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7話

 身震いするような寒さを感じて、《《俺》》は目を覚ました。

 

「……はぁ!?」


 辺りは薄暗く、そこら中の地面から鋭利な棘が突き出ている。

 上を見上げると、遠くの空を何かが飛び回っている。

 あれは……ワイバーンか!?


「え、なにこれどゆこと?」


 自分の置かれた状況に理解が追い付かない。

 確かあのチート持ちチビデブ野郎に腹が立って、裏路地のバーで飲んで、それから……


「やばい。あそこで酒飲んでからの記憶が全くない」


 自慢じゃないが、俺は酒が強い方だ。

 クソ上司からアルハラされまくってかなり耐性が付いている。

 そんな俺がこここまで酔っぱらう酒とは一体……


「うわっ……なんだこれクサッ!」


 俺は傍に転がっていた一升瓶のふたを開け、中身を嗅いでみる。

 すると、生ゴミが発酵したかのような強烈な香りと共にドギツイアルコールの匂いが漂って来た。俺が酔っぱらった原因はこいつか。


「てかマジでここどこだ……? なんかダンジョンの中っぽいんだけど」


 どれだけ酔っぱらっていようが、ダンジョンの中に迷い込むなんて早々ある事じゃない。

 あるとすればそれは、余程村の近くにあるダンジョンということになり――


「ま、まさか」


 唯一村のすぐそばにある、この世界で最悪のダンジョンの事を思い、俺の背筋に悪寒が走る。


「いや、まだそうと決まったわけじゃない。とりあえずこの穴からどう出るかだかを考えよう」


 俺はそう自分を納得させ、とりあえず穴の中を見て回る。

 すると、隅の方にギリギリ人が一人通れそうな小さな横穴を見つけた。

 

「ゲームとかでよくあるトラップに落ちた後の救済措置か……? とりあえず行ってみよう」


 RPGとかで落とし穴に落ちるとステージの入り口に戻るハシゴや横穴があったりする。

 これもそれだと信じて俺はほふく前進しながら横穴を進む。

 臭いが移りそうで怖いが、武器がないのも不安なので一升瓶はゴロゴロ転がして運んだ。

 

 それからどれくらい進んだだろうか。

 横穴は上下左右にぐねぐねと伸びていて、もはや自分が上に進んでるのか下に進んでるのかもよく分からない。とはいえあのまま落とし穴の底にいてもどうしようもないので、脱出できるかもしれないと己を鼓舞しながらひたすら進み続ける。

 

 すると不意に、急激な下り坂が現れた。

 俺は慎重にゆっくり進んだが、思った以上に道がツルツルしていて滑り落ちてしまう。

 

「——っ、出口か!?」


 そうして滑り落ちた先で横穴は途切れており、強い光が刺しこんでいる。

 俺は滑ったまま横穴の出口へと差し掛かり――突如として空中に放り出された。


「おわあああああああああっ!?」


 涙目で叫んで、直後腹に強い衝撃。

 どうやら数メートルだけ落下し何かに着地したようだ。

 一升瓶は俺の背中に降って来たので無事である。


「——っ、これは」


 だが、着地した場所を見て俺は息を呑んだ。


 俺が落ちた先は巨大な水晶だった。ツルツル滑る水晶に、ちょうど棺桶みたいにぽっかりと人が入るサイズのくぼみがあって、そこにすっぽりおさまったらしい。


「運が良いんだか悪いんだか……」


 ひとまず命拾いした事に安堵し、ゆっくりと起き上がる。

 だが、俺はすぐに頭をひっこめ──己の運の悪さを呪った。


「グルオオオオオオォォォォォオオ!!!」


 真下から響いて来た、この世のものとは思えない恐ろしい唸り声。

 気付けば俺の身体を包み込んでいる異常な暑さ。

 

 その正体は、巨大なドラゴンだった。

 全身をてらてら光る煮えたぎるマグマで覆った、20メートル近くある真っ赤なドラゴン。

 俺は、ドラゴンの巣の上に生えた水晶に引っ掛かっていたのだ。


 そして同時に、俺はここが一体どこなのかを理解した。

 最悪の想像が、やはり当たっていたのだ。


「獄炎竜の試練、そのボス部屋だっていうのか……?」


 真下で動く存在の圧倒的存在感に押し潰され、俺はその場で震えながら膝をついた。

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