第58話 文化祭後のそれぞれ
*
深月が、実と解散して家に帰ると、陽菜が先に家に帰っていた。
珍しく、リビングで鼻歌を歌いながら、どこか楽しそうな陽菜だった。
「なんか楽しいことあったの?」
「別に〜〜?」
深月は、陽菜に真実を伝えるか悩んでいた。
しかし、合宿までした以上、真実を伝えないわけにはいかなかった。
「ねえ……陽菜ねー。話があるんだけど……」
「はいよ〜〜」
深月はリビングで陽菜に月城の秘密を話した。
月城には弟がいて、一条家の出身であったこと。
そして、異常体質で、あまりいい人ではないことを伝えた。
「そっか〜〜」
陽菜は表情変えずに、上の空で、ただ、空返事するだけであった。
「……驚かないの? 合宿とか、色々仲良さそうだったから……ショックというかさ……」
「あ〜〜。まあ、なんとなくは気がついていたからさ!!」
「……そうなの? 陽菜ねーがショックじゃないならいいけどさ……」
陽菜が驚かないのには理由があった。
保健室に先生が戻って来たため、陽菜も光と一緒に帰宅したのだった。
後夜祭に夢中な生徒が多かったため、バレることなく帰宅できた。
その時に光は、陽菜に自分の体質や弟の存在を打ち明けていたのだ。
弟のために嘘をついていたこと。
そして、深月にバレてしまい、結果的に傷つけてしまったことを伝えていた。
「そうなんだ〜〜!!」
「自分でもいうの変だが、なんか反応薄くないか?」
「まあ、流石に弟がいたってのは驚いたけどさ、家とか別荘とか見ているし、一条家って言われてもそこまで驚かないよ〜〜!!」
「そうなのか」
「それに、前から結構人間離れしてたよ? 月城くんにとっては普通かもだけど、ところどころ異常なところが多かったし」
「ごめん……」
「違う!違う!! 褒めてんの!!」
「今更言うのはものすごく申し訳ないけど、深月さんとの仲が悪くなってしまうから、別に深月さんに秘密にしておかなくて大丈夫だ。せっかくの仲良い姉妹が、俺らのせいで悪くなってしまうのは申し訳ない」
「いや〜〜。秘密でいいかな。そっちの方が逆に平和だし」
「……平和?」
陽菜は、深月が光に好意を寄せていることは薄々だが感じていた。
深月が本気で光のことを好きだったら、姉として、最終的には、引こうとも考えていた。
もっとも、運命の王子様だと分かった以上、陽菜にとって引くことは不可能であった。
仮に、深月が真実を知ってしまったら、深月が好意を戻す可能性も陽菜には考えられた。
最終的にはどちらかが引かなくてはならない。
そんな状況を避けるため、深月には真実を伝えない方が平和なのであった。
「それに、テストのこと黙ってたのはわたしもだし、共犯かなって!!」
「じゃあ、余計に……」
「わたし達も高校生だから!! 大丈夫だから!!」
「じゃあ、とりあえず、任せるよ?」
「うん!!」
そんな会話をしながら、二人はゆっくり帰宅していたのだ。
「深月ちゃん、教えてくれてありがとう。ただ、わたしはこれからも仲良くするけどいい? 同じクラスでもあるし」
「え。別に……私に決める権利なんてないけど。バカにされるかもだよ?」
「まあ、わたしは大丈夫だからさ!!」
「それならいいけど……」
深月は不思議に思っていた。
いつもの姉なら、一緒に怒ってくれると思っていた。
その上、怒るどころか、むしろ月城と一緒に居たがっているとさえ感じた。
モヤモヤした気持ちを抱きながら部屋に戻った。
部屋に戻ると、机の上に、光との思い出の品が目に入った。
そして、飾っておいた、プリクラも目に入った。
一気に光との思い出がフラッシュバックし、自然と涙が流れてきた。
自分は光を好きだったのかもしれない。
そう思いながら、深月は思い出の品々を捨てようとした。
何回も。何回も。
ただ、深月は捨てることができなかった。
どうしても、光との良い思い出を思い出してしまうのだ。
とりあえず、捨てることは諦め、部屋のクローゼットの奥にしまった。
*
深月と解散した実は、ハイテンションで家に帰った。
家に着くと、いつも通り、執事である、リサの姉、エリカが出迎えてくれた。
リサと異なり、メイド服ではなく、シワひとつないスーツを着用している。
身長180センチ、金髪ショートヘア。
『ボン、キュ、ボン』と誰しもが言いたくなる日本人離れした美しい体型だった。
エリカの品位溢れる正しい振る舞いは威圧的であり、光には心の中で『姉御』と呼ばれている。
そして、姉妹の体型があまりに違うため、光はリサに対し、『子宮の栄養素、全部吸われたんだよ』と放送ギリギリの冗談を言っていた。
そんなエリカは、実のことを誰よりも尊敬している従順な執事であった。
「お帰りなさいませ。実様」
「ただいま!」
「そのお顔!!……どうされたのですか!?」
いつも冷静なエリカだが、実のこととなると慌ててしまう癖があった。
「慌てすぎだよ〜! 大丈夫さ! 兄さんと少し揉めたんだ」
「光様と……。それは仕方ありませんね。勝てました?」
「そんな甘くなかったよ。足元にも及ばなかったさ」
「さようですか……。光様には感謝しております。才能も本当に尊敬しております。ただ、実様こそ素晴らしいのです!!!! 家にいる多くの従者は、実様の素晴らしさを何ひとつ理解しておりません!!悲しいことに、妹のリサは何も知らず、光様のことばっかり……」
「リサちゃんは正しいよ!!兄さんはすごいさ。僕は足元にも及ばない落ちこぼれだから」
「そんなことはありません!! 力があるのに使わないのはいけません。いずれ実様は、世界を背負う大物になります!」
「いつもありがとう。それに、もっと上に行かないとなって思ったからさ」
実は、深月に誇れる男になると誓っていた。
「でも、なぜ少し嬉しそうなのですか?」
「あれ……バレた?」
「光様に会うためだけに行ったわけではないですよね?」
「うん。目標はクリアできたからよかった。どうしても、大切な存在だったからね」
「詳しくは聞きませんが、おめでとうございます」
「そのうちわかるよ」
「楽しみにしております」
「ねえ、エリカはさ、一目惚れってどう思う?」
「不純異性交遊はお勧めしませんよ??」
「僕は純粋さ。兄さんは一目惚れだからといってバカにするけどそんなことはないと思うんだ。ビビッと来きたし」
「そうですか。実様が決めたことでしたら間違い無いかと」
「てかさ、女の子と話すってすごい難しいんだね」
「いつも、気さくに交流してらっしゃるではないですか?」
「本気だとうまく力が出ないというかさ?」
「はて……」
「嫌われたらどうしようと思うのが先行してうまく話せないんだよ!! こんなの初めてだ!!」
「実様を嫌うような女性なんて存在するのでしょうか?」
「多いと思うよ」
「信じられないですね」
「普通の女性ならさ? 結構プライベートのことを聞いて距離詰めようと思えるんだけどさ……嫌われたら嫌だし、それに兄さんとの関わりあったからさ、聞きにくいというか、聞きたくないというか」
「いいんじゃないでしょうか? ゆっくりと進めていけば。女性は自分の話ばかりをする男と、質問攻めの男は好まないですし」
「じゃあ、とりあえず、ゆっくりと進めていこうかな」
「焦る必要はありませんよ。実様は最後には全てを手に入れますから」
「いつも味方でいてくれてありがたいよ」
実はエリカの作った夕食を済ませ、訓練に向かった。
*
俺は家に着くと、リサがいつものように出迎えてくれた。
「2日間文化祭お疲れ様でした。お疲れでしょうから、糖分の多い食事にしておきましたよ」
「わざわざありがとう」
「……何かありました?」
俺のなんとも言えない表情を見て何かを悟ってくれた。
俺は、リサに何が起こったかを説明した。
「……そうですか。みのる様が……」
「まあ、これでよかったんじゃないかな」
「ということは、陽菜様もそのうち……」
「あ。それがそうでもない……かも?」
「それはよかったじゃないですか」
「個人的には、陽菜さんにもあんまり無理はさせたくはないんだけどね。だから近いうちにボッチに戻るかもしれない」
「そんなことにはなりませんよ」
「リサにも申し訳ないことをした。せっかく、深月さんと仲良くできのに、俺のせいで気まずくなってしまってさ」
「いえいえ。ひかる様がいらっしゃらなければいい経験が出来ませんでしたし。困った時は性処理のお時間ですから」
「全力で困らないようにしないとな」
「それは残念ですね」
「あと、1週間学校停学になっちまった。初めてだぜ」
「それは困りましたね」
「ああ。結構、困っ……いや!困ってない!!」
とりあえず、夕食を食べて、あとは俺は夜景をずっと見て、陽菜さんとラインをしながら、色々考えていた。
自分が何を失ったのか。
どうしてこうなったのか。
俺にとって、深月さんはなんだったのか。
階段で出会っていたのは、陽菜さんだったこと。
とりあえず、死ぬほど頭を動かしていた。
停学処分を食らってからあっという間に2日経った。
学校がなくて寂しいが、思いの外という感じであった。
なぜなら、授業中に陽菜さんが色々授業風景を盗撮したりしてくれるからだ。
おかげで、学校にいる気分になれてありがたい。
それに、一応グループラインも動いている。
とりあえず、先生は停学とは言わず、1週間休みだけしか伝えて無いようだ。
体調不良ってことにしているがいつかは本当のことを言いたい。
それに友達の資格がない俺を心配してくれるのはありがたい。
そういえば、陽菜さんは深月さんとも話し合いがうまくいったとか言っていたな。
まあ、それならいいが。
深月さんは表面上納得してるふりをしてて、姉を守るために俺を殺しに来たりして?
深月さん怒ったら怖そうだしな。
ビンタ痛かったな。
心に響いたよ。
まあ、深月さんとは結構色々なことをしてしまったからな。
優しい人がブチギレると怖いって言うしな。
ナイフでサックと殺されて俺という物語終わったりして……
最後は俺の遺体はボートの上で……深月さんもそのボートの上で……
そんなバカみたいな妄想をしながら、俺はゲームをした。
やっぱり、ゲームは無課金に限るな。
あっという間にいい時間になっていた。
もう夕方か。
一生懸命に、ガチャ石を貯めていると、家のインターホンがなった。
『はい。どちら様でしょうか?』
いつもどおり、リサが対応してくれた
ネットで何も頼んでいないし、尋ねてくる人なんて珍しいな。
ふと見ると、リサの顔が真っ青になっている。
どうした?
不審者でもいたのか?
カメラに映っているのが肛門かと思ったら唇のドアップだったとかか?
「あ、あ、あの……ひひひひかるさま…」
「どうした? 不審者なら無視しておけば大丈夫だぞ。やばかったらなんとかするぞ」
「そうではなくて……」
「ん?」
「深月さまが……」
え??
深月さん??
なんで??
確かに、深月さんが写っている。
マジで???
ああ。
学校は終わっている時間か。
いや。そうじゃねえ!!
やっぱり、ものすごく怒ってるんじゃね??
『今まで散々なことしてくれたね?』ってこと!?
陽菜さん!!!
全然解決してないじゃん!!!!
一瞬だが、マジでナイフみたいなものが見えたんですけど……
深月さんが……俺を殺しにやって来ちゃったよ!!!!
主人公死亡でこの物語終わるのでしょうか??




