第57話 王子様を見つけたよ
停学処分を受けた俺は文句を言わず、その場を離れた。
荷物を取りに戻り、黙々と帰宅の準備をした。
ああ。
この日々は楽しかったな。
自分で手に入れたものを俺は守ることができなかったな。
ただ、自分のせいだ。
友達ができて幸せだったな。
友達は俺にとって大切な存在であった。
でも、俺は自分のことを選んでしまった。
こんな俺と仲良くしてくれたのに……
もう、友達の資格は俺にないな。
そして、深月さんを失った。
ああ。
あの時、嘘をつかなきゃよかったな。
ただ、深月さんに、弟のようになってほしくなかったんだ。
俺は異常なんだ。
俺は弟は好きだ。
いつも努力している姿を尊敬していた。
誰よりも近くで見てきたからな。
深月さんの努力している姿も尊敬していた。
ただ弟は、俺を目標にしてからというものの、辛そうだったんだ。
俺が病気になったせいで、弟には家のことも任せてしまっていた。
深月さんにそうなって欲しくなかったんだ。
普通に、人として接してもらいたかったのかもしれない。
偶然が重なり、言うタイミングもなかったしな。
いや。あったな。
言おうと思えばいえたのではないか?
言い訳だな。
そして俺は、大切な弟でさえ、本気で殺すところであった。
どうしても奪われたくなかった。
やっぱり、俺はクソだったんだな。
俺は何かを望んではいけなかったんだな。
今日でこの学校をやめよう。
別に、俺は、学校行かなくてもいいんだもんな。
この学校での数ヶ月は濃かった。
もう他の学校では、これ以上のことは楽しめないと思う。
貴重な経験はもう十分できた。
心の中がグチャグチャだ。
失ったものが大きすぎる。
せっかく、来年の目標を立てたのにな。
もう一度、合宿してみたかったな。
最後に……陽菜さんに挨拶はしておきたいな。
このままお別れというのも寂しな。
俺は保健室に向かった。
ドアを開けると、先生はいなかった。
陽菜さんはスヤスヤ寝ているようだった。
最後に、会話したかったよ。
本当にありがとう。
俺は寝ている陽菜さんに向かって話かけた。
「会えてよかったよ。さよなら。今までありがとう」
俺がドアに向かおうとすると、後ろから声が聞こえた。
「ちょっと〜!! エッチなことするのかと思って寝たふりしてたのに〜〜。どうしたの〜? そんなふざけたこと言って〜〜」
陽菜さんはいつも通りのおちゃらけた感じで話かかけてきた。
なんだ。
寝たふりをしていたのか。
相変わらず、最後まで楽しませてくれるな。
「そうか……」
陽菜さんは、俺の顔を見て何か悟ったらしい。
「ねえ!!! 何があったの!!……本気なの?」
「……うん。本当に楽しかった。今までありがとう」
「なんで?? 学校辞めないでよ!! いなくならないで!!」
「今まで本当に感謝してる。 授業でも死にそうになったところを助けてくれた。 俺も陽菜さんのためにできる限りのことをしようとした。ただ、もう限界なんだ……。俺は独りが一番似合っていたんだ。俺は……もう何もかも失いたくないんだよ……」
どうせこのまま俺は全てを失う。
なら自分から離れる。
それなら、まだ絶望が少なくなるはずだ。
弟なら二人を任せ……
今回の件も、心から俺を改心させようとしているための行動だった。
悪気がない。
弟が俺が無能と知れば、一条家の損失は大きくなってしまうであろう。
現に弟の実力は前より、確実にレベルアップはしていた。
やっぱりすごいな。
並大抵の努力ではあそこまでいかないであろう。
俺に対する怒り。
今のあいつを支えている原動力は俺を目標とすること。
真実を伝えるわけにいかない。
親父もそれを思って口止めをしていた。
それにもう、深月さんは戻ってこない。
真実を知っても、俺が裏切ってしまった事実は変わらない。
目の前で裏切っていてんだもんな。
最低な男だよな。
それに、深月さんは、陽菜さんに俺との縁を切れと言うに決まっている。
そして俺ではなく、弟と3人で夏休みのように過ごして……
俺が消えればいいんだ。
俺と過ごした時よりも、弟ならもっとうまくやってくれるはずだ。
いずれ来るタイムリミット。分かっていたはずだ。
二人を他の知らない奴に取られるくらいなら……
あいつの凄さは俺が一番知っているんだ。
ああ。
辛いな。
「なんでそんなこというの!!」
「すまない……。本当に」
「じゃあ、最後に……ひとつ聞いていい? 別に最後にする気はないんだけどね」
「ああ」
「ねえ、さっき階段のところで『全てはここから始まった』って言ってた? 夢と現実の感じでよくわからなかったんだけど」
ああ。
薄らと意識があったのか。
「言ったよ。まあ、俺の決心というか……。まあ、バカみたいな話だ」
階段で深月さんと出会い、気がついたら、色々な人に囲まれていた。
前の学校と違う生活を送れたのも、階段での出来事があったからな。
「一か八か。賭けるしかないか……」
陽菜さんはそうボソッと呟き、深呼吸をした。
「今からいうことは……バカみたいな話だよ??」
「なんでも大丈夫だ」
陽菜さんは少し小声になった。
「月城くんでしょ? 編入試験の日、わたしを助けてくれたの……」
は??
陽菜さん。
え?
『わたし』って??
何……言ってるの??
「……え?? なんでそのことを……」
「その反応間違いなさそうね。あれはやっぱり現実だったんだ〜〜!!!」
陽菜さんに笑顔が戻った。
「いやいや。冗談はやめてくれ。 あの時はよく見えなかったが、髪は長かったはずだ!!」
何かの冗談か?
深月さんが知っててこそっと教えてたとか?
「あの時は、撮影用のウィッグで伸ばしてたんだよ。今日みたいに!! 頭いいのにその可能性を考えなかったの? 」
「もちろんその可能性は考慮したよ。ただ、あまりにも確率が低いというか……」
それに、深月さんなら無意識で色々やらかすし、確率論的にそっちの方がありえたんだ。
「わたしも、こないだまで現実じゃないかと思ってた。でも、月城くんの腕の温もりがやけにリアルだったの。今までも何回も運んでくれたでしょ?? 疑問だったのは、目が覚めた時に、なんでいなかったんだろうって。でも、花火大会の時に言ってじゃん。昔の月城くんなら会話が苦手で逃げそうでしょ? もしかしたらなと思ってさ。だからウィッグ引っ張り出してきたんだ」
「ああ……じゃあ、本当に……」
陽菜さんだったのか。
「これで、やっとお礼を言える」
陽菜さんが俺に初めて涙を見せた。
「ありがとうね。今生きているのは月城くんのおかげだよ」
「別に、大したことないから」
「大したことあるよ!! だからさ、学校やめないで??」
ここでもう一度、望んだらどうなる??
弟が深月さんをすんなり手に入れたように、あいつはいずれ陽菜さんもすんなりと手に入れてしまうだろう。
あいつの完璧さを見たら……陽菜さんも……
でも……陽菜さんは病気のことを知っているし……
いや……
全て俺の都合のいいように解釈している妄想だ。
「……だめだ……!!」
陽菜さんは俺に抱きついてきた。
性的な感情は一才なかった。
ただ、さっきまで体中を蝕んでいた、あらゆる負の感情が一気に解放されていった。
「何があったかは、言いたくなった時に教えて欲しい。わたしは、月城くんは悪くないと思う。悪いことはしない人だと思う。せっかく助けてくれた『王子様』を見つけたのに、いなくなっちゃうの??」
「王子様は言い過ぎだ。ただ……今の俺では……」
ああ。学校辞めたくないな。
陽菜さんの温もりが……
このままでは嘘をつくのが難しい。
全てぶちまけたくなってしまう。
「ねえ、クラスの皆と一緒に遊んだ時のこと覚えている??」
「覚えているよ。楽しかった。じつは人生で初めて友達と遊びに行って、緊張しながらも、遊べたんだ。陽菜さんのおかげだった。感謝している。大切な思い出だ。忘れないさ」
「わたしも楽しかった〜〜。覚えているなら、あの時の命令使うね??」
「……え?」
「本当はさ、学校辞めたくないんじゃないの? 月城くんの温もりがそんな感じがする」
「……」
「理由が欲しいんだよね」
なんて答えていいかわからなかった。
「月城 光くん。学校辞めないで? わたしがずっとそばにいるから、病気を一緒に治そ?? これがあの時の命令ね」
断るのは簡単だった。
『どうせ、遊びの約束だ』と。
でも、したくなかった。
いやできなかった。
俺は、陽菜さんまでも失いたくない。
初めて、自分の力で仲良くなった大切な人なんだ。
「……そんな命令でいいのか……?」
「うん!!」
ああ
ダメだ。
断らないと……
頭ではわかっていた。
ただ、抱きしめられている安心からか、言葉は本心がでていた。
「……やめたく……ないんだ……」
「いいんだよ。そのための命令だよ。ちゃんと守ってね」
「……ありがとう……」
「いいんだよ……」
俺は無意識に陽菜さんを強く抱きしめた。
そんな俺に、陽菜さんは文句を一つ言わなかった。
ああ。
なんだこの感覚は。
前の学校からずっと、ずっと積み重ねられてきた嫌な感情が消えていく。
俺らは、誰もいない保健室で、先生がドアを開けるまで、ハグをし続けた。
これにて、【文化祭編】は終了です!!
マッサージ機とか男女の友情とか言ってた前半と比べて、後半は少し重ためでしたかね。
編入から夏休みまで積み上げてきたものを一気に壊し、新たな関係にしました。
妹が一気に離れ、対照的に、姉が一気に近づいた感じですね。
文化祭後日談などは、【日常・中間テスト】編にて。
(だって、ここで終わった方が、なんかかっこいい感じがするので)
ヒロインレース的には、姉が勝ったようにも見えますがどうなるのでしょうか。
ただ、このまま、妹もあっさり終わるのは個人的には違うかなと。
【修学旅行】編もありますからね。
2学期中には決着つくと思います。
今後ともよろしくお願い致します。
(ちょっと、忙しいので更新頻度もバラバラになってしまうと思いますが、書き続けますので、引き続き読んでいただけるとありがたいです)
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