
「あぁ,もちろんだ。心の準備はいつでも大丈夫だ。」
みんなで一回深呼吸する。
「――行くぞ。」
三人は森へ足を踏み入れた。
~
「ここが洞窟...ッスか?」
「あぁ,ここが住処の洞窟のはずだ。」
ここも,前に来た時から確実に雰囲気が変わっている。
闇に包まれた洞窟は,まるでRPGのラスボスが待ち構えているような様相だった。
「ここに,親方と呼ばれているオークがいるはずだ。」
「親方...とっても強そうな呼ばれ方をしてるね~」
「あまり強いと俺には倒せそうにないッス...」
「別に,お前一人で戦うわけじゃないんだからなんとかなるだろ。」
そんなことを話ながら,洞窟の奥に進んでいくと,会話が聞こえた。
「親方!最近この辺にやってきた謎の人間の話ですが」
「それがどうした」
「それが,その人間があの村にいないらしく...」
(!!もしかしてすでに監視されたのか...?としたらまだ村に被害がないのが謎だ...)
「そんな人間放っておいて問題ないだろ。」
「それが,魔法ではない謎の力で爆発を起こすらしく...」
(噂程度だろうと思うが,そんなところまで知られていたのか...!!)
「...魔法以外の力で?」
「はい,そのように聞いております」
「それはこっちも気になるな」
「どう致しますか?」
「そんな人間を見つけた次第,ここに連れてこい。」
「了解しました!親方様。」
これは,もしかして僕の存在がばれたら今度こそすぐに死を経験することになるかもしれない。
「もう少し近づけないッスか?」
そして近づこうとしたその時。
「なぁ,なんかこの辺変わった匂いしないか?」
会話が聞こえた。
「...たしかにほかの場所とは違う匂いがするな」
「匂う。これは...人間...か?」
「たしかに,そんな匂いだ。」
――これはもうバレるのも時間の問題か。
そう思った僕は,二人に指示を出した。
「いけそうならこのまま先制をしようと思ったが,無理そうだ。先に外で待機しててくれ。」
わかった,という意思を軽いジェスチャーで伝える二人。
「うん――外で待ってるッス」「外で待ってるね~」
二人が無事先に外へ出たのを見送ったころ。
「お前!あの時の!!」
――魔法の効果が切れてしまったようだ。
また,こうなるとは。
「親方!こいつです!」
「なるほど,こいつがそうか。」
「こんなところに一人でくるその度胸は認めよう。ただこんなところじゃ力も十分使うことは無理だろう。」
「こんなところに一人で?お前を倒すため来たのに?バカじゃねぇのか?お前」
軽く煽る様な形で話す。
「お前,ユルサナイ」
「その感情が真なら僕についてこい!」
――そして,オークを洞窟の外に連れ出すことに成功した。
「ベラン!エラン!討伐開始だ!」
「頑張るよ~!」「やってやるッス!」
「勝利条件はこのオークの討伐だ!」
「俺がオークだって?その予想は残念だな。」
――何か予想が外れていたのだろうか。
「俺はオークではない。グレートゴブリンだ。」
「蒼!グレートゴブリンはダメだって~!」
「何かダメなのか!?」
「一回で高威力を出さないと倒せないよ~!」
「そこの女,よく俺のことを知ってるなぁ!」
追記する形で話す。
「でも残念だったな!俺は攻撃特化型だ。さぁ,どこまで耐えられるかな?」
――これは,作戦通りに討伐というわけには行かなそうだ。
「とりあえず支援しておくよ~!」
作戦通り討伐というのは無理になったとはいえ,支援魔法から始める,というのは実行するようだ。
「暗闇の肌!」
体に炎を纏う。
「これで一定以下のレベルなら触れた敵を消滅させられるからある程度は集中できるはずだよ~!」
「感謝する!」「ありがとうッス!」
――そんなことを話している後,当然向こうも作戦を立てることもあるわけで。
「お前たち,片付けろ。」
「「「「「了解しました!」」」」」
「どんどん飛ばしてくッスよ!」
ハンマーを巨大化させて雑魚敵を吹っ飛ばしまくるエラン。
「私も負けないよ~!」
そういいながら魔法を唱えるベラン。
「炎の防壁上!」
ベランの周りに炎の魔法陣が現れる。
「範囲に入ったら炎上させちゃうよ~!」
「お前は僕が相手だ!グレートゴブリン!」
「お前に何ができるんだ?貧弱人間」
「足元にお気づき無いようで?」
足元を見るゴブリン。
そこには,たくさんの小麦粉が置いてあった。
「こんなもので一体何ができる?」
「今日は風がそこそこあるからね」
「それがなんだ?」
「ベラン!」
「うん!炎!」
小麦粉に火を近づける。
そしてその瞬間。
――大きな爆発が起きた。
「この程度で倒れるとでも思ったか?貧弱」
「もちろんそんなこと考えるわけないだろ」
「それならどうする気だ?」
「こうするんだよ!」
あらかじめ袋に詰めておいたダイラタンシーを投げる。
その瞬間。ダイラタンシーを知らないゴブリンは思いっきり袋に攻撃する。
「ッ!!」
これはそこそこなダメージが期待できそうだ。
「さっきのと含め,これが魔法のような力か」
「――ッ!!結構ダメージが期待できると思ったんだが...!」
「こんな小細工でダメージをくらうと思ったか?」
――明らかにダメージくらってる見た目なんですがその。
でも粉塵爆発の準備をする時間が取れなそうだ。
ダイラタンシーも防御用で持ってきたものしか余りがない。
「もう手札切れか?ならこっちから行くぞ!」
「かかってこい!」
僕は思い切り殴られた。
「ッ!!」
「!!」
実際やったのは初めてだから知らなかったが,ダイラタンシーを防具化しても意外と自分にもダメージが来るものだな。
「終わったッスよ!蒼!」
「私も終わったよ~!」
「ちょうどいいタイミングだ!エラン!ベラン!」
――二人が終わったということは今,この場所には僕らとこのゴブリンだけということだ。
「どうする?お仲間みんな倒れちゃったみたいだけど」
「俺はそんな簡単にはやられないさ。あいつらとは違ってな」
「これでも,それが言えるかな?」
――死ぬのを当然の覚悟のうえで,防御用でとっておいたダイラタンシーを投げつける。
「もうこんなものには掛からないさ」
「エラン!」
「任せるッス!」
高火力化したハンマーでダイラタンシーを殴るエラン。
「ッ!!」
明らかにダメージが通っている。
そろそろ倒せてほしいところではある。
「暗黒の世界~!」
魔法を発動するベラン。
自身の体力が最大の時,自身の現在体力を大幅に減らす代わりに中ダメージを超広範囲で与える魔法だ。
「そして~生命交換!」
魔法でコンボを決める。
限界があるが自身の体力と対象の体力を入れ替える魔法だ。
「これでもう残り僅かなはず~!」
「頼む!エラン!」
「とーちゃんの仇!」
エランは自分の何倍にも大きくしたハンマーを振りかぶる。
ゴブリンは地面にたたきつけられ,地中に埋まった。
もう明らか戦えそうな姿ではない。
「うっ...」
「いや~これで討伐官僚かな~?」
「いや,これは多分まだな奴だな。」
過去やってきたRPGゲームではそうだった。
ただこっちの世界でもそうかと聞かれると...
「とんだ醜態だな,ゴブリン。」
「!!誰だ!」
「ふっ,その名乗りはまた会ったときにさせてもらおう」
一体,こいつは誰なんだ。
なんなんだ。
元ゲーム好きの勘でいうなら,間違いなくこいつは黒幕だ。
「私が誰なのかは,それまでに考えておくんだな。」
「私の今の目的はただ一つ。この醜態を晒したゴブリンの始末だ。」
「待ってください!まだ俺...」
「黙れ。」
黒幕らしき人は発言する。
「失せな」
――その瞬間。明らかにそこにいたはずのゴブリンは消えていた。
「目的は果たした。またどこかで会うだろう。それまではサヨナラだ。」
「待て!」
叫んでも意味はない。こんな状況で待てと言われて待つ人なんて,従順が過ぎる。
その黒幕らしき人は自身が溶けるかの様に陰に飲まれて消えた。
「一体,誰なんだ...?」
「蒼,大丈夫~?」
「...あぁ,さっきの謎の人さえ居なければ――大丈夫だっただろうな。」
「...人がいたんッスか?」
「見えなかったよね~?」
「見えてなかったのか?」
「全くだよ~」「人がいたことすらわからなかったッス」
――とりあえず,目的は果たした訳だし,帰るとするか。