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4話

*おっさんが泥酔して意識がなくなってしまった為、しばらく神視点でお送り致します。

─────────────


 『獄炎竜の試練』

 それは、この世界に5つある『竜の試練』ダンジョンの1つだ。

 その全てがどんなチート持ちでも泣いて逃げ出すと言われている、世界最難関のダンジョンである。


 そんな超危険なダンジョンに今、死ぬほど酔っぱらったおっさんが足を踏み入れた――


「うい~~、なんだァ? 随分と暗くなったじゃねえかよぉ……やんのかおらっ!」


 壁に喧嘩を売りながら、ダンジョンの中を千鳥足で進むおっさん。

 

 服は仕事で着ていた作業着のまま。

 当然武器もなく手ぶらで、ダンジョン攻略の必需品であるマジックバッグや食料等も持ち合わせていない。

 怪しいバーから大事に持っている一升瓶と、使っちゃいけないお金まで使い切ってすっからかんの安財布だけが唯一の持ち物。

 ──はっきり言って舐め腐っている。

 世界最難関ダンジョンどころか、初心者向けの最下級ダンジョンですら瞬殺されそうな酷い状態だ。


 獄炎竜の試練・第一層。

 その内容は『即死罠の無限地獄』である。

 

 1分も歩けば古今東西のすべての即死罠が経験できると言われているほどに、とにかく危険な罠がそこら中に設置されている。

 しかも隠され方もかなり巧妙で、熟練の斥候ですら泣いて逃げ出すと言われている程である。

 事実、獄炎竜の試練に挑んだパーティの殆ど全てが第1層でリタイアするか全滅していた。


 当然そんなところにただの日雇い労働者であるおっさんが迷い込めばひとたまりもない……はずなのだが。


「けっ! なーにがチートだコノヤロー! 俺だって妄想の中じゃチートで追放されたお姫様助けたりして美少女ハーレム作ってんだからな!? ハーレム作りながら風俗通いまくってるんだからな!!!」


 おっさんは右へふらふら、左へふらふら。

 手に持った一升瓶からちゃぽちゃぽと間抜けな音を鳴らしながら、一切罠を踏むことなく、安全な床だけをずんずんと進んでいた。

 運スタータス『F』のおっさんのどこに、これだけの幸運が眠っていたのだろうか。

 もし誰かがこの光景を見ていたら「あり得ねー」と絶句する事だろう。それくらい、おっさんのやっていることは異常だった。


 とはいえ偶々だけでクリア出来るほど生易しいものじゃないからこその、世界最難関ダンジョンだ。

 第一層。その最奥に広がっていたのは、全ての床がびっしりと罠で埋め尽くされた廊下だった。

 見える罠と見えない罠が入り混じっていて、もう何が何だかわからない。


 こうなればもうどれだけおっさんの運がよかろうが関係ない。

 解決方法は罠の無い場所まで跳躍するか、壁でも走るかしかない。まあ実際、壁にも空中にも罠はたっぷり仕込まれているのだが。

 だが、泥酔状態のおっさんはそもそもここが危ない場所だという認識すら持っていない。

 全面に即死罠が敷かれた廊下を、何のためらいもなく相変わらずの千鳥足で進み始める。

 1歩目で床が光り、壁の隙間からゾウも一撃で殺す強力な毒矢が射出された。


「お、100円落ちてんじゃん!」


 が、おっさんは矢が当たる寸前で頭を下げてそれを神回避。


「……んだよ、ただの靴ひもじゃねえかクソ!」


 酔ってぼやけまくった視界では、靴ひもの固いところが硬貨に見えたらしい。

 おっさんは悪態を吐くと一瞬前に死が横切った場所にガバッと顔を上げ、再びふらふらと歩き出す。


 その後もおっさんの神回避は続いた。

 ちょうどよく転んで頭上を焼いた超高温の炎を避け、1トンくらいある石の塊が転がって来たのも、よろけて壁の隙間に収まり回避。剣山の待つ落とし穴が開くも、石の塊が橋となり堂々とその上を歩かれる始末。

 まさにアニメとかで見る酔拳のような感じで、ふらふらしながらも全ての罠を紙一重でよけ続ける。

 そうして気付けば罠の敷かれた廊下は終わり、次の階層へと続く下り階段が現れた。


「あ……? この村にこんな階段なんかあったか……?」


 長い階段に流石に違和感を覚えたのか、おっさんはふと立ち止まる。


「まあいっか。この長い長い下り坂を~♪ ってそれは坂じゃねえかあはははっ」


 だが立ち止まったのは一瞬で、すぐに泥酔状態のハイテンションが花開く。というか何も面白くないのに爆笑していてちょっと怖い。


 とまあそんな風に、おっさんはノリと運だけでA級冒険者ですら泣いて逃げ出す最難関ダンジョンの第1層をクリアしたのだった。

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