第56話 妹と弟
ブックマーク、レビュー、評価、ありがとうございます!!
文化祭編も次回でラストです!
今回はサクッと進みます。
教師が消えて、実と深月は二人っきりになった。
二人には少し気まずい空気感があった。
「……色々と迷惑をかけてしまって、申し訳ないです」
「いえ……大丈夫です……。でも、まだ状況を飲み込めていない感じで……」
「あの……時間あります? 少し話せませんか? 兄さんのことで少し話たいこともありますし……」
普段の深月なら、異性からの誘いを断っていた。
しかし、相手は光の弟。
そして、今の深月の心はボロボロであった。
深月の心は無意識に、光にどこか似ている実で、満たされようとしていた。
「……はい」
深月は荷物をとってきた。
実行委員としての仕事も終えていたため、問題なく帰宅できた。
二人は学校の校門で待ち合わせした。
「お待たせしました……」
「では、行きましょうか」
深月は、実の顔から血が出ていることに気がついた。
カバンから絆創膏を出した。
「これ……使います?」
「ありがとうございます!」
実は、嬉しさで顔がニヤニヤしそうだったが、それを悟られないようにしつつ、絆創膏を顔につけた。
実と深月は学校の近くのファミレスに向かった。
運命のイタズラか、そのファミレスは、光と利用したファミレスの系列店であった。
そして、深月と一緒にいる人物の顔には絆創膏があった。
席に着くと、軽くドリンクバーを頼んだ。
今の深月は、人生で初めて食欲がなかった。
「あの……お二人は……二卵性の双子ってことですよね?」
「そうです」
あらゆる交流をしてきた実であったが、惚れた女が目の前にいるという状況は慣れなかった。
初めて、緊張していた。
落ち着くために、実は、テーブルにあった箸を両手で綺麗に回し始めた。
深月は華麗な指捌きをじっと見ていた。
「あ。すいません。マナー違反ですよね」
「いえ。そうではなく、すごいなと思って。両利きなんですか? 初めて見ました」
実は『ハアーーー』と、ため息ついた。
「本当に兄さんは何がしたいんだが……。確かに僕は両利きです。ただ、生まれ持っての両利きは兄さんなんです。僕は後天的に努力で両利きにしたんです。今のはその時のクセで、指の感覚練習でやってしまいました」
「そうだったのですか……」
「では、せっかく来ていただいたので、兄さんのことを説明しますね。色々とご迷惑をかけてしまったので」
「はい……」
「ちょっと、今から言う事は色々非科学的とも言われることでもあるのですが……。人間の脳の使用率は多くて20%と言われているのは聞いたことありますか?」
「はい。本で読んだことがあります」
「よかった。兄さんは普通の人間と比べて、生まれつき、そのパーセンテージが異常に高いんです。だから異常な身体能力や記憶力、その他の能力も人間の結果を遥かに超えているんです」
「そうなんですか……」
「やはり非科学的なことで信じられないですよね……」
「いえ、そうではなくて……。疑っているみたいで悪いんですが……私が見てきたのとあまりに違くて……」
深月は、光との日々を思い出していた。
テストのことはあり得るとしても、水泳の授業で溺れていたり、虫を怖がっていたりと、実の言うことを信じがたかった。
「そうですよね。兄さんが力を見せていない可能性もありますしね。編入する前も、学校では一切、力を出してこなかったですし」
「すいません……」
実は、少し気まずい雰囲気をなんとかしようと色々と考えた。
「あの……兄さんって、体育祭とかってどうしてたのですか? やはり、欠席とかしてました?」
「いや、一緒にリレーに出ました。あ。そういえば、すごい勢いで追い抜いっていって……」
「珍しいな。兄さんが人前で力を使うなんて。もし兄さんがそれなりに本気を出したら、世界記録なんて平気で超えますよ」
「言われてみれば……速すぎたようなきもします……。タイムなんて誰も測っていなかったからわからないですが……」
実は、ふと、近くにあるメニューを見た。
「まあ、世界記録とか言われても、リアリティーないですよね。例えばですよ? この間違い探しあるじゃないですか。兄さんなら、初見で10秒もかからずにできるんですよ」
「え?」
「見ている世界が違うんです。おそらく、兄さんにとってはこのレベルは簡単すぎてびっくりしているはずですよ。普通の人にとっては難しいんですけどね」
「そうなんですか……」
「あとは、兄さんの食事って見たことあります?」
「一応……。甘いものをよく食べていた気はします……」
「そうです。脳の使用率が異常だから、その栄養素である糖分の摂取量も多いんです。体の構造が異常なのか、グルコースをグリコーゲンとして人並み以上に蓄えられるんです。普通、死にますよあんな食生活。例えばこのファミレスとかだったら、あそこのドリンクバーで、ガムシロップを一気飲みしてるとかですよ?」
「……」
「僕としては真実を話している感じなのですが、胡散臭い宗教の誘いや、陰謀論じゃみたいですね。気分を害してしまって申し訳ないです……」
「私……信じます……」
「え?」
「月城さん、あ、一条さん……の言うことは矛盾がないです。嘘ついているように思えないです」
「ありがとうございます。あと、言いにくいですよね。嫌ではなかったら、下の名前で呼んでくださって構わないで
すよ。双子なのでよく下の名前で呼ばれますから」
「では、実さんと呼びますね……」
「よろしくお願いします」
「一つ聞きたいことがあるのですが、月城くん……いや、お兄さんは昔、模試で1位とか取ってますよね?? 一条光って言われて思い出したんですが……」
「そうですよ。今は僕が1位ですが、それは兄さんが消えたから1位になっただけなんです。兄さんは記憶力が異常だから、基本満点を取れるんです。僕は学校でも一回も勝てなかったですし」
「やっぱりそうですか……」
「そういえば、今の学校では手を抜いていたみたいですね」
「なんで……目の前にいてそんなことができたの……。信じてたのに……」
実はそっと、深月にティッシュを渡した。
「兄さんは別の世界を見ているんです。多分、神の気分なんだと思う。僕もこの間まで、兄さんと仲が良かった。そう思っていた。僕のことを心から応援してくれるん人なんだって。でも、違かった」
「私も……わかります……ショックというか……」
「家族が傷つけてしまって本当に申し訳ない。ただ、兄さんは生まれつきなんでもできてしまう。競う者もいない。だから、自然とああなってしまうのもわかる気がします」
「でも……ヒドイ。今までのが…全部演技だったんだって……。騙す必要なんてないのに……」
「僕もそう思います。だから、僕は兄さんに気がついてして欲しかった。兄さんに勝てれば、少しは敗北感で一般人の感覚をわかってもらえると思っていた。僕は兄さんを超えたと思っていた……。でも、違かった。圧倒的な差があった」
「なんか……すごく怖かった。闇そのものみたいな感じでした……」
深月は1回だけ、光の闇を見たことがあった。
ただ、なぜ合宿のプールで、闇に飲まれそうになっていたのかわからなかった。
「本当に強かった。あの原理は詳しくは分からないです。でもキレると、ああ言うふうになれるんじゃないかな? 前もそうだったし」
「ああ……」
深月は合宿の時にプールに押し飛ばしたため、光が怒っていたと勘違いした。
もちろん、その後にも楽しいことはあったのを思い出していた。
ただ、弟でさえ平気で傷つける人、目の前でずっと騙していた人。
楽しい思い出なんて演技できてしまう人と考える方が自然であった。
光が深月を守ろうとしていたことなんて思いもしなかった。
「やっと、一人前になれたと思ったのに……。ごめんさい。不甲斐なくて」
「謝らないで大丈夫です。努力する姿は素敵だと思いますよ」
「ありがたい。でも、この世は結果なんです。それに、僕はただ、努力の中毒になているだけです。気持ち悪いし、怖いんです。昨日の自分に負けた気がして」
その言葉は、深月にとっては本当に努力をした人が言える言葉だった。
それは、光がどんなに考えても出る言葉ではなかった。
「わかります!」
「あの……中間テストは終わりました?」
実はふと話題を変えた。
「い、いや、まだですけど……?」
「早乙女さんに、兄さんを倒して欲しいんです。この前模試に名前乗ってましたよね?」
「え。はい。でも…私では倒せませんよ……。まだ、全国で1位でもないですし。それでも勝てないなら無理なのでは?」
「確かに僕でも超えられません。僕が仮に勝っても、兄さんに他の分野で負けているから効き目は薄いでしょう。
ただ、兄さんはわざわざ、人を見下すために編入したんです。もし、早乙女さんが勝てば、兄さんにとっての初めての屈辱的な敗北になります。それに、ずっとバカにされているのもムカつくでしょ?」
「確かにそうですけど……。でも、意味あるのでしょうか? そもそも、そこまでテストに本気じゃないのかもしれませんし」
「生きている世界が違うので、なんとも言えませんが、兄さんは敗北を知らない。だからこそ、そういう積み重ねでしか兄さんの性格は治せないと思うのです」
「確かに、一理ありますね。でも、私じゃあ……勝つなんて……。前回はお兄さんの助言?みたいなのがあったので今回は自分の力で頑張りたいですけど……。バカにされてたと思うと嫌ですし……」
「よろしければ、一緒に勉強しませんか?? と言っても、僕も忙しいのであれですけど、できる限りのことは教えます!」
実は、深月と一緒に過ごす口実をずっと考えていた。
このままでは、せっかくの深月との関係が終わってしまう。
そう焦った実が、テストのことを聞いたのは下心もあったのだ。
「相談できるだけ、ありがたいです!」
二人は連絡先を交換した。
深月は、光によって傷ついた心を癒すため、気がついたら、実と連絡先を交換してしまっていた。
おいおい。光が一生懸命距離を縮めてきたのに、あっという間だぞ……。
あと、深月とファミレス行きたい人は、顔を傷つけてからです!!




