第48話 男女の友情
気がつけば、俺は結構忙しい日々を過ごしていた。
昼休みや放課後は、文化祭実行委員で集まらなければならない。
こんなことは初めてだ。
今まで、委員会活動なんて自由参加だったから、やってこなかったしな。
ただ、つまらない。
会議というものはなんでこうも非生産的なのか。
ちょっと意識高い系になりながら、意識高い俺は、他の人にバレないように深月さんと筆談していた。
別にこれといって話す内容もないが、筆談というのが懐かしくて、楽しいものだった。
しばらく、そんな日々を過ごしながら、俺は普通に学校生活を送っていた。
放課後は少し遅くなることもあったが、まだ人も多く、深月さんと帰るわけにはいかないので、その場で解散するのは少し物寂しいものではあるな。
ただ、深月さんとの個人ラインも始まった。
内容は業務連絡程度だが、なんだか昔を思い出すな。
ある日の放課後、クラスでの出し物を決めなければならなかった。
文化祭はクラス委員ではなく、文化祭実行員が引っ張っていかないといけなかった。
ということで、俺と数井さんが教壇に行かなければいけなかった。
無理無理無理。
いざ教壇に立ってみると、やはり久々に、体が震えるぞ。
そう思いながらも、陽菜さんや、いつものメンバーを見ると、少しだけ体のコントロールがうまくいった。
流れで、数井さんが司会的なことをやってくれたので、俺は黒板に書く作業をすることにした。
後ろに視線を感じながら、文字を書くのは結構緊張するものだ。
禿げてはいないのに、禿げているのではないかと心配になる。
まあ、少しづつ頑張っていこう。
『何かいい出し物の考えある人〜〜??』
数井さんはいつも通り、おちゃらけた感じで聞き始めた。
皆からは色々な意見が出された。
オバケ屋敷、メイド喫茶など定番なものが挙げられていった。
前の学校って何してたっけ?
嫌すぎて、ゲームしてたから覚えてないな。
どうせ文化祭も欠席していたしな。
いや、思い出したくないだけか。
珍しく、須子も意見した。
『はい! 須子〜〜何〜〜?』
グループラインのように数井さんが当てる。
『僕は、食事とかありきたりなのではなく、男女の友情を深めるやつがやりたいです!! やはり、後夜祭もありますし!!』
俺も最近知ったことだが、【後夜祭】で告白するカップルが多いそうだ。
だから、文化祭の日は、いい感じの男女は一緒に見て回るらしい。
もちろん既存のカップルも。
あれ。文化祭って地獄のクソイベントではないか。
そう思いながらも、俺は心のどこかで、ふたりのことを考えていた。
須子の意見は意外と的を射ていた。
女子からの支持も高かった。
「いいね〜〜!! でも、具体的には〜〜??」
「では、説明します!!! 教室を半部にして、男女別々に分かれてもらい、クイズをしてもらって、間違えたら罰ゲーム!! 仕切りをマジックミラーにします!!」
完全に須子らしい意見だな。
信じてたよ。
ほとんどの男子の背筋スッと伸びた。
『んーー。微妙じゃね?? まあ、書いといて〜〜』
数井さんは、須子の意図が読めなかったようだ。
お蔵入りの案を書かせるなよ……
とりあえず、手も辛いし、略して書くか。
俺は、無意識に『男女の友情。MM』と書いてしまった。
あ。やっべ。
やらかした……。
気がついた時には遅かった……。
男子はクスクス笑い、女子はニヤニヤしている人、男子がなぜ笑っているかわからない人に、別れていた。
後ろで見ている担任は下を向いていた。
俺は主人公席でニヤニヤしている奴を見つけた。
陽菜さーーん!!
まあ、いい収穫だ。
『どうした〜?? 月城〜〜!!』と陽キャの男子にニヤニヤしながらいじられてしまった。
「……いや、手が疲れるからさ……」
ごまかし方が下手だっただけのだが、陰キャも功をそうし、何故か爆笑された。
『ふざけられる奴だったのか〜〜』と高評価もいただいた。
いや、ただの陰キャなんですけど……。
それ以降、男子からの支持が増えて、出し物決めはやりやすくなったからいいか。
何個かの候補に絞り込んで、あとは二年生全体で決めないといけない。
二年生全体で同じものをやるわけにはいかない。
それもそうか。
皆、マジックミラーしかやらなくなるもんな。
昼休みに二年生全体で話し合いが行われ、1組の出し物は【たこ焼き】になった。
正直、俺は定番のメイド喫茶とかかと思っていたが、人生そんな甘くないのか。
お隣の2組の出し物は、【メイド喫茶】らしい。
完全に1組は負けではないか。
学年ごとで、一番売れたクラスは表彰されるらしい。
そして賞金も出る!!
まあ、微々たるものではあるが。
さすが私立!! 資本主義!!
打ち上げが少し豪華になるそうだ。
是非、打ち上げとやらにも参加してみたいものだ。
あれ、俺はクラスからハブられないよね?
割り勘だし一人でも減った方がいいからな……
そもそも、たこ焼きがメイド喫茶に勝てるのか??
俺ならメイド喫茶に行くぞ??
まあ、文化祭実行委員の責任だな。
俺じゃねーか!!
とりあえず、たこ焼きになったことをクラスで発表しても、別に問題なかった。
それもそうか。自分たちで出した案だしな。
そして、色々細かい役職を決めていった。
結局、男子はこういうのにはあまり参加せず、女子主導で行われる。
実行委員の他に、陽菜さん、森さんが主導になってクラスを引っ張っていってくれた。
数日後には、メニューや配置など、色々決まっていった。
ある時、陽菜さんと森さんが、『試作品を作るから家庭科室を借りて欲しい』とグループラインで言ってきた。
おお。このグループラインってすごいな。
文化祭実行委員とメインのメンバーが揃っているんだから。
まあ、主に女子だけど。
クラスを陰で支配しているかっこいい奴になれた感じがして嬉しいな。
翌日の朝、授業前に、家庭科室の予約が取れた。
ということで、今日は、【試食会】だ。
いつものメンバーで集まることになった。
俺ら男子は食べるだけなので楽ではあるな。
いつもより1時間早い登校だ。
夜に、ラインで誘われたので、俺は駅で陽菜さんと待ち合わせた。
「なんか新鮮だね〜〜!!」
「そうだな」
同じ制服を着た生徒がいないというのはこんなにも素晴らしいことなのか。
いつもと同じ場所なのに違う感じだ。
「ねえ、今度もまた一緒に行かない〜〜?」
「人の目線が……」
「じゃあ、この時間!!」
「学校開いてないから困るだろ」
「え〜〜。ひどいよ〜〜」
「まあ、これから、クラスでも朝の準備はあるだろう。その時なら……」
「本当!? やった〜〜」
合宿をしてから少し俺はおかしい。
思い出作りのために、少し積極的なのかもしれないな。
軽くしまっている校門を開けると、別に悪いことをしているわけではないのに、学校に忍び込む的なことをしている感じで少し興奮する。
家庭科室に着くと、4人はもうついていた。
俺が夏に風邪ひったせいで、ちゃんと集まるのはボーリング以来か。
ラインや学校生活でちょくちょく話していたから、久々感はないんだが。
ただ、それぞれ、前に会った時と比べ距離が近い気がする。
みんなそれぞれうまくいっているならいいか。
女子3人はエプロンをつけ、たこ焼きを作り始めた。
俺ら男子はただ出来上がるのを待つ。
「僕はさー、たこ焼き嫌いなんだよねーー」
「なんで?」
「だって、タコって触手があるからいいんだろ?? それを隠して何がしたいんんだって話だよ!!」
「おう」
そんなくだらない話をしながら、女子3人が仲良く作るのをみていた。
ところどころ、甘い匂いもしている。
そういえば、普通のたこ焼きだけでなく、お菓子系のも作るとか言っていたな。
しばらくすると無事に完成!!
と言うことで試食である。
一応6人で食べることになった。
ちょうど試食用に6つ出来上がっていた。
各々一つ取った。
「あ!! 一つだけデスソースを入っているから〜〜」
陽菜さんが悪ガキのようにニヤニしている。
どうせ冗談だろうと思い、「家庭科室にないだろ??」と突っ込んでみた。
すると、「そうだよ!!でも、ほら!!持ってきた!!」と言いながら、カバンの中から、まじでデスソースを出してきた。
まじか。
てか、一緒に登校してた人のカバンの中に、デスソースがあるのって面白いな。
このロシアンルーレット的なのきついな。
6分の1か……
いや、作ったのは女子なんだから、女子達は把握しているはずだ。
3分の1か。
俺はリアクションできないんだけどな……
「いただきまーす」
全員で揃って口に運んだ。
俺のは……違う!!
普通に美味しい、たこ焼きだ!!
運が味方してくれた。
急に、須子が『辛い!!辛い!!』と顔を真っ赤にして、騒ぎ出した。
須子が引いたようだ。
てか、森さんが須子にたこ焼き渡していたような……
森さんと陽菜さんはセットにしてはいけない気がするな。
混ぜるな危険というやつだ。
「も〜〜。仕方ないな〜〜!!陽菜!! 甘い方ちょうだ〜い!!
「はいよ〜〜」
そういって、別の皿にあるお菓子系のたこ焼きを、森さんは須子に食べさせた。
そうすると今度は、『甘い!!甘い!!』とまたバカみたいに騒ぎ出し、またまた森さんにデスソース舐めさせられ、それを繰り返した。
正直、第三者が見たら何も面白くないかもしれない。
底辺動画配信者と同じことだ。
でも、俺には面白かった。
心から笑えた。
高安もボケ王だ。
普段はつまらないことでは笑わない。
でも、普通に笑っている。
つまらないことでも笑える。
これが友達というやつなのかもしれないな。
「これ!!あげる〜〜!! あ〜ん!!」
陽菜さんが他の人の目を盗んでこそっと、甘い方を口に入れてきた。
というか、俺も、普通に口を開けた。
合宿で慣れてしまっていた。
みんなに見られてなくてよかった。
須子が騒いでいたからよかったぜ。
「うまいな」
「やった〜〜!! これ本当は、月城くん用だったんだよ〜〜」
「そうだったのか。ありがたい」
「そういえば、甘いものあげられたね!!」
「そうだな」
合宿の時は、お菓子の持つところしか食えなかったしな……
須子も落ち着き、色々な試食をし、一応テレビのコメンテーターのように、偉そうなコメントをしたりもした。
「じゃあ、とりあえず、メニューはいい感じにできたと言うことで、一位目指して頑張るよ〜〜ん!!」
森さんの掛け声と共に全員で「おーー!!」と偏差値が下がる陽キャのような行動もしてみた。
昔と比べ、俺は本当に幸せだな。
この関係もクラス替えで終わってしまう可能性があるのか。
大切にしていきたいな。
男女の友情とは素晴らしいものだな。
うん。
次回は妹です!!




