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第54話 兄vs弟  兄の優しさ


光にはあらゆる目線が感じられる。

普段では体が動かない光ではあるが、怒りで体のコントロールがうまく行っていた。


最も、弟相手には緊張はしないが。


実は、「これは驚いた!!」と言い、足を戻した。


そして、間髪入れずに、後ろ回し蹴りで、光の顎を狙い、光も瞬時に、紙一重のところでかわした。


その後、実は、少し重心が後ろになっている光の腹を前蹴りで押し飛ばしたが、光は押された勢いを消すためにバク転をして何事もなかったように体制を戻した


ほんの一瞬の出来事。


鬼頭にはスピードも威力も、超人レベルであることがわかった。


「ねえ、弱くなった?? 僕が強くなっただけか!!」

「勘違いするなよ??」



「すまねえ……。お前ら……知り合いか?? こないだは悪いことをしたと……」

「いいから休んでろ」


光は、痛みと恐怖を我慢している鬼頭を休ませた。


「なんか僕が悪者みたいになっていない? 僕はこいつに酷いことをされたことがあるんだよ? それに現実にしているところを目にしたし!!」


「そうかもしれないな。今のこいつを俺は信じる。それに、お前の取り巻きがうざいんだよ。こいつがやらなくても、俺がやっていたぞ??」


「それは困ったな」


「ここじゃ、あれだ。とにかく移動するぞ」

「ちょうど僕も話したいことがあった」


光と実は少し距離を置きながら、人が来ない場所に移動した。


その間、光は他人が寄せる、嫌な視線をしっかりと気にしていた。



「まあ、ここなら、視線も感じないな」

「久しぶり。兄さん。元気だった?」

「まあな。そっちは?」

「元気だよ! おかげさまで!」

「それはよかった。で、忙しいお前が、わざわざ来たってことは何かあるのか?」

「さあ、どうだろうね。 久々に()()()()()の弟と再会した気分は?」

「どうもこうもねえよ。ちゃんと聞いたのか?」

「もちろん。 全てね。 この学校に来た理由も、兄さんが僕をずっと馬鹿にしていたことも。信じていたのに」

「それなりに成長したか?」

「この1年で僕は随分成長したよ。兄さんを超えたよ」

「勘違いするなよ? 俺はお前のはるか先にいる。足元にも及ばないのはお前が一番わかっているだろ」

「薄々思っていたよ。兄さんにはこの世界が簡単すぎるって。あらゆるものが馬鹿に見えて仕方がないんでしょ」

「まあ、そうかもしれないな」 

「で、この学校で何したいのさ」

「特に?」

「そろそろ、力のない人や努力する人を馬鹿にするのやめたら? この学校に入ったのも、惨めに努力している人を笑うためだって。そんなに、僕みたいなのはみじめ?」

「別にいいだろ。 お前みたいな()()にはわからない。惨めすぎて面白いんだ」

「兄さんは間違っている! でも、仕方がない思う。 だから落ちこぼれの僕に負けることで、その病気を治すよ」

「今まで手加減してやったのがわからないのか?」


光は実を威圧した。


「やっぱ、すごい迫力だね。流石だね」

「小物のお前にはそう見えるだろう」

「この学校の人は知らないんだよ!? みんな小さい時の僕みたいに兄さんを信じて、最終的には兄さんに馬鹿にされる。僕はそれを止める責任がある」

「いいか? この世は、俺か俺以外のクズかだ」

「ここで、知り合いがいたから聞いたよ。前の学校では、テストは1位で少しは頑張っていたかと思えば、今は1位すらとらない。なんで手を抜くのさ」

「一回、1位取ったが、訳あって手を抜いたんだ」

「兄さん。本当にそういうのをやめなよ」




一条家には、2卵生の双子が生まれた。

兄は光、弟は実 と名付けられた。

一条家は財閥の家系。

エリートでなければならなかった。


学問、芸術、武道、スポーツ等全ての英才教育を幼少期から叩き込まれる。


エリート中のエリートが家庭教師としてきて、秘密裏に英才教育を施していく。


最初に頭角を表したのは、光の方だった。


大学で学ぶべき学問を全て学び、IQは200を優に超える。

生まれつき両利き、絶対音感など、才能を数えればキリがなかった。



人の脳は使われていない部分が多く存在する。


ある()()で、光だけは違かったことがわかった。

通常の人間と比べて、脳の使用率が異常だったのだ。


人間の認知機能、身体能力を遥かに超える才能を有していた。


そのため、特に苦労しなくても、あらゆることが容易だったのだ。


一方、実の方は、光と比べて特に才能はなかった。

最も、実は、兄に憧れて、努力をして、エリート教育を生き抜いてきた。


光と実は仲が良かった。

実が苦しんでいると、光がアドバイスをしたり、一緒に練習や勉強をしていた。


実は、心から光の才能を尊敬していた。

光も、心から実の努力をする姿を尊敬していた。


しかし、光にも弱点があった。

光は小学2年生の時、()()()()によって、急に人の目線が怖くなった。


そして、緊張度合いが異常になった。

小学校6年生の頃には現在と変わらないほどの恐怖を抱いていた。


人前で力を出すことができなくなっていたのだ。


両親で話し合いが行われ、両親は、実に、光が病気であった事実を隠した。

光にも、実には言ってはいけないと指導した。


高校生に上がると、兄を目指し、寝る間も惜しんで努力をしてきたため、実の能力は、人類が極められる最高到達点にいた。


龍上高校という最上位の高校ですら、実の能力は異常であった。


一方の光は、病気のため、人前で力を出すことも、人と接することもできなくなっていた。


龍上高校の誰も、コミュ障の兄の方が、才能があるとは思わなかった。


そして、龍上高校は、エリート中のエリートが集まる。


能力で判断される。


兄は、落ちこぼれとして扱われた。


光は当然のことだと思っていた。

この世は、結果できまる。


そして、誰よりも近くで弟の努力を見ていた。

そのため、弟が評価されることになんの問題もなかった。



ただ、光はずっと友達が欲しかった。

しかし病気により、会話すらままならない。


その上、落ちこぼれとして扱われ、人権侵害は日常茶飯事。


才能がなければ高望みをしなかった。

最も辛いことは、才能と結果の乖離が激しすぎたことだ。


才能は頂点、結果は最下位。


自分より下のやつにバカにされる日々は、光にとって耐え難かった。


誰も光を理解してくれるものはいなかった。


光は落ちこぼれを脱するため、テストで頑張ることにしたりもした。

テストは唯一力をえが発揮できる場所であったからだ。


初めは勉強を頑張れば友達ができると思っていた。

そのため、テストで満点を取った。


龍上高校では全員が努力するエリート連中


そして、光の並外れた能力に周りは嫉妬した。


不正を疑われ、結局、光は日の目を見ることはなかった。



ある時、実は不思議に思って、父親に聞いたことがあった。

なぜ兄は実力を隠してオドオドしているのかと。


父親は、『天才すぎて舐め腐っているだけだ。お前は努力で成し遂げろ』と言うだけであった。



父親にも隠す理由があった。



光は疎外感に苦しみながらも、弟の訓練を手伝ったりしていた。



皮肉なことに、光が教えるほど、弟は賞賛を得て、兄は嘲罵される。

弟が得れば、兄は失う。


悲しい関係であった。


それでも、よかった。

弟は家族であり、大切な存在であったからだ。


実は、兄の病気のことなど知らない。

ただ、いつも学校では本気ではないことだけは感じていた。



一年生の最後に、イベントがあった。

そこでは、あらゆる能力を競う。


弟に対する嫉妬心だったのか、ただ友達が欲しかったのか、それとも、才能通りの賞賛を得たかったのか、病気を治そうとしたかったのか。


光は、落ちこぼれと馬鹿にされながらもに参加した。



弟を尊敬していた光は、できる努力を全てして本番に臨んだ。


しかし、結果は全ての種目で醜態を晒しただけであった。

一方の実は、全ての種目で最高成績を記録した。


周りの嘲笑する視線。

賞賛を浴びる弟。


光は病気が治らないことも相まって、精神が崩壊し学校を辞めることを決意した。


最も、実だけは、兄がいつもの癖で、自分を勝たせるために手を抜いたと思っていた。


光は、弟に嫉妬している自分が嫌いであった。


弟の努力を誰よりも見ている。尊敬もしている。

そんな自分が、弟に嫉妬している。


実が、光のことを嫌いであれば幾分かマシであった。

拒絶できるからだ。


皮肉なことに、実は光を心から尊敬していた。


弟を裏切れなかった。


光は、病気により社交性がないため、実に一条家を継がせることは濃厚だった。


実が人間離れした才能を手に入れたのは、尊敬する兄に近づくこと

それだけが、弟が地獄の訓練をやり抜く、唯一のモチベーションであった。


仮に、兄が緊張により結果を出せないマヌケだとバレると、弟のモチベーションが崩壊する可能性があった。


一条家の存続の危機にもなる。


両親もそれを危惧して、今まで実に、真実を伝えてこなかったのだ。


光は父親との契約で、『自身は超人であり、弟が無能すぎて呆れてしまったため学校を退学した』という架空のストーリーを作り上げた。


兄にバカにされていたことを知り、弟に怒りを覚えさせ、モチベーションとさせる。


弟の目標であり続けるための【優しい嘘】。


弟の前では、強い兄を演じなければならなかった。


最も、その嘘も本人にとっては辛いものであった。

しかし、弟のため、家のために、演じなければならなかった。



「兄さん。強くなったから相手してよ? ここなら人来ないし。多分、勝てるよ?」

「俺には勝てない。まだ、同じ土俵に立ってないぞ? 人は生まれ持って違うんだよ。努力はゴミがすることだ。努力する人見ると嘲笑しかできないぞ?」



そんな兄弟の会話を聞いている人物がいた。


「ねえ……今の話本当?」


深月だった。


別荘でもそうだったが、光にとって深月の視線は嫌な視線ではなかった。


深月の視線を、光は見落としていたのだ。


光には色々背負うものがあるようですね。


実も別にいい奴なんだよな……


てか、嫌な予感……

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― 新着の感想 ―
更新おつかれさまです。 主人公の才能の裏側が見えたと同時に、妹に結構ショックを与えそうな展開になりましたね 主人公はこの先1話で最初にキスしたのが姉か妹か知る展開が来るんでしょうか?そのキスの謎もまだ…
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